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ちょっとよく分からない。
しおりを挟む「……あの……気になってたんですけど、あのお風呂、フィルターとかボイラーとか、そういうのどうなってるんですか?」
さすがハーツさんである。
みんな気になってたけどすっぽり忘れてたことを聞いてくれている。素晴らしい。
確かに気になるよね、衛生面。
『あ、それに関してはフィルターの代わりに浄化の魔石、ボイラーの所には炎の魔石を使ってますのでそこには電気使ってません』
「変なところにファンタジー要素」
いやそのへんをファンタジーにするんならもうちょいファンタジー要素増やしとけよ。一応ファンタジーだぞココ。
『代わりにポンプとか循環装置に電力使ってます』
なんでよ。そこも魔力にしとけよ。
『まあ、そんなわけなので、この資金があればハウスを改造出来るんですよ』
うん、もっと違うとこ改造出来ると思うよ。
その魔力とかを電気代わりに動くようにすればいいだけだよね?
魔力を電気に変換する方がコストかかんの?
どゆこと?
とか考えていたら、ドラゴさんがポツリと呟いた。
「思ってたんだけどさ」
『はい?』
「あの電化製品、それからこのハウスって何から出来てるの?」
あっ、それ気になる。
『あぁ、工芸の神と鍛治の神、建築の神とそれから技巧の神に協力してもらって、ヒヒイロカネとオリハルコンとハイミスリル、あと世界樹と精霊樹の木材やら何やらの素材から、ゲームのデータを元に、ここに建てるまでの間で頑張って作って貰ってました』
「………………いや、あのさ」
『はい』
「作って貰っといてアレなんだけど」
『はい』
「なにその技術の無駄遣い」
ついツッコミを入れてしまったけどこれは仕方ないと思う。
え、ファンタジー金属使ってなに電化製品と家と家具作ってんの?
そんなのに使うな伝説素材を。もっと色々出来たやろ本来。なにしてんの? っていうか、なにさせてんの?
『みんなイケオジが好きなので快くやってくれましたよ?』
「解せぬ」
なにがどうしてそうなったん?
『対価としてそれぞれファンサして欲しいそうです』
「ファンサ……」
意味わかんね。日本語使お?
『えーと、建築の神が“名前を呼んでくれてる映像”、それから鍛治の神が“サイン入りポスターとブロマイド”、工芸の神が“新しい音源”、技巧の神が“新しく曲を弾いてる映像”が欲しいそうです』
「いやだから技術の無駄遣い」
「対価でいいのそれ」
「会って話したいとかじゃないんですね」
マジでツッコミしか出てこない。アタシら中身女子なのに何がいいのかさっぱり分からん。
アイドルってそんなんでよかったっけ。
『まぁ、雷神トーリェンダーさんのこともありましたし、みんな慎重なんですよ』
「え、自分ら会えない系アイドルなんだ」
ドラゴさんが呟くみたいにツッコミを入れている。
とても貴重な瞬間だ。ちゃんとツッコミ出来るんだなぁ、としみじみしてしまった。前もツッコミしてたけど、普段が普段だからね、仕方ないね。
『誰か一柱でも直に会ったら、ずるい、自分も会いたいってなって、ファンクラブが瓦解するんで……』
「なんでそんな熱狂的になってるんですか……」
ワタナベさんの照れ笑いが怖い。ハーツさんだって引いている。
人気が出て嬉しいのかもしれんが、普通に怖いンすけど。
『仕方ありませんよ。皆様魅力的ですから』
「解せぬ」
マジで意味がわからん。神からすると性別なんてどうでもいいンかな。そういうことなンかな。
『そんな訳なので新しい音源と映像とブロマイドとポスターのために、皆さんちょっと歌ってください』
「ちょっと歌えとは」
おめぇは一体何を言っとるんだ。
「あ、あとで建築の神の名前呼ぶ動画も取らせてくださいね」
「ねえそれホントに対価でいいの?」
『ご納得頂けた上でなのでお気になさらず』
「ご納得してた」
さすがのドラゴさんもご納得は頂けなかったのか確かめるように尋ねると、なんでもない事のようにそんな答えが返ってきた。
……いや、ご納得してんのかよ。なにが起きてんだよ神様界。
「……まぁ、それが対価でいいなら歌おうか」
「なんでドラゴさんが決めてンすか?」
ふぅ、やれやれ、みたいな顔でこっち見てるとこ悪いけど、歌うのアタシなんじゃないンすか?
「だって作業疲れたもん」
「あー……ここ数日ずっと作業してたっすもんね」
振り返れば、ドラゴさんがやった事はそれなりに多い。すぐに出来たり、元から持っていたりで作らなくていいものがあっても、無いものは作らなきゃいけないし、内装を考えて色々と設置してるのもドラゴさんだ。
……それはたしかにしんどいかもしれん。
と思ったところで、ドラゴさんがいい笑顔で口を開いた。
「それでは聞いてください。“なんかいい感じの曲”」
「無茶振りすぎん?」
なんなンすかそれ。
「ドラゴさん、それならドラム出しましょ」
「ハーツさんもギター出そうよ」
「はいはいもーいいから二人ともこれ受け取れ!」
なんかわちゃわちゃし始めたので仕方なくメニューを開き、立ち上がって二人にひとつずつ楽器を渡す。
「おお、なんだっけこれ、コンガ?」
「ジャンベだよ。椅子に座って足に挟みながら叩けるやつ。コンガはもっと大きい」
「ボンゴ?」
「ボンゴはもっと小さい」
「じゃあトンガ?」
「じゃあって何、ジャンベだっつってんだろ。トンガは国」
話聞きなさいよホントもう。むしろよくそんなにそれっぽい単語出せたな?
「わたしのはクラシックギターですか?」
「ウクレレだよ」
「急にハワイアン」
なんだよ。ギターよりも日常っぽい雰囲気の音出んだぞウクレレ。なめんなよ。
「でも、ウクレレにしては大きいような……」
「ウクレレにもソプラノからバリトンまであるんすよ、ソレはバリトン」
癒し系のまったりした音とかピッタリなんだぞバリトンウクレレ。
「……ユーリャさん、こういうのは物知りですよね」
「ゲームで無駄に集めてたからね。それぞれに違う効果付くし」
「マジかよ吟遊詩人」
「制作陣何考えてんだ」
なお、ジャンベには全体士気高揚系のバフ、バリトンウクレレには全体回復系のバフがそれぞれ付いてました。
RPGによくある、指輪とかのアクセサリーに魔法が入ってるみたいなアレな感じで、戦闘中使えるアイテムとして使えるんだけど、数がありすぎて選ぶ時大変なので実はそんなに使ったこと無い。
正直集め過ぎた。めっちゃ余裕ある時くらいしか使えないので、高難易度コンテンツだと完全にアイテム欄の肥やしだった。
「まぁ、ちょっと歌うくらいならこんなもんっしょ」
「なるほど」
ハーツさんにもご納得頂けたようだ。
「おおー、楽しいー」
「ちょっとドラゴさん、好き勝手叩かんでよ、どうすンすかそれ」
いつの間にかアタシが座ってた椅子に腰掛けて、すっぱらたったったん、と手で叩き始めるドラゴさんがとても楽しそうである。
ジャンベは比較的軽い音だから気持ちは分かるけどさ、どうすんだよそんな叩いて。
「こんな感じですかね」
「ハーツさんどうして合わせちゃうの」
バリトンウクレレの明るくて低い癒し系の音色で何故か合わせてしまうハーツさんは、すごい。
いや、すごいけどこれどうすんの。
「ほらほら、ユーリャさんもやろーよ」
「あーもー、わかったわかった」
仕方ないのでタンバリンを出して、シャンシャンと合わせる。
「え、なんでタンバリン」
「アクセントだよ」
「そうなの」
「そうだよ」
「そっか」
さすがにツッコミを入れて来たドラゴさんだが、ご納得頂けて何よりです。
ちなみにこのタンバリンは攻撃力アップのバフがかけられます。
そしてご納得頂けたドラゴさんは、キリッとした顔でワタナベさんのデジカメに向かってドヤ顔をキメた。
「……それでは聞いてください、“なんかいい感じの曲”」
「うん、だから無茶振りなンよそれ」
どうしろというのか。
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