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本当にひどいよね。

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「で? そのままここまで来たってか」
「はい、やっぱり動揺すると失敗しますね……」

 ガルじいの研究室に行ったら誰もいなかったので
父様に会いに来たんだけど、なんかガルじいも母様もみんな揃ってたから、多分これはガルじいの定期報告だろう。
ちょうど終わったところだったらしく、ついでに僕の報告も聞いてくれた。

 ひと通り説明を終えたところで、ガルじいが首を傾げた。

「いや、お前さん体術とか槍の授業はそれなりだって言ってたよな?」
「はい」
「ドア壊せてそれなりってなんだ」
「魔導が専門のガルじいには分からないかもしれませんが、力だけあっても意味ないですよ」

 そこじゃなくて別のところを気にしてほしかったんだけど、ガルじいだしな。しかたないか。

「……なるほど、つまり使いこなせてないと」
「なにせ僕はまだ七歳ですし」
「ドア壊す七歳ってなんだよ…………まさかとは思うが、他の兄弟もドア壊せるとかないよな」
「ないですのでご安心ください。これは僕が皇太子だからです」

 僕と同じ力を皇帝以外の他の皇族まで持ってたら、色々と大混乱して国が国として今まで残ってないんじゃないだろうか。
もしかしたら消えてしまった過去の歴史にはそういうことがあったのかもしれないけど、今を生きる僕にはまだ関係ないから、必要になったら調べることにしよう。見つけられるかは分からないけど。

「皇族だから、じゃなくて皇太子だから、ってのが引っかかるな?」
「さすがはガルじい、するどいですね。つまりそういうことです」

 にやりと笑うガルじいは、さすがというかなんというか。
少しの情報ですぐに理解してくれるのは本当にありがたい。
詳しく説明するのって、実は結構技術が必要だからね。

「なるほどなァ……、で? 爪伸びてないのがなんかあんの?」
「僕には死活問題です」
「害の少ないデメリットで良かったじゃねェか」
「大アリですよ!」

 ニヤニヤとからかうように笑うガルじいに、全力で叫ぶ。
だってそれって、そういうことじゃないか!

「つまりどういうことなんです?」
「俺らにも分かるよう説明してくれや」

 母様と父様が口を挟む。
それは結論を察せられなかったのではなく、当事者からの明確な言葉が欲しかったからだろう。
皇族であるがゆえに二人は曖昧な表現を嫌う。
自己防衛のためにそれが必要で、だからこそそれに慣れてしまっているのだ。

 その問いを受けて、ガルじいが気安く口を開いた。

「あー、簡単に言うと成長が止まっとるってことですな」

 皇帝陛下と皇妃を前にしてガルじいがこんな態度を取れるのは、彼が世界でも数少ない大魔導師と呼ばれる存在だからである。
国にめちゃくちゃ貢献してるし、この国の魔導の塔のトップだし、魔導の世界で世界的有名人だから仕方ない気はする。

 貴重で特別な人材であること以外にもガルじいが許されている理由として、あの性格が父様の性格ととても合うらしく、僕が産まれるずっと前からの飲み友達だから、というのが、一番の理由かもしれない。

「まぁ……」
「そりゃまた……」

 僕の現状を聞いた母様と父様が、驚いた顔で口をつぐんだ。

 爪が一切伸びてない、つまりそれは僕の時が止まっているということに他ならない。
ただご飯は普通に食べれるし、健康そのものだから体調面では特に問題はない。その理由は今後調べなきゃいけないだろう。

「どのくらいの期間それが起きてるのか、そこら辺はゆっくり検証するしかないか……儂とヘル坊のデメリットが同じかどうかも調べてェな……」

 ガルじいが顎に手を当てて、思案を始める。
父様と母様を見ると、なぜかちょっと嬉しそうで、逆にショックだ。

「どうして父様と母様はそんなに顔をしてるんですか……」
「今のまま時が止まってるなんて逆に嬉しいからな」
「ごめんなさいね、ムー。あなたの成長は遅い方が嬉しくて……それに、健康には問題ないのでしょ?」

 確認するようにガルじいに問いかける母様に、当のガルじいが笑って答えた。

「そうですな、むしろ元気すぎるくらいかと」
「じゃあもう得しかねェな」

 僕は七歳で、育ち盛りで、これから成長しなきゃいけないのにそれが止まってしまうなんて、悲しみしかないのに。全然笑いごとじゃないのに。何この人たちひどい。

「僕は一秒でも早く背を伸ばしたいのに、なんでみんなして喜んでるんですか……」

 表情を歪めてからうつむいて両手で顔を覆う。すると慌てたように三人がまくし立てた。

「儂はそんなに嬉しかねェぞ? 追加で色々調査と検証が必要とかめんどくせェもん!」
「ムー、泣くな、俺たちが悪かった。たしかに皇太子がずっと成長しないのは国としても問題あるしな!」
「そうですよ、かわいいムー。解決策を探すためにも、落ち込んでいてはいけません……!」

 三人とも必死である。
実際に悲しいからちょっとざまあみろって思ってしまったけど、今回は仕方ないと思う。ホントに涙が出たし、嘘じゃない。

「……色々と疑わしいところはありますが、わかりました」

 ゴシゴシと目をこすって涙を拭う。
それでもやっぱり視界がにじんでくるのは、僕がまだ子供だからなんだろう。

「他国の伝承になんかしら使えるものがないか調査させとくから、な? な?」
「……約束ですよ?」
「おう、男に二言はねェ、安心して任せとけ」

 父様がひょいっと僕を抱き上げて、落ち着かせようと頭を撫でてくれた。
そこへ母様が真剣で必死な顔で僕の頬を撫でる。

「ワタクシも、実家の伝説など当たってみますね」
「よろしくお願いいたします、母様」

 にこっと笑うと、父様と母様、それからガルじいがあからさまにホッとした。

計算通りである。
ちょっと嫌な思いしたんだからこのくらい貰ってもいいよね!



 
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