上 下
61 / 68

ちょっとよく分からない。

しおりを挟む



 

「……あの……気になってたんですけど、あのお風呂、フィルターとかボイラーとか、そういうのどうなってるんですか?」

 さすがハーツさんである。
 みんな気になってたけどすっぽり忘れてたことを聞いてくれている。素晴らしい。
 確かに気になるよね、衛生面。

『あ、それに関してはフィルターの代わりに浄化の魔石、ボイラーの所には炎の魔石を使ってますのでそこには電気使ってません』
「変なところにファンタジー要素」

 いやそのへんをファンタジーにするんならもうちょいファンタジー要素増やしとけよ。一応ファンタジーだぞココ。

『代わりにポンプとか循環装置に電力使ってます』

 なんでよ。そこも魔力にしとけよ。

『まあ、そんなわけなので、この資金があればハウスを改造出来るんですよ』

 うん、もっと違うとこ改造出来ると思うよ。
 その魔力とかを電気代わりに動くようにすればいいだけだよね?
 魔力を電気に変換する方がコストかかんの?
 どゆこと?

 とか考えていたら、ドラゴさんがポツリと呟いた。

「思ってたんだけどさ」
『はい?』
「あの電化製品、それからこのハウスって何から出来てるの?」

 あっ、それ気になる。

『あぁ、工芸の神と鍛治の神、建築の神とそれから技巧の神に協力してもらって、ヒヒイロカネとオリハルコンとハイミスリル、あと世界樹と精霊樹の木材やら何やらの素材から、ゲームのデータを元に、ここに建てるまでの間で頑張って作って貰ってました』
「………………いや、あのさ」
『はい』
「作って貰っといてアレなんだけど」
『はい』
「なにその技術の無駄遣い」

 ついツッコミを入れてしまったけどこれは仕方ないと思う。

 え、ファンタジー金属使ってなに電化製品と家と家具作ってんの?
 
 そんなのに使うな伝説素材を。もっと色々出来たやろ本来。なにしてんの? っていうか、なにさせてんの?

『みんなイケオジが好きなので快くやってくれましたよ?』
「解せぬ」

 なにがどうしてそうなったん?

『対価としてそれぞれファンサして欲しいそうです』
「ファンサ……」

 意味わかんね。日本語使お?

『えーと、建築の神が“名前を呼んでくれてる映像”、それから鍛治の神が“サイン入りポスターとブロマイド”、工芸の神が“新しい音源”、技巧の神が“新しく曲を弾いてる映像”が欲しいそうです』
「いやだから技術の無駄遣い」
「対価でいいのそれ」
「会って話したいとかじゃないんですね」

 マジでツッコミしか出てこない。アタシら中身女子なのに何がいいのかさっぱり分からん。
 アイドルってそんなんでよかったっけ。

『まぁ、雷神トーリェンダーさんのこともありましたし、みんな慎重なんですよ』
「え、自分ら会えない系アイドルなんだ」

 ドラゴさんが呟くみたいにツッコミを入れている。
 とても貴重な瞬間だ。ちゃんとツッコミ出来るんだなぁ、としみじみしてしまった。前もツッコミしてたけど、普段が普段だからね、仕方ないね。

『誰か一柱でも直に会ったら、ずるい、自分も会いたいってなって、ファンクラブが瓦解するんで……』
「なんでそんな熱狂的になってるんですか……」

 ワタナベさんの照れ笑いが怖い。ハーツさんだって引いている。
 人気が出て嬉しいのかもしれんが、普通に怖いンすけど。

『仕方ありませんよ。皆様魅力的ですから』
「解せぬ」

 マジで意味がわからん。神からすると性別なんてどうでもいいンかな。そういうことなンかな。

『そんな訳なので新しい音源と映像とブロマイドとポスターのために、皆さんちょっと歌ってください』
「ちょっと歌えとは」

 おめぇは一体何を言っとるんだ。

「あ、あとで建築の神の名前呼ぶ動画も取らせてくださいね」
「ねえそれホントに対価でいいの?」
『ご納得頂けた上でなのでお気になさらず』
「ご納得してた」

 さすがのドラゴさんもご納得は頂けなかったのか確かめるように尋ねると、なんでもない事のようにそんな答えが返ってきた。
 ……いや、ご納得してんのかよ。なにが起きてんだよ神様界。

「……まぁ、それが対価でいいなら歌おうか」
「なんでドラゴさんが決めてンすか?」

 ふぅ、やれやれ、みたいな顔でこっち見てるとこ悪いけど、歌うのアタシなんじゃないンすか?

「だって作業疲れたもん」
「あー……ここ数日ずっと作業してたっすもんね」

 振り返れば、ドラゴさんがやった事はそれなりに多い。すぐに出来たり、元から持っていたりで作らなくていいものがあっても、無いものは作らなきゃいけないし、内装を考えて色々と設置してるのもドラゴさんだ。
 ……それはたしかにしんどいかもしれん。
 と思ったところで、ドラゴさんがいい笑顔で口を開いた。

「それでは聞いてください。“なんかいい感じの曲”」
「無茶振りすぎん?」

 なんなンすかそれ。

「ドラゴさん、それならドラム出しましょ」
「ハーツさんもギター出そうよ」
「はいはいもーいいから二人ともこれ受け取れ!」

 なんかわちゃわちゃし始めたので仕方なくメニューを開き、立ち上がって二人にひとつずつ楽器を渡す。

「おお、なんだっけこれ、コンガ?」
「ジャンベだよ。椅子に座って足に挟みながら叩けるやつ。コンガはもっと大きい」
「ボンゴ?」
「ボンゴはもっと小さい」
「じゃあトンガ?」
「じゃあって何、ジャンベだっつってんだろ。トンガは国」

 話聞きなさいよホントもう。むしろよくそんなにそれっぽい単語出せたな?

「わたしのはクラシックギターですか?」
「ウクレレだよ」
「急にハワイアン」

 なんだよ。ギターよりも日常っぽい雰囲気の音出んだぞウクレレ。なめんなよ。

「でも、ウクレレにしては大きいような……」
「ウクレレにもソプラノからバリトンまであるんすよ、ソレはバリトン」

 癒し系のまったりした音とかピッタリなんだぞバリトンウクレレ。

「……ユーリャさん、こういうのは物知りですよね」
「ゲームで無駄に集めてたからね。それぞれに違う効果付くし」
「マジかよ吟遊詩人」
「制作陣何考えてんだ」

 なお、ジャンベには全体士気高揚系のバフ、バリトンウクレレには全体回復系のバフがそれぞれ付いてました。
 RPGによくある、指輪とかのアクセサリーに魔法が入ってるみたいなアレな感じで、戦闘中使えるアイテムとして使えるんだけど、数がありすぎて選ぶ時大変なので実はそんなに使ったこと無い。
 正直集め過ぎた。めっちゃ余裕ある時くらいしか使えないので、高難易度コンテンツだと完全にアイテム欄の肥やしだった。

「まぁ、ちょっと歌うくらいならこんなもんっしょ」
「なるほど」

 ハーツさんにもご納得頂けたようだ。

「おおー、楽しいー」
「ちょっとドラゴさん、好き勝手叩かんでよ、どうすンすかそれ」

 いつの間にかアタシが座ってた椅子に腰掛けて、すっぱらたったったん、と手で叩き始めるドラゴさんがとても楽しそうである。
 ジャンベは比較的軽い音だから気持ちは分かるけどさ、どうすんだよそんな叩いて。

「こんな感じですかね」
「ハーツさんどうして合わせちゃうの」

 バリトンウクレレの明るくて低い癒し系の音色で何故か合わせてしまうハーツさんは、すごい。
 いや、すごいけどこれどうすんの。

「ほらほら、ユーリャさんもやろーよ」
「あーもー、わかったわかった」

 仕方ないのでタンバリンを出して、シャンシャンと合わせる。

「え、なんでタンバリン」
「アクセントだよ」
「そうなの」
「そうだよ」
「そっか」

 さすがにツッコミを入れて来たドラゴさんだが、ご納得頂けて何よりです。
 ちなみにこのタンバリンは攻撃力アップのバフがかけられます。
 そしてご納得頂けたドラゴさんは、キリッとした顔でワタナベさんのデジカメに向かってドヤ顔をキメた。 

「……それでは聞いてください、“なんかいい感じの曲”」
「うん、だから無茶振りなンよそれ」

 どうしろというのか。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

二度目の勇者の美醜逆転世界ハーレムルート

猫丸
恋愛
全人類の悲願である魔王討伐を果たした地球の勇者。 彼を待っていたのは富でも名誉でもなく、ただ使い捨てられたという現実と別の次元への強制転移だった。 地球でもなく、勇者として召喚された世界でもない世界。 そこは美醜の価値観が逆転した歪な世界だった。 そうして少年と少女は出会い―――物語は始まる。 他のサイトでも投稿しているものに手を加えたものになります。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...