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二章

92 指輪の意味3/4

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 少し離れた位置からグラハムとグラッジを眺めるエリーゼさんの顔は笑っていた。これなら数十年ぶりの親子の再会もスムーズにいきそうだ。

 俺はバタバタとして全然こっちに気付いていないグラハム達へ声を掛けた。

「お~い、二人とも予定より早くエリーゼさんを連れて来たぞ!」

 声を掛けられた二人はまるで弓の弦のように背中をピンっと伸ばして緊張し始めた、まだ心の準備が出来ていなかったのだろう。俺の後ろに隠れていたエリーゼさんが姿を現わすと、グラハムは口を開けたまま驚いていた。

 俺の予想に反して三人とも黙ってしまい長い沈黙が流れたが、一番最初に声を掛けたのはグラハムだった。

「エリーゼさん、いや母さんと言えばいいのだろうか……久しぶり……ですね」

 硬くなったグラハムは敬語を使うかどうか迷った挙句に使ったようだ。何十年も会っていない親子の再会というのはこんなものなのかもしれない。

 エリーゼさんはどう言葉を返すのだろうかと視線を向けてみると、彼女は感極まったのか再び大粒の涙を流し始めた。

 涙に戸惑い、慌てて駆け寄ってきたグラハムとグラッジを前にエリーゼさんは自身の思いを語った。

「近くで見て、声を聞いて、改めてグラドさんと私が育てた息子なんだって実感が湧いてきて泣けてきちゃいました。歳を取ると涙もろくなっていけませんね」

「母さん……」

「貴方はローラン家で幸せに過ごせたかしら? 養子に出した私が言う資格は無いのかもしれないけれど、私は貴方を本当に愛していましたし、イグノーラで幸せに暮らせているか心配でした」

「……大丈夫だよ母さん。私は父グラドと母エリーゼと一緒に暮らしている時もローラン家でいる時も王として務めを果たしている時も……そして、人里離れて暮らしている今もずっとずっと幸せだよ。魔獣寄せを発現してしまったことは残念ですが、それでも私は二人の父と三人の母を持つ幸せ者さ」

「ありがとう……その言葉を聞けただけで私は……」

 エリーゼさんがグラハムの温かい言葉を受け取れる時がきて本当によかった。グラハムもいつの間にか敬語が抜けて思いを率直に言えているようだ。

この状況を作れたのはしっかりと手紙にエリーゼさんの居場所を残しておいてくれたグラドの功績だ。

 狩場でもあるこの場所で積もる話をするのもどうかと思ったのか、グラッジがエリーゼさんの手を握り「洞窟で座ってお話しようか、お婆ちゃん」と言って、連れて行ってあげた。

 グラッジからお婆ちゃんと呼ばれたエリーゼさんはとても嬉しそうだ。

 洞窟に入って落ち着いてからは手紙の内容をなぞる形でエリーゼさんが再度グラドとの出会いからグラハムとの別れまでの話をしてくれた。

 ローラン家に養子へ出したのも100%グラハムを想ってしたことだから、当然グラハムからエリーゼへ恨みの様なものもある訳なく、親子三代による仲睦まじい会話は夜まで続いた。

 そして、今日はもう話を終えて、全員千年樹で寝る流れになったところでエリーゼさんが最後に少し喋らせてくれと皆の視線を集めた。

「私……最初はエトル姉さんの子供をしっかり守ってあげなきゃって一心でグラドさんについていきましたけど、実は旅を続けていくうちにグラドさんの事が好きになっていたんです。だけど、グラドさんは姉さんが亡くなっても一途に愛し続けていたし、私もこの気持ちはグラドさんの重荷になるから打ち明けるべきではないと最後まで蓋をし続けました。懺悔みたいになっちゃってごめんなさい、でもずっと自分のダメさを吐露したかったんです……」

 ここにきてエリーゼさんが衝撃の事実を教えてくれた。全員が驚いていたけれど俺は不思議と納得していた。確かグラドが残した手紙にはこう書いてあった。

――――エリーゼはプロネス病が治ったら、一人寂しく旅を続ける私についていってあげると言ってくれたが、私は「エリーゼは新しい家族を作ったり、夢を追いかけるなり、自分の幸せを優先してくれ」と言って逃げるようにエリーゼの元から去った――――

 と書いてあったから『ついていってあげる』=『ついていきたい』だったのだろう。グラドとしてはエリーゼさんに新しい家族を作って欲しかったようだが、その想いとは裏腹にエリーゼさんはグラドを想い続けることになるなんて皮肉な話だ。

 だけど巡り巡ってエリーゼさんは再び家族を手に入れることができた訳だから、これからは機会を見つけては親子三代仲良く話せる場を作っていってくれたらと思う。

魔獣寄せがある以上どうしても外部の協力が必要にはなるけれど、そこはイグノーラの兵士達が協力してくれるはずだ。

 グラハムも俺と同じような事を考えていたようで、エリーゼさんの両肩に手を当て、優しく言葉を掛けた。

「それはダメなことではないよ母さん、最後まで耐え続けたのだから立派だと胸を張っておくれ。何度でも言うけど母さんには感謝しかないんだ。長い間一人にさせちゃったけど、これからは家族三人でいっぱい話をしよう」

「……ありがとうグラハム、私はこんなに立派な息子をもてて幸せですよ」

 今日一日泣きまくったエリーゼさんの目は腫れていたが、それでも表情は清々しいものになっていた。

 別れの期間が長かったとしても互いを想い合っていれば、こんな風に絆を取り戻せるんだなと感慨深くなる一日だった。

 俺も家族と出会えたらこんな風に話せるのだろうか? 既に兄弟のザキールとは大喧嘩をして、両親からは捨てられているわけだから望みは薄いけれど、それでも暖かい家族というのには憧れてしまう。

 俺を育ててくれたディアトイルの村長たちにも久々に会いたくなってきた。近いうちにライラの手紙に従ってディアトイルに行くわけだが、その時が今から楽しみだ。

 故郷を旅立つときは大嫌いだったディアトイルに帰りたいと思えるなんて、これが激動の冒険を続けてきたことによって起きた俺の内なる変化なのかもしれない。

 そんな事を考えながら久々にグラッジ特製葉っぱのベッドに横たわった俺はあっという間に眠りについて翌朝を迎えた。


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