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酷い話や。

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 まぁ、そんなこんなでお話が決定したと思ったところで、なにやら問題が浮上したらしい。
 ロンちゃんは困ったように俯いてしまった。

「でも、そんなのおれひとりじゃ……」

 あー、なるほどそういうことか。

「ん、おけおけ」
「桶?」
「あー気にすんな。とりあえず、商談っつーことになるだろうから、後で村長さんなりおばあちゃんなりにこの話を持ってくといい。なんなら一緒に行くから」
「うん、わかった」

 不思議そうにしつつも素直に頷くロンちゃんの頭をポンポンする。
 在庫全部ってなると大変だろうしなァ。

 そのあと頭の上のクリスちゃんを持ち上げて抱っこしてよーしよしよししてから、ロンちゃんに声をかける。

「あ、ロンちゃんメシ食った?」
「ひるめしは食ったけど、なに?」
「ドラゴさんがロンちゃんに食わせたいって置いてある物があンだが」

 そうなのである。
 今ある材料で何が作れるのか色々試した結果、なぜかドラゴさんは肉まんを作り上げた。
 なんでかは本人もよく分かっていなかったが、テキトーにやったら出来たそうなので、もう放置しとこうと思う。
 彼は料理人をカンストしてるんだからそういうこともあるんだろう。知らんけど。

「えっ、食う!」

 そして案の定というか当然というか、ドラゴさんの作る食事に胃袋を掴まれてしまっているらしいロンちゃんは大きな目をキラキラさせて断言した。

「よーし、ほんじゃウチ行くかー」
「うん!」

 ものすごくご機嫌に鼻歌を歌いながら、門の中へと入るロンちゃん。

 あれ、まって今のどういう曲?
 もしかしてこの辺の民謡的なやつ?
 気になるんですけどフルで歌って欲しい出来れば歌詞付きで。

 とかなんとか考えたら気付いた時にはもう家の中だった。

「あれ、ロンちゃんだ。なに、どしたのユーリャさん?」

 そこへちょうど家具を配置したらしいドラゴさんが姿を見せた。

「よぉおっさん! 来てやったぜ!」
「あー、なんかね、おばあちゃんの石鹸買って欲しいンだってよ」
「え、買う」

 ご機嫌なロンちゃんを連れたまま、簡潔に説明した瞬間、ドラゴさんは即決&真顔であった。

「えっ!?」
「ですよね」
「え!?」

 そんなドラゴさんにロンちゃんは驚きを隠せない様子でおろおろしている。
 うん、でもそれしゃーないンよ。

「だっておばあちゃんの石鹸、マジで良い匂いでお肌に良いもん」
「わかるー」

 一回使わせて貰った時、金に余裕あったら絶対買う、って連呼してたもん、皆で。
 ホントに欲しかったもん。元々富裕層向けってのもあったから在庫そんなに無いだろうし、しゃーねーから諦めるかーって、なんか泣く泣く諦めたもん。

「あれ? でも、なんでわざわざここに連れてきたの? 今片付いてなくて危ないのに」
「昨日試しに作った肉まん、ロンちゃんにも食わせたいって言って残して置いてたのドラゴさんじゃね?」

 むしろなんで忘れてんのよ。来たら連れて来てねー、って言われてたから連れて来たのに。
 ちゃんと言いつけ守ってなんでそんな、やれやれだぜって顔されにゃならんの。

「あ、そういやそうだっけ」
「猫のおっさんがそう言ったから来てやったんだからな!」

 ……ロンちゃんて地味に上から目線よね。
 とか思ってたら、予想外にしょぼくれた顔したドラゴさんから爆弾みたいな発言が投下された。

「……ロンちゃん、ユーリャさんみたいな怪しいヒトに、食べ物で釣られてこんなとこ来ちゃいけないよ」
「ドラゴさん????」

 オメーなに言っちゃってんの??????

「猫のおっさん、やべーやつなの……?」
「ほらぁ! ロンちゃんが信じるだろ! どうすんすかコレ!」

 怯えてドン引きしてしまったロンちゃんの姿を指差して抗議すると、ドラゴさんは真顔で口を開いた。

「でもユーリャさん、世間一般的にはだいぶ怪しいヒトじゃね?」

 お前が言うか。

「あーあー、魔族と間違えられて通報されたおっさんがなンか言ってンなァ~?」
「あっ! ユーリャさんひどい! 気にしてるのに!」
「酷くはない」

 むしろ酷いのはお前だろ。

「なあなあ、おっさん、にくまんってなんだ?」
「あー、そうそう、えっと、あ、あった。はいロンちゃんこれ」
「…………パン……にしては白いな……あったかいし、なにこれ」

 促されて思い出したらしいドラゴさんが所持品から肉まんを取り出したらしいが、何も無い所から肉まん出してるようにしか見えなかった。お前ちょっとは偽装しろよ。
 今はロンちゃんが気付いてないから良かったけど、普通は“まさか、アイテムボックス持ち!?”みたいなその辺のラノベみたいな展開になるんだからな。

「とりあえず食ってみて~。おいしいよ~」
「…………!」

 ドラゴさんに促されるままに一口齧ったロンちゃんが驚きに目を見開き、そしてキラキラと目を輝かせる。
 よほど美味しかったのか口いっぱいに頬張ってもごもごして、あっという間に食べて切ってしまった。

「なっ、えっ、うまっ!」

 全力の褒め言葉に、ドラゴさんが自慢げな様子で鼻の下を人差し指の甲で擦る。
 なんかすげぇ昭和なリアクションだけど、平成生まれじゃなかったっけドラゴさん。

「まぁ、自分的にはオイスターソースとかで味を整えたかったんだけど、まあこれはこれでアリかなーって思ったんだよね」
「いや、味噌と醤油があるんだからまだ良い方っしょ」

 ドヤ顔のドラゴさんに冷静にツッコミつつ、後ろをついてきていたクリスちゃんを抱っこする。

 まあ、オイスターソースなんて作り方も分からんしな。

「ちなみにオイスターソースって魚醤と牡蠣から出来てた気がする」
「そうなの?」
「うん、知らんけど」
「知らんのかよ」

 知らんのになんで言った?

「知らんけど多分出来る」
「出来るンか」
「うん、知らんけど」

 いや、知らんのに作ろうとすんな。多分出来るから言ってるんだろうけどそれはそれでどうなん。

 そんなグダグダなやり取りをしていたら、ふとロンちゃんがドラゴさんの服の裾をくいっと引っ張った。

「なあおっさん、にくまん、どうやって作ったんだ?」
「外側は小麦粉を水とかで練って、中は鹿肉をミンチにして野草とか細切れにして合わせて練って味付けして、それを包んで蒸しただけだよ!」

 ドヤ顔で言うてるとこ悪いけど、多分そのやり方で肉まんが出来上がるのドラゴさんだけだと思う。頼むから自重して。

「……なあ、おっさん、にくまん、村で作って売ってもいいか?」
「ん? いいよ!」

 ドヤ顔である。

「いや、おいおいおいおい待て」
「んもう何さユーリャさん」

 何さじゃねェよ。

「そんな簡単に権利を譲渡すんじゃねェ。せめてなんかこう書面とかにしろ」
「えええ、めんどくさい」

 めんどくさいじゃない。

「それが嫌ならドラゴさんが在庫全部作りな」
「やだぁめんどくさい! 楽なの無いの!?」

 駄々っ子のように嫌がるドラゴさんに、ため息を吐いて問いかけた。

「ハウジングで楽な道は?」
「そんなモンは無い」

 真顔での断言である。うん。

「そういう事なんで無いっす」
「……そっかぁ……って騙されないよ! ハウジングとこれは別でしょ!」
「チッ」

 誤魔化されなかったか。
 仕方ない。

「んじゃあ、新パッチで出た高ランクレシピで作る時に楽な方法は?」
「えーと、素材を高ランクに作り上げて、そこからまた組み合わせて……えーと……えーと……あぱー」
「アホの顔して誤魔化さない。ほら無理っしょ? 何事も地道が一番なんすよ」

 点と点と斜めになった三角の顔文字みたいな顔で遠くを見始めたドラゴさんに、真っ当な言葉だけを返すと、ドラゴさんはガックリと肩を落とした。

「ごめんねロンちゃん……自分には力が足りないんだ……」
「ドラゴのおっさんに足りねーの、力じゃなくてかしこさじゃね?」
「えへへ」
「いや、なんで笑ってんすか」

 ロンちゃんの辛辣なツッコミに、何故かドラゴさんは笑顔だ。

 いや、意味分からんのんすけど。

「というか、そんなにめんどくさいならドラゴさんはレシピだけ書いてあとは全部ユーリャさんに丸投げしておけばいいんじゃないですか?」
「……っ!?」

 唐突なハーツさんの登場にその場の全員がハッとする。

「あっ、そっかぁ! その手があったか!」
「なっ、くそ、せっかく上手く丸め込めそうだったのに!」

 あっ、やべ。本音出ちった。

「ユーリャさん、ダメですよ。サボろうとしましたね?」
「しーてーまーせーんー! ドラゴさんがどれだけ騙されやすいのか試してただけですぅー!」
「いや、それはそれでダメじゃね?」

 ロンちゃんお口チャック!

「じゃあ、レシピだけ書くね! あとはユーリャさんよろしく!」
「チッ」

 そうなったらきっと村の人じゃ再現出来んだろうから、色々と改良しねェとじゃん。めんどくせェな。

「ユーリャさん?」
「はーい、がんばりまぁーす!」

 石鹸の高額取引もがんばりまぁーす!

 ……はぁ。やらかしたわー。

 抱っこしたクリスちゃんを撫で回しながら盛大な溜め息を吐き出したのだった。




 
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