64 / 68
酷い話や。
しおりを挟むまぁ、そんなこんなでお話が決定したと思ったところで、なにやら問題が浮上したらしい。
ロンちゃんは困ったように俯いてしまった。
「でも、そんなのおれひとりじゃ……」
あー、なるほどそういうことか。
「ん、おけおけ」
「桶?」
「あー気にすんな。とりあえず、商談っつーことになるだろうから、後で村長さんなりおばあちゃんなりにこの話を持ってくといい。なんなら一緒に行くから」
「うん、わかった」
不思議そうにしつつも素直に頷くロンちゃんの頭をポンポンする。
在庫全部ってなると大変だろうしなァ。
そのあと頭の上のクリスちゃんを持ち上げて抱っこしてよーしよしよししてから、ロンちゃんに声をかける。
「あ、ロンちゃんメシ食った?」
「ひるめしは食ったけど、なに?」
「ドラゴさんがロンちゃんに食わせたいって置いてある物があンだが」
そうなのである。
今ある材料で何が作れるのか色々試した結果、なぜかドラゴさんは肉まんを作り上げた。
なんでかは本人もよく分かっていなかったが、テキトーにやったら出来たそうなので、もう放置しとこうと思う。
彼は料理人をカンストしてるんだからそういうこともあるんだろう。知らんけど。
「えっ、食う!」
そして案の定というか当然というか、ドラゴさんの作る食事に胃袋を掴まれてしまっているらしいロンちゃんは大きな目をキラキラさせて断言した。
「よーし、ほんじゃウチ行くかー」
「うん!」
ものすごくご機嫌に鼻歌を歌いながら、門の中へと入るロンちゃん。
あれ、まって今のどういう曲?
もしかしてこの辺の民謡的なやつ?
気になるんですけどフルで歌って欲しい出来れば歌詞付きで。
とかなんとか考えたら気付いた時にはもう家の中だった。
「あれ、ロンちゃんだ。なに、どしたのユーリャさん?」
そこへちょうど家具を配置したらしいドラゴさんが姿を見せた。
「よぉおっさん! 来てやったぜ!」
「あー、なんかね、おばあちゃんの石鹸買って欲しいンだってよ」
「え、買う」
ご機嫌なロンちゃんを連れたまま、簡潔に説明した瞬間、ドラゴさんは即決&真顔であった。
「えっ!?」
「ですよね」
「え!?」
そんなドラゴさんにロンちゃんは驚きを隠せない様子でおろおろしている。
うん、でもそれしゃーないンよ。
「だっておばあちゃんの石鹸、マジで良い匂いでお肌に良いもん」
「わかるー」
一回使わせて貰った時、金に余裕あったら絶対買う、って連呼してたもん、皆で。
ホントに欲しかったもん。元々富裕層向けってのもあったから在庫そんなに無いだろうし、しゃーねーから諦めるかーって、なんか泣く泣く諦めたもん。
「あれ? でも、なんでわざわざここに連れてきたの? 今片付いてなくて危ないのに」
「昨日試しに作った肉まん、ロンちゃんにも食わせたいって言って残して置いてたのドラゴさんじゃね?」
むしろなんで忘れてんのよ。来たら連れて来てねー、って言われてたから連れて来たのに。
ちゃんと言いつけ守ってなんでそんな、やれやれだぜって顔されにゃならんの。
「あ、そういやそうだっけ」
「猫のおっさんがそう言ったから来てやったんだからな!」
……ロンちゃんて地味に上から目線よね。
とか思ってたら、予想外にしょぼくれた顔したドラゴさんから爆弾みたいな発言が投下された。
「……ロンちゃん、ユーリャさんみたいな怪しいヒトに、食べ物で釣られてこんなとこ来ちゃいけないよ」
「ドラゴさん????」
オメーなに言っちゃってんの??????
「猫のおっさん、やべーやつなの……?」
「ほらぁ! ロンちゃんが信じるだろ! どうすんすかコレ!」
怯えてドン引きしてしまったロンちゃんの姿を指差して抗議すると、ドラゴさんは真顔で口を開いた。
「でもユーリャさん、世間一般的にはだいぶ怪しいヒトじゃね?」
お前が言うか。
「あーあー、魔族と間違えられて通報されたおっさんがなンか言ってンなァ~?」
「あっ! ユーリャさんひどい! 気にしてるのに!」
「酷くはない」
むしろ酷いのはお前だろ。
「なあなあ、おっさん、にくまんってなんだ?」
「あー、そうそう、えっと、あ、あった。はいロンちゃんこれ」
「…………パン……にしては白いな……あったかいし、なにこれ」
促されて思い出したらしいドラゴさんが所持品から肉まんを取り出したらしいが、何も無い所から肉まん出してるようにしか見えなかった。お前ちょっとは偽装しろよ。
今はロンちゃんが気付いてないから良かったけど、普通は“まさか、アイテムボックス持ち!?”みたいなその辺のラノベみたいな展開になるんだからな。
「とりあえず食ってみて~。おいしいよ~」
「…………!」
ドラゴさんに促されるままに一口齧ったロンちゃんが驚きに目を見開き、そしてキラキラと目を輝かせる。
よほど美味しかったのか口いっぱいに頬張ってもごもごして、あっという間に食べて切ってしまった。
「なっ、えっ、うまっ!」
全力の褒め言葉に、ドラゴさんが自慢げな様子で鼻の下を人差し指の甲で擦る。
なんかすげぇ昭和なリアクションだけど、平成生まれじゃなかったっけドラゴさん。
「まぁ、自分的にはオイスターソースとかで味を整えたかったんだけど、まあこれはこれでアリかなーって思ったんだよね」
「いや、味噌と醤油があるんだからまだ良い方っしょ」
ドヤ顔のドラゴさんに冷静にツッコミつつ、後ろをついてきていたクリスちゃんを抱っこする。
まあ、オイスターソースなんて作り方も分からんしな。
「ちなみにオイスターソースって魚醤と牡蠣から出来てた気がする」
「そうなの?」
「うん、知らんけど」
「知らんのかよ」
知らんのになんで言った?
「知らんけど多分出来る」
「出来るンか」
「うん、知らんけど」
いや、知らんのに作ろうとすんな。多分出来るから言ってるんだろうけどそれはそれでどうなん。
そんなグダグダなやり取りをしていたら、ふとロンちゃんがドラゴさんの服の裾をくいっと引っ張った。
「なあおっさん、にくまん、どうやって作ったんだ?」
「外側は小麦粉を水とかで練って、中は鹿肉をミンチにして野草とか細切れにして合わせて練って味付けして、それを包んで蒸しただけだよ!」
ドヤ顔で言うてるとこ悪いけど、多分そのやり方で肉まんが出来上がるのドラゴさんだけだと思う。頼むから自重して。
「……なあ、おっさん、にくまん、村で作って売ってもいいか?」
「ん? いいよ!」
ドヤ顔である。
「いや、おいおいおいおい待て」
「んもう何さユーリャさん」
何さじゃねェよ。
「そんな簡単に権利を譲渡すんじゃねェ。せめてなんかこう書面とかにしろ」
「えええ、めんどくさい」
めんどくさいじゃない。
「それが嫌ならドラゴさんが在庫全部作りな」
「やだぁめんどくさい! 楽なの無いの!?」
駄々っ子のように嫌がるドラゴさんに、ため息を吐いて問いかけた。
「ハウジングで楽な道は?」
「そんなモンは無い」
真顔での断言である。うん。
「そういう事なんで無いっす」
「……そっかぁ……って騙されないよ! ハウジングとこれは別でしょ!」
「チッ」
誤魔化されなかったか。
仕方ない。
「んじゃあ、新パッチで出た高ランクレシピで作る時に楽な方法は?」
「えーと、素材を高ランクに作り上げて、そこからまた組み合わせて……えーと……えーと……あぱー」
「アホの顔して誤魔化さない。ほら無理っしょ? 何事も地道が一番なんすよ」
点と点と斜めになった三角の顔文字みたいな顔で遠くを見始めたドラゴさんに、真っ当な言葉だけを返すと、ドラゴさんはガックリと肩を落とした。
「ごめんねロンちゃん……自分には力が足りないんだ……」
「ドラゴのおっさんに足りねーの、力じゃなくてかしこさじゃね?」
「えへへ」
「いや、なんで笑ってんすか」
ロンちゃんの辛辣なツッコミに、何故かドラゴさんは笑顔だ。
いや、意味分からんのんすけど。
「というか、そんなにめんどくさいならドラゴさんはレシピだけ書いてあとは全部ユーリャさんに丸投げしておけばいいんじゃないですか?」
「……っ!?」
唐突なハーツさんの登場にその場の全員がハッとする。
「あっ、そっかぁ! その手があったか!」
「なっ、くそ、せっかく上手く丸め込めそうだったのに!」
あっ、やべ。本音出ちった。
「ユーリャさん、ダメですよ。サボろうとしましたね?」
「しーてーまーせーんー! ドラゴさんがどれだけ騙されやすいのか試してただけですぅー!」
「いや、それはそれでダメじゃね?」
ロンちゃんお口チャック!
「じゃあ、レシピだけ書くね! あとはユーリャさんよろしく!」
「チッ」
そうなったらきっと村の人じゃ再現出来んだろうから、色々と改良しねェとじゃん。めんどくせェな。
「ユーリャさん?」
「はーい、がんばりまぁーす!」
石鹸の高額取引もがんばりまぁーす!
……はぁ。やらかしたわー。
抱っこしたクリスちゃんを撫で回しながら盛大な溜め息を吐き出したのだった。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
二度目の勇者の美醜逆転世界ハーレムルート
猫丸
恋愛
全人類の悲願である魔王討伐を果たした地球の勇者。
彼を待っていたのは富でも名誉でもなく、ただ使い捨てられたという現実と別の次元への強制転移だった。
地球でもなく、勇者として召喚された世界でもない世界。
そこは美醜の価値観が逆転した歪な世界だった。
そうして少年と少女は出会い―――物語は始まる。
他のサイトでも投稿しているものに手を加えたものになります。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる