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みんないっしょのなのかめそのよーん!

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 ハーツさんがマイキャットの真っ白仔猫、つくねちゃんの頭を撫でながら荷物の整理をしている横で、ドラゴさんが意気揚々と声を上げた。

「んじゃ次は自分が呼ぶね!」
「おけ、どぞー」

 どーせアタシんとこのマイキャットは最後でいいしな。

 そんな感じでドラゴさんの様子を眺めながらダイニングテーブルの椅子に腰掛けて、軽く答えた。

「いっきまーす! そいや!」

 棒を掴んで勢いよく振るドラゴさん。
 勢いが良すぎてチリチリンチリンリーンと音がめちゃくちゃに鳴っているが、本人に気にした様子はない。
 夜中に聞こえたら迷惑だなぁ、という感想しか出てこなかった。

『ぷにゃー!』

 ちょっと気が抜けるような鳴き声と共に、先程のつくねちゃんと同様、空中からポンッという音を立てながら黒っぽい猫が現れた。
 すたっと降り立ち、そしてそのまま香箱座りで落ち着くその猫は、なんというか、樽のように丸かった。

 チラッと見えたけど、足短かかったなぁ。かわいい。

 ついでに、黒っぽいと思った毛色はよく見たら紺色のようだった。
 下がり気味の垂れ目は細く閉じられていて、とても笑顔に見える。かわいい。顔文字みたいな顔してるかわいい。

 なんだろう、かわいい。

「もちもちのおまんじゅうみたいなネコチャンかわいい」
「風情がありますねぇ」

 ハーツさんの言葉に全力で同意する。

 わかる。趣きや風情のある丸さだよね。かわいい。

『おやまぁ~、ご主人たらちょっと見ない間に男ぶりが上がったねぇ~。なにかあったのかい~?』

 聞こえた声は、女性……っていうか、かわいいおばちゃんみたいなそんな落ち着く声だった。

 そして、そんなネコチャンに話しかけられたドラゴさんはとても嬉しそうである。

「かわいいねぇ」

 全然答えになってないあたり、もうそれしか言葉が出て来なくなってると見た。

「なるほど、まったり系もちもち猫さんですか」
「かわいいね」

 まったり系もちもち猫さんてなにそれ可愛すぎねェ?
 いいなぁ、ウチのもなんかカスタムしときゃよかった。

『どうしたんだいご主人~。ウチの顔になにかついてるかい~?』
「かわいい」
『褒めたって何も出ないよ~?』
「かわいいからしかたないよね」

 うん、デレデレである。
 そして当のネコチャンもドラゴさんに褒められて嬉しいのかゆっくりと長いしっぽを振っていた。

『それよりも、このべにさんに用があるんだろ~?』
「用だね、あるよ!」

 いや絶対忘れてただろアンタ。

 内心でツッコんだものの、そこでふと気付く。

「あれ、ドラゴさんのマイキャット、べにさんっていうんだ?」

 深めの青、つまり紺色なのに。

 するとドラゴさんはニッコリと、なぜか誇らしげに笑った。

「ううん。正式名は“べにてんぐだけ”さん」
「なぜそんな名をつけた」

 色々とツッコミどころが多くて困るんよ。
 なにがどうしてそうなったん。

「名前付けた頃ちょうど毒キノコにハマってたんだー」
「どういうことなの」
「強そうじゃん?」
「分からんでもないが意味は分からん」
「さすがドラゴさんですねぇ」

 まったりとつくねちゃんを撫で回しながら、ハーツさんが納得したように頷いているが、そういう問題じゃないと思うンよ。

「ねーねーべにさん、所持品の整理させてー」
『はいよー。その間寝てるから好きにおしー』
「わかった!」

 くあっ、とアクビしたべにさんにドラゴさんが近寄って何かをしている。背中の小さな白いリュックの真上の空中をポチポチしていることから、ウインドウでも出ているンだろう。

 なるほどなぁ。

「……んじゃあ、アタシんとこの呼びますか」

 意味もなく呟いて、息を吐く。
 まるで独り言だ。

「よいせ」

 棒を掴んで前後に揺らす。チリンチリーンと音が鳴って、同時に三回目の鳴き声が聞こえた。

『にゃあん!』
「えっ」

 あまりにも予想外な野太い鳴き声に声が漏れる。

「わぁ」
「え」

 さすがのドラゴさんとハーツさんもこちらをガン見していた。

 スタッと優雅に着地したのは、本当に綺麗な猫だった。
 もう、マジで美猫。ゲームで見てた通りの美猫。

 サラツヤの毛並みは銀色で、光に当たるとキラキラと輝いている。モフモフの、とても優雅な長毛種の美猫。瞳は綺麗な黄緑色。めちゃくちゃ美猫。

『あらやだ、なぁに? ご主人ったらめちゃくちゃワタシ好みのイイオトコになってるじゃなぁい!』
「えっ、待って、脳がバグる」

 嬉しそうにフサフサしっぽをゆっくり揺らす美猫だが、それよりも、あの。うん。

 美猫でイケボでその口調ってどういうことなの。なにこれ。どうしてこうなった。

『なによ。どうしたのぉ? アナタの美しいケット・シー、このクリスティーヌを呼んだってことはぁ、なにか用があるんでしょう?』
「あ、うん、用ね、用……ええと、なんだっけ」

 もう、色々なギャップに頭の中がめちゃくちゃである。完全にバグっている。

 クリスティーヌって名前、外見には似合ってるけど、なんか、あの、ええぇぇええ。
 ……あなたオスだったの?

『んふふ、そんなご主人も、カ・ワ・イ・イ~』

 見た目はかわいいし綺麗な美猫なのに、どうしてこんな濃いことになってンすかこの子。

「ユーリャさんのマイキャット、濃いね」
「出オチ感がヤバいですね」

 出オチ言うな。

「え、待って、全くカスタムしてなかったんだけど、デフォルトのケット・シーってこんな感じなん?」
「え、ユーリャさんだからこうなったんじゃない?」
「ひどない?」

 ドラゴさんあとでギルドハウス裏来い。

「とりあえずクリスちゃん、所持品の確認と整理していい?」
『もちろんいいわよぉ。むしろ、もっと色々してもいいのよぉ?』
「あー、うん、また今度ね」
『んふふ、イケズなんだからぁ。そんなトコがイイんだけど……』

 なんか、どうしていいか分からん。
 美猫に好かれるのは悪い気はしないけど、どうしてこんなことになったんだろう。

 遠い目をしつつ、彼……彼女? の背中にある黄緑色した小さなリュックの真上に出たウインドウで、現在マイキャットが何を持っているのか、の確認を始めた。

 ええと、何持たせてたっけ?

 イベント限定非売品の記念家具に、持ちきれなかった防具などの装備、それから、クエストで貰った毒消しや薬草などの初期アイテム……。
 この初期アイテムはなんで残してたンだっけ……。錬金釜合成でなんか作る時に必要だった……ような気がするけどどうだっけか。

 なお、錬金釜とは街のアイテムショップに置いてある、とてもガチャみが強い、アイテム合成の為だけに存在する釜である。
 アイテムとアイテムを釜に入れて起動するだけで何か別のアイテムになるので、いつも所持品欄がピチピチの方々が愛用していた。
 たまにとてもいい性能の何かにグレードアップしてくれたり、逆にゴミみたいな何かになったりとそのギャンブル性から意外とプレイヤーに人気があった。

 その中でも高性能アイテムになりやすいアイテムが、クエストで貰ったりすることでしか手に入らない初期のアイテム、薬草や毒消し、気付け薬なのである。
 ちなみにこれはショップで買える毒消しとは違う非売品なので、クエストをこなしまくって溜め込み、週末に錬金ガチャをする、というプレイヤーは多かった。

 まぁ、アタシもその一人だったンすけども。

『あ、そうそう、ご主人に頼まれてた物も入れといたわよぉ』
「ん? 何頼んでたっけ」
『やだ、忘れたのぉ? サイザル草を頼んでたじゃなぁい』
「あー、ドラゴさんに頼まれてたから頼んだやつか」

 サイザル草はゲームの中ではポピュラーな薬草の一つで、魔法薬や錬金薬を作る際に安定剤として使われている薬剤の主な材料だ。これがないと作れないアイテムだらけになるので、フリマでもそれなりに需要が高かった。
 そして重要なのは、このサイザル草、日本の植物で言うと稲と同じものであるということだ。

「……これ、いつ採取したやつ?」

 所持品欄からサイザル草を取り出してじっと見る。
 笹の葉みたいに表面が鋭い、細長い草だ。そして黄緑色の粒みたいなのが太い茎の隙間から見えている。
 うん、これ、稲だわ。

『昨日よぉ?』
「……え、このへんにサイザル草生えてんの?」
『生えてるわよ?』

 生えてんの?

「ハーツさん聞こえた?」
「はい! ちょっと行ってきます!」
『ボクも行くですー!』

 ばっと立ち上がったハーツさんの肩に、つくねちゃんが飛び乗った。なにそれかわいい。

「つくねちゃん! ハーツさんが迷子にならないように案内頼んだ!」
『言われなくてもやるですー!』

 全力のダッシュで飛び出したハーツさんの背中を見送りながら、ドラゴさんと二人でニッコリ笑いあった。

 米が食えるぞひゃっほう!

 

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