10 / 43
完成したみたいです。
しおりを挟むガルじいから魔法を習うようになって、自分の適正な魔法属性を知る事が出来た。
母様から受け継いだ聖属性、父様から受け継いだ雷属性、それから父様方のお祖母様から受け継いだ炎属性の三つだ。
ウィルフェンスタイン皇族は代々雷属性を受け継いでいるので、二属性持ちは結構いるらしい。
僕はそれより一個だけしか多くないから、微妙な所である。
そんなことをガルじいに言ったら盛大に呆れられてしまったので何故だろうと思ったのだけど、よく考えたら聖属性は光の上位属性だし、炎も火の上位属性だし、雷に至っては風と水の複合属性だった事を思い出した。
……思い出したは良いけど、これって数に入れていいものなのだろうか。
火は炎だし、光は聖だし、風と水は雷じゃないからよく分からないし。
それから、なんか魔力量がめっちゃ凄いとか言われたけど、正直ガルじいの方が凄い量なので分からん。
目の前に凄い人がいると比較対象がその人しかないから、全然凄さが分からないし、むしろしょぼいんじゃないかとすら思えてしまうのである。
ついでにガルじいが心から凄いって言ってるように見えないから余計に分からなかった。茶化してるようにしか見えない。なんなんだこのじじい。
それはともかく、ひと月ほど教えて貰って魔法が使えるようになったけど、時間魔法というものがどういうものなのか、という研究はまだまだ続いていた。
たくさん検証した結果、やっぱり魔術だと限界があるらしい事が分かったので、ガルじいと僕の二人共同で魔法式の構築を検証していく事になった。
「ガルじい、ここの式なんですが、理論的に可能なんですか?」
「いや、まだ仮定の状態だな」
「じゃあ、こっちの式でやってみてもいいですか?」
「ん? そっちか? だがそれだとコストが高くなり過ぎるだろ」
「ですから、ついでにこの式を追加しようかと」
書面に羽根ペンでカリカリと式を書く。それはとある禁書で使われている魔法式の一部だ。
ガルじいはそれと構築途中の魔法式を見比べて、顎髭をさすった。
「……手間がかかるんじゃねェか?」
「手間はかかりますがその分コストも削減出来ますし、確実かと」
「うーむ……、いや待て、やっぱ却下だ、ここんとこに余分が出来る」
トントン、と書面の魔法式の一文を指で示すガルじい。
改めて確認すると、確かに余剰分が空回りしそうな感じだった。
「ではこの余分はこれの維持に充てるのはどうでしょう」
「また随分と式が長くなるな……しかし理論的には可能か?」
「問題があるとすれば、これを行使する時に間違わないかですね……」
「さすがにちょいと長過ぎるな……丸三日はかかるんじゃねぇか?」
丸一日でさえ辛そうなのに、丸三日はダメかな……。
でもこれが一番それっぽいんだよなぁ……。
「とりあえず……やってみます?」
「いや、ちょいとリスクが高過ぎる、どっかの部分が何かで代替出来ねぇか探してみよう」
「はい」
ですよね。しか言えそうに無かった。
でも理論的には間違ってないんだよなぁ……、どうにか似たような魔法式の応用出来ないかなぁ……。
「ん? 待て、ここにこの禁書のアレを利用したらどうだ?」
唐突にガルじいが何か閃いた。
こういう時のこの人は本当に頼りになるので、僕は補助に専念することにしている。
「この禁書というと、……アストラル体に干渉するタイプの式ですね、これをどうするんです?」
「ほれ、ここの一文をこうしてこうしたら、良い感じに……」
「あ、なるほど、働きかける部分を書き変えるんですね」
ふむふむ、なるほど。
確かにそうすれば一気に魔法式が出来上がる。
「そうそう、だからここがこうなって、こうなる」
「今はまだ少しアラがありますが、理論的には可能ですし、一番良いかもしれませんね」
物凄い勢いで構築されていく魔法式がとても美しい。
これをそのまま行使するとどうなるか、まだ細かい検証が終わっていないが、それでも理論的に完成と言っても差支えはないだろう。
「よォし、この感じで煮詰めて行こうぜ!」
「魔法薬じゃないですけどコレ」
「分かっとるわい、比喩表現だろ比喩表現!」
冗談めかして笑い合うけど、それでも僕はどうしても不安が拭いきれなかった。
「あの、理論だけでいいんですか?」
「当たり前だろ、実験しようにも動物と人間じゃ全く寿命が違うんだ」
「ぶっつけ本番というやつですか?」
「おうよ、他にやりようがねェからな」
朗らかに笑うガルじいが地味に腹立つから、僕のこの一抹の不安をぶつけることにした。
「大丈夫でしょうか?」
「なんだ、怖気付いたか?」
「だって、もしかしたら二人とも死ぬかもしれませんよ?」
「安心しろや、それだけは有り得ねェ」
真剣で、それでいて真っ直ぐな、今まで見たことない表情のガルじいがそこに居た。
それは大魔導師ガルガーディンという肩書きと名前に相応しい威厳があって、つい息を飲み込んでしまう。
「……どうしてですか?」
「儂のこの勘は今まで外れた事ねェからな。それに儂ァ“豪運”の祝福持ちだ」
これだけ理論的に色々やってきたのに、ここに来て非現実的な勘を持ち出してくるあたり、ガルじいらしい。
しかもついでのように祝福の話だ。
「……さすがに神様もこれは想定外なんじゃ……?」
「大丈夫だっつーの、危なくなったら儂が何とかするに決まってんだろ、この国の皇太子死なせる訳にいかねェんだから」
「あ、やっぱり知ってましたか」
「当たり前だろ、むしろ知らねェやついんのかこの皇城に」
逆に怪訝そうな顔をされてしまったけど、どうしても言わせて欲しい事があるので失礼します。
「知っててずっとその態度って本当にガルじいって凄いですよね」
「なんでェ、打首にでもすんのか?」
「しませんよ、世界的大魔導師ガルガーディンにそんなことしたら内乱が起きます」
キッパリ言い切ったら、ガルじいは真顔で口を開いた。
「いや、お前こそ儂が誰だか本当にちゃんと理解しといてその態度なん? 凄くね?」
「えへへ」
「褒めてねェぞクソガキ」
そんなこんなで、ようやく理論が完成したのだった。
あとはこれを頑張って色々とこねくり回すだけである。
よーし、頑張るぞ!
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
わたしを捨てた騎士様の末路
夜桜
恋愛
令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。
ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。
※連載
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる