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訳が分からない。
しおりを挟むふと空腹感に目が覚めた。
考えて、考えて、すっきりする為に思いっ切り泣いたら、いつの間にか疲れて寝ていたらしい。
夕方だった筈なのに完全に朝を過ぎて昼になっている。
......授業サボっちゃったよ。
私の居た世界と同じような形式の時計を見つめながらぼんやり思った。
しかし、思いっ切り泣いたお陰か比較的すっきりしている。
顔を洗う為に鏡を見たら、案の定酷い顔だったけど、外見がキャラクターの為不思議な可愛さがアップしていた。
中二キャラって恐ろしい。
泣いた後ってどうしても目が腫れて酷い時はドラ○もんの、○び太が眼鏡取った時みたいになるのに何コレ。
なんでこんな風になってんの。
いや、まぁそんな事はどうでもいい。
とりあえず園長か担任の先生に謝罪しに行かなくちゃ。
そういや担任って誰だ。
ていうか担任なんか居たんだろうか。
編入学した時も挨拶とか行った覚えすらない。
.........まぁ良いや、園長に謝って、それから食堂行こう。
「災難だったね、ベリアル君の元カレに略奪されたんだって?」
謝罪に行った先でそんな事言われるなんて思ってなかったです先生。
園長室に入ったら、園長に掛けられた第一声がそれってどういう事。
「ショックだったろう?大丈夫かい?」
いや、うん、まぁ確かにショックだったけどそういうショックじゃない、違う。
気遣うように優しく掛けられる言葉に混乱して二の句が次げなかった。
「三日くらい寝込んでも仕方ないよ。大丈夫、成績には響かないから」
え、一晩じゃなくて?
なんか部屋に居る夢を見てた気はするけどアレ現実だったの?
「......三日?」
疑問に思って尋ねれば、園長は私に近寄って優しく頭を撫でてきた。
「あれから三日間部屋に篭りっぱなしだったよ。
可哀相に、ショックで記憶が曖昧になってるんだね」
いや、そんな弱くないと思いたいけど、三日経過してる以上反論しづらいどうしよう。
「なんならあと三日くらいなら休んでて大丈夫だよ」
「いや、あの、園長」
さすがにそれは申し訳無いです。
「お腹空いたろう、食堂行っておいで。
その間に大浴場も使えるようにしておくから」
「......ありがとう、ございます...?」
何これ至れり尽くせりだな。
有り難いけど良いんだろうか。
そう考えながら園長を見れば、優しく笑いながら園長は私から離れ、椅子に座る。
「良いの良いの。園長先生は生徒の味方ですから。
しかしベリアル君も酷い奴だねぇ、過去くらいちゃんと清算してから次の恋するべきだよまったく」
溜め息混じりに真面目な顔で苦言を呈する園長。
いや、うん、えっと。
どうしようあながち間違ってないからどうツッコむべきか分からない。
「......私とベリアルは、どういう関係でも無いです」
とりあえずそれだけは事実なので言っておく事にする。
しかし
「大丈夫大丈夫!ウチの学園不純異性交遊は禁止だけど同性も駄目って規則は無いから隠さなくて良い。
割と多いんだよそういう生徒」
園長は明るく呑気にそう言い放った。
先生違います。
そういう意味じゃないです。
「若い内は世界が狭く感じて大変だと思うけど、それも今だけだからね。
存分に楽しむべきだと僕は思うよ」
「......はい」
意外と良い事言うなぁこの先生......。
確かに昔学校に通ってた頃は世界が学校だけで回っていたから、狭く感じていた気がする。
そういう事をキチンと生徒に言う事が出来てる先生は良い先生だ。
生徒は今しか見えないから、言われても理解しないんだろうけど。
私の中でそんな風に園長先生の株が上がっていた時、彼は良い笑顔で言い放った。
「だから僕としては、もっとベリアル君にデレてみるべきだと思うんだ、そうしたら簡単に戻って来ると思うよ!」
台無しだよ。
「園長先生、ベリアルは今違う世界に居ます」
「君に迫ってた時点で彼は既にアッチの世界のヒトだったと思うけど」
「............」
「冗談だからそんな汚物見るみたいな目で見ないでよ......」
しょんぼりされてしまった。
自業自得だろまったく...何て言うかもう、濃いなぁこの先生......。
はぁ、と溜め息を漏らした時、園長は急に微笑ましいものを見るような目を私に向けた。
「大丈夫だよ。彼はすぐ帰って来る」
そんな無責任な言葉に、若干の苛立ちを感じてしまった。
「何故分かるんですか」
「長年の勘かな。とにかく大丈夫さ」
どっから来るのその自信と根拠。
申し訳無いけどあんまり信じられないんだ私。
信じたいけど、期待してしまったら、駄目だった時に無駄に落ち込んでしまうから、どうしても無理だった。
とりあえず私はそこでなんとか話を切り上げ、簡単に園長に謝罪してから食堂へ向かった。
食堂へ行く道すがら、あちこちで私の噂を聞いた。
“略奪された”から始まり、“いや二股掛けられていたんだ”となり
最終的に私は“寝取られてフラれたから引きこもった”みたいな話になっていた。
伝言ゲームで結果がえらい事になるアレですね分かりたくない。
ベリアルが完全に悪者扱いになってたけど仕方ないんじゃないかな、ざまあみろ。
食堂に入った途端に視線が私に集まったのが分かった。
隠蔽のカードを仕込んでおけば良かったかと思ったが、もう後の祭りである。
まぁいいや、どう言われようと今はご飯が食べたい。
めちゃくちゃお腹が空いているんだ私は。
券売機でいくつか定食を買って、全部注文する。
受け取ったお盆を適当に目に付いた空いた席に並べて座り、食べた。
ヤケ食い、と言われても仕方ない気がするが、妙にお腹が空いているんだから仕方ない
体がチートだからなのか、いくらでも食べられる気がした。
「......何してんのアイレ」
「む、ミズキか」
声を掛けられて箸を止めながら顔を上げると、呆れたみたいな表情で私の食べる定食を見ていた。
「一、二、三、......五人前?いくらなんでも食べ過ぎじゃね?」
「仕方ないだろう、何故か腹が減っているんだ」
そう言った後、私は箸を動かして焼き魚を一切れ口に放り込んだ。
塩分が身体に染み渡る気がする。美味い。
良く分からないが三日寝ていた弊害か、空腹感がハンパなかった。
「......プニるぞ?腹とか」
「後でその分動く」
プニるとか言うな。私だって嫌だそんなの。
ちゃんと運動する予定ですよチクショウ。
ふとミズキが、痛ましげに口を開いた。
「.........大丈夫か?」
「何がだ」
むしゃむしゃと定食のご飯を食べている合間に尋ねれば、ミズキは困ったように頭を掻きながら口を開く。
「ほら、ベリアルの」
「名を出すな」
食べている手を止め、つい口を挟んでしまった。
驚いたように目を見開くミズキ。
「アイレ?」
確かめるように名を呼ばれたが、私は勢いに任せて続けた。
「出すな」
頼むから、今は思い出させないでくれ。
ミズキは悪くないのに当たってしまいそうだ。
ミズキのせいで居なくなった、いや、始めから連れて来なければ、なんて、醜い事を考えてしまう。
「......分かったよ。
じゃあ、俺ちっと用があるから、これでな」
「あぁ」
すまなさそうに去っていくミズキを見送りながら、私はまた定食に箸を付けた。
思い出したくない。
また、苦しくなってしまいそうだ。
だってこれは、一人が寂しいだけなんだ。
まるで子供だ。
寂しいから傍に居てほしいとか、そんなのはただのエゴでしかない。
なんだかもう、色々分からなくてイライラする。
好きってなんだろう。
独占欲があれば好き?じゃあ私のこれは?
違うだろう。
寂しいだけで、好きじゃない。
そんな取り留めの無い思考が頭の中をくるくると回った。
分からなくて、まだ食べているのに何故かまたお腹が空いた。
......過食症のパターンに入ってる気がする。
これはいかん、今は受け取ってしまっている分だけ食べたら大浴場を使わせて貰おう。考えを切り換えるべきだ。
お風呂に入れば気分が変わるかもしれないし。
そういえば大浴場には行った事無かった。
男(全裸)しか居ない浴場に入るのに抵抗があって今まで入れなかったから、今なら貸し切りで入れるというのは嬉しいかもしれない。
園長先生ありがとうございます。
結局普通に五人前を平らげてしまい、自分で自分にマジビビりしながら、席を立って部屋へお風呂セットを取りに向かう。
途中で気持ち悪い叫び声と爆発音が聞こえたがきっと気のせいだろう。
綺麗な放物線を描きながら吹っ飛んで行くオカマが見えた気もしたが多分見間違いだと思う。
今日も索敵カードは良い仕事してくれてるらしい。
もっと色々改良して思い付く限りチート機能搭載させておこうかな。
新しくカードを作成しながらのんびりと考えた。
「はぁ...」
白い湯気の立ち込める中、広い浴槽に一人で入りながら息を吐く。
男子寮の大浴場は、大と付くだけあって広い。
なんかもうスーパー銭湯並に広いのは何故なんだろう。園長の趣味かな。
ライオン像あるし口からお湯出てるし。
しかし昼間に入るお風呂ってどうしてこう、無駄に気持ち良いんだろう。
疲れて夜に入るお風呂も気持ち良いけど、こうやってのんびり入るのも良いよね。
また外で爆発音が聞こえた気がしたが、やっぱり気のせいだろう。
とりあえずまた新しいカードを作成しておく事にした。
扱いが酷い?
当たり前ですが何か。
奴は人として最低な事を金の為だけにしようとしたからな。
写真撮るなら集合写真とかそういうのしか許さん。
「あれー、アイレだー、何してんのー?」
「そっくりそのまま返して良いか」
全裸ですったすった浴場に入って来た薄ピンク髪のゆるふわ青年、サクヤにツッコミを入れながら、とりあえず視線を逸らす。
前隠せよ!男同士でも多少遠慮あるよね普通は!見たくないモノがブラブラしてるよ!
しかし本人は全く気にしていないのか、腹筋の割れた引き締まった身体を惜し気もなく晒しながら、呑気に掛け湯をしてから浴槽へ入って来た。
「僕はねー、今日寝坊しちゃってさー、目を覚ます為になんか無いかなーってウロウロしてたら、丁度良く大浴場が使えるみたいだったから入りに来たー」
「授業は?」
「ハンサムが変わりに受けたいって言うから置いてきたー」
ハンサム可哀相......!
「アイレは何してんのー?サボり?」
「......療養中だ」
「えっ!どっか怪我したの!?」
「大丈夫だ、すぐに治る」
慌てたように尋ねる青年へ、きっぱりと答える。
多少心が癒しを欲しがってるだけだからね。
ちょっと寝たら治るさ。
「僕が作った治療薬、安く売ってあげようか?その辺の薬草っぽい雑草から出来てるけど、何故かめっちゃ傷の治り早くなるよ!」
いやそれ雑草じゃなくて薬草なんだと思うよ。
「あ、身代わり水晶とかも作ってるから売ろうか?さすがに瀕死を身代わりにするようなのは高いけど、かすり傷程度の身代わりなら千五百くらいだからさ」
「......有り難いが、今は止めておこう。
また今度改めて見せてくれ」
「うん、分かった!、あ、そういえばベリアルはどうしたの?まだ帰って来てないよね?」
一瞬、心臓が止まるかと思った。
さっき避けたばかりでもう質問されるとは。
いや、うん、サクヤだから仕方ないかもしれない。
その話題はまだキツイんだが、これも試練か。
諦めた私は、溜め息混じりに告げる。
「そうだな。もう帰らないんじゃないか」
そう言った途端、彼は笑いながら首を傾げた。
「えー、それは無いかなー」
「何故だ」
「だってベリアル、アイレの事大好きじゃん」
返って来た彼の答えに、言葉が詰まった。
私の事が好きだから、頑張って帰って来るだろうか
そうなら良いのに、なんて一瞬だけ考えてしまって、自己嫌悪で吐き気がする。
私を好きだって事も、掛けられた言葉も、何もかも信じられなかったのに
信じたくないのに信じたいなんて、訳が分からなかった。
「......そう簡単に帰って来れるような距離じゃない」
「関係無いと思うよー?」
笑って答える彼を見つめながら尋ねる。
「何故、関係無いと」
「だってベリアルだし。
基本的にベリアルってアイレ以外どうでもいいじゃん?」
他人から見てもそう見えるって、よっぽど態度に出してたんだな、アイツ。
......名前呼び忘れて腰ぞわってしたチクショウ......
「どうかした?」
「気にするな......私にそれ程の価値など無いんだがな」
呟くように答えながら、色々払拭する為に、両手に湯をすくってぱしゃりと顔に掛けた。
「ベリアルだから関係無いよー」
「......分からん......」
湯舟をぼんやり眺めながら呟く。
サクヤはそこで、のぼせて来たから出る、と言って、来た時同様堂々と全裸で去っていった。
少しは隠そうよ......。
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