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めんどくさい。
しおりを挟む私は未だにどうすれば良いか分からなくて唸り続けるミズキに向け、口を開いた。
「ならばもう思い出して貰う為に近寄るしかないな」
「っ無理無理無理!」
ガバッと顔を上げ驚いたように目を見開きながら、ブンブンと手を振って拒否するミズキ。
「何故だ?」
「だって、あっちは俺の事何とも思ってねーんだぜ!?むやみやたらに近寄ったらドン引きされるかもしれねーじゃん!」
尋ねれば返るそんな言葉に納得した。
だが少しツッコんで良いだろうか。
「ルイは、やってたな」
「う...!」
「そして貴様にドン引きされていた」
「うぐ......!」
冷静にツッコめば、胸を押さえて唸りながら凹み始めるミズキ。
なんかちょっと面白い。
「ルイって本当にメンタル強かったんだな......。尊敬するわ......俺むり......」
むきゅ、なんて音がしそうな程小さく丸くなりながら、ぽつぽつとそんな事を呟いている。
いやそこは頑張れよ。
「......むり......」
むりじゃねーだろ。
そう考えた次の瞬間、
「よっしゃここかミズキ!見付けたぞ今日こそ観念しやがれ!」
そんな声と共に、上からドーン!とルイが降って来た。
多分屋上から壁を伝って来たんだろうが、何やってんだお前。
突然の事に固まる私に反して、ミズキは慌てて逃げようと立ち上がった。
ので、とりあえずミズキの服を掴む。
「逃げてどうする」
「だって!ルイが!」
「だってじゃない。貴様は私か」
怖いからと逃げ回っても意味が無いだろう。
私のようになるぞ。
「う......」
ピタリと動きを止め、痛い所を突かれたかのような表情を浮かべながらミズキが呻く。
「あれ、もう逃げねーの?」
「いい加減に観念するそうだ」
動かないミズキに不思議そうな様子を見せるルイへ、そう答える。
するとルイは、どこか残念そうに、でも満足げな様子で口を開いた。
「そうか。で、なんで俺から逃げ回ってたんだよ」
「う......あ...、あんな風に追われたら誰だって逃げる!」
「だとしても逃げ過ぎだろお前」
ごもっともです。
「だって、お前の記憶封じたの俺だし......」
「ふーん?で?」
「あ、あんな暴言の後普通に話すとか無理だろ!」
「ほうほう、言い訳は終わりか?」
「な...っ」
ミズキが、必死の反論を言い訳扱いされて言葉を無くした。
「じゃあ次俺の番な、なんか知らんがすげー腹立ったから言っとく」
ルイはそう言って腕を組みながら、ミズキを睨みつける。
視線に恐怖でも感じてしまったのか、ミズキの肩がビクリと震えた。
そして
「俺は尻軽じゃねぇ」
ルイはキッパリと真顔で、そう言い放った。
「そこかよ!?」
的確なツッコミ有難うミズキ。
「なんだよ、結構重要だろ。大体俺受けじゃねーもん。
どっちかっつったら攻めだから、俺は尻軽じゃなくてヤリチ」
「みなまで言わせんぞ」
言わせてたまるかそんな言葉。
その時、ようやく意を決したのか、ミズキが動いた。
「っルイ、あ、やっぱなんでもない」
「なに、途中で止めんなよ気になるから」
言いたい事があるのに言わないミズキに溜め息が出る。
仕方ない、一肌脱いでやるか。
私はルイに向け口を開く。
「ミズキは貴様と友人になりたいらしい」
「なっ!」
言った途端にバッと私の方を向き、目を見開いて固まるミズキ。
何驚いてんだ。
友人にさえならずに記憶なんぞ思い出せる訳無いだろ馬鹿か。
ミズキは反論したいのか口をぱくぱくとさせるも、次にはきゅっと唇を引き結んで何かを決意したように頷いた。
はいはい頑張れ頑張れ。
そんなミズキの様子に、無表情で軽く首を傾けながらルイがミズキを見つめる。
「.........あんな逃げ回っといて、友人?」
「わ、悪いか!」
「なるほど、ツンデレか」
耳だけ赤くしながら拗ねたように答えるミズキに、納得したように呟くルイ。
ツンデレって言葉もあるんだねこの世界。
まぁフラグって言葉もあったもんなぁ。
オタク文化というかネットスラング残り過ぎだろこの世界。
「お、俺はツンデレじゃねぇ!」
いや、間違いなくツンデレだと思うよ。
「まぁ良いや、じゃあとりあえず食堂行こうぜ。走り回って腹減った」
「えっ、俺と?」
当たり前であるかのように告げるルイに、ミズキはキョトンとしながら確かめるように尋ねる。
するとルイもキョトンとミズキを見つめながら口を開いた。
「トモダチになりてーんだろ?俺と」
「......な、ちげーし!」
オイ否定してんじゃねーよ。
私の頑張りを無駄にする気か。
「ちげーんだ?」
「ちげーよ!、で、でも俺も腹減ったから仕方なく一緒に食堂行ってやるよ!仕方なくだからな!仕方なく!」
コテ、と首を傾けながら確かめるように尋ねるルイに、くわっと捲し立てるミズキ。
するとルイはまた納得したように呟いた。
「ツンデレか」
「あぁ、ツンデレだ」
完全に同意しよう。
「ツンデレじゃねぇ!」
そして、喚くミズキを無視して、食堂へ向かう事にしたのだった。
食堂へ向かう道中、ふとルイが不思議そうに呟いた。
「つかなんで俺コイツの事忘れてんの?」
ちらっとミズキを見れば言いたくなさそうに口を噤んでいたので、仕方なく私が言ってやる事にする。
「それは貴様が思い出さんと駄目らしい」
「忘れてんのに?」
眉間へ皺をよせて不思議そうな表情を作ろうとしているルイを眺めつつ、とりあえず答えた。
「思い出せば貴様の勝ちらしい」
「へぇ、よくわからんが思い出してやろうじゃん。負けるのは腹立つし」
「まぁ、頑張れ」
適当に応援の言葉を掛けてやると、今まで黙り込んでいたミズキがおもむろに口を挟んだ。
「いや、頑張らなくていい、あんま無理にやると人格崩壊すっから」
真剣なミズキの様子に、ついルイと顔を見合わせる。
そして、ルイはミズキを見て薄く笑った。
「何、心配してんの?」
「なっ、してねーし!ちげーし!」
噛み付かんばかりに反論するミズキの耳はどう見ても赤い。
はいはいツンデレお疲れ様です。
「という訳で賭けはカズハの一人勝ちだ」
「いえーい。皆アタシに五千ね」
食堂に行ったら都合良く、賭けをしたメンバーが揃って飯を食ってたので、もの凄く簡単にそう事情を説明した。
カズハちゃんがとても嬉しそうで何よりです。
サクヤが残念そうに眉を下げながら、食事の手を止めた。
「ちぇー、よくわかんないけど負けちゃったー。
魔具五千くらいまけるからそれじゃだめ?」
「良いわよ」
「わーい」
そういえば彼は錬金術師だったか。
楽しやがったなコイツ。
「ふむ、では我はこれをやろう」
ベリアルがカズハに向けて手を差し出した。
「何コレ」
「試作に造った指輪だ。
使用すると防御が出来なくなるが、代わりに攻撃力が三倍となる」
「アサシン装備かよ。
いや、まぁ貰うけどさ...、ゴテゴテしてるわねコレ」
「試作品だからな」
チラッと見たら、なんか骸骨とかめっちゃ装飾されている指輪だった。
......呪われてそうだよそのデザイン。
試作とか言ってたが、本当に私に何か贈るつもりなんだろうか。
「じゃあ俺からはコレ。
今造った常時状態異常回復と常時治癒と魔力制御力アップとか、色々機能付いた絶対壊れないカフス」
「有り難く貰うけど国が傾きそうな値段になりそうなチート機能は聞かなかった事にするわ」
ミズキは、うん、ツッコまない。
カズハちゃんによく似合いそうな、緑の石が装飾された雫形っぽい金のカフスはとてもセンスがある。
勝った事が嬉しいのか、楽しそうな表情を浮かべながら彼女はルイへと向き直った。
「ルイ!アンタも負けたんだからアタシになんか金かアイテムか寄越しなさい」
「えー。内容知らん賭けになんでそんなんしなきゃなんねーの。やだ。金無い」
無表情かつ、やる気無さそうに焼肉定食をつつきながら、ルイが淡々と反論する。
しかしカズハは容赦無く言い放った。
「選んだ時点で賭けが成立してんのよ。
参加しないならアイレみたいに選ばなきゃ良かったでしょ。自業自得なんだからなんか寄越せ」
「...チッ、仕方ねーな......、だが俺に金は無い。あ、チューじゃ駄目か」
「いらんわ金寄越せ」
真顔でバッサリと切り捨てるカズハ。
うん、そりゃそーだ。
とりあえずその言動は完全にセクハラになるのでルイ君は後でシバこうと思います。
と思ったらすたすたとミズキがルイに近寄って、おもむろにルイの脛を蹴った。
「いてぇ!、急に何すんだお前」
「別にー?」
片足を上げ、蹴られた脛を抱え込むようにさすりながら抗議するルイに、ミズキはどこか拗ねたような不機嫌さで視線を逸らす。
「何。なんなの」
「べーつにー?なんでもねーしー」
無表情ながらに戸惑っているのか軽く耳を下げながらミズキを見つめているルイに対し、ミズキはつーんとそっぽを向いたままだ。
なるほど、嫉妬ですね。
「......あぁ、よしルイ、アンタ、ミズキとチューしたら許すわ」
カズハも私と同じ結論に至ったのか、納得したように頷いた後、ビシッと言い放った。
「はっ!?」
「え、なんでコイツと?」
「ホラ良いから」
完全に不意打ちだったのか、全力で驚いて振り返るミズキに、片足を抱えたままキョトンとミズキへ視線を送るルイを無視して、カズハは気怠げに肩に掛かる自分の髪を払った。
しかしミズキはそういう訳にはいかないとばかりに慌てて口を開く。
「いやいやカズハちゃん、いくらなんでもそれは駄目だろ、ルイだって嫌だよな?」
「......んー、特に何も思わんから平気じゃね?」
「えっ?」
予想外のルイの返答に固まるミズキ。
「はいじゃあどうぞー」
「頑張れ」
さて、ご飯食べよう。
と考えながら適当に応援しておく。
どうせ一晩中離して貰えなかったという事実があるんだから平気だろ。
「えっ?、ちょ、あの時何も無かったからな!?」
「そうなのか?」
耳だけを赤くしながら慌てるミズキに確かめるように尋ねる。
ならせっかくだからやってもらえば良いと思うよ。
ホラ、予期せず得したじゃん。良かったねミズキ。
「いやいやいや無理無理無理無理!やめろ!こっち来んな!」
「俺金ねーんだよ、初チュー捧げてやるから有り難く受け取れって、逃げたら意味ねーだろ、こら」
「初チューならもっと大事にしろバカタレ!!」
無表情で気にした様子も無くすたすたと近寄ってくるルイを必死に避けながらミズキが捲し立てる。
「逃げんなって、あ、やべ、なんか楽しくなってきた。ホーラ俺が来るぞー」
「ぎゃああああ!こっち来んなぁあああ!!」
お前ら食堂で暴れるなよ。
私は内心そうツッコミながら、白米を箸で口に放り込みバタバタと規模の小さい追いかけっこの様子を眺めた。
「まったく、なんでアタシがキューピッドみたいな事しなきゃいけないのよ......、あーやだやだ、リア充爆発しろ」
私の横の席に腰を下ろしながら、面倒臭そうにカズハがそう吐き捨てる。
「だが良い仕事だったぞ」
「アリガト。これで少しはマシになると良いけど」
「......そうだな」
何だかんだで、彼女も二人の今後が気になっているんだろう。
とっととくっつけば良いのにね。
そう考えた瞬間、カズハが私へ向け口を開いた。
「で、アンタはどうすんの」
......おぅ、...わ...私か...。
うん、えっと......
「......もう少し掛かりそうだ」
「......そ。まぁ好きにすれば良いわ。
アンタの人生だしね。」
納得したような表情を浮かべながら、カズハはそう言って笑う。
なんとかしたいのは山々なんだけどね......。
そんな風に考えながら、私は食事を再開したのだった。
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