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閑話、その頃のカズハ。

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 はいどうも、皆のアイドル、または女神、カズハ様よ。

 崇め敬い奉りなさい。

 ......別に呼んでない?、聞こえないって言うか聞く気ないわそんなん。

 ......キャラが違う?

 あぁ、全ての元凶は奴だから文句は奴に言いなさい。
 奴?、奴は奴よ、あの変態。説明されなくても察しなさいよ、まったく。

 そう、アタシ今ヤケクソっていうかやさぐれてるっていうか、まぁなんかそんな感じなのよ。
 多少のキャラ崩れは大目に見なさい。

 何故かって、当たり前じゃない。
 ベリアルがアイレの所に帰って来て今日で大体一週間になる訳なんだけど、その間。
 アタシも目茶苦茶大変だった訳よ。

 あの日、結局学校をサボって外に逃げ、違った、飛び出した訳なんだけど、あと少しで町に着くって所で奴が待ち伏せするみたいに前方にニヤニヤしながら佇んでて。

 姿を見た瞬間真後ろに方向転換したアタシは何も悪くない。絶対悪くない。

 なんで居んだアンタっていう。

 だけどその先にも、どこ行っても先回りしててなんかもうヒステリーを起こしそうになって、
 最終的に目茶苦茶腹立ったから全力のダッシュで目の前を通り過ぎてやった

 ら、奴は歩いてアタシを追い始めた。

 アタシは全力で走ってんのに、奴はアタシと同じ速度で、クツクツと楽しそうに笑いながら優雅に 歩 い て アタシの後を追って来てんの。

 余りの事になんかもう恐怖を感じたアタシはやっぱり悪くないと思う。

 とりあえず学園に戻ってルイとイチャイチャとしてやがったミズキを掴まえて奴を押し付け、その日はなんとかなったけど、問題は次の日。

 起きたら、なんでか奴はアタシの部屋の、
 アタシのベッドで、アタシを腕枕してニヤニヤしながらアタシを見てた訳。

 寝起きにそんなんされてキレない訳が無いわよね。
 アタシじゃなくてもキレると思うわ。絶対。

 アタシが熟睡してる夜中、うら若き乙女の私室に 勝 手 に 入った挙げ句、 勝 手 に ベッドに入って寝てるアタシを 勝 手 に 腕枕してニヤニヤしてる美形。

 いくら美形でも許されない愚行だと思うのよ普通に。

 しかも奴は、反応が面白いから、ってだけでそんな愚行しやがるのよクソ腹立つ。
 アタシを好きになったからとかそういう恋愛的な理由ならまだ救いは、......無いか。
 好きだからってそんなんされても嫌だわ。

 とりあえずアタシの気持ちとか考えろっていうね。しねばいいと思う。
 アタシはペットじゃねぇから。

 ブチキレたにも関わらずセクハラされまくった訳だけど、貞操は守られました。
 理由は良く分からんけど、多分ミズキに止められたからとかそんなんだと思う。

 だってアイツ絶対ミズキ大好きでしょ。

 とっとと帰るかミズキんとこ行けば良いのに、何故か奴はあれからずっとアタシに付き纏っている。
 家に帰れって言うと、つまらんから嫌だとか宣(のたま)いやがるのよアイツ、マジ腹立つ、帰れって言ってんだから素直に帰れよ。

 ちなみに現在アタシは、あの計画を実行してやろうと部屋で化粧している最中だったりする。
 濃い化粧とキツイ香水で逆に迫ってやる、っていうアレよ。

 ......てゆーか......一体誰に説明してんのかしらアタシ。疲れてんのかな。
 うん......疲れてんのねきっと。

 ソレもコレも何もかもあの野郎へんたいのせいだわ。マジとっとと居なくなれば良いのに。

 そんな事を考えながら、鏡台の前で、買ったばかりのファンデーション、アイライナー、チーク、アイシャドー、コンパクトケースに納められた何色かの内の比較的赤い口紅を、そのままの順番で、苛立ちをぶつけるみたいに顔に塗りたくった。

 そして一通りやってみて全体像を鏡で改めて確認した結果。

 白塗りオバケみたいな何かが出来上がっていた。

 ............なにこれ。

 ダメだコレこんな自分許せない。
 濃い上に適当な化粧が美的感覚的に許せない

 反射的にか、アタシはつい即行で落とした。

 だって、無い。
 流石にコレは無い。

 勢い良く向かった洗面台で顔を洗って、水気をタオルで拭きながら思う。

 やっぱりアイレの言う通り薄い化粧から始めて段々と濃くしていくべきね。
 アタシの美しさが損なわれるような化粧なんてアタシが耐えられないし。

 そんな事を考えながらゆったりとした足取りで鏡台へと向かい、鏡で化粧が完全に落とされているのを確認してから、化粧水で肌を整えた。

 そして、鏡を前に女子寮の談話室にあったファッション雑誌を片手に格闘する事、約1時間。

 やっと自分の納得出来る化粧が出来た。

 肌の透明感を増す程度のファンデーションに、上の瞼だけに一筆だけ引いたアイライン。
 ピンクオレンジの薄いチークに、アイシャドーは瞳の色に合わせた薄いエメラルドグリーン。
 口紅は結構有った色の中から落ち着いたサーモンピンクを選んで筆で塗った。

 鏡には、化粧する前よりも少し大人びた雰囲気の、ますます美人になったドヤ顔のアタシが映っている。

 うん、完璧。

 あとは香水だけど、付け過ぎると気分が悪くなって頭痛に襲われるから、手首に1回だけ吹き掛け、それを両手首同士で擦り合わせた後、首回りに塗り広げた。
 ふんわりと甘いけど爽やかなシトラス系の香りを身に纏うと、何となくいい気分がする。

 やっぱり香水も徐々に慣らして行かなきゃしんどくなりそうね......。
 まぁとりあえずは及第点かな。

 ふぅ、と小さく息を吐き出しながら、ポニーテールにしていた髪を下ろすと、艶のある茶金色の髪がするりと音を立てた。
 毎日の手入れは欠かしてないから括っていても癖なんて付いてない。
 我ながら頑張ってると思うわ、コレ。

 ちなみに今着てる服は黒いキャミソールとカーキ色のショートパンツだったりするけど、一応化粧とは合ってるからまぁ良いかなと思う。
 いつもはコレに焦げ茶のニーハイ編み上げロングブーツと黒いファーの付いた茶色のロングコートを羽織ってるんだけど、今は室内だからそれは壁に掛けてある。

 ......化粧した時を想定して他の出掛ける為の服とかそういうの増やすべきかしら。
 ......でも今はあんまりお金無いのよねー、化粧品と香水買っちゃったし、肌の負担も考えて化粧水も前より少しグレード上げちゃったし。
 ......仕方ない、また任務行くか......。

 鏡に映る自分を見つめながらぼんやり頬杖をついて溜息を吐いた時、ふと気付いた。

 ........................あれ、何してたんだっけアタシ。

 じっと鏡の中の自分を見る。

 うん、さすがアタシめっちゃ美人。

 ......や、そうじゃなくて。
 ちょっと待ってなんか普通にオシャレしただけじゃね?コレ。
 あれっ、えっ、どうしよう意味ない。


 「ほぅ、似合うではないか」

 「よし帰れ」

 突然背後から聞こえたそんな声に、つい真顔のまま瞬時に断言してしまった。

 いやだからなんでコイツはアタシの許可無く勝手に部屋に侵入してんのよふざけんな馬鹿。

 「ククッ、街へ出掛けるとしよう」

 「は?なんでよ。一人で行きなさいよ」
 「服を買ってやると言っているんだ。さぁ行くぞ」
 「ハァア?なんでアタシがアンタに施し受けなきゃならないの」

 アタシそんなに貧しくないんですけど?
 服くらい今度自分の金で買いに行くし。
 何?馬鹿にしてんの?シバかれたいの?実はMなの?

 悪態を吐くアタシを前にしても、全く気にせず奴は楽しげに、喉の奥でクツクツと笑いながらおもむろにアタシの腕を掴んだかと思えば、そのままぐっと腕を引きアタシを無理矢理に立たせた。

 「女、貴様は何も言わずついて来るだけで良い」

 一瞬身体が浮いたせいで、突然の事に本能的にか若干ビビってしまったけど仕方ないと思う。
 奴からすればアタシの体重なんて羽根みたいなモンなんだろう。

 「や、ちょ、なんでよ?ふざけんな、離しなさいよ」
 「離す訳がなかろう」

 奴はアタシの意思など全く気にした様子もなく、アタシの腕を掴んでない方の手の掌をひらりと翳し、空間にガラスが割れた時のような亀裂を作ると、
 そのまま、抵抗して腕を振り払おうとするアタシを引きずって中に入って行った。

 いやちょっとなんなのよマジふざけんな!
 大体なんでアタシがこんな奴と!
 いやイケメンだけど!他に類を見ない程のイケメンだけど!
 連れて歩いたら目茶苦茶自慢出来るくらいの美形だけど!
 しかも外見ドストライクだけど!

 だとしてもこんな傍若無人なアタシの言う事全く聞かない上に話の通じない男より、もっと従順で話の通じるマトモな男が良い!

 そんな事を一気に考えた次の瞬間、気付いた時には街中の、巷で高いと評判のブランド店の入口が目の前にあった。

 えっ。

 ちょ、待って、......アタシ靴履いてないんですけど?

 余りの事につい呆然としていたら、そのまま引きずられて中に入る事になって、更には

 「コレに似合う服を一式揃えよ」

 と女性店員の前に突き出された。

 人前で靴が無いと取り乱す訳にもいかず、内心目茶苦茶イライラしながらもとにかく堂々と店員を見る。
 彼女の方もアタシの姿に一瞬驚いた様子を見せたけど、そこはプロなのか、すぐに営業スマイルでアタシを見てから奴に笑いかけた。

 「了解致しました。少々お待ち下さいませ、お嬢さんはこちらへどうぞ」

 彼女はアタシ達にそう言ったかと思えば、アタシを店の奥へと促す。
 なんかそのまま流されそうになったものだから、態度には出さずに内心だけで慌てたアタシはとりあえず声を掛けた。

 「ねぇ、オネーサン」
 「はい、どうされました?」

 「アタシ、今、持ち合わせが少ないんだけど」

 堂々とそう告げると、彼女は一瞬キョトンとしたような表情を浮かべ、それから営業用とはとても思えないような良い笑顔で、口を開いた。

 「あら、ここは奢らせて、華を持たせてあげるのが得策だと思いますよ」

 ..................成る程、一理ある。
 いい女は男に奢らせてナンボって事か。
 さすが高級ブランド品店の店員、言う事が違うわね。
 別にアタシの財布が痛む訳じゃないし、ここはオネーサンの意見に乗っかろうかな。
 どうせなら目茶苦茶高いヤツにしてやろう。

 「............仕方ないわね、じゃあアタシに合う一番高いの持って来て。困らせてやりたいの」

 後悔するが良いわ!ふはははは!

 外面では優雅に、内心では爆笑しながら告げると、彼女はいたずらっぽく笑いながらアタシを見た。

 「ふふ、了解致しました、少々お待ちを」





 それから暫くして、なんか色々と着飾ったアタシが完成した。

 白いノースリーブのシャツ、首元はフリルに覆われてるせいでタートルネックみたいに見えるけど、これは単にボリュームのせいで隠れてるだけだ。
 そのフリルにはパールがところどころにあしらわれていて、真珠独特の鈍い輝きで光りを反射している。

 ついでにフリルについたパールと同じような真珠を使ったネックレスまで付いてきた。

 下はコルセットのように背中で編み上げるタイプの、黒いアシンメトリーなタイトスカート。

 足元は黒いエナメルでピンヒールのミュール。

 大人っぽく、かつカジュアル、街中を歩いても大丈夫なくらいの品の良い華美さだ。
 服を着た時、ついでとばかりにオネーサンにアイロン片手に髪を纏められ、現在アタシの髪型はゆるふわカールを右側の襟足辺りで纏めた、なんかもう、どこのお嬢様?みたいな感じになっている。

 まぁさすがアタシよね。
 目茶苦茶似合ってますよ。うふふ。

 ていうか興味本位に値札見たらミュールだけで三十万とか普通に書いてあったんだけど金額ヤバくない?
 シンプルな物程高かったりするから物凄い値段になってる気はするけど、トータルでいくらだとかは面倒臭いから考えない事にする。

 とりあえずそんな大金絶対持って無いわよねアイツ。精々恥かけ。

 「どうよ」

 自信満々に奴の前に立ち、腰に手を宛てながら言ってやると、奴もどこか満足そうに頷いた。

 「ふむ、良いな」

 「合わせまして此方の料金となります」

 とても自然なタイミングでオネーサンが伝票を奴に差し出す。
 さあクソ高いぞ払えんのかお前、とか考えながらニヤリとした次の瞬間、

 「そうか、ではコレで支払おう。釣りは要らん」

 そう言って奴が取り出したのは、分厚い札束だった。


 ..............................は?


 「いやちょっと待てふざけんな、普通に払ってんじゃないわよアタシが悪い女みたいじゃん何してくれてんだ!」
 「そうか、嬉しいか」

 ニコリと爽やかに胡散臭くてわざとらしい笑顔をアタシに向けながら、奴はアタシの肩を抱く。

 「一言も言ってねーわ!ちょっとオネーサン!もうちょっとリーズナブルなヤツに変えて!」

 少女マンガとか小説とかでたまにある、お金持ちな男に奢って貰う的なそういうイベントって、大体主人公は必死で遠慮しながらも、どこかでときめいていたりする事が多い。
 けど、実際に同じ事されると目茶苦茶ドン引きするとか知らなかったっていうか知りたくなかった。

 いやアタシがわざと高いのを選んだからこうなったんだろうけど、まさかマジで払えるくらい金持ってるなんて思わないじゃん!
 だって異世界の魔王よコイツ!
 この世界の金なんてどっから持って来たのよ!チート!?チートだからなの!!?

 そんな事を思いながら言ったアタシの言葉は、ニヤリと笑う美形の一言で却下となった。

 「コレの言う事は気にするな」
 「太っ腹な彼氏さんですね。お買い上げありがとうございました、またおいで下さいませ」
 「彼氏じゃねぇし!待ってオネーサン気にして!」

 店員は売るのが仕事。
 分かってはいるけど必死でオネーサンに言ったアタシの言葉は、なんの意味も持たなかった。

 「またのご来店お待ちしておりますね、ありがとうございましたー!」
 「ちょ、待って!」
 「さぁ行くぞ」

 ピンヒールのミュールじゃ抵抗らしい抵抗も出来ず、アタシは奴に連れられて、にこやかに手を振って見送るオネーサンを尻目に、店を後にする事になったのだった。


 
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