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複雑な思い②
しおりを挟む~屋上~
ひな「……ケホケホ……クシュン」
夏樹「ひなの大丈夫か?そろそろ戻るか?」
今は5月。
初夏の日差しが暖かいとは言え、まだ空気は少し冷たくて屋上は風も強い。
薄い病衣1枚では少し寒いけど、久しぶりの外の空気が気持ちいい。
もう少し、ここにいたい……。
ひな「大丈夫。もう少しここにいたい」
夏樹「はいよ」
と言って、夏樹くんも隣に腰掛けた。
夏樹「ひなのも退院したいか?」
夏樹くんはわたしの様子がいつもと違うことに気づいてたみたい。
ひな「わかんない」
夏樹「え?退院したいわけじゃないのか?」
ひな「退院してもね、わたしには帰る場所ないんだって……。だから、この先もずっと病院で暮らすんだと思う」
夏樹「どういうことだ……?」
と夏樹くんが言うと、
ガチャッ!!
「ひなー!!」
「夏樹くーん!!」
と声が聞こえた。
夏樹「やばっ、誰か来た!!」
夏樹くんが慌てて立ち上がるけど、この声が誰かなんてすぐにわかる。
五条先生と神崎先生だ……
と思ったら、もう目の前に現れてた。
五条「おいっ!!」
ビクッ!!
あぁ、また五条先生のこの低い声……
めっちゃ怒ってる……
五条「なんでこんなとこいるんだバカ!!部屋抜け出し……っ」
そう言いながら、二の腕を両手でガシッと掴まれたと思ったら、五条先生はハッとした顔をして、白衣を脱いでわたしにかけてくれた。
初めてみたけど、白衣の下は半袖で黒に近い紺色のスクラブを着てた。
五条先生の腕は血管が浮き出ててちゃんと鍛えられてる。
すると、また扉が開いて宇髄先生と工藤先生も来た。
工藤「夏樹!!なにしてんだこのバカ野郎!!」
ビクッ……!!
工藤「……」
夏樹「……え?に、兄ちゃん叩かないの……?」
え……?
さっき、工藤先生は右手を思いっきり振り上げてた。
絶対夏樹くんの頬っぺたを叩くつもりだった。
だからギュッと目をつぶって頭を抱えた。
でも、なんの音も聞こえて来ない。
恐る恐るを顔を上げてみると、工藤先生はゆっくりと腕を下ろしていた。
工藤「お前をしばくのは後だ……。部屋戻るぞ」
というと、隣にいた宇髄先生も白衣を脱いで夏樹くんにかけた。
宇髄先生は五条先生よりさらにムキムキ……
五条「お前も戻るぞ」
と、五条先生に低い声で言われたので、大人しく立ち上がろうとすると
フラッ……
あ、あれ……?
立ち上がりもしてないのにフラッとした……
五条先生に支えられて倒れはしてないけど……
五条「おい、バカか!!じっとしてろ!!」
と言って、今度はふわっと身体が宙に浮いた。
五条先生にお姫様抱っこされてる。
そのまま部屋に連れて行かれてる間、ずーっとふわふわふわふわしてた。
階段を降りる振動もあまり感じず、なんかずっとふわふわ。
部屋に戻ると、すぐにベッドの上に寝かされた。
まこちゃんも来てて、血圧が測られる。
そして、なぜか神崎先生が体温計を脇に挟んで、五条先生は聴診し始める。
何が起こってるのか全くわからない。
とにかく、神崎先生に身体の傷見られてる……って、そんなこと考えてた。
夏樹「ひなの、大丈夫か……?」
と、夏樹くんの声が聞こえる。
わたしのベッドはカーテンがされてないけど、夏樹くんの方はカーテンがしてて夏樹くんの姿は見えない。
宇髄「お前のせいだぞ。ほら、深呼吸しろ」
って、宇髄先生の声が聞こえるから、夏樹くんも聴診されてるのかな?と思ったら、
ひな「ハァハァ……ケホッ……ケホケホッ」
あれ、咳が……。
あと、そういえばすごく寒い気がする。
ひな「ケホケホッ……ハァハァ、ケホッ……」
あれ……また。
五条「まこちゃん、点滴持ってきて」
真菰「はい!」
え?今なんて言った?
点滴って聞こえた気がするんだけど気のせい?
って、そういえばわたし目の前真っ暗じゃん。
目閉じてたんだ。
と思って目を開けて見ると、五条先生と神崎先生がぼんやりと見える。
足元の方に工藤先生もいる気がする。
でも、はっきり見えない。
ひな「ハァハァ、ケホケホッ……ゲホゲホゲホッ…………ハァハァ……」
神崎「ひなちゃん、お咳止まらなくなっちゃうからゆっくり呼吸するよ~」
神崎先生の優しい声が耳に響く。
だんだんと自分が発作を起こしかけてることにも気づきてきた。
それに身体も熱くなってきたから、きっと熱が出てるんだ。
ほんの少し外にいただけなのに……。
ひな「ゲホッゲホッ、ヒューヒュー……ハァハァ、ケホッ……ゲホゲホゲホッ……ハァッ、ッハァ……ッハァ…………」
五条「おい、息止めるな!ちゃんと呼吸しろ。言っただろ?」
ペチペチと五条先生にほっぺたを叩かれてハッとする。
あれ、また目つぶってた?
それに息止めてたかな?
どちらかと言うと、息苦しくなってきて必死に息してるんだけどな……。
ひな「ハァハァ……ゲホゲホゲホッ……ヒューヒュー……ハァハァ、ヒュー……ハァハァ」
すると、まこちゃんが戻ってきてわたしの左手を触り始めた。
あ、さっき点滴って言ってたよね……?
もしかして今からするの?
せっかく外してもらったのに……
ひな「ぃゃ……ゲホゲホゲホッ……ハァハァ……しなぃで……ハァハァ」
五条「動くなじっとしてろ!屋上なんて行くからこんなことになるんだ!」
五条先生、また怒ってる……。
というかさっきからずっと怒ってるのか。
そんなに腕押さえないでよ……。
だって、外の空気吸いたかったし……。
それに、明里ちゃん見てなんか胸がキュッってした。
お父さんとお母さんに迎えに来てもらって、退院してお家に帰って行く姿見て、自分には一生手に入らないものを見た感じで……。
というか、なんで今日は理由聞いてくれないの……。
と思ったら、
チクッ……
ビクッ……!!
ひな「いっ……ゲホッゲホッ……ハァハァ、ヒック……ケホケホッ……ハァハァ……」
五条「もう痛くない」
五条先生の冷たい声。
神崎「ひなちゃん、痛いのはもう終わったよ。しんどくなっちゃうから泣かないで~」
神崎先生の優しい声。
すると、大きな少し冷たい手がおでこに乗せられた。
この手、五条先生の手……?
もう視界が完全にぼやけてる。
五条「まこちゃん、もっかい熱測って」
真菰「はい」
脇に体温計が挟まれる。
ピピッ……
宇髄「いくつ?」
これは宇髄先生の声……
宇髄先生も足元に来てわたしのこと見てるみたい。
夏樹くんは大丈夫なのかな?
真菰「38度6分です」
五条「部屋戻った時は37度8分だった」
工藤「マジか、まだ上がるな……」
え、わたしそんなに熱あるの?
だから五条先生の手が冷たく感じるの?
冷たくてちょっと気持ちいいけど……
朝は元気だったのになんで……
五条「意識保っててえらかった」
あれ、五条先生の優しい低い声。
さっきまで怒ってたのに褒めてくれてる……?
と、なぜか目からスーッと涙が流れた。
でも、五条先生が耳に入る前に指で拭いてくれたみたい。
五条「もう寝ていいぞ」
五条先生の言葉を聞いてわたしはすぐに眠りについた。
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