33 / 43
はてさてなんだろう。
しおりを挟むその後ガルじいの変化条件は、さまざまな実験をすることで判明した。
「つまりガルじいは、魔力を過剰回復した時に変化しているということですか?」
「今のとこそんな感じだな」
頭の中で情報を整理整頓した結果判明したそれらを改めて確認すると、ガルじいはうんうんと頷いたあといつものように顎髭を触る。
「まだ、魔力を回復させる方法はポーションを使う他に確率されてねェワケだしな……」
「そういえば禁書の中には魔力譲渡の方法などもありましたが……」
もしかしたら他にも実験しておくべきものがあるんじゃないかと思っての発言だったが、ガルじいは難色を示した。
「あー……ありゃ問題点が多すぎてダメだろ」
本には加減を間違え爆発したとか、吐血して死んだとか書いてあったから、危険が伴う方法なのはたしかだけど、それってそんなに問題だろうか。
「少し改良すればイケるかもしれませんよ」
「それはまた今後だな」
「……それもそうですね」
たしかに、新しく術式を作るしかないなら今後の課題にしておくべきか。
今は総括というか、まとめというか、そういう時間だし。
そんなことを考えていると、ガルじいが僕に向き直った。
「そんでお前さんの方だが……」
「僕の方は、キャロライン嬢以外からもたらされる心拍数上昇では変化しないということは判明しましたね」
恐怖も、運動も、その他考えられる全部をやってみたけど一切変わらなかった。
一応いろいろと仮説は考えられるけど、キャロライン嬢以外にあんなに僕の心拍数を上昇させてくれる相手がいないので、完全に手詰まり状態である。
「ほんじゃあ、ヘル坊の変化条件は『ときめき』っつーことだな」
「は?」
あまりにも突拍子のないガルじいの言葉に、つい目が点になった気がした。
いきなり何いってんだろう、このじじい。
「だってそーだろ、婚約者ちゃん以外に恋愛感情持ってないじゃんお前さん」
「それはたしかにそうですが……」
とはいえ、いろいろとどうなんだろうっていう内容である。
いくらなんでもそれはないんじゃ……。
「婚約者ちゃん以外にときめかんじゃろ」
「まってください、まさかそんなことが魔法で可能なんですか?」
確定事項にしてこようとするガルじいに、慌ててツッコミを入れる。
だが、ガルじいは唐突に真剣な顔で口を開いた。
「……儂らが使用した魔法式が、未知のものだと忘れた訳じゃなかろう」
「それは、……はい」
いきなり真面目な方向へ雰囲気を変えられて調子が狂う。
だけど、それが本当かどうかよりも、本当にそうだったら照れる、という感情しか湧いてこなかった。
「お前さんが婚約者ちゃん以外にうつつを抜かすとも思えんし」
「たしかに僕が彼女以外の女性を愛せるとは思えません」
キャロライン嬢以外とかまず考えられもしない。
元婚約者で納得してたのは、キャロライン嬢がすでに兄上の婚約者だったからだ。
皇帝陛下の決定は絶対で、だからこそそれを覆せるように実績と実力を兼ね備えてからじゃないとダメだと思ってたから。
「つまり、そーいうことじゃろ」
「はい?」
ビシッと指をさされたものの、ちょっとなにいってるかわからなかった。
「いやなんで分からんのよ。お前さんが持つ恋愛感情と心拍数、それから好意に反応して変化しとるんじゃろ、どう考えても」
「………………ええぇぇええ……? いや、しかし、なるほど、たしかにそう言われれば……でも……えぇぇええ……」
指摘されて、ようやくその可能性がものすごく高いということに気付いた。
でもどうしてだろう。さすがにだいぶ恥ずかしい。僕の気持ちがキャロライン嬢じゃなくてこのじじいに筒抜けになってしまったのが恥ずかしい。
つまり僕がどれだけキャロライン嬢にドキドキして、どれだけ彼女が好きか、それが今このじじいには丸見えなのである。
えっ、どうせならキャロライン嬢に知られたかったんですけど。
「はーァあ、儂も恋したァい」
恥ずかしさについ両手で顔を覆って悶えている僕を放置して、ガルじいが羨ましそうに願望を垂れ流した。地味に鬱陶しいじじいである。
「……すればいいじゃないですか」
「出会いがない」
「じゃあ外に出ましょうよ」
正論を言ってみたものの、現在進行形で引きこもりなガルじいは大きな溜め息を吐く。
「もう少し変化時間伸びんかなァ……」
変化した姿で恋とかする気なのこのじじい。
壮年になってキャロライン嬢の心を射止めようとした僕が人のことどうこう言える立場じゃないのはわかってるけどさ。
だがそれでも、たしかにそれはそうなわけで。
「10分間だけって短いですよね……」
せめて30分は欲しい。本当に短い。
なお、これはちゃんと計測したので本当に10分間しか変化しない。さすがは未知の魔法式である。
「だがどっかにデメリットがあるはずなんだよ」
「伸ばすことにですか?」
「いんや、今の変化条件でもだ」
「……ふむ」
ガルじいの言葉は、過去の実績や経験から信用出来る。
そのガルじいがなにか引っかかりを感じているのなら、それは重要視するべきだ。
「なんか気付いたこととかねェの?」
一生懸命考えてみたけど、何も浮かばない。心当たりも特にない。
「……うーん……、すこぶる健康なことくらいですかね」
「健康……」
「……はい……でもほんとにそれくらいしか……」
「健康……健康か……なァんかありそうだな……」
何かがあるはずなのに、何も浮かばない。
ガルじいの勘はよく当たるから、きっと何かあるはずなのに。
二人で頑張って考えるけど、どれだけ考えても心当たりなんてどこにもなかった。
二人して思考が煮詰まってしまったので、切り換えるようにガルじいが手を叩いた。
「まァ、しゃーねェ。なんかあればすぐに教えろよ、お前さんは皇子なんだからな」
「はい、でもガルじいもですよ、あなたは大魔導師なんですから」
「はーい」
いや、はーいじゃねぇよ。子供か。
そんなツッコミを口に出しそうになって、頑張って飲み込んだ僕を誰か褒めて欲しい。
そんなことを真顔で考えながら、僕はついどこか遠くを見てしまったのだった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
番を辞めますさようなら
京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら…
愛されなかった番
すれ違いエンド
ざまぁ
ゆるゆる設定
私はただ一度の暴言が許せない
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。
花婿が花嫁のベールを上げるまでは。
ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。
「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。
そして花嫁の父に向かって怒鳴った。
「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは!
この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。
そこから始まる物語。
作者独自の世界観です。
短編予定。
のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。
話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。
楽しんでいただけると嬉しいです。
※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。
※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です!
※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。
ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。
今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、
ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。
よろしくお願いします。
※9/27 番外編を公開させていただきました。
※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。
※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。
※10/25 完結しました。
ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。
たくさんの方から感想をいただきました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる