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研究中なのです。

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 ガルじいとの研究はとても有意義だった。
何せ、問いかければすぐに返答があるし、なんなら次には改良点も見付けてくれる。
どれだけ知識を詰め込んでもあの教師みたいに気味が悪いとか言って来ないし、変な嫉妬して来ないし、嫌がらせもして来ない。

あのクソ兄が何かして来ないか心配だったけど、さすがに禁書庫の奥にあるガルじい専用の研究部屋にまでは入って来れないようで、本当にストレスフリーな研究環境である。

「おいヘル坊、そこの魔法薬取ってくれ」

ちょいちょいガルじいが様子見ついでにこき使おうとしてくるのを除けば、という注釈がつくけど。

「どうして僕を使おうとするんですか、僕は今解析で忙しいのでご自分で取ってください」
「なんでェ、いいじゃんケチー」

 書面に計算式と魔術式をメモして、それを組み替えたりなんだりしている所なので正直邪魔しないで欲しい。

「ケチじゃないです、動けないんですからご自分で動いて下さいませんか」
「んん? 何しとんじゃ?」
「この間議論していた魔術式のデータをひとつずつ検証してるんです」
「こないだっつーと、アレか?」
「アレです」

 もはやそんな指示語で何の話かを理解してくるガルじいにも慣れたものだ。
初めの頃は何言ってるかよく分からなかったけど、一週間も一緒にいれば慣れてしまう。僕って本当に偉いよね。

「おいおい、ありゃまだ議論の余地が残ってるだろ」
「余地はまだありますが、現段階でどこまで可能なのか、気になりませんか?」
「いや、そりゃ確かに気になるがよ……」

 カリカリと魔術式を構成して、結果がどうなるかの検証をする。
ちなみにこれは擬似的に計算して結果を出しているだけなので、効力は無い。魔力を流せば違うんだけど、動力部分もそれぞれ切ってあるのでそれも大丈夫だったりする。

ふと、書面を覗き込んでいたガルじいが何かに気付いた。

「んん? 待てヘル坊、ここの式、こっちじゃねぇのか」
「それだと何故か上手くいかないんですよね」
「ふむ、だとすりゃ、こっちの式はどうだ」

 そう言って近くの本を手に取って手早くとあるページを開いたガルじいは、そのページを開いたままの本を書面のすぐ側に置いてから、指で該当の式をトンと叩いた。
それは三日前に読破した禁書の一つで、今回の式には使っていないものだった。

「あぁ、それは盲点でした、ありがとうございます」
「良いってことよ、感謝ついでにそこの魔法薬取ってくれ」
「ご自分でどうぞ」
「ンだよケチー」

 このじじいどうしても僕を使いたいらしい。しかし無視である。
ちょっと優しくするとすぐに調子に乗るんだよなこのじじい。
というか、若干こういうやりとりを楽しく感じているので、むしろこのくらいでちょうどいいのかもしれない。

「ところでガルじい、魔法式の方は進みましたか?」
「飽きてきたから交換しねェ?」

 いやなんで飽きてんだよやれよ。

「頑張ってください」
「ケチー」
「ケチじゃないです、僕だって頑張ってるんだからじじいも頑張ってくださいよ」
「やだー飽きたー」
「やだじゃないやれよくそじじい」
「ちェー」

 ちなみに、この汚い言葉は全部父様から覚えたんだけど、プラスでガルじいの使う言葉が追加されてしまう可能性は高かった。怖いね。
というか、この粗雑な感じが僕の言葉遣いに影響を与えそうで地味に怖いので、本当に気を付けようと思う。

「あ、そういや、あっちの式はどうだった?」
「あぁ、アレはダメでした、やはり魔術では魔力が足りないようです」
「そっちだと上手く行けそうに見えるんだがなァ」

 ちなみに、専門的な会話に聞こえないように、あれとかそれとかこれとか指示語ばかり使っているのかと思っていたけれど、ただのじじいのものぐさだった。
しかしそれが逆に機密漏洩を防いでいるのだからなんとも言えない。

その辺の魔導師はこの人のこういう所を良いように誤解して勝手に盛り上がったりするんだろうな、と思いました。

「何かしらの誤差が出やすいらしいですからね、魔術式」
「誤差出ねぇようにやってんのになァ」
「そうなんですけど……魔法式だと違うんでしょうか」
「やっぱ交換しねぇ?」
「いやです」
「なんでだよ! 気になるんだろ魔法式!」
「というか、僕はまだ魔法が使えないので無理です」

「えっ?」

 唐突に物凄く間抜けな顔を向けられて気が抜けた。

「……いや、なんでそんな顔してるんですか、僕まだ七歳ですからね?」
「あ、そっか、魔法習うの12歳からか」
「僕まだ子供ですからね? わかってます?」
「……お前全然子供らしくねぇんだよなァ……」
「自覚はあります」

 しみじみと言われてしまった言葉だけど、自他共に認めていることだし、父様も把握してることだから素直に頷く。

「……よし、儂に任せろ」
「は? なんですかいきなり」
「魔法の使い方、教えてやるよ」

 物凄いドヤ顔で啖呵切られてしまったのだけど、素朴な疑問が湧いてきた。

「…………12歳からじゃないとダメなんじゃないんですか?」
「分別つかん子供が魔法使うのと、お前みてぇな子供の皮かぶった人外が魔法使うのじゃ雲泥の差だろ」
「人外は酷くないですか」
「人間はその歳で魔法理論も魔術理論も理解出来ねぇんだわ」
「いや、僕人間ですけど」

 しばくぞクソジジイ誰が人外だ。
本当になんなのこのじじい腹立つ。

「ともかく、お前明日から魔法の勉強な」
「…………分かりました、が、この年齢から魔法使って大丈夫なんですか」
「むしろ早い内から魔法学ぶのは魔導師の基礎だぞ?」
「そうなんだ……」

 どっかの論文にあったっけ……?
それとも常識過ぎて盲点だったとか……?

よく分からないけど、習えるなら習いたいので有難いことである。

「つーか、肉体的な問題ならむしろメリットしかねぇから安心して学べ」
「信用出来ないけど分かりました」
「いや、信用はしろよ儂を誰だと思ってんだ」
「近年稀に見るエロジジイ」
「しばくぞクソガキ」

 そんなこんなで、魔法を習う事になったのでした。



 
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