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そしてようやくスローライフ開始。
しおりを挟む即日で建築が終了していたせいで様子を見に来た村長さんが顎を外しかけたり、ドラゴさんが子供たちに声をかけてお土産を渡さなかったことが原因で子供たちがギルドハウスに押しかけ、四方八方に逃げ回り鬼かくれんぼが始まったり、そのおかげで隠し階段が見付かって屋根裏部屋を発見したりと、それなりに忙しい三日間が過ぎ去って行った。
見付けた屋根裏部屋はとても日当たりやら何やらが良かったので、猫様たちのお部屋にしようという話になった。
とても喜んでくれたので今後はキャットタワーやらクッションやらその他もろもろを増やしていきたい。ドラゴさん製作頑張って。
なお、ハーツさんは三日間ベッドに押し込まれたお陰か、現在はなんだか少しスッキリした顔だ。でもまだまだ疲れた顔してるので明日からまた三日間はベッドに押し込もうと思う。
休養、大事。
「今日は何をするんですか?」
「ドラゴさんが庭を整備してくれたンで、畑が作れそうなンすよ」
ハーツさんと一緒に玄関から外の庭へと歩を進めながら、そんな会話をする。
「なるほど。それで農家をカンストさせてるわたしの意見やその他もろもろが必要なんですね?」
「ご明察」
アタシぁそーいうの無理なんでね。ゲームの中で農家は取ってたけどカンストはしてなかったし、それよりなにより、今はそれ反映されてねェ気がすンだよなァ。
「……それで、ドラゴさんは何をしているんです?」
「今日は朝からずっとべにさんが持ってた木材やら布やら使って応接室の家具作ってる」
「おやまあ、ずいぶん熱心ですね……」
「元々職人気質っすもん。熱中したら声かけるまで止まらんすわ」
料理もハウスの内装も全部任せてるのが地味に心苦しいンで、それ以外の雑事は極力手伝うつもりだ。皿洗いとか洗濯とかね。
ンで、ハーツさんはなるべく寝かせる。
めっちゃ文句言いそうだけど、寝てろください。真面目に寝てろください。大事なことなので二回言いました。
「ご飯さえ作ってくれればわたしは気にしませんが……子供たちが寂しがりませんか?」
「あー、ドラゴさんのことみんな大好きっすもんね、あの子ら」
ハーツさんの言葉で、村の子供たちの顔が脳裏を駆け巡っていく。
ドラゴさんが作業中だと遊べねェからなァ。危ねェし。
「今日も来るんでしょうか」
「手伝いとか全部終わってから来てるっぽいすけど、このへん魔物も出るんで心配っすね……」
「つくねちゃんが採取ついでに見回りをしてくれてますが、この森広いですからね」
「んじゃ、アタシんとこのクリスちゃんも見回りに出しときますわ」
猫さん達は基本的に自由に放してある。彼らは採取も出来るから好き勝手に散歩してもらってた方がお得だからだ。
放牧ってドラゴさんが言ってたけど言い得て妙だな。
猫さん達からすると子供なんてうるさいからヤダってなりそうだが、色々あった時絶対寝覚めが悪ィんで我慢して欲しい。
「それが良さそうですね。あ、そうだ、何を植える予定なんです?」
「えーと、ドラゴさんからの指示だと、稲、大豆、根菜、玉葱それから葉物野菜を育てて欲しいらしいっす」
ドラゴさんから貰ったメモをそのまま読み上げて、それをハーツさんに手渡す。
思ったんだけど、ラノベの主人公がよく米とか作ったり食料革命起こしたりしてるよね、そんなん正直どうでもいいから米食いたい。間違えた。
あれってなんなんだろ。異世界って海外みたいなモンだから、米とか味噌とか醤油とか受け入れ難いンじゃね普通。ご都合主義なのか、ゆるゆる異世界なのか。
出来ればこっちもそんな異世界だといいなァ。楽だし。
あ、でも米が食えねェのはアタシも無理なンで作りたがる気持ちは分かる。
つーかね、学生時代に全日程が十日くらいで海外行ったことあンだけど、正直日本食が食えねェの無理だった。
元々そんなに日本食好きな人間じゃなかったけど、それでも無理だった。
帰って来てうどん食って泣いたもん。味噌汁飲んで米食って泣いたもん。焼き魚醤油で食って泣いたもん。
そんなわけで実際問題、結構限界だったりする。米食いてェ。
渡したメモをじっと静かに確認していたハーツさんが、ふと小さく頷いた。
「ふむ。でしたらビニールハウス栽培が良さそうですね」
ビニールハウスの作り方分かるんだ……。すげーなハーツさん。さすがは農家カンスト。
妙に感心しつつ、庭の一角、何もない場所を指差す。
「一応、このへんを畑に使ってほしいそうで」
「日当たりは良好、土は……ふむ、水捌けが良過ぎますね。砂利が多いからでしょうか」
「へぇ、触っただけで分かるンすね」
しゃがみ込んだハーツさんが土を触って確認しているが、正直そんなんで分かるの凄すぎない?
「まぁ、農家カンストしてますしね」
「はぇー」
こういうの、アタシの吟遊詩人でも思ってたけど不思議だよなァ。感覚で理解するっつーか、なんか知らんけど分かるんだよね。マジ不思議。
「しかし、ふむ……ハウスを立てるその前に土壌を改善する必要がありそうです」
「肥料とか買ってきた方が良さげっすか?」
たしか色々要るンすよね、農業って。あんま知らんけど。
「いえ、大丈夫です。森には腐葉土が沢山ありますので、それを土に混ぜて馴染ませ、とある技を使えば問題ありません」
「さすがっすね」
そんなんあるんだ。
「ユーリャさんはその間何をするんです?」
「アタシぁそういう技能は全く無いンで、むしろ何したら良いンか分かんねェんすわ」
土をなんかもしゃもしゃ触りながらこっちを見たハーツさんの様子をぼんやり見下ろしながら、腕を組む。
一応簡単な方の家事はする予定っすけど、それだけなんよなァ。なんか他に仕事ねェかな。
「でしたら一度、職人系ステータスに何があるか確認してみたらどうです? 何かヒントになるかもしれませんよ」
「なるほど」
納得である。
自分がこの世界で何が出来る人材なのかは、たしかに確認しとくべきだ。
魂は前と同じでもこっちはゲームのデータをインストールされた肉体と世界観だしな。
「ちなみにわたしは三日間ヒマだったのでのんびり見てましたが、多すぎて把握するの面倒くさくなって放棄しました」
「マジか……。したら、ドラゴさんの職人系ステータスヤバそうすね……」
「そうですね…………絶対見てないと思いますが」
「そーね」
うん、ドラゴさんは見ないっしょ。
むしろ“なんか知らんけど出来るー! すごーい!”ってなってる気がする。
つーか気にしてなさそう。作るのめちゃくちゃ楽しそうだし。
「では、わたしは今日これをやってますね」
「りょーかいっす。飯の時間あたりにまた声掛けますよ」
「わかりました」
そんな感じでハーツさんと離脱し、ハウスに戻ったので朝食の片付けと皿洗いを始める。
なんとか余った食材を所持品にぶち込んで、シンクの水道の蛇口を捻る。
三人分とはいえ使った食器はそんなに無いからか、あっという間に終えてすることがなくなったので、ダイニングテーブルの椅子に座った。
「ふーむ」
自分に何が出来るのか、それって結構大事だよねェ。
二人はそれぞれ出来ることがたくさんあるけど、アタシにゃそれがない。
吟遊詩人だからか、歌えば職人状態の二人のバフもイケそうだけど、はてさて。
メニュー画面を開き、自分の名前を長押しする。
途端に、ペロンと別ウインドウが開いた。
名前と年齢、種族、それから職業の欄が見えた。
えーと、…………ん?
なにこれ、ゲームで見たことない職業だ。
会計士、税理士、管理官、販売士……え……なにこれ……?
アタシ計算とかそんなんあんま得意じゃねェのに、会計士とか税理士とか……えぇー……?
「……なにこの技能」
暗算、接客、暗記に交渉、販路開拓……、なんか、え、なにこの、……なに?
結局自分に何が出来るのかというと、ハーツさんにもドラゴさんにも出来ない、作ったものをなるべく高く売ったり、材料を安く買ったり、在庫を管理したり、そういう何からしい。
これ、商売するのに必要な全部の技能揃い踏み、ってことなんだろうか。
つまりアタシぁ俗に言う、商業系らしい。
「…………つまり、商品が出来たら売りゃあいい、ってことか……」
……うん、……………………え?
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