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みんないっしょのなのかめそのにー!
しおりを挟むあまりの酷い扱いにショックを受けたワタナベさんがしばらく口を聞いてくれなかったりもしたけど、朝食の用意が整う頃には普段と同じ態度に戻っていた。
本日の朝食は、昨夜お風呂の後に夕飯で食べた焼いただけの肉の残り鹿肉を、柔らかく煮てスープにしたポトフ的なやつです。
野菜が無くておばあちゃんから貰った薬草だけが肉以外の具である。
早めに調味料何とかしたい。あと野菜。素材の味しかない。美味いけど。
しかし基本的な調理器具は置いてあって助かったよね。
まぁ、作ったのほとんどドラゴさんなんだけども。
薬師のおばあちゃん家でも似たようなことやってたらしくて、めちゃくちゃテキパキ動いてくれた。スープ煮ながら混ぜるくらいしか手伝えなかった。
なお、ハーツさんには食器の用意などのテーブルのセッティングをお願いしました。
ちなみに昨日は地下倉庫からダイニングテーブルと椅子を持って来てくれたよ。有難いね。
『そういえばずっと気になってたんですが、どうして女の子のアバターじゃなかったんです?』
三人でテーブルを囲み、うまうまポトフをむしゃむしゃしていたら、ワタナベさんにそんなことを尋ねられた。
めっちゃ柔らかい肉をもごもごと頬張り、ごっくんと飲み込む。
「あぁ、だって変な奴寄ってきてめんどくさかったから」
そう、実はアタシだって女性キャラで始めなかった訳じゃねェのだ。
『変な奴ですか』
「そう。なんていうか、恋愛目的な奴」
『え、女性が女の子アバター使うとそんなことあるんですか』
あるんだよなァこれが。なんなんだろねアレ。
「あーいるいる。妙にチヤホヤしてきてプレゼントめっちゃしてきて、通話とか無駄にしたがる男キャラ」
「わかる。あとさー、なんか他の女子キャラから変に嫉妬向けられたりするンすよね」
こっちはなんもしてねェのに、ホント迷惑な話よ。
「あー、わかる。姫チャンは私だけでいいのーとか言ってたとか、変な噂流されたりね」
「そんな為にゲームしてねーわってなりますよねぇ」
『はぇー……』
これぞネットゲームの闇だよねぇ。
そういう感じでギルドでトラブルになって、そのまま脱退とかあちこちで聞くんだよね。
人間関係ってただでさえ難しいのに、なんでゲームの中でまでそんなん気にしなきゃならんのか。
それよりもゲームしろよって何度も思った思い出。
まぁ、そんなやつしか居ない訳じゃねェんだが、どうも中身も女性だと知ると優しくしてりゃいつかワンチャン……みたいな空気が出てくる男多いンよな。対人運悪すぎ問題なのかもしれんが、友達なんだから友達でいてェのよアタシぁ。
そういうのもあって男キャラに落ち着いたのである。
「自分は女性キャラ作るより男性キャラの方が自分! って感じしたからメインで使うキャラはそっちにしたー」
『なるほど……?』
ドラゴさんらしいね。
まぁ、このひとの場合は過去に色々あったっぽいからそれも理由な気がするけど、そんな野暮なことは聞かんかったので全然わからん。
これは自論だが、友人の過去ほどの地雷原はないと思ってる。
自分から話してくれるまで待つのが一番良いっしょ。
なお、聞いてもねェしなんならそんな仲良くもねェのに自分の過去を暴露する奴と、言いたくねェのにわざわざ根掘り葉掘り聞いてくる奴にロクなンいねェからな。ただの経験則だけどさ。
「わたしは少々薔薇を嗜んでおりましたので、あのゲームのとあるストーリーのトレーラームービーで一目惚れしたとあるNPCの相手っぽいのが作りたくてこうなりました」
「あー、あの、死んだキャラの」
「出来上がったのはただの地獄でした。ハピエンください」
「しかたないね」
かわいそうに。
とか考えた次の瞬間、ドラゴさんが真顔で口を開いた。
「でもヒーラーで敬語の攻めは美味しいから良いと思う」
「たしかにそれは美味しいですよねぇ」
「ドラゴさんハーツさん帰って来て」
そういう話してないのよ今。
「まぁでも、一番は……同性のケツ見ながらプレイすんのつまんなかっただけな気がするっすわ」
真理だと思う、コレ。
「あー、なんとなくわかる。結局ずっと見てるのってムービーじゃなくて自キャラの背面だもんね」
「何が楽しくて同性のケツばっか見なきゃならんのか」
可愛い女の子キャラ使ってる人を悪く言ってる訳じゃない。これはただの趣味嗜好の問題だ。
可愛い子は正義。ただし、自分は除く。
「それならなるべく好みのキャラ作ってそれ動かしてた方がマシですよねぇ」
「ねー」
三人でうんうんと頷き合い、そして天井を見上げた。
「……まァ、そのせいでこんなことになるなんて思ってなかったンすけどね?」
「まさかこんなことになるとは」
「人生って不思議だねぇ」
真顔である。
三人が見事に真顔をしている。
『その節は本当に申し訳ございませんでした』
ワタナベさんは空中で土下座をしていた。表情や顔立ちは分からんけど動作は分かるンよな、光ってても。
そんなことがあったりしつつ、朝食を終えた。
「はー、美味かった。ごちそうさまでした」
「ごちそーさまでしたー!」
「ごちそうさまでした」
満足げに言いながら席を立つ三人が、食器を持ってキッチンのシンクへと集まる。
三人分だから地味に多いが、食器を洗うアタシと洗ったあとの食器を拭くハーツさんに拭いたあとの食器を片付けるドラゴさん、と流れ作業をしていたらあっという間に片付いてしまった。
分業って重要すね。
「あっ!」
一通り終わった頃にドラゴさんが声をあげる。
なにごとかとドラゴさんを見ると、ポトフが入っていた鍋を持って驚愕していた。
「どしたンすか」
「お昼に食べられるようにポトフ量産したはずなのにもう無くなってる……」
え。
確認の為に鍋の中を覗き込むと、見事にスッカラカンだった。
ドラゴさんがこの反応をしているということは、ドラゴさんは犯人ではない。
そして、アタシにも心当たりはまったくない。
となると残りは一人だけになるわけで。
「…………ハーツさん?」
「ごちそうさまでした。大変美味しかったです」
当の本人は、にっこりと物凄く満足げに笑っていた。
いや何してくれてんねん。
「ちょっとー、どうすんのさ昼飯ー」
「え? まだお肉ありましたよね?」
そういう問題じゃないのよ。
「肉はあるけどさぁ、料理って大変なんだよハーツさん」
「……料理人の職業をカンストさせてたドラゴさんが、大変?」
諭すようなドラゴさんの言葉に、ハーツさんが不思議そうな言葉を返した。
いや、そういう問題でもないと思うンよ。
「ん? あ、そっか、これでレシピ出来たことになるから、次はそのまま簡易製作すればいいのか」
ドラゴさん納得せんでいいから。そういう問題じゃないからマジで。
「いや、そんなことしたら同じ料理ばっかですぐ飽きるっしょ」
「大半わたしの胃に消えるので問題無いと思います」
「いやいやいや問題だわ」
問題しかねェわ。
「たしかに。食料すぐなくなっちゃうよ」
「そっちじゃねェけどそっちも問題だな?」
「え、ユーリャさんの考える問題点はなんなんです?」
ハーツさんの問いに、堂々とした真顔を返しつつ答える。
「アタシらがおかわり出来ねェ」
「それはたしかに問題ですね……!?」
ハーツさんにとってとても共感しやすく、そして重要な部分だったのだろう。
彼は顔色を青ざめさせ、本気でショックを受けていた。
「そうそう、問題だよハーツさん。もうちょっと自重しよ?」
「……そうですね、気を付けます……。おかわり出来ない食事なんて、食事じゃありませんから……」
「うんうん」
ドラゴさんの言葉で、心から反省した様子で謝罪するハーツさんに、ようやく分かってくれたか、と頷いた。
なんか違う気もするけどそういうことにしといてほしい。
アタシだっておかわりしたいのは本音だし、OKだろう。きっと。知らんけど。
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