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物凄く、厄介。
しおりを挟む突然響いた轟音に、強制的に目が醒めた。
何事かと起き上がろうとしたが、何故かベリアルに抱き枕にされている為動けなかった。
しかも全裸。
いや布団あるけど、でも、なにこれ。
とりあえず視線を、月明かりか星灯りかで薄明るい室内へ向ける。
と、壁にヒトが通れるくらいの穴がぽっかり空いているのに気付いた。
............なにこれ。
ミズキとルイの部屋と、この部屋を隔てる壁に、中程から床につくくらいまで穴が空いて、粉塵が舞っている。
ちょ、待ってなにこれマジなにこれ。
一体何が起きたのコレ。
「......ぐ......ぅう......」
突如聞こえた呻き声の方へ視線をやれば、穴と反対の壁際にルイが仰向けで転がっていた。
「............!、......!?」
喋ろうとして、喉が痛くて声が出ない事に気付く。
いやいやいや何この状況。訳分からな過ぎてヤバい。
しかしそこで、パニックに陥った頭が、ふと感じた血の匂いで冷静になった。
ルイからだ。
良く見れば、ルイが居る辺りの部屋の床に所々血溜まりが出来ていて、思わずゾッとした。
切り裂かれたような傷がルイの身体のあちこちにあって、特に脇腹の傷が酷い。
あの感じだと、気を付けなければ腹圧で中身が出るんじゃないだろうか。
殴られたのか、脇腹の傷のせいなのか、口からも血を流している。
私には死んでないのが不思議なくらいの重傷に見えたが、当のルイは脇腹の傷を右手で押さえながら、無理矢理に起き上がろうとしていた。
今動いたら出血量増えるし中身出ると思うんだが大丈夫だろうか、と考えてハラハラした次の瞬間、
いつの間にか現れた長身の真っ白い髪の青年がルイを足蹴にした。
一瞬何が起きたのか理解出来なくて硬直し、次に血の気が下がる。
小さな呻き声に鈍い打撃音と共に床に沈むルイを気にした様子も無く、青年が言った。
「ごめんね、力加減間違えて吹っ飛ばしちゃった」
いやいやいや誰だこのヒト......!
ちょっと待てなんでルイ君こんなスプラッタになってんのいやぁああ痛い痛い見てるだけで痛い!!
パニックに陥る私を抱きしめながら、様子を伺っていたらしいベリアルが小さな声で呟いた。
「......そうか、......彼の神か............」
淡々とした呟きに、視線をベリアルへと向ける。
どういう事。知り合い?
訳が分からんので切実に説明が欲しいですマジで。
「......ミズキ様は光の根源だが、彼の神は闇の根源。闇の全てを司っているために主上よりも上の存在だ」
そんなヒトがどうしてルイをフルボッコにしてるんだ?
「どうやら、記憶を思い出しミズキ様と両思いとなった事が気に食わなかったか............」
えぇえええ、心狭っ!
しかしそうか、ルイは記憶を取り戻したのか。
......ていうかそのミズキはどこ行ったん?
「............ミズキ様と彼の神は表裏一体だからな......、今は彼の神の中で眠っておられるんだろう」
とんでもない中二設定来たよ............。
アイツはオレで、オレはアイツ的な?
え、何、あのヒト、ミズキが大好き過ぎてルイをボコボコにしてんの?
「そうだ。あの様子では......楽しんでらっしゃるな......」
物凄く厄介な中二設定じゃないかどうすんのあのヒト......!
じっと様子を見つめるベリアルに釣られて、私も視線を向ければ、青年はクスクスと笑いながらルイを痛め付けていた。
それ以上は止めたげて中身出ちゃう!
そこでふと、ある事に気付く。
.........このヒトどっかで見たぞ。
夜だからか、外から差し込む灯りくらいしかなく部屋が暗くてあんまり見えない筈なのに、彼の姿は良く見えた。
あの双子くらいの高い身長に、ルイとは違う、上に尖った長い耳とショートカットくらいの真っ白い髪、右側のモミアゲだけ顎位まで長く、それを紐で軽く結んである。
光沢の無い紅い目でルイを見下ろしながら口元だけで笑う、二十代くらいの美形。
思い出した。
ミズキに出会った時に、一瞬で見せられた膨大な記憶の中に居た、ミズキと仲が良かった友達らしき人物だ。
友達まで神様になるって物凄い中二......。
ふと青年は、床に転がされたルイの傍にしゃがみ込んだ。
指先でルイの体をなぞっただけだったのに、何故か刃物で斬られたような傷が出来ていく。
その度にルイが小さく呻いた。
「抵抗出来ないのが悔しい?でも、弱すぎるもん、君」
「かふっ、ぐ、けほっ......クソが......!」
眉間へ皺を寄せ、苦しそうに血ヘドを吐きながら、ルイは吐き捨てるみたいに呟く。
表情までは見えないけど、声音だけで相当ルイが悔しがっているのが分かった。
あの、無感情なルイがここまでって、きっとかなり悔しいんだろう。
不意に青年が楽しそうに目を細めて笑った。
「あ、そうだ。ねぇ、このまま君を喰っちゃおうか」
..................えっ?
なんか今凄い台詞聞こえて来たけど、何、幻聴?
私の願望が幻聴を引き起こしたの?
喰うって、アレですよね?性的に美味しく頂くあちらの方ですよね?
「凄く嫌なんだろ?受けに回るの」
青年はクスクスと笑いながら、ルイの無事な方の脇腹を指先だけで、つぅっと撫で、そう告げた。
............どうしよう......現実だった......!
「っざけ、んな、誰が......!」
痛くて仕方ないんだろうに、ルイは必死に青年から距離を取ろうと片腕だけでじりじりと後退った。
ルイの長い耳が痛みのせいでか、へしょりと下がっている。
思わずじっと青年を見詰めた。
........................うん、アリかな。
ルイよりも10cmは身長が高いし、年齢差的な物なのかルイの方が細身だ。
コレどう考えてもルイ受けだね............。
「凄く楽しそうだよね、君、イイ表情するし」
「っ俺は、楽しく、ねぇ......!」
「俺は楽しいよ?ほら観客も居る」
「は?」
青年のその言葉に、ルイはようやく私達に気付いたらしい。
無表情ながらに驚いたように此方を見た後、盛大に戸惑いながら片手のみでさっきよりも必死に後退った。
「ちょ、ざけんな、そんな趣味、ねぇ......っ!」
「逃げるなよ、意味無いって分かってるよね?」
楽しそうにクスクスと笑いながら、青年はルイの足を掴んで私達にもちゃんと様子が分かる位置までズルズルと引き寄せる。
「逃げたいに、決まってる、だろ......!」
余程嫌なのか、ルイは引きずられながらも吐き捨てるように言い放つ。
そんな殺伐とした雰囲気の中ふと、青年がどこか困ったように眉を下げた。
「............ねぇ、君、外見全く違うのに、どうしてそんなにミズキに似てるの?」
呟くように問い掛けた青年のそんな言葉に、少し驚く。
私は意識した事は無いが、似ているんだろうか。
彼は神様だから、きっと私には分からない部分を見ているんだろうと思う。
だが確かに言われてみれば、似ている部分は多いかもしれない。
ルイが無表情だからイマイチ分かりづらいけど、二人とも肉好きだし、楽しい事好きだし、意外と人をからかう事も好きだし、闘うの好きだし、負けず嫌いだし.........あ、本当だ似てるわ。
「はぁ......?似てねぇ、だろ、俺はあんな、可愛く、ねぇぞ」
自覚が無いらしいルイは、物凄く怪訝そうだった。
荒い息で、途切れ途切れながらにそんな言葉を口にする。
青年はクスクスと笑いながら、ルイの頬に手を寄せた。
「似てるよ、無駄な足掻きする所とか」
「無駄とか、言うな、クソが......!」
「そうやって口が悪くなる所もそっくり」
「意味、分かんねぇよ......!」
楽しそうな青年に噛み付くように反論するルイ。
なんかもう完全に蚊帳の外な訳ですが、マジで始まってしまうんでしょうか。
もしそうなら是非見たい。
生のBL。
生の濡れ場。
見たい。
超見たい。
「観客もお待ちかねみたいだよ?」
青年がルイのシャツを指先でなぞると、肌は傷付けずシャツだけが斬れ、はらりとめくれた。
なんだろう、とてもエロいです。目の保養バンザイ。
と思った瞬間ベリアルに目を塞がれた。
掴んで退かそうと抵抗したけど1㎜も動かない。
ちょま、なんで隠すの!良いじゃん見るくらい!
目の前で生BLが展開されてるのに何故『ここからは音声のみでお楽しみ下さい』しなきゃいけないんだ!
「ふざけんな、止めろ!、剥くな......っ!、......かはっ!」
「ほら、暴れると傷が酷くなっちゃうよ?」
「てめぇの、せい、だろ、チキショウ......!触んな......!」
楽しそうな青年の声と、何処か必死に抵抗しているらしいルイの声、ぱさりぱさりと聞こえる続けざまに布が落ちるような音。
くそう!何が!今何が起きてるんだ!気になる!見たい!
ちょ、マジふざけんな見せろ!ベリアルのばか!
「教育に悪いから駄目だ」
ベリアルのそんな言葉に、心の中で盛大に反論する。
もう既に腐ってるから大丈夫だよそういうの意味無いから!
「......我以外の男を見るな」
突然拗ねたみたいに言われてちょっと固まってしまった。
一瞬カワイイとか思わなかった。思わなかったから。思ってないから!
とりあえずだな。
これはただの趣味なのでベリアルは気にしなくて良いんだ。
単に楽しんでるだけだから。
心配するような事は何も無いから。
心の中でそう呼び掛けると、渋々といった様子で視界を塞ぐ手が降ろされた。
すると、服の切れ端達が辛うじて色々と隠しているだけの、ほぼ全裸な傷だらけのルイと、そしてそんなルイに覆いかぶさる青年の図が目に飛び込んで来て、
見た瞬間ちょっと鼻血吹くかと思った。
なにこれエロい。中途半端に見えない分余計にエロい。
ヤバい無駄にテンション上がってきた......!
ふと、白い青年がルイの頬を優しく撫でた。
「本当に、ミズキに似てるなぁ......、カケラでも無いのに不思議」
「何の話だよ......!、痛ぇから、触んな......!」
とにかく青年の下から抜け出そうと必死に足掻くルイに、青年は語りかけるように言葉を紡ぐ。
「............ミズキの中からずっと見てたんだけどね。
珍しく、興味を持ったんだ」
一体何の話なのか分からず、ルイも不思議そうな様子で足掻くのを止め、青年を見つめた。
「今までミズキ以外、本当にどうでもよかったんだけどね」
薄く目を細め、口元だけを笑みの形にしながら、呟くようにそんな言葉を口にしていく青年は、じっとルイを見つめて、二人は見つめ合う形となる。
「ねぇ、君、......ルイ、死にたくないなら、俺のモノになる?」
青年はルイに語りかけるように、問い掛けた。
死か、所有されるか。
そんな青年の言葉に、ルイは怪訝そうな声音で、首を傾けながら言葉を返す。
「............はぁ?、俺、ミズキのモノ、なんだけど......」
「そう、じゃあ死ぬ?」
青年はにこりと笑って、ルイの首に手を添えた。
すると、ルイは軽く首を傾げ、無表情のまま口を開く。
「え......あれ、なんで?アンタ、ミズキじゃ、ねぇの?」
ルイの声音だけ不思議そうなそんな言葉に、青年が初めて表情を変えた。
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