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もう無理だ。

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 あれから私は、ドロドロになった身体を温泉のお湯で勝手に洗い流された後、何故かあの悪魔、ベリアルに背後から抱きかかえられるようにして湯に浸かっていた。

 えっと、なにこの状況...。


 ぼんやり視線を空へ向ければ透き通った夜空に綺麗な月や星が見える。
 お湯の温度も丁度良いし、泉質も肌に良さそうだ。

 月見風呂かぁ、風流だね!

 背後に悪魔が居なければ。

 なんで私コイツと仲良く温泉入ってんだ。
 いや抵抗する体力無かっただけなんだけどさ。

 仕方ないよね
 なんかもう思い切り遠慮無くムシャムシャされたもん性的に。

 意味が分からない

 いや、なんでだ
 何がどうしてそうなった
 なんで食われた私

 つーか触手からの強姦で青姦って何
 触手&視姦&撮影プレイってふざけんなあのクソカマ野郎。

 ハジメテがそれって。
 後ろのバージンが触手って。

 てゆーか喪失すると思って無かったよ
 もっと普通に色々あって、童貞の方卒業すると思ってたよ私。

 ハジメテは好きなヒトとベッドの上、とかそんな乙女の夢みたいな事は考えてなかったけど、だとしてもあれは酷い。
 しかもそれから助かったかと思ったら強姦されるとか意味が分からないよね。
 どこのBL官能小説だよっていうね。

 何故私がそんな状況になってんだ。

 萌えない

 なんにも萌えない

 それどころかなんかもう、ひたすら嫌悪感しかなかった。

 ああいう受けって終わったらこんな気分になるんだね、死にたい

 いや、うん、後半の悪魔の行動に関しては、私の身体に残った媚薬的な成分を外に出す為だったのは分かるよ。
 良く分からんけどミズキに頼まれてる奴がなんかツラそうだったからとりあえず助けたんだろうねきっと。
 深い意味とか全く無いんだろうね。

 ......だけどさ、なんであんな喰われまくったの私

 気に入ったら喰うってどういうこと
 ていうかあんなグチャグチャな状態の私を気に入るってどういうこと


 ど こ に そ ん な 要 素 あ っ た よ

 ......さすが悪魔。
 私が嫌がっているのを察知してわざわざあんな事をするとは。

 ミズキに私の事頼まれてるから、色々と世話を焼くついでにあわよくば楽しもうとかそんな最低な事を考えたんだろうきっと。

 そりゃあね、色々イイだろうよこの身体。
 なんせ中二病真っ盛りの腐女子が考えたんだもん仕方ないよね。

 なんでそんな設定にしたんだとあの時の自分をブン殴りたい

 中の人としては自己嫌悪で死にたくなるよ、あんな

 あんな......

 ぶわっとフラッシュバックして来たさっきまでの色々に、羞恥やら嫌悪感やら困惑やら感じてつい、湯に思い切り顔を突っ込んだ。

 辺りに水しぶき飛び散ったと思うけどそれどころじゃないから知らん。

 温かい湯にブクブクと空気を吐き出しながらギュッと目を閉じた。

 考えない
 考えちゃダメだ

 私の身体じゃないんだ

 だから違う。

 あれは違う。
 ノーカンだノーカン。

 とりあえず総合して全て犬に噛まれたと思おう。
 あんなハジメテ認めない。

 脳内でそう決意すると、とりあえず湯から顔を上げた。

 「ぷはっ」

 はー、と息を吐きながら両手で顔の水気を拭う
 するとようやく少し落ち着く事が出来た。

 「現実逃避するのもいいが、これは貴様の身体だ」

 は?

 不意打ちのように背後から掛けられた言葉に、意味が分からなくて振り向きも出来ずに瞬きを繰り返した。

 「......何だ、突然」
 「辛いなら記憶を封じてやろうか?」

 ......うん?

 「何を言っている......?」

 あれ、なんかおかしいぞ
 なんでそんな、私の考えを見透かすみたいな

 え、あれ

 「......まさか、貴様」

 私の心を読んでいるのか?

 「我を誰だと思っている。」


 え。


 衝撃の事実に思わずゆっくりと後ろを振り返り、呆然とその端正な顔を見詰めた。

 「.........すまんな」

 なんでそこで真顔で謝る。
 意外と良い奴なのかと思うだろちくしょう悪魔だろお前馬鹿。

 いや、確かにそんな全部見透かしたみたいな発言、事の最中もあったけど

 ちょっと、待て。
 という事は今まで考えてた事全部筒抜け?
 あんな事やこんな事妄想したり、ミズキの事馬鹿にしたり、コイツの事悪く考えたりしてたのも

 全部?

 「何を思おうが自由だからな、別に構わん」

 いやいやいや私は構うよ
 ちょ、うわぁああどうしよう私今まで本人の目の前で失礼な事言ってたって事?

 よく今まで無事だったな私。
 あ、そうか。
 それで今回腹いせに喰われたのか。

 「違う。
 喰いたいから喰った。それだけだ」

 表情を変えないままに、私の考えた事はきっぱりと否定されてしまった。

 いや意味分からんからそれ。
 なんで喰おうと思ったんだこんな腐ったの。

 「......腐っているとは男同士の情事を想像して楽しむ事か?」
 「やめろ」

 隠したいモノなんだよ普通はソレ

 「別にいいと思うが」

 良くないんで蒸し返さないで下さい。
 ......とりあえずコイツの前で妄想は控えよう。
 どう考えたって恥ずかしいもんあんな妄想してるのが筒抜けとか。
 頑張って自重しよう。

 そんな事を考えていると、不意に私の濡れた前髪が、奴の細い指でそっと掃われて、ポタリと雫が落ちていった。

 「......貴様の精神は脆く儚く、故に美しい。
 だから、気に入った」

 ジッと見つめられ、困惑する。

 「......なんだそれは」

 なに、私そんな乙女みたいな精神してんのヤダキモい
 いや中身女ですけど、でも何それ、全く意味分からん
 私結構図太いと思ってたんだけどな

 「......少しの揺さ振りで壊れそうになる程儚いぞ?試してやろうか」

 奴はそう言って、私の頭をくしゃりと撫でる。
 なんだか良く分からんが、私がどれだけ弱いのかを自覚させたいんだろう。
 個人的には余り知りたくないが、奴は止める気など無いらしい。
 気にした様子も無く口を開いた。

 「まずはひとつ、ミズキ様がおっしゃっていた。
 貴様の元の身体を使ってその身体を造り上げた、と」

 「......だからなんだ」

 奴の言いたい事が分からず、とりあえず、じっと見つめる。

 「つまりその肉体は他の誰でも無い、全て貴様自身のモノだ。
 幾ら目を反らそうともその事実は変わらん」

 「......勝手に変わった身体など、自分と思える訳がない」

 「だがもうソレは貴様だ」

 いや、そんな事言われても性別すら変わったら難しくないか?
 まだ完全には慣れてないし色々。

 「あぁそれと」

 ふと、今思い出したとばかりに悪魔は

 「貴様が元いた世界では貴様という存在が消されているそうだ」

 そう言った。


 「どういう、ことだ」


 うまく言葉を発する事が出来ず、掠れたような声が出た。

 「貴様の、その身体を造り上げた際、世界から存在を消した。
 ミズキ様はそうおっしゃっていた」

 淡々と、まるで何でもない事であるかのように告げられる残酷な言葉に

 頭の中が真っ白になった。

 消した?
 ......何を?

 私を?

 止まっていた思考が、告げられた言葉をようやく理解した瞬間、私の心は焦りと怒り、そして絶望に染まっていく。

 嘘だ

 そんな、事

 「嘘を吐くな!」

 ばしゃりと湯を撥ねさせながら体ごと奴と向き合い、そのまま奴の肩を掴んで睨みつける。

 認めない。
 そんな事あってたまるか。

 なら私は。
 此処にいる私は一体なんなんだ
 あの世界に生きていた記憶だってちゃんとある。
 父も母も、ちゃんといる。
 でなければ、私は此処にいる筈が無いのだ。

 「嘘ではない」

 「嘘だっ!」

 私の存在が消されているなど、認めない

 認められない
 認めたくない

 嫌だ
 だって、なら私は

 頭の中を掠めていく考えたくない事を、無理矢理払拭するように叫んだ

 「違う...!違う違う違う!私は、この身体は!私じゃない!違う!」

 帰れる筈なんだ。
 きっといつか。
 いつになるか分からないけど、絶対。

 だから私は。

 「私は、独りじゃない!」

 視界が歪み、頬を水滴が伝っていった。
 しかしそんな私を気にする事なく、悪魔は私の聞きたくない言葉を口にしていく

 「住んでいた部屋もその中にあった荷物も全て、無くなっている」

 嘘だ

 「その身体は貴様で、貴様は天涯孤独だ」

 嘘だ!

 「貴様の父も母も、貴様を知らない」
 「嘘だ嘘だ嘘だ!、違うっ、帰るんだ、私は!」

 恥も外聞もなく、ただただ認めたくなくてそう叫ぶと、目の前の悪魔はじっと私を見つめ

 「ならば、一度帰ってみるか?、元の世界に」

 淡々と、そう尋ねて来た。

 帰れる?
 今、あの世界に

 そう考えた時、私の心を占めたのは歓喜ではなく

 「......っ」

 ただの恐怖だった。

 「......っあ...」

 喉から、引き攣ったような声が出る。

 ただひたすらに、怖い。

 血の繋がっている筈のあの両親から、他人として扱われたら
 全く面識の無い相手として接されたら
 親しかった人全てに、初対面の他人として見られたら

 嫌だ、怖い

 こわい、そんなの、いやだ、こわい、こわい!!

 「あ、あぁ......!」

 もう訳が分からなくて、自分の気持ちさえ理解出来なくて、そんな嗚咽しか出て来なかった。

 私は、一人なの?

 心が、見えない何かに押し潰されていくような錯覚がして、奴の肩を掴む手から力が抜ける。
 とめどなく涙が溢れていった。


 「我が、傍にいてやろう」


 そんな言葉と共に、そっと、壊れ物を扱うかのように抱きしめられた。
 途端、カッと昇った苛立ちに、とにかくこの腕から抜け出そうと腕を突っ張って抵抗する。

 「ミズキに頼まれたからか...!
 そんな仮りそめの、上っ面だけのモノなど、気休めにもならん!」

 緩まない拘束に、更に苛立ちながら怒鳴り付けるように叫んだ。

 誰かに頼まれたから気にかけるなんて、そこに本人の意思など全く無いじゃないか
 そんなのはただの作業と同じで、そこに意味なんて無い

 言われたからやる、なんて
 それは人間相手にしてはいけない行為だ

 「......我はあの時、ミズキ様の願いを聞きはしたが、それを引き受けた訳ではない。
 貴様の事を頼まれたと言ったのは、そうでも言わねば納得せんと感じたからだ」

 そんな言葉につい一瞬固まってしまって、抵抗していた腕の力が緩む

 ......引き受けてない?
 じゃあ今までのは本当に、考えて、自分の意思で、やったって事?

 都合の良い嘘かもしれないのに、それを信じたくなってしまった自分に自己嫌悪を抱いた。

 思考がグチャグチャで、分からなくて

 視線があちこちをさ迷い、湯舟に反射して映る月を見つめた。

 だけど、もし嘘じゃなかったとしても、私は思うのだ

 「っ...だとしても!」

 アイツは神だ。
 面白いからって理由で姿を変えてまで私をこの世界に連れて来たような奴が、ヒトの気持ちを改変したり出来ない訳がない。

 何たって奴は誰よりも残酷なんだから。

 「それがアイツの掌の上じゃないと、断言出来るのか!?」

 「......出来ない、ミズキ様の考えは我ごときでは分からん。
 だが、今までの行動は我の独断だ」

 私の髪を梳くように、悪魔は優しく私の頭を撫でる。
 訳が分からなくて、何が苦しいのかも分からなくて、涙が止まらなかった。

 「信じられる訳がない...!勝手に連れて来られ、勝手に姿を変えられ、勝手に無かった事にされ、逃がしても貰えない!
 なんなんだ、私が何をしたと言うんだ!」

 何故、どうして私が
 もう何も、誰も信じられない
 これが飼い殺しでなくてなんなんだ。

 こんなもの、地獄でしかないじゃないか!

 「もう嫌だ...!いっそ殺してくれ...!
 食い殺せば良い!私を、解放してくれ......!」

 慟哭するように叫んで、悪魔に縋る私はさぞ滑稽な事だろう。
 だが私にはもう、それしか術を見出だす事が出来なかった。

 「食ってもいいのか......?」

 耳元で聞こえる声に、自嘲するように笑いながら、私は答える。

 「あぁ、食えよ...!好きに食い散らかせば良い!
 こんな地獄に居るくらいなら、貴様に食われた方がマシだ!」

 「.........あぁ、分かった、貴様の頼みだ。
 余す事なく食ってやる」

 淡々とそう言った奴は、私を抱えて温泉から上がり、先程の行為の後が微かに残るあの平らな岩場の上に私を横たえた。
 さっきまでお湯に浸かっていたからか、それともこの身体がチートだからなのか、岩の上に全裸で転がっても、痛くも寒くもないのが不思議だった。

 そんな私の上に覆いかぶさり、首筋にゆっくりと噛み付く。

 「ぐっ...!」

 ブツリと、首筋の皮が裂ける痛みに、勝手にビクリと身体が撥ねた。
 じゅる、と首に流れる血を吸われている音がして、無意識な恐怖にまた勝手に身体が撥ねる。

 あれだけ啖呵を切ったというのに、いざ本当に食われるとなると結局恐怖以外浮かばなくて、そんな自分に嫌気がさした。

 あぁクソ、確かに弱いな私は
 最期なんだから腹括れよ

 嫌だって逃げるばっかの人生なんだから、死ぬ時くらい潔くしたいじゃないか

 怖くて仕方ないけど、でもこれでやっと、楽になれる

 楽に、......楽に?

 あれ、私

 結局逃げてないか?


 「......あ......」


 こんな終わりで、後悔しないって言えるだろうか

 御先祖様に胸張って、生きたって言えるだろうか

 「.........あぁ...」

 それに気付いた瞬間、痛みで引っ込んだ筈の涙がまた溢れて来た。

 結局私はいつも、気付くのが遅いんだ。

 だってもう取り消しは出来ない。
 私はもう死ぬんだから。

 もしかしたら頑張っていれば違ったんじゃないか、なんて考える自分の傲慢さに、苛立ちしか感じなかった。

 「生きたいか?」

 不意に、私の首筋から口を離した悪魔が囁く。

 じっと、空に浮かぶ月を見つめながら、私は言った。

 「......生きるのは嫌だ、......だが、逃げるのはもう、沢山だ」


 逃げて逃げて、先伸ばしにして、何もかも後回しにして、そして今も逃げようとした。

 向き合わなくちゃいけないモノを全て見たくなくて
 見えないように蓋をして
 放置して
 考えない事にして

 そうやって逃げた先にあったのは一体何だった?

 あったのは、死にたくなるくらいの絶望だけだったじゃないか

 ただの自業自得だ

 思うように行かない人生なのはあの世界でも変わらなかっただろうに
 何もかも認めたくなくて逃げた私は、愚か以外に例えようがない

 どうなろうと、今、生きている事は変わらなかったのに、私はそれを放棄しようとした

 私は馬鹿だ

 だが、こんな私でも
 生きたいと思ってしまった。

 「私は......生きて、いいのか」

 「あぁ」

 なら

 こんな傲慢が許されて良いのなら

 「......生きたい......!」

 懇願するように、そう呟くと、耳元で悪魔がフッと笑ったような気配がした

 「分かった、ならば生きろ」

 不意にそう言った悪魔に、くしゃりと頭を撫でられる。

 ...本当に、良いの?

 「あぁ、生きろ」

 じっと私を見つめる悪魔を呆然と見た。
 ふと、不意に何かに気付いたように、奴はもう一度私の頭を撫でる

 「......少し待て、首の傷を治癒する」

 そう言って、奴はまた私の首筋に顔を埋めると、ベロリと首の傷を舐めた。
 傷口を舐められる痛みと羞恥にビクッと身体が撥ねたが、奴は全く気にした様子もない。

 本当に、私を生かしてくれる気のようだ。

 生きて良い、と

 言われた相手は、残虐非道な筈の悪魔なのに、心が軽くなってしまった。
 だが、心が軽くなると不思議と余裕も出来るもので、何故か、奴を自分の勝手に付き合わせてしまったという事に申し訳無く感じた。

 いくら相手が魔族で感情が無くたって、コレは人としてダメだろうなぁ。
 死にたいって言ったり生きたいって言ったり、なんかもう私ダメな奴過ぎて自己嫌悪がヤバい。

 でも、まだ生きていられるという事実は、嬉しく感じてしまった。


 不意に奴が起き上がり、さて、と呟いた。

 「貴様の服はドロドロで使い物にならん。
 我の物で良ければこれを着ろ」

 そう言って虚空から服を一式取り出し、私へ差し出す。
 何だそのチート能力便利だな。

 手に取ったそれは比較的普通のシャツとズボン等で、なんかちょっと安心してしまった。

 しかし、とりあえず着てみたものの、奴の服という事もあってサイズが合わない。
 この身体、身長が165cmくらいとかその辺の女の子程度しか無いから仕方ないんだが、コレ彼氏に服借りた彼女みたいな事になってない?誰得?
 とか焦っていたら、ご都合主義な事にどうやら着るヒトによってサイズが変わる生地らしい。
 一分も立たないうちに服が縮み、私にピッタリのサイズになった。

 ......さすがチート、なんでもアリだなとか考えながらも、服は有り難く借りる事にした。

 パンツもちゃんと借りたヤツ履きました。
 絶対洗って返そうと思います。






 「今日は野宿になるが構わんか?」

 私の服を消し、自分も服を着込んだ悪魔が問い掛けてきた。

 イケメンの生着替えご馳走さまでした。
 私もそんな腹筋欲しかった。

 いや、まぁそんな事は良いや。

 「昨日も野宿だった。気にするな」

 「そうか。腹が減っただろう。
 そこいらに座って食え」

 そう言って、悪魔は服を取り出したのと同じように、虚空からバスケットを取り出して私に差し出す。
 受け取って中を見れば、みっちり詰まった美味しそうなサンドイッチ。
 なんか至れり尽くせりなんだけど何コレ。


 「.........すまん。」

 ありがとう、という言葉は、キャラクターの口調に限定されているせいなのか、それとも申し訳無さが主立っているせいか、どうしても出て来なかった。

 「取り敢えず座ったらどうだ、行儀が悪いぞ」
 「......屋外での食事に行儀も何も無いだろう」

 そんなん気にしたら野宿出来んよ。
 この世界魔物居るし。

 そう考えながら立ったままサンドイッチを頬張る。
 ふかふかのパンとシャキシャキのレタスと塩気のあるハムとマヨネーズのコラボレーションが美味しい。

 運動の後はやっぱお腹すくよね!
 ......色々思い出したちくしょうめが。

 「......今魔物はいない。
 座って食っても良いだろう」

 「油断した所にオカマが来たらどうする。
 全力でぶちのめす為にいつでも動けるようにしておきたい」

 とりあえずアイツは見付けた瞬間爆破したいと思うの。
 それから今後は気配にもっと気を遣って絶対写真撮られないようにしてやろうと思う。
 カードに色々付与してオートで反応するようにしても良いな。

 よし、頑張ろう。

 「...5km圏内に奴の姿は無い、今は食え」

 「......そうか」

 居たらクレーター出来る規模で爆破してやったのに残念だ。

 「良いから座れ」

 適当な大きさの岩に座った悪魔が、ぽんぽんと自分の隣を叩く。

 サンドイッチをもきゅもきゅと口に頬張りながら、さっきの負い目からとりあえず素直に言う事を聞いておく事にして、若干ビビりながら隣に座った。

 うん......サンドイッチおいしいです。
 誤魔化してる訳じゃない。
 だってマジで美味しいし。
 次に取ったのはタマゴサンドだった訳ですが、マヨネーズと胡椒とゆで卵の配分が絶妙です。

 「...良かった、口に合ったようだな」

 不意に、ふっと優しく悪魔が笑った。

 ......普段冷徹そうなイケメンがふとした瞬間優しく笑うとか破壊力ハンパないぞオイ
 こんちくしょうイケメンめ。
 イケメン過ぎて腹立つわ。
 そういう笑顔はミズキにやって下さい私が萌えるから。

 私にやっても意味ないぞ!
 乙女心弄ぶなよこんちくしょう!
 勝手に勘違いを始めたらどうしてくれるんだまったく!

 「勘違いすればいい、大切にしてやるぞ?」

 微笑んだまま私の髪を撫でてくる悪魔を横目でジトッと睨みつけた。

 期待させようったってそうはいかん。
 悪魔ってのはヒトを堕落させるのが仕事だからな!
 騙されんぞ私は!

 クツクツと笑う悪魔を横目に、私はまたサンドイッチを口に放り込んだのだった。


 餌付け?されてないし別に。
 そんな訳無いし。
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