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開き直りました。

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 神にどん底にまで突き落とされた私は暫く絶望した後、考えを改める事にした。
 このまま落ち込んでいても状況は全く変わらない。
 ならば少しでも前を向く必要があると考えた。

 現実を受け入れる、というのはまだ難しいが、私には出来る事がある。

 そう。


 BL観賞です。


 再発が何だ。
 もうそんなものはどうでもいい。

 折角周りに美味しいカップリングが出来る二人が居るんだから楽しまないでどうする勿体ない。

 あの神には目茶苦茶腹が立つが、結局相手は神様で、私なんぞには何の反撃も出来ないのだ。
 ならば腹いせにあの二人で思い切り妄想してやる。

 私も楽しいし、心が読めるあの神にも、もしかしたらダメージが行くかもで一石二鳥だ。
 しかも思うだけタダ。
 神以外誰にも気付かれない。
 誰にも迷惑掛けないし害も無い。
 最高じゃないか。

 結局何も変わらないのなら、現状を思い切り楽しんでやろう。
 それ以外に道は残されていないのだ。

 歎き、悲しみ、怒り、憤るだけでは、ただ苦しいだけだ。
 自分で自分を苦しめるようなマゾっ気は生憎と持ち合わせていない。
 ならば私は開き直るだけだ。

 ヤケクソとも言うかもしれないがそんな事はどうでもいい。

 そう考えた時、今まで私の視界を狭める為に掛かっていたフィルターのようなモノが、薄くなった気がした。

 そうすると、どれだけ聞いても頭に入らなかった彼等の名前達が理解出来るようになった。

 まだ現実だと認める事が出来なくて、漫画や小説のキャラクターの名前を覚えた時のような感覚だが、今までより数倍マシだ。

 名前を覚えるという事は、相手を理解しようとしているという事。
 つまり、受け入れる事が出来るという事だ。

 私は今までそれが出来ていなかった。
 出来なかった。

 だが、今は違う。
 私は変われる、変わる事が出来るのだ。




「…………なーアイレ、最近楽しそーな」

 夕食を終え、談話室のソファーに腰掛けながらテキトーな雑誌でのんびりゆったり読書をしていると、不意に聞き覚えのある声にそんな言葉を掛けられた。

「あぁ」

 読んでいた雑誌を眺めながら、静かに肯定する。
 楽しいと言えば、楽しい。
 なにせ我慢する事を止めたのだ、楽しくない訳がない。

 すると、歯切れが悪そうにモゴモゴとしながら、彼は口を開いた。

「……あ…………あのさ……、変な想像すんの、止めてくれたりとか、しねぇ?」
「……諦めろ」

 腐ィルターのお陰で見るもの全て何もかもそういう風に見えます。
 美味しいです。
 
 残念な事に腐女子とはそういうモノなので諦めて欲しい。

 彼を無視しながら雑誌に視線を落としつつ、足を組み変えた。


「うぁー、シャットアウトしてぇー……」

 ルイ×ミズキ美味しいです。

 頭を抱えてうずくまる神、ミズキを視界の端で眺めながらそんな事を考える。

 ざまあみろ、へへへ!

 いやぁまさかこれがこんなにもコイツにダメージを与える反撃になるとは思わなかった。
 少し前の自分を褒めたたえてあげたい。
 マジ自分グッジョブ。

 いや、うん、まぁ今後何されるか分からなくて地味に怖いけどそれは今は考えない。
 考えたら今を楽しめないんだから仕方ない。
 私は今を楽しむと決めたのだ、後がどうなったって知るもんか。

 ……知らないったら知らない。
 考えないぞ私は。
 絶対考えない。

 そんな時不意に、あの青年、ルイが通り掛かった。
 珍しく制服を着ている彼の姿は本当にイケメンである。

 そう、驚く事にこの学園、一応制服があるらしい。
 現代でいうアジア圏くらいに位置する為か、ベースはチャイナ服だ。
 しかし改造がオッケーという自由な校風の為、各々好き勝手に改造していて、最早チャイナ服っぽければ良いという事になっている。
 ルイが着ているのは、長い垂れが前と後ろに来るタイプの、黒い縁取りに黒灰色の袖無しチャイナ服だ。
 パンツはくすんだクリーム色でゆったりしたものを足首で絞っている。
 腕には布で出来た黒い手甲。

 外へ出る時はそれにプラスして、パンツと同じくすんだクリーム色のくしゃくしゃしたマントを纏っている。

 で、マントの下から私の身長と同じくらいの大きな鎌を取り出す訳ですよ。
 いやぁ中二だね。

 そんなイケメンの彼は、うずくまるミズキと、それをソファーから見下ろす私を交互に眺めながら、無表情のまま抑揚の無い声音で言葉を口にした。

「美少女が美少女イジメてるとか、何してんだお前ら」

 うわ、マジか。
 端から見るとそんな風に見えるの私達。
 ちょっと待て完全に私が悪者じゃないか。
 私は何もしてないぞ、ほんのちょっとルイ×ミズキで妄想したくらいだ。

 あれでほんのちょっとってどういう事だ……、とか呟いているミズキを無視して、ルイの言葉に返答する為に口を開く。


「……別に何も」
「ふーん、まぁ良いや、なんか任務先で林檎ジュースと林檎サワー貰ったんだが」

 どうでもいいとばかりに気の無い返答をしながら無表情でサラっと流したルイは、まるで感情の篭らない声音で言葉を口にする。

「林檎サワー、って酒か?」
「なんか表示貼り間違ったとかで貰った。
 どれがどれかわからん」

 よくわからない落ち込みから復活したミズキの問いに、ルイはそう答えながら、何本かの瓶をマントの下から取り出して見せて来た

 一体何処に入れてたんだろう。
 いや、うん、こういうのは様式美だ、ツッコんだら駄目なヤツだきっと。
 そんな事をぼんやり考えながら二人を眺めた。

 ちなみに、生徒の間では外に派遣される事を“任務に行く”と言っているらしい。
 まぁ“アルバイトに外に派遣されて来る”とか長いから仕方ない気はする。

 バイトというには危険も多いし、確かに任務と言うのが適当かもしれない。
 危険だからこそ、たまにこういう風にお礼を貰う事もある。

 ルイの持つ瓶をじっと見てみるが、色もほぼ同じでジュースなのかサワーなのか全く違いが分からなかった。
 こりゃ確かに商品にならんわ。
 お礼というよりおすそ分け的な気がするけど。

 ……しかしひとつ気になる事がある。

「未成年が呑んで良いのか」
「間違えて呑んだらセーフなんじゃね?」
「種族によって成人年齢が違うから、どこの国も飲酒は16からオッケーになってる」

 私の疑問に対するルイの言葉に、さすがにちょっとご都合主義を感じてしまった。

 16でとは、さすがファンタジーというか異世界というか中二というか。

 まぁそういう事なら大丈夫なんだろう。
 だけど16は完全に未成年だから私は飲酒を推奨しません。
 お酒は二十歳になってから。
 コレ常識。

 ちなみにミズキは無視だ。
 そんな発言で未成年の飲酒を許してはいけない。

「……しかし見分け付かんな」

 じっと瓶を見詰めるルイは、無表情で呟いた。
 抑揚の無い無感情な言葉の筈なのに、それは何処か困っているように聞こえる。

 私の妄想力のせいでそう聞こえるのか、それとも本当に困ってるのか。
 私にはどっちか全く分からないのでとりあえずミズキを見ると、彼は呑気に答えた。

「飲んだら分かるんじゃね」

 いや、うん、それは確かにそうなんだけどさ。

「酒だったらどうすんだ」

 抑揚の無いルイのツッコミが入る。
 そう、それだよ。
 それなんだよ。

「まぁそん時はそん時で」
「え」

 私の口から思わずそんな声が漏れたのは仕方がない事だと思う。
 テキトーだなオイ。
 良いのかそんなんで。
 いくらこの世界が飲酒オッケーを定めているとしてもそれはどうなんだ。
 駄目だろ普通。

「大丈夫大丈夫、部屋で飲もーぜ!」
「今からか」
「だって夕飯食ってるし、後はもう寝るだけだろ。
 今しかなくね?」

 なんでこんなタイミングでそんなモン持って来ちゃったんだよルイ君てば。
 まぁ私は関係ないからめっちゃ人事だけど。

「……俺は別に良いが、酒は止められてっから呑めんぞ。
 なんか知らんが酒癖が悪いらしい」
「……アイレも来るよな!」

 え。
 いやいやちょっと待て。

「何故私が」
「来るよな!」

 なんでだよ。
 何が楽しくて酒癖悪いだろう奴と酒のロシアンルーレットしなきゃならんのさ。
 嫌だよそんなん。
 酔ったイケメン見れるけど予測不能なデメリットがあるじゃねーかふざけんな。


「来 る よ な ?」


 美少女顔でニコニコした笑みを浮かべながら、バチバチと黒い雷を身に纏わせ私を脅すミズキは、腹立つくらい可愛い癖にめっちゃ怖かった。


 ……あかんコレ回避出来んヤツや……。


「……仕方ないな……」

 なんでわざわざ私が付き合わされなきゃならないんだちくしょうめんどくさいな。
 盛大に溜息を吐きたかったがそれも叶わず、私は渋々ミズキ達の部屋へ行く事となった。

 まぁ良い、折角だし観察しまくってやる。






 いつの間にか朝になっていた。

 え、あれ?
 なんか記憶がない。

 一体何があったのだろうか。

 思い出そうと寝起きの頭を動かすと、ぼんやりとした記憶が蘇った。
 ミズキ達の部屋に行って、テキトーな瓶を手に取り、三人で飲んだ。

 そこから記憶がない。

 駄目じゃねーか。


「オイ、ルイ、起きろ! こりゃ一体どういう事だ!」

 不意に響いた焦ったようなミズキの声に、ぼんやりと視線を向けた次の瞬間、目に入って来た光景に思わず一瞬にして目が醒めた。

 私は丁度向かい側のベッドで寝ていたらしく、二人の様子が良く見える。

 裸で ひとつのベッドに居る 二人が。


「なんでお前までハダカなの!? 昨日一体何があったんだよ!!?」
「んぁ……?」

 完全に寝起きなのか、無理矢理ミズキに起こされたルイは状況が分からずボーッとしている。
 寝起きのイケメンは無駄に色っぽい。

 えっ、ちょ、待って
 何コレ、待って待って待って

 コレは、もしかしてそういう事?
 私が寝てるのを良い事に酔った勢いでニャンニャンしちゃったって事?
 駄目! あいつが起きちゃう! 大丈夫、寝てるよ、的な!?

 いやぁあああ! 私どうして寝てたの勿体ない!!

「あぁそっか、暑かったから服消しただけか。
 ルイの服まで一緒に消すって俺馬鹿だな、何してんだまったく」

 持ち前のチートで過去を振り返ったらしいミズキは、あからさまに安心した様子を見せながら息を吐いた。
 そこでぼんやりしていたルイがようやく状況を把握したのか、無表情ながらに戸惑った様子を見せて、そのまま恐る恐る口を開く。

「……責任は、取る」

 やっぱりそういう事じゃないですかやだー!!

「オイふざけんなルイ、何も無い、何も無かったから! 責任とか取んなくて良いから!!」
「でもコレ、……そういう事だろ」
「ちげーよ!! 何も無かったっつってんだろ!?」
「……頑張って、大切に、する」
「頑張んな!! いらねーからそーゆーの!! なんでそこで律儀さ発揮しちまうのお前!!」

 私はとりあえず、二人を置いてそっと部屋から出る事にした。
 いやはや、もうホントBL美味しいです。
 ご馳走様です。
 やっべーわ、人生楽し過ぎてマジやっべーわ。

「待てアイレ!! ちょ、お願い待って!! 勘違いだから!! 何も無かったから!! 頼むから行くな!! ちょ、アイレー!?」

 とりあえず、ルイ君の誤解は解かない方が美味しいよね!


 
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