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胸の"トクン"は恋の病①
しおりを挟むコンコンコン——
藤堂「ひなちゃん、こんにちは」
数日経ったお昼、藤堂先生がやって来た。
ひな「こんにちは。ケホッ」
藤堂「あら。またお咳出てきた?」
そう言って、藤堂先生はすぐに首からステートを外しわたしの胸の音を聴く。
そして、聴診が終わると、
藤堂「うーん、朝は大丈夫だったんだけどな。いつから?」
ひな「え、えっと……」
藤堂「ひなちゃん。隠さないよ?」
と、椅子に腰掛けた藤堂先生に顔を覗かれる。
ひな「1時間前くらいです……」
藤堂「うん。ちゃんと教えてくれてありがとう」
正直に話すと、藤堂先生は頭にぽんっと手を乗せてありがとうって言ってくれた。
ひな「あ、あの……藤堂先生……?」
藤堂「うん?ひなちゃん何?」
ずっと隠してて誰にも話さなかったこと、いい加減話した方がいいのかもしれない……。
ありがとうなんて言ってもらったからか、気づいたら口を開いちゃってた。
ひな「あの……わたし、どうして治療上手くできないんでしょうか。気持ちよくなって感じられるようになって、宇髄先生も褒めてくれるのに、怖くて最後のイクっていうのができないからですか?でも、怖いと思わなくても発作が起きちゃう気がするんです……」
藤堂「うーん、そうだね。ひなちゃんが怖くてイけないのは、理由のひとつにあるかもしれないね。でも、ほら最初に治療した時みたいにね、怖くても勝手にイっちゃうものだから、それはあまり関係ないかも」
じゃあどうして……?
もしかして……
藤堂「それよりも、ひなちゃんの身体が追いついてないというか、今はまだ耐えられないからかな。ひなちゃんがたくさん気持ちよくなって感じるようになったのは、どちらかというとひなちゃんの心の成長が大きい。でも、身体はその成長に追いつくほど体力がついてない。っていうのが今の状態に1番近い答えかな」
身体が……耐えられない……?
藤堂「ひなちゃんが気持ちよくなってきてたくさん感じてると、ハァハァして息が上がったり、心臓がバクバクするでしょ?身体がそれを受け止め切れないんだろうね。今ひなちゃんが受けてる治療は、実は体力の消耗が激しいものだからね」
心臓がバクバク……
やっぱり、そうなのかも。
もう藤堂先生に話さないといけないよね……
ひな「藤堂先生……?あの、もしかするとなんですけど……」
藤堂「うん?」
……ダメだ。
いざ言おうと思ったら怖くて言えないや。
ひな「……やっぱりなんでもないです」
藤堂「こらこら、ひなちゃんそれはなしだよ。言いたいことがあるならちゃんと言って?」
そりゃそうだよね。
言いかけたのわたしだもん。
勇気を出して言うしかない。
ひな「あの、わたし、心臓が悪いのかもしれません。だからすごくバクバクしちゃうのかも……」
藤堂「え?心臓痛いとか苦しくなることがあるってこと?」
ひな「痛いとか苦しいというより……」
藤堂「ひなちゃん、難しく考えなくていいよ。思った通りに話してみて。心臓がどんな感じなの?」
ひな「えっと、時々なんですけど、"トクン"ってなることが多くて。……いや、あの、多いというか時々……の頻度が多くなって来たというか。とにかく、"トクン"ってなることが結構前からよくあって。それが、最近はトクンに加えてキュッと?キュンと?心臓が縮まるような感じがするんです……。もしかして、治療できなくて体力もないのはこれが原因だったりしますか……?」
***
*藤堂side
ひなちゃん……
たぶん、というか絶対に、それは全然関係ないんだけど、ひなちゃん本気で悩んでるな……。
まぁ、ついに気づき始めたということか。
さぁ、どうしよう。
ひなちゃんにどこまで俺が気づかせる?
藤堂「ひなちゃん、それはいつ頃から?」
ひな「え、えっと……トクンとするのはもうノワールに来た頃からです。初めて感じたのはその頃でした。ずっと黙ってて、隠しててごめんなさい……。でも、キュッとかキュンとなるのはまだそんなに経ってないと思います」
うん。そうだよね。
だって、そのトクンってなるのは悠仁と出会ってからだもんね。
って、わかってるんだよ?
先生たちはみんなひなちゃんのトクンに気づいてたよ。
じゃないと黒柱が見抜かないわけないでしょ?
と言いたいところだけど、ひなちゃんは本気で悩んで、勇気出して俺に話してくれてるんだもんな。
あぁ、ピュア過ぎて心苦しい。
藤堂「今こうして僕にちゃんと話してくれたから、今回は怒ったりしないよ。それに、そのトクンってしたり、キュンとなったりするのは、心臓が悪いことに関係ないと思ってる」
ひな「え……?」
藤堂「次の質問するね。そんな風になるのはどんな時かな?1日の中で何度もなったり、毎日毎日そうなったりする?」
ひな「うーんと、そんなことはないです。ふとした時になるんですけど……どんな時かな~……」
あぁー、どうしよう。悠仁の名前出す?
それとも名前を出さずに、恋の病とだけ言おうか?
うーん、悩ましいな……。
ひな「どんな時かはよくわからないです。こういう時になるなって法則とかがない気がして……」
いや、法則なんて悠仁のこと一択でしょ。
法則なんて言うまでもなく悠仁のことでしかそうならないでしょ。
藤堂「そっか。でもね、たぶん僕はその答えを知ってるんだよね」
ひな「えっ??」
藤堂「教えてほしい?」
ひな「なんか悪い病気ですか……?」
藤堂「ううん。いや、病気と言えば病気か。でも、悪い病気じゃないよ」
ひな「な、なんですか?教えてください……」
あーもう、ごめん、悠仁!
ひなちゃんをほんの少し大人にしてしまうかも。
俺はひなちゃんに恋心を教えてしまうよ。
藤堂「ひなちゃんそれはね……
恋の病だよ」
ひな「え?コイの山?魚、の山……?」
藤堂「ぷっ……はははっ!!もう、ひなちゃん本当に笑かさないで!国語もっと頑張ってお勉強して(笑)やまじゃなくて"やまい"ね。病気のこと。そして魚の鯉じゃないよ。Loveって言えばわかる?恋の病。You’re lovesick. 」
***
*ひなのside
恋の病……
って、どういうこと……?
ひな「恋の、病……?わたし、恋してるってこと?」
藤堂「そういうこと。その胸の高鳴りは、ひなちゃんが恋してる証拠なんだと思う」
そっか。
この胸がトクンとするのは恋、なんだ……
ひな「でも、誰に恋してるんだろう。わたし、好きな人いないのに……というか、好きってどういうことかもよくわかんないし……」
藤堂「本当にそうかな?」
ひな「藤堂先生、誰か知ってるんですか?」
藤堂「知ってても知らなくてもそれは言えないよ。だって、本当のところはひなちゃんにしかわからないことだからね。自分の胸に手を当てて考えてごらん」
自分の胸に手を当てて……
言われたとおり、とりあえず胸に手を当ててみる。
ひな「……」
藤堂「どう?」
ひな「心臓がトクトクしてます」
藤堂「そうだね。それがトクンに変わったら、その人に恋してるんじゃない?」
ひな「うーん……」
トク、トク、トク、トク……
ひな「今は変わらないみたいです」
藤堂「うん。じゃあ恋の相手は僕ではないってことだ(笑)」
ひな「そっか……誰だろな、夏樹くんはないしな……」
藤堂「ははっ。今の夏樹に聞かせてやりたいな。まぁ、そのうちわかるよ。さて、ひなちゃんたくさんお話しちゃったから疲れたでしょ。もうすぐ晩ご飯だから、それまでゆっくりしてて。あ、誰に恋してるかわかったら教えてねっ」
と、藤堂先生はウインクをして行ってしまった。
藤堂先生、ウインクしてたよ……
あんな王子様にウインクされちゃって、わたしの好きな相手って藤堂先生?
いや、でもトクンってならなかったしな。
うーん……わかんない。
でも、病気じゃなかったから、まぁいっか。
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