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空回りしてるらしい。

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 世界というものは、基本的に厳しいものだ。
 だから、イージーモードのように感じた場合、後から来るしっぺ返しに心が折れそうになる。

 今まで何もしなかったツケとして、酷い不幸に見舞われる事もあるだろう。

 だから私は、何が起きても良いように、覚悟しながら生きようと思う。

 本来ならば殆ど必要の無かった事だ。
 現代日本では心構えさえしていればそこまで酷いしっぺ返しを受ける事はほぼ無いと言っていい。

 この世界は何故か私に対して残酷な程優しく、そして厳しい。

 何もかもが私を甘やかそうとしてくる。
 甘えたくなどないというのに、堕落させようとしてくるのだ。

 その優しさを拒否すれば苦しくなる。

 優し過ぎる世界ほど残酷なものは無い。
 抗えば抗うだけ、優しく包み込んでくるのだ。

 身を委ね、何もかも投げ捨てた時、手痛いしっぺ返しが来るように感じて、私は今の体勢から動けなくなった。

 それでも私は生きて行かねばならない。

 逃げたくとも逃げ出せない。

 逃げられない。

 逃げられる気なんて全くしない。

 だがそれでも私には、もう逃げる気など無かった。

 強くなりたかった。

 肉体に負けないくらいには、強く。

 だから私は、例え何が起きようと生き抜いてやろうと思ったのだ。

 この身体になって、この世界に来て、学園に入り、友人が出来た事が全て必然だというのなら、逃げる事など何の意味もない。

 故に私は生きるのだ。









 あれから私は、ミズキとスライム駆除の任務を受け、その場所へと向かっていた。

 地図上では学園からそれ程遠くも無く、ついでに近くも無いくらいの中途半端な、比較的小さい森。

 森といっても、この世界は殆どが木々に覆われている為、私という現代人の感覚では樹海にしか見えない。
 が、人外ばかりのこの世界では小さい森でしかないそうだ。

 故に、一般人でも方向さえ間違わなければ、大体一日で脱出出来る程度との事。
 一般人なのにスペック高いってどういう事だとかは考えないようにしようと思う。

 ちなみに、移動は勿論徒歩だ。

 木々に侵食されている為、五百年以上前に舗装されていたアスファルトの道も、黒い砂を残しているだけで見る影もない。
 故に、かつて栄華を誇った鉄の車も現在は都市でしか見る事が無く、騎馬車や騎獣車が現在の主流となっている。

 足を運ぶ度に、膝下くらいまである草がガサガサと音を立てながら掻き分けられた。

 今通っている草原のようなこれが、至って普通の道と分類されるのだから驚きだ。

 木々や草の繁殖力が無駄に高い為、定期的に道を整備してもすぐにこうなってしまうらしい。
 故に、時々学園の任務にも道の整備などの依頼が上がったりしているが、今回私達が受けた任務はスライム駆除なので今は関係ない。
 個人的には微妙に歩きにくいので魔法でなんとかしてしまいたかったが、任務外の任務っぽい行動はどうしても必要な時以外基本的に禁止されている為、仕方ない。

 まぁこのチートな肉体に掛かれば、こんな草原いくら歩いても走っても息切れ一つ起きないんだが。
 ......本当に規格外だよね。真面目に身体を鍛えているヒトに申し訳なくなる。
 努力して手に入れた訳でも無ければ、生まれた時からという訳でもないのだから。

 ......考えるのは、やめておこう。
 無駄な自己嫌悪に陥るだけだ。

 ......ちなみにだが、ベリアルは部活の見学に行ってる間にこっそり学園に置いてきた。

 そうです。置いてきました。

 もしかしたら今頃居なくなった事に気付いて怒っているかもしれないけど知った事じゃない。

 ......学園帰りたくねぇ......。

 そんな事して大丈夫なのかって?、そうだね、大丈夫じゃないかもしれない。

 だかしかし、今は大丈夫だ。

 そう、今は。

 何故なら、ミズキと一緒に居る時は、この首輪の呪いも魔力探知も一切効かないらしいのだ。

 大事な事なのでもう一度言おう。

 ミズキと一緒に居る時は、何もかも 一切 効かないらしいのだ。

 いやーさすが神様チートだよね。
 とても良い事を聞いた。
 今後任務に行く時はミズキと行こうと思う。
 後が怖いけど知るもんか。
 四六時中一緒とかノイローゼになるもん、私が。

 イケメンと四六時中一緒って、心臓に悪いんだよ本当に。
 しかも過剰に触れて来るんだよ?スキンシップ過多なんだよ?

 なんかもう無理。しんどい。疲れた。
 美人は三日で飽きるって言うけど、アイツの行動は常識から外れ過ぎてて飽きるとか以前の問題だし。
 少し常識を学んでから出直して欲しい。

 「なぁ、アイレ、そんなベリアルの事ヤなの?」

 隣をのんびりと歩くミズキが、ポニーテールをユラユラと揺らしながら尋ねるそんな言葉に、つい溜息が零れた。

 「......嫌という訳じゃない。ただ疲れたんだ。
 少しくらい距離を取りたいと思っても仕方ないだろう」
 「ふーん?」

 私の言葉に、納得したようなしてないような、なんだか微妙そうな様子を見せるミズキ。

 ......そりゃ、まぁ、十日間一人だった事つい最近もあったけどさ、今の私はあの時の私とは感覚が何もかも違うのだ。
 今の私は、きちんと現実が理解出来ていて、だからこそ、以前欠如していたちゃんとした人並みの感性を持ち合わせている。
 毎日付き纏われ、寝ても覚めても丸一日一緒、離れる事なんて教室で席に着く時だけなんて、少しでも距離を取って静かに過ごしたいと思っても仕方ないと思うのだ。

 てゆーかそんな事よりもだよ。

 「......貴様の方こそ良かったのか?、ルイを置いて来て」

 尋ねれば、ミズキは軽く考えるような様子を見せた後、若干拗ねたような表情を浮かべた。

 「んー、まぁ寂しいけど、あんまりベタベタすんの、ガラじゃねぇもん」

 成る程。

 「............ツンデレは大変だな」
 「ツンデレじゃねぇし!別にどーせすぐに会えるし!」

 「ん......森が見えたぞ」
 「いやちょっと待て無視すんなよ寂しいじゃん!」

 うん、ミズキはちょっと落ち着けば良いと思う。
 キャンキャンと仔犬のように抗議するミズキを横目に、ぼんやりとそんな事を考えながら視界に入った森を見つめていると、妙な気配を感じて、つい振り返った。

 「......?」

 見回してみるが視界には特に何も怪しいものは無く、気のせいだったかと判断し、それでも違和感は拭えず首を傾げながらも改めて前を向く。

 するとその時、ズルズルと地面から水のようなものが染み出した。

 それはある一定の量染み出すと水溜まりのような形状からぬるりと形を変え始める
 森も近いし、多分目標であるスライムだろうと推測して、その変化していく様子をじっと見つめた。

 そうして姿を現したのは、なんかとても気持ち悪いスライムだった。
 赤い核のようなものが幾つもあって、それが透明のゲルの中をグルグルと巡っている。

 カエルの卵みたいでとても気持ち悪い。

 とりあえずいつでも戦えるように気を配りながら、頭の中でこの魔物の知識を探る事にした。

 【スライム】
 地球上で起きた生き物の不可思議な進化によりアメーバから派生したとされる魔獣。
 基本的に虫などを捕食しているが、数が増えすぎた場合、周辺の生き物を全て取り込んでしまう為、生態系維持の為にも駆除対象となっている。
 赤い核は全てが心臓として機能しており、ただ斬るだけでは分裂の手助けにしかならず、魔術の取得が必須。


 ......となると、魔法で燃やしたり、凍らせて核ごと斬り刻んだりするしかないという事だろう。
 火事にする訳にもいかないから、凍らせて刻むとしようかな。

 触手プレイ再来とか考えた奴、残念だったな!キモいだけのただのスライムだ!
 そんな何度もそういうのに遭遇したら私の身が持たんわチクショウが!
 もう一度言おう、残念だったな!フハハハハ!

 しかし成る程。アメーバか。なら気持ち悪いのも仕方ないね。

 そんな事を考えながら生成したカードに凍結の魔法を付与して投げると、スライムはそのままの形で核ごと凍り付いた。
 それから、斬撃の効果を多重に付与したカードをそれに向けて投擲する。

 すると次の瞬間、パラパラとした粉塵にまでなってしまって、つい呆気に取られ呆然とそれを見つめてしまった。

 うん、もしかしなくてもちょっとやり過ぎた気がとてもする。
 次はもっと加減するべきだね。

 自分の未熟さに少し落ち込んでしまいながらも、とりあえず次にどうするかを思案した。

 えーと、斬撃の回数を指定したら良いかな......、あとこのスライムどのくらいで凍るんだろう、これも要実験かな?
 この感じだと斬撃だけで全然行けそうな気もするけど、まぁ練習って事で魔法は使わせて貰おう。

 いくら中二病罹患者だった私でも、感覚や感性などは一般人と大差ないのだから、そう簡単に上手く行く筈が無いのは分かっていた。
 それでも、もしかしたら戦闘センスとかあるかもしれないとか多少なりとも自惚れていたのだろう。
 よくあるじゃないか、トリップした主人公が抜群の戦闘センスを発揮するとか、そういうの。

 私が練習無しでいきなり出来る訳がないよね。
 現実として認めよう、私の基本は一般人だと。

 ふう、と一つ息を吐き出しながら、他の標的を探して辺りを見回す。

 そんな時、私の様子を見ていたミズキが呑気に口を挟んできた。

 「んー、まぁまぁだな。ちっと無駄に魔力込めてるけど」
 「そんな事は分かっている」

 自覚している部分を指摘され、つい反論してしまいながらジロリとミズキを睨みつける。
 しかし当のミズキは軽い調子で笑いながら首を傾げた。

 「分かってても出来なきゃ意味ねぇじゃん」
 「ぐ......!」

 正論過ぎてなんも反論出来ん。
 なんだよ良いじゃんそんな追い打ち掛けなくても!

 悔しくてギュッと手を握り締めながら、視線を落とした。


 「お、来た来た。よし!ここは俺に任せろ!」

 ふと聞こえたミズキのそんな言葉に顔を上げる。

 しかし辺りを見回してもイマイチどこに何が居るのか分からなくて首を傾げた、次の瞬間。

 ミズキが消えた。

 いや、消えた訳じゃないのは気配で分かる。
 だが姿が見えない。

 速度が速過ぎて、私でも認識出来ないのだ。

 さすがはチート。
 ただでさえチートな私の視界から速度だけで消える事が出来るとは、やはり神様は違うね。

 いや、なんでたかがスライムにそんな速度出してんのアイツ。

 思わず半目になってしまいながら立ち尽くしていると、殆ど何も居なかった筈の平原に、大量のスライムの気配を感じて硬直してしまった。

 ............え。

 「よしっ!作業完了!」

 突如私の隣に姿を見せたミズキは、掻いてもいない汗を拭いながらなんだか満足げに笑う。


 「おい、貴様、何をした......!?」

 「ん?核を避けて斬り刻んでみた!」

 えっ。

 「どのくらいだ」
 「何十体かなぁ?、数えてないから詳しくは分からんけど、とりあえず目に付いたのから片っ端に細切れにして来たぜ!」

 ちょ、おま......!
 細切れって、一体に核がどのくらいあるか知らんが物凄い数になってるじゃないか......!
 この平原の気配だけで数えても、確実に二百は超えている。

 あの気持ち悪いのが、森と平原合わせたらとんでもない数で蠢いているのかと思ったら嫌悪感に鳥肌が立った。

 「っ...何してくれてんだ!!」
 「えー?だって楽しいじゃん!」

 「ふざけるな!どうすると言うんだこんな数!!」
 「大丈夫大丈夫!なんとかなるって。」
 「ただでさえ大量発生してるんだぞ!?それを更に増やしてどうするんだ!!生態系が崩壊するぞ!!」

 「んー、頑張れ?」
 「なっ!」

 「俺疲れたから結界張って昼寝するわー」
 「な、おい!ふざけ...!」
 「あ、一応ここ一帯から逃げ出せないようにしといたから、あとは頼んだ!」

 そう言って、すちゃ!と効果音が付きそうに右手を上げて敬礼したかと思えば、
 わらわらと私達の周りを取り囲み始めるスライムの間をひょいひょいと抜けながら、呑気に、じゃあなー、と言って姿を消したミズキに、つい声を荒げて叫んだ。

 「ミズキぃいいいい!!」

 あの野郎私に全て丸投げして逃げやがった!!
 何してくれてんだマジかチクショウ!!
 えっ、ちょ、ま、どうしたら良いのコレ!!

 わらわら寄ってくる気持ち悪い大量のスライムに生理的な恐怖を感じた私は、
 とにかく両手に出せるだけカードを生成して、右に凍結の効果、左に斬撃の効果を付与し、辺りに投げて投げて投げまくった。

 その甲斐あってか10分後には、目に見える範囲は全て粉塵となって散ったスライムだったモノが散らばっているだけとなった。
 だが、気配を探ると地面や森付近にはまだまだ目茶苦茶居る事が分かって、なんか泣きそうになる。

 何コレ、どうして私こんな目に遭ってんの。
 まさかとは思うけど私に効率的な魔法の使い方を勉強させる為?
 えっ、だとしたらスパルタ過ぎだろふざけんな。
 手伝ってくれるのは素直に嬉しい。
 だけど、でも、いくらなんでもこれは無いだろ普通に考えて。

 やだどうしよう泣きたい。

 でもこのままだと私、触手プレイとかそういうんじゃなくただ単に命の危険が、…チートだからあんまり無いかもしれんがそれでもこれだけ大量にスライムが居るんだから万が一があるかもしれない。

 そんな死に方やだ。

 そうこうしている内に、またスライムが大量に姿を見せ始めたので、私はまた半泣きで両手に出せるだけカードを生成したのだった。






 
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