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苦い思い出①

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4月、始業式。

掲示板に張り出されたクラス分けの名簿から、自分の名前を探す。





【2年A組】

内田 孝宏




櫻井 麻沙美
瀬戸 雄馬


栗花落 ひなの







あ、あった……!Aだ!



目標だったAクラスに自分の名前を見つけ、心の中で小さくガッツポーズ。

さっそく教室に入ると、去年同じクラスだった子も何人かいるけど、ほとんどが1年からAだった子みたい。










そして、始業式が終わってHRの時間。





担任「お~い、静かにしろ~。いいか~?2年になって早速だが、今から修学旅行の説明するぞ」


「「修学旅行!!」」





修学旅行……



クラスのみんなが浮き足立つ中、わたしの気持ちはちょっと沈んでいく。

中学の修学旅行には、直前で行けなくなった苦い思い出があるから。





担任「え~、修学旅行は海外と国内の選択制だ。好きな方を選んでいいが、親御さんとも相談するように。今配ったプリントにどっち行くか丸つけて、親御さんのサインもらって提出するんだぞ。提出は今月中な~」


「「は~い!」」





と、先生からの説明を受けながら、配られたプリントに目を通す。



A.海外コース アメリカ 4泊6日(9/11~9/16)
B.国内コース 北海道  3泊4日(9/11~9/14)





アメリカか北海道か~。

……とりあえず、相談しなきゃね。





と、プリントをファイルに挟んでそっとかばんにしまった。



HRが終わって帰ろうと廊下に出ると、





夏樹「ひなの~!」





と、隣のクラスから出てきた夏樹くん。





ひな「夏樹くん……あれ、隣のクラス?ってことはBになったの!?」


夏樹「おぅ!すげーだろ!」





去年は下から2番目のクラスだったのにBだなんて。

きっと、この1年すごく勉強頑張ったんだろうな。





ひな「すごい!いつの間に!」


夏樹「まぁな。言っただろ?ノワール医大行くって。本気出したら俺もできるんだよ。3年はA組行くからなっ」


ひな「うん!一緒に頑張ろうね」





と、夏樹くんとはその場でバイバイして、学校の門を出た。





"学校終わりました。"

(既読)





五条先生にLIMEを送ると、今日も素早い既読。





"お疲れ様。クラスは?"


"Aでした!"


"よくやった"





ひな「へへっ」





五条先生からのよくやったって言葉がうれしくて、思わずにやけちゃう。





"夏樹くんはBでした!隣のクラスになりました。"


"マジか"
"気をつけろよ"





マジかって、先生たちは成績見てるからなんとなく知ってるのかと思ってたけど、驚いてるからギリギリでBになったのかな?

気をつけろよって、夏樹くんに成績抜かされないようにってこと?





"はい!2年生も勉強頑張ります!"





クラスの報告が終わったところで、わたしは五条先生に言わなきゃいけないことが。





"それと、今日は五条先生に相談したいことがあります。"


"わかった"
"後で飯食いながら話すか?家帰ってからでいいか?"





いや、サインしてもらわなきゃだし、電話より直接話す方がいいよね。





"直接話したいので帰ってからで大丈夫です。待ってますね。"


"ん。で、ひな今どの辺だ?もうつくか?"


"はい、つきました。ちょうどエレベーター待ってるところです。"


"は?"





……え?



と思ったら、突然LIMEの着信音が鳴り響いて驚く。

通話はかけたことあっても、かかってきたのは始めてで、この急かされるような緊張感ある音に、謎に焦る。



どうしよう、出なきゃ。



電話なんて人生でしたことがなく、ためらいつつも応答ボタンを押した。





ひな「もっ……もしもし!」


五条「ひな?エレベーターってマンションか?」


ひな「そ、そうですけど」


五条「なに家帰ってんだ!!」


ひな「え?ええ?」





いきなり五条先生に怒鳴られて訳がわからない。





ひな「なな、なにって、わたしの家に……?」


五条「バカか!今日は定期健診だろが!」


ひな「……あぁ!!」





しまった。

修学旅行のことで頭がいっぱいで完璧に忘れてた。





ひな「ごめんなさい!本当に忘れてました!朝は覚えてたのに忘れてました!すぐ行きます!」


五条「おい走るn……」





五条先生が最後に何か言いかけたことにも気づかず、通話を切って急いで病院に向かった。










受付を済ませると、なぜかその場で診察室に行くように言われて、藤堂先生の診察室に入る。





コンコンコン——


ひな「こんにちは」


藤堂「こんにちは。ひなちゃん座って」





診察室に入ると、いつもと少しだけ雰囲気の違う藤堂先生が。

立ち上がってわたしが手に持ってるかばんを取ると、ベッドに座るように促された。





藤堂「ひなちゃん走って来た?」





……あ。なるほど、そういうことか。

慌てて来たから確かに走った……。





ひな「は、走っちゃいました……。健診忘れて1回家帰っちゃって……」


藤堂「それはもう五条先生から聞いたよ。走ったらすぐ息上がってしんどくなるでしょ?今もまだ肩で息してるのに、自分で走ってることもわかんなかった?」





って、少し怒ってるような呆れてるような感じで、わたしの手首を掴んで脈を測る。





ひな「えっと、とにかく早く行かないと怒られると思って……。ごめんなさい、約束破りました……」


藤堂「もう、ひなちゃんはそうやってすぐ1つのことしか考えられなくなるんだから……。気分悪くない?」


ひな「ご、ごめんなさい……大丈夫です……」


藤堂「そしたら聴診しようか」


ひな「はい」





と、ブレザーを脱いでブラウスをめくる。

ネクタイを外すのが面倒で、最近はボタンをいくつか外して捲り上げるスタイル。





藤堂「少し長めに聞くから、しっかり深呼吸しててね」





と言われ、前からも後ろからも丁寧に聴診された。



聴診の後は、血液検査などいつもの検査メニューをこなす。

全部終わって、再び診察室に戻るとなぜか五条先生が来てた。





藤堂「お疲れ様。ひなちゃん座って」


ひな「はい……」





にこやかな藤堂先生の後ろに立つ五条先生の顔が怖い……





五条「ひな、走ったな?」





うっ……やっぱり怒りに来たんだ。





ひな「ごめんなさい」


五条「はぁ……今日から2年生だろ。しっかりしなさい。LIMEの会話がなんか噛み合ってないと思ったら……。なんで健診忘れたんだ?」


ひな「修学旅行のこと考えてて……」


「「修学旅行?」」





あ、五条先生に相談しようと思ってたのに先に言っちゃった。





ひな「あ、それを五条先生に相談しようと思ってたんですけど……今日修学旅行の話があって、わたし行けるのかなー?と……」


五条「それなら藤堂先生にも相談しないとダメだろ。身体のことをちゃんと主治医に聞かんでどうする」


ひな「あ、そっか」


五条「はぁ……ったくお前は」


ひな「ごめんなさい」


藤堂「そしたら、お昼食べながら詳しくお話聞こうか。外来あと1人だから先に五条先生と行っててくれるかな?」


ひな「はい。わかりました」





ということで、去年の入学式の日のように、定期健診の後はお昼を食べに食堂へ。


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