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食欲不振
しおりを挟む——1週間後
コンコンコンッ——
真菰「ひなちゃん、おはよう!」
朝8時50分。
まこちゃんが部屋に来た。
病院でのいつも通りの朝。
あれから、わたしはまた3日間ICUにいた。
いろいろ機械をつけられて、カーテンに囲まれて、外の景色も見えないところ。
それからICUを出て、またこの部屋に戻ってきた。
真菰「あれ、ひなちゃん今日もお粥残しちゃった?」
ひな「……ごめんなさい」
真菰「謝らなくていいんだよ。スープとゼリーは全部食べれてるし、また少しずつ食べれるようになろうね!」
ICUを出てからしばらくはスープだけだったけど、昨日から少し体調が良くなったからってお粥が出てる。
でも、これがなかなか食べられない……。
真菰「ひなちゃん、お熱測るね~」
と言って、まこちゃんが体温計を挟む。
もうビクッとはしなくなった。
ピピッとなって、まこちゃんが体温計を取る。
何度なのかいつもわからない。
そして、次は血圧。
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ……
これはまだ苦手。
真菰「ごめんね、ひなちゃん。すぐ終わらせるね!」
あの時、わたしはまこちゃんを押し倒したのに、まこちゃんは何ひとつ変わらず優しくしてくれる。
手をついた時にこすっちゃったみたいで、目が覚めてからそれを知って何度も謝った。
謝りすぎて謝るの禁止って言われた。
コンコンコン——
五条「おはよう……ん?ごはん残したのか?」
そして、五条先生がやってくる。
そして、すぐにごはんのことを言われる。
ひな「スープとゼリーは全部食べました」
五条「お粥は?何口食べた?」
ひな「5口……」
五条「……3口だな」
……はぁ、だからなんでわかるんだ。
そんな正確に当てなくても……。
五条「胸の音聴くぞ。前開けて」
自分で開けるのはやっぱり無理。
いつものようにまこちゃんが開けてくれる。
ビクッ……
そして、聴診でビクッてなるのもまだ変わらない。
五条「深呼吸して」
ひな「スー……ハー……スー……ハー…………」
五条「ん。いいぞ」
深呼吸は上手くできるようになったみたい。
そして、首を触って目の下も見られて、ここでもビクッとして朝の診察は終了。
五条「いいか?昨日の夜あんまり寝てないみたいだから、今日は昼間寝ないようにするんだぞ?わかったか?」
……なんで昨日の夜眠れなかったこと知ってるの?
五条「目の下にクマができてるからだ」
ひな「ぇ……?」
なんで今考えてたことがわかったの?
やっぱり、その五条先生の不思議な瞳は……
人の心が読めるのか?
五条「なんでって、わかりやすいからだよ」
真菰「ふふっ。……あ、ごめんごめん」
もう、まこちゃんまで笑わなくていいのに……。
五条「寝たら怒るからな。わかったか?」
ひな「はい……」
わたしにしっかり釘を刺して、五条先生は部屋を出た。
そして、なにもやることのないわたしは、またいつものように窓の外を眺める。
そして……
スー……スー…………
***
五条「……起きろー」
ひな「スー……スー……」
五条「こらっ!起きろ!」
ビクッ‼︎
しまった。
寝ないようにって思ってたのに寝ちゃってた……。
ひな「ごめんなさい……」
怒られるのはわかってるので先に謝る。
五条「せっかくまこちゃんにごはん運んでもらったのに、寝てるって聞いて。まったく……」
ごはんはいつも看護助手の人が持ってきてくれるけど、今日はまこちゃんが持ってきてくれてたんだ。
それは起きとけばよかった。
五条「ほら、早く食べなさい」
ひな「はい……」
たぶん、五条先生は食べ終わるまでずっといるつもりだ……。
こうなれば食べるしかない。
とりあえず、スープから手を付けた。
スープはあっという間に飲めたので次はゼリーを。
と思って手を伸ばしたら……
五条「ゼリーは後。お粥を食べなさい。じゃないとお粥食べないだろ?」
うっ、バレた。作戦失敗……。
と、仕方なくお粥を口に運ぶ。
……パクッ
……モグモグ
……パクッ
……モグモグ
ひな「……」
2口食べて手が止まった。
五条「食べないと大きくならないぞ。体力もつかない」
そんなのわかってる……。
わたしは背が低くて、体重も軽すぎるみたい。
だから、たくさん食べて身体を大きくしたり、体力つけたりしなきゃいけないんだって。
五条「ほら、もうひと口。はい、頑張る」
……パクッ
モグモグ……
……ゴクッ
ひな「ゼリー……」
五条「ダメだ。朝5口食べたんだろ?ならせめて朝と同じだけ食べてからだ」
ちょ、それは嘘ってわかってるくせに……!
ひな「……ヒドイ」
五条「なにがひどいだ。嘘つくからだろ?はい、ほら早く食べる」
そんなやりとりをしていると、
コンコンコン——
藤堂先生がやってきた。
藤堂「お、ひなちゃんお食事中だったか。こんにちは」
ひな「藤堂先生……」
藤堂先生は五条先生と違ってすごく優しい。
ふんわりと柔らかい雰囲気で笑顔はキラキラ。
まるで王子様みたい。
藤堂先生は呼吸器の専門らしくてたまに来てくれる。
藤堂「あれ、お粥減ってないね。お腹いっぱい……?」
フリフリフリ……
なんでかわかんないけど、藤堂先生にはいいとこ見せたい。
首を横に振って、お粥を口に放り込んだ。
五条「藤堂先生が来たら急に食べ始めたな」
五条先生に余計なことを言われた気がするので、意地になってまたすぐにひと口食べた。
でも、次のひと口でまたもや手が止まってしまった。
藤堂先生を前にしても無理なもんは無理だった。
藤堂「ひなちゃん、もう食べられない?」
ひな「ゼリーなら……」
藤堂「お粥は?」
ひな「フリフリフリ……」
藤堂「お粥は食べられない?それとも食べたくない?先生に教えて?」
ひな「……本当は、もう少し食べれそうです。せっかくもらったごはんを粗末にするのも申し訳ないです。でも、今までこんなにたくさん食事が目の前にあったことなくて、この量見てるだけで食べる前から胸がつかえて苦しくなってしまって……」
五条「そういうことをもっと早く言わんか……」
五条先生のため息が聞こえた。
ひな「ごめんなさい……」
藤堂「そういうことだったんだね。話してくれてありがとう。次からはちゃんと五条先生にも伝えられるよね」
あぁ、藤堂先生って本当に王子様……
藤堂「でもね、ひなちゃん。食べる量が少ないとずっと点滴しなくちゃいけないんだよ?」
ひな「えっ?」
藤堂「ひなちゃんが今してる点滴、ひとつは喘息のだけど、もうひとつはごはんをしっかり食べたらしなくてよくなるよ。今は栄養が足りなくてしてるだけだからね。それに、ごはんをしっかり食べたら、喘息も良くなってその点滴もいらなくなるよ」
そんなの知らなかった……
もっと早く言ってよ……
藤堂「だから、全部は食べなくていいから、今はあと3口は頑張ろう。ね?」
コクッ……
そんなこと言われたら頑張るしかない。
力も湧いてくる。
パクッ……
パクッ…………
パクッ…………
たった3口食べるのに20分くらいかかったけど、藤堂先生も五条先生も黙って見守ってくれてた。
そして最後にゼリーをちゃっかり食べてごちそうさま。
藤堂「よく頑張りました」
藤堂先生がキラキラの笑顔で褒めてくれる。
五条先生が気になってチラッと見てみると、普段より顔がゆるんでうれしそうだけど、なんでだろう。
少しだけ悲しげにも感じた。
***
ひなのの病室を出た2人は、
五条「藤堂先生、ありがとうございました。先生のおかげでよく食べました」
藤堂「ひなちゃん、少しずつ会話もできるようになってきたね」
五条「それが、俺にはまだあまり話さないんです。嘘ついて誤魔化そうとするし。つい叱ってしまうからか、信頼されてないんでしょうね」
藤堂「そうかな?俺にはそうは見えなかったけど?今までは、自分の思ったことや感情を表に出すことは許されてこなかった。本心を言うと暴力を振るわれてきた。だから、今も隠そう隠そうと黙っちゃうんだと思うよ。でも、ひなちゃんは賢い子だから、一方で、悠仁にはいろいろ見透かされるってこともわかってる。黙れば黙るほど、悠仁に頭も心も読み取られちゃうもんだから、そうさせないように、本当のところがバレないように嘘もついちゃうんだろう」
五条「でも、診察の時もまだビクッとするんです。まこちゃんにはしなくなったのに……」
藤堂「そんな落ち込まないで。さすがに恐怖心が根強くて身体が反応しちゃうんでしょ。そんな顔しないでさ、ひなちゃんもさっきその顔見てたよ?大丈夫。焦らず行こうよ」
五条「はい……」
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