18 / 48
考える。
しおりを挟むあれから結局、まだ服を着させて貰えていません。
ていうか血を飲むの途中だったから、現在進行形で噛み付かれてます。
一体いつになったら離して貰えるんでしょうか。
とか考えてる間に大分血が減ってる気がするんだけどちょっとコレ大丈夫か?
なんかくらくらして来たぞオイこれヤバくない?
そこまで考えた時、奴はようやく私の首筋から口を離した。
「......美味かった」
満足そうにそう言った悪魔は、私の首筋の傷痕があるだろう箇所をいつものように舐める。
これで傷が消えるってマジで何してるんだろうね。
ていうか、どんだけ飲むねん。
明日ちゃんと朝起きれるかが不明過ぎて怖い。
レバー食べなきゃなぁ。
とか考えていたら、奴は消した服をどこからか取り出し、元通りに何から何まで私に丁寧に着せ始めた。
良かった、今日は何もないっぽい。
いやーマジ良かった。
残念に思った人はとりあえず爆発して下さい。
喰われるこっちの身になれよ頼むからちくしょう。
なんで服着せられてんだ介護かとも思ったものの、血が足りなくてくらくらした状態で一人で服が着られるのかと言われれば若干怪しかったので、そのまま甘んじて着せてもらう事にした。
わーい服だ!
寒いとかは無いけどやっぱり恥ずかしいもんは恥ずかしいので服が着れるのは普通に嬉しいです。
その後奴は、私に服を全て着せ終わったのを確認すると、何故かそのまま私を腕の中に閉じ込めるように抱きしめて横になり、目を閉じた。
いや、離せよ。
「嫌だ。逃げるだろう」
いやいや、ちょっと距離取るくらい良いじゃん。
「このベッドは狭い。距離など取れんだろう」
「......壁際に寄れば良い」
「......そんなに離れてほしいのか」
告げた瞬間、頭の上から寂しげな声が聞こえてちょっと焦った。
.........寂しげ?
え、あの、ちょっと待て、もしかして、寂しいとか、そういう感情あるの?
「寂しい、とはこんな感じなのか」
「......どういう感じだ?」
「胸が微かに締め付けられるように痛い」
あぁうん、なんか予期せず奴の感情を増やしてしまった気がする。
え、何、私のせいなの?
「......さぁ、な。寝るぞ」
いや離せよ。
「嫌だ」
「......せめて緩めろ」
「.........分かった」
暫くの沈黙の後、奴は渋々といった様子で腕の拘束を緩めてくれました。
最後に一つツッコませてくれ。
マジどんだけだよコイツ
緩くなった拘束の中、寝易い体勢を探して少しモゾモゾしながらそんな事をぼんやりと考える。
それから、どうせ離さないんなら体勢くらい整えさせろよな全く、とか考えて、だんだんとほだされていってる自分に辟易しながら、目を閉じた。
起きるとやっぱり抱き枕状態だったけど、そっと抜け出して食堂へ向かった。
そっと抜け出すのに一悶着あったけどそこは毎度の事なので割愛する。
どこのバカップルだ的なやり取りだったけど、完全に不本意ですから私。
券売機でベーコンエッグとバターロールとコーンスープの朝食セットを注文し、受け取り口でセットの乗ったお盆と水の入ったグラスを受け取って、適当に空いていた席に座った所で、違和感に気付いた。
なんか、視線がいつもより多い気がする。
一体何事か、と考えたところで昨日の出来事を思い出した。
結論:どうやらミズキの呪いのせいで人目を集めてるらしい。
あれですね、モテ期ってヤツですねわーい全く嬉しくない。
「ちょっとアイレ、アンタどうしたの?」
不意に聞こえた声に視線をやれば、カズハが朝食セットを乗せたお盆を片手に、驚いたように目を瞬かせながら私を見ていた。
「どう、とは」
とりあえず尋ねてみれば、彼女は丁度空いていた私の横の席に腰掛けて、お盆を机に置きながら口を開く。
「なんか、めっちゃキランキランしてる」
「......なんだと?」
キランキランて何。
私一体どんな風に見えてるんだ。
いや元から結構キラキラしたキャラクターだった気がするけどキランキランて。
そう考えた瞬間、カズハは真剣な眼差しで口を開いた。
「とうとうヤられちゃった?」
......それはもう結構前に喪失しました。
内心で、白目剥きつつ真っ白に燃え尽きたみたいなイメージしながらベーコンエッグを口に入れ、軽く咀嚼して飲み込んでから、簡単に事情を説明する事にした。
「......ミズキから祝福とは名ばかりの呪いを授けられた」
「.........なるほど。
でもアンタそれヤバいわよ」
「何がだ」
バターロールを手に取り、千切っている手を止めてカズハへと視線を送ると、彼女は平然とコーンスープに口を付けながら私を見る。
「男でも良いかもしれない、って奴が大量発生してる」
「爆破して良いか」
「別に良いけど、減らないし奴らきっとナニカに目覚めると思うわよ」
なにそれ嫌だ。
「美少女に冷たい目で見られるの、ハマる奴多いのよね......」
えっ
「......カズハ...もしや......」
「あぁ、うん、そう。
アタシは、ほら、かなりの美少女じゃん?、気付いたら変なのが釣れてんの」
変なの釣れる程美人だから仕方ないね。
とりあえずその変なのは見付け次第爆破して良いかな。
相応しくなさ過ぎる。
カズハちゃんにはただのイケメンじゃなくてもっと色々持ってるようなヒトと一緒になって欲しい。
うちの娘の相手は私が認められるような男じゃないと許しません。
「まぁ最近はアンタとミズキのおかげで減ったけど。
マジ感謝だわー、鬱陶しくて仕方なかったのよねー」
「......そうか」
うん、私の偽物な色香に惑わされるような男は尚更相応しくないね。
予期せず害虫駆除出来ていたようで何よりだ。
ミズキも彼女の役に立ててさぞ満足だろう(棒読み)
満足げにホクホクしている様子のカズハを、私も若干ほっこりしながら眺めつつ、千切ったバターロールを口に入れる。
と、急に彼女の様子が真剣なものへと変わった。
「......なんかあったでしょアンタ」
じっと見つめながら尋ねられて、少し戸惑う。
なんかって、まぁ色々ありましたがどれの事ですか。
とりあえず、真意を探る為にと逆に尋ねる事にした。
「......どうしてそう思う」
「そうね、目が、違う。
雰囲気も少し、柔らかくなった」
「そう、なのか」
「そーよ。ピリピリしてギスギスして、誰にも心を開けない、みたいな感じだったもの」
えっ、なにそれ
私周りからそんな風に見えてたの。
キャラだからじゃなくて?
......いや、まぁ確かに余裕は全く無かった。
今もあるか定かじゃない。
多分そのせいで余計に、彼女にそんな一匹狼のような印象を持たせてしまったのだろう。
彼女は更に言葉を続けた。
「ずっと、雨が降りそうで、でも降らないみたいな、どす黒い曇天だったのに、今は薄曇りになってる」
そう言って、そのエメラルドグリーンの瞳で私を見詰める。
その視線は、私だけれど、違う何かを見ているように見えた。
それがなんなのか理解出来ず、少し怖くなって、尋ねる。
「......何がだ」
すると彼女は一瞬キョトンとした表情を浮かべて、んー、と考える様子を見せた。
「......何って、そうね。
コレって多分心の色かな。昔から見えんのよね」
軽い、あっけらかんとした様子で、ともすれば頭の心配をされるような内容を、呑気に笑いながら告げる彼女。
それから、盛大に溜め息を吐きながら彼女は続けた。
「ついでに言うとアタシ、実はよく予知夢見たりもすんのよ。マジ不必要な能力よねコレ、中途半端な中二設定みたい」
げんなりした様子のカズハをじっと見つめながら、思う。
それは間違いなく中二設定だと思われます。はい。
誰だ設定したの。
いやミステリアス度上がって私はとても良いと思うよ、とても良いけど、彼女の言う通り意味ないよソレ
「で、なんかあったの?」
突然話を戻されて若干面食らう。
えっと、えっと
今一番ビックリしたのはやっぱりアレか。
実は誰かに相談したかったし、丁度良いや。
意を決して、口を開いた。
「......あの男に、私が欲しいと、言われた」
告げた途端、彼女は暫く無言になり、軽く息を吸ってから改めて口を開く。
「良かったじゃない、完全にリア充じゃん」
なんでもない事のように言われてしまって、少し戸惑った私は慌てて反論した。
「良くない」
「なんで?」
「私は、あいつの事を考えた事も無かった」
彼女の問いに、つい彼女の目を見て話す事が出来なくて、食べかけのベーコンエッグに視線を落としながら、そう告げる。
だって私はアイツを、一度だってちゃんと認識した覚えが無い。
甘い言葉で私を堕落させようとする悪魔だと、そうとしか思っていなかった。
「そんなもんじゃない?」
「......は?」
あっけらかんとした返答に、ついそんな声がこぼれ落ちる。
思わず彼女へ視線を戻せば、不思議そうに此方を見詰めるエメラルドグリーンの瞳と目が合った。
「だって、他人でしょ」
当たり前だとばかりに告げられたそんな言葉に、少し戸惑う。
「......それは、そうだが」
「他人の事ちゃんと考えるなんて、余裕無いと出来ないわよ。
アンタ余裕なんて全く無かったじゃない」
肯定の言葉を口にすれば、気にした様子もなく、軽くそう言われてしまって、つい俯いてしまう。
だがそんな私を放置して、彼女はそのまま軽い調子で続けた。
「だから仕方ないんじゃないの?」
「......だが......」
これは果たして、仕方ないで済ませてしまって良い事なんだろうか。
私が勝手に思い込んで、そこで止めてしまったから、つまりは私が駄目だったんだと思うのだ。
しかし彼女は、思い切り眉間へ皺を寄せて溜め息を吐いたかと思えば、頬杖を付きながら呆れたように言葉を口にした。
「アンタ真面目ねー、どうでもいいでしょ過去なんて。
どうせ変えられないし戻せないんだからウダウダ考えた所で時間の無駄よ」
「だが......そうは割り切れん」
「それはアンタが割り切りたくないだけじゃないの?」
呟くように言った言葉に、はっきりと断言するようなそんな言葉が返って来て、反論する事が出来なかった。
畳み掛けるように、彼女は続ける。
「過去に戻りたくて仕方ない、諦めたくないのは分かるけど、どうにもなんない事は分かってるんでしょ」
そうだ、分かっている。
それでも、どうしても考えてしまうのだ。
あの時こうしていればとか、こうすれば良かったとか。
「結論なんて始めから用意されてるじゃない。過去は過去で今じゃないって」
そう、そうなんだけど
それも分かっているんだけど
私は
「問題は、今をどう生きていくかよ。
アンタはどうしたいの?どんな生き方したい?」
無様な、中身の無い反論を飲み込んで、彼女の言葉に耳を傾ける。
生き方......
私は、どう生きたいんだろう。
「......考えた事、無い」
「そう、じゃあ過去を考えるよりそっち考えた方がよっぽど建設的ね。」
全てが正論で、真っ直ぐで
胸が痛くなった。
私は過去に囚われ過ぎているのだと、認識した。
こんな年下の子に諭されて、なんて無様なんだろう。
社会人が聞いて呆れる。
前を向かなければならないのに、全くそうしようとしなかった自分に、嫌悪感と苛立ちしか起きなかった。
前を向くには、現実を受け止めなくてはならない。
私はそれが怖くて出来なくて
出来ていなくて
だから、前を向けていなかった。
前を、向けなかった。
未来を、考える事が出来なかった。
なんて無様だろう
なんて愚かだろう
自分の身勝手さに吐き気がした。
前を向かなければ
ちゃんと考えて決めよう
どう、生きたいのか。
「それで、どうすんの?」
ベーコンエッグを全て口に放り込みコーンスープで流し込んでいると、カズハに改めて尋ねられて、慌てて飲み込む。
「どう、と言われても」
「ベリアルの事、嫌いじゃないんでしょ」
あ、そっちも考えなきゃなぁ。
「きちんと考えて、向き合うつもりだ」
「そう、ミズキよりマシね」
「あの馬鹿と同じにはなりたくないからな」
アイツみたいに、自分に向けられる気持ちを蔑ろにする気は無い
私は子供じゃないんだから。
「ちゃんと決めるつもりがあるんならアタシはこれ以上口出ししないわ。
でも相談くらいならいつでも乗るわよ?」
「......あぁ、すまない、感謝する」
私はどう生きたいのか
どう生きていきたいのか
奴とどうありたいのか
どう思っているのか
考える事が多くて知恵熱が出そうだ。
それでも結論は出さなければならない
逃げるのも放置するのも、事態を悪化させて私の心を苛むだけだった
もう沢山だ
ならば、考えよう
きちんと向き合おう
答えを、見付けよう
その為に奴から、ベリアルから時間を貰ったのだから。
「ふむ」
全ての授業中も考え、ひたすら考えて居たのだがまだ結論は出なかった。
私が考えている間は、あの悪魔も私を放置してくれているらしい。
視線を感じる事はあっても近くに来る事は無かった。
たが答えは出さなければならない。
しかし考え過ぎてだんだん煮詰まってきた。
気分転換に外へ出る事にする。
隠蔽のカードをコートに張り付け、校舎の外へ出た。
あの悪魔には効かなかったがその他のミズキ以外の生徒には有効なのだ。
妙に人目を集めてしまう今、使わない手は無かった。
視線を空にやると夕日のオレンジと夜の青が混ざって、とても綺麗だった。
「やっだぁ~、こんな時間にどこ行くのアイレちゃんったら~」
しみじみしてたら間延びしたカマ口調に声を掛けられた。
雰囲気ぶち壊しだよちくしょう。
とりあえず振り返ればそこに居たのは案の定あのオカマ。
つーか何故貴様が此処にいる。
ちょっとまて隠蔽のカードも索敵のカードも仕事してないぞ何コレ。
隠蔽のカードの場合、装備する所を始めから見られていた場合には発揮されない事があるのだが、このカマ野郎まさかずっと私をストーカーしてたとでもいうのだろうか。
その線が強過ぎてめっちゃやだ。
次いで索敵のカードの様子を魔力で探ると、まだ起動中である事に気付いた。
どうやら魔具か何かでオカマが自分の存在を隠蔽して索敵カードを無効化したらしい。
小賢しい真似しやがってこのオカマ......
「ダメよぉ、勝手に外に出ちゃ~!
気を付けないと、変なヒトに捕まっちゃうんだからん!」
いやすでにお前が変なヒトだろどう考えても。
「なんか......遠目からでも思ってたけど、今日のアイレちゃんって」
え、何いきなり。
キモいんですけど何だよ
やめろこっちくんな
「本当においしそうよね......」
そう言って舌なめずりするオカマの余りの気持ち悪さに、思わず即座にカードで爆破してしまった私は悪くないと思う。
気持ち悪い声を発しながら空高く吹っ飛んで行くオカマを放置して、とりあえず静かな場所を探す事にした。
索敵カードをもっと強化しておく事も忘れなかった。
暫く学園の中を歩き回っていると、初めて野宿しようとしたあの大きな木を発見した
確か丁度良く寛げるくらいの枝があった事を思い出して、早速その木に駆け上がる。
チートってこういう時便利だよね。
軽い駆け足ジャンプで地上5mまでひとっ跳びだもの。
前に座った太い枝に腰掛けると、夕日が沈んで行く所が見えた。
ゆっくり沈んで行く太陽は、昔学校帰りに見たものと変わりなく見えて、少し切ない
暫くすると群青に溶けるオレンジだけ残して、太陽が見えなくなった。
だんだんと星も増えて、オレンジさえ無くなって、夜が来た。
澄んだ夜空がとても綺麗だ。
ぼんやりとその景色を眺めながら、まずはアイツの事を考える事にした。
アイツは私を欲しいという。
それは、私がアイツを欲しても良いと言われた、と同じ事だ。
自分のモノにしても良いと。
アイツは悪魔で、魔族で、ミズキの連れて来た奴で
私は、ミズキに全て奪われた、過去人間だったモノで
アイツの事は、嫌いじゃない。
でも、好きかと言われると違うと言い切れる。
アイツが欲しくないかと言われれば、
......あぁ、そうだな、欲しい。
唯一となってくれると言った。
私を見てくれると
だがそれは、自分だけの唯一が欲しいだけで、寂しいが故の甘えだ。
奴を欲しがるのは、寂しい心を埋めたいからであって、好きだからじゃない。
だから、ダメだと思ってしまった。
なら、どうすれば良いだろう。
いや、うん
どうせアイツは私を逃がす気は無いんだろうから、このままだとなし崩し的に奴の手に落ちそうだけどさ。
だが私は、自分さえ自分のモノではないように思えてしまっている。
だから自分のモノが欲しい。
自分だけの、唯一が
アイツは構わないと言った。
だけど駄目だ
恐怖に勝てない。
私はまだ、現実を受け止める事が出来ていない。
それからじゃないと、好きかどうかすら分からないんだ。
過去は過去で、変えられないし戻せない。
セーブポイントもリセットボタンも存在しない。
これは現実で、今私は此処で生きている。
「......生きる事は難しいな」
ぽつりと誰にともなく呟きながら溜め息を吐いた。
元の世界の事に関してはこの際置いておこう。
きちんと確かめなければいけないが、それは今じゃない。
今は、まだ受け止める事が出来ないだろうから。
.........なんか結局煮詰まって来た。
こういう時は以前どうしていただろうか。
考え過ぎて頭が破裂しそうになった時は確か、友人と出掛けたり、カラオケ行ったり、いっそフテ寝してた気がする。
しかし寝たらまた悪魔が迎えに来そうだし、友人と出掛けるにも今そんな素敵な友人居ないし。
今出来るのは、歌う事か。
ヒトの気配も無いし、久し振りにちょっと歌うか?
この身体のこの声で、どのくらいの音程で歌が歌えるかちょっと興味が出て来た。
何にしようかな。
昔低くて出せなかった音のあるあの曲にしようか。
あ、でも好きだったあの曲でも良いなぁどうしよう。
......どうせ誰も居ないし、好きに歌うか。
静かな空気の中を、変わってしまった私の声が響く。
昔想像した通りの、男の子の声だ。
声変わりの途中の、女の子みたいに高くもなく、男の人みたいに低くもない、ちょうど中間くらいの声。
その声が、私の意思で、思う通りに、うろ覚えだけど、私の好きな懐かしい曲を歌う。
女の子が男の子を想う恋の曲や、英語だけの曲
元気の出る曲や、なんかもう本当にしょうもない曲
何語かも分からない言葉で、綺麗な音だけ集めて作られた曲
別れ、愛、恋、友達、それから家族を歌う曲
途中涙が勝手に溢れて、声が震えた。
母を歌う
父を歌う
そういった曲は全て、感謝が込められていた。
暫く歌って、途中で止める。
いつか、両親に会えたら
もし忘れられてしまっていても
それでも伝えたい事がある事に気付いてしまった。
育ててくれてありがとう、とか
一緒に笑ってくれてありがとう、とか
あいしてくれて、ありがとう、と。
あぁ、
生き方を見付けた。
私は
彼等に誇れるヒトになりたい。
そうなれたらきっと、私は弱くなくなる。
強く、なれる筈だ。
こぼれ落ちる涙を掌で拭って、前を向く。
ひとつだけでも決める事が出来て良かった。
目標や目的が出来るだけで気分が変わったのが分かる。
これならきっと、頑張れる。
いつの間にか昇っていた月を見詰めながら息を吐いた。
「もう歌わないのー?」
「......っ誰だ」
突然頭上から降って来た声に目茶苦茶ビビって、慌ててそんな言葉を返す。
「あぁゴメーン、驚かせちゃったかー。僕だよ、サクヤ。同じクラスー」
そんな間延びした気の抜けそうな呑気な声に、声が降ってきた頭上を向く。
見上げた先の枝に寝転んでいたのは、確かに見覚えのある青年だった。
薄いピンク色のフワフワした髪質。
垂れ目がちの髪と同じ色をした大きい目。
ゆるふわ系イケメンが、そこに居た。
............oh。
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる