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そのさん
しおりを挟むあれから、あらかじめ用意しておいた地図のお陰で、殆ど迷う事無く、無事に4階の生徒会室に辿り着く事が出来た。
まあ、アナログ腕時計の時間と太陽の位置さえ把握してれば、方角なんぞ普通に分かるので、よっぽどの方向音痴でない限り地図さえあれば迷う事は無いだろう。
いや、実際はちょっとばかし迷ったけど、それでも地図があるのと無いのとじゃ雲泥の差だ。
ここにこの部屋があるから現在地はここ、っていうのが分かるのだから。
落としても散らばらないよう、ファイルに入れてから封筒に入れるという徹底ぶりの書類を小脇に、扉の前へと立つ。
現在の時間は、午後3時。
授業が全て終わって、校内に居るのは部活動中か生徒会活動中か、どちらかの生徒しか居ない時間である。
つまり、生徒会室には、生徒会役員共がいらっしゃる訳だ。
......脳内で腐った女がワクテカしてるような思考が過ぎってったせいで、こっちまで地味に心臓が撥ねてやがる。
こうなりゃとっとと終わらせちまおう、と軽く息を吸い込んで呼吸を整えてから、ドアを二回程ノックした。
ステンレスとは違う本物の木を使った高そうなドアは、ノック音さえ高尚にしてしまうらしい。
なんか、聞いた事無い良い音がした。
『......なんだ』
すると、扉越しにだが、声フェチが聞いたら転げ回って喜びそうな高校生とは思えない程の良い声で、そんな返答があった。
脳内の腐った女が軽く悶えるくらいなんだから、相当なんだろう。
お陰でこっちも妙な羞恥心があんだけど何コレ嫌がらせ?
前世は前世で、今の自分とは違う、と割り切ってるからか、そのくらいで済んでるんだろうけど、これで腐った女が俺の自我を押し退け、完全にメインだったのならエラい事になっ...、いや、ならんか。
あの女はどちらかというと、BLカップルのイチャつく姿を、モブとか壁とか埃とか虫とか、そんなんになって見守りたいっていう典型的な腐り方をしていた。
自分が攻め側になりたいとか、息子が欲しいとか、口に出しながらも本心じゃ無かった気がする。
あ、でも、モブ凌辱とかいうド外道なモンも好んでたな。
......俺って立場的にモブだよな。
やっぱヤバい事になるじゃねぇか、良かった俺がメインで。
「書類を届けに来ました」
考えなかった事にして、簡単に用件を伝える。
『 ...そうか、入れ』
「失礼します」
なんか知らんけど、すぐにお許しが出たので、さっさと入室する事にした。
高そうな造りの扉を開け、部屋の中へと足を踏み入れる。
だがしかし、その内部では、俺にとっても前世だった女にとっても、予想外の光景が広がっていた。
......突然だが、ドールという物を知っているだろうか。
アンティークドールのように、タンスの上などに飾られているような、リアルっぽい赤ちゃん系西洋人形とは違う。
小さな女の子が遊ぶ、アクリルやポリエチレンから作られた小さなビニール人形とも違う。
大きさも、髪の色も、髪型も、瞳の色も、性別も、何もかも自分好みにカスタマイズ出来る球体関節人形の事だ。
大きな目に小さな鼻と口が特徴の、二次元の存在を三次元に持って来たかのような、可愛らしくも美しい、全てのパーツをトータルすれば、とてつもなくお金の掛かる人形である。
何故急にそんな話をしたのかというと。
「な...っ誰だ貴様!!事務員では無いな!!」
驚きに目を見開き、体を硬直させた生徒会長である筈の彼の手に、それがあったからだ。
「いえ、事務員です。矢田さんの同僚で、本日は腰痛の矢田さんに変わって書類を届けに来ました」
俺の目がおかしくなって無ければ、この生徒会長は、ドールが着せられていたスカートを捲って、ガン見していた。
「な、え、......そ、そうか」
戸惑いながらも納得したのか、若干の狼狽を態度に残しつつ、生徒会長が呟いた。
...矢田さん、もしかして、いつも生徒会長のこんな醜態、普通に見てたの?
俺の中の腐った女の部分がドン引きしてるんだけど、それって結構、アレだよな。
そんだけ引くような事なんだよな?
それを、矢田さんは一体どんな風に考えたら普通に見えるってんだ?
だって、人形のパンツ覗いてたよ?
変態じゃねぇか。
俺だって引くわ。
「では、置いておきます、失礼しました」
「待て!」
小脇に抱えていた書類の封筒を素早く机の上へと置き、そのままの流れで生徒会室から離脱し、事務室へ帰ろうと踵を返した矢先、慌てたように声を掛けられて、仕方なく視線を返す。
「なんでしょうか」
「...ここで見た事は、黙っていろ、誰にも話すな!」
「あぁ、大丈夫です、自分基本的に事務室にしか居ないんで」
びしぃっ!と指差されながらの命令口調に、これだから金持ちのボンボンは鬱陶しいんだよな、と素で思ってしまいながら、顔面を必死に無表情にしてサラッと言葉を返す。
「そんな訳あるか!!貴様のような男が一番信用ならん!」
「そうですか、ではこれで失礼します」
「待てと言っているだろう!!」
「なんですか、これでもまだ職務中なんで忙しいんです。
そちらもお取り込み中でしたでしょうに」
「貴様っ...!」
あー、なんかヤバいくらい面倒臭いのに捕まった。
こういう時どうすりゃいいの、関わりたくないんですけど。
変態なんかに関わりたくないんですけど。
「今、この俺様を変態だと思っただろう!!」
当たり前だろこのバカボン。
うわー、やだー、どうしよう変態が居るよー。
マジで関わりたくないんですけど。
何度も言うけど関わりたくねェー、やだー。
「貴様っ、そんな蔑んだ目で俺様を見るんじゃない!」
「そんな訳ないじゃないですか、気のせいですよ。被害妄想に囚われないで下さい。
自分はいつもこんな顔してるんです」
「むっ、...そう、言われれば、そう、なのか...?」
信じたぞこのバカボン。
案外チョロそうだなコイツ、適当に煽てとこう。
「そうですよ、やだなぁ、理事長のご子息であらせられる東雲紅彦様に対してそんな事思う訳が無いじゃないですか。」
「ふん、気に食わんな、そう言って内心で俺様を馬鹿にしているのだろう」
うげ、バレてら。
しかも地味にめんどくせぇ絡み方して来やがったコイツ。
ちきしょーマジめんどくせぇ。
来るんじゃ無かったこんなとこ。
「馬鹿になんてしてませんて。
だって見た所それ、パーツも衣装も何もかもオーダーメイドでしょ、市販品なんて一切使わずによくそこまで...」
「分かるのか!?」
俺の言葉は、突然の嬉しそうな声に遮られた。
「そうだ、このドールは肉体パーツこそ樹脂で出来ているが、これもさる名工、稀代の天才と名高い桂氏の手作業によりひとつひとつ丁寧に、そして爪の先まで細やかに作られており、瞳はエメラルドとオパールを瞳孔と同じ配分で作ってある、それからこのしなやかな髪は銀糸と金糸を絶妙なバランスで配合した事でまるで本物の金髪のようになっている、そして衣装は」
うわあああああああああああああ聞きたくねぇェェエエ工!!!
しかもめっちゃ喋るし、誇らしげだし、そんでもってなんでそんな嬉しそうなんだよちくしょう。
そんな嬉しそうに話されたら遮りづらいじゃねェかよ!!
誰か助けてやだもうコイツ!!
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