上 下
55 / 68

みんないっしょのなのかめそのにー!

しおりを挟む
 


 あまりの酷い扱いにショックを受けたワタナベさんがしばらく口を聞いてくれなかったりもしたけど、朝食の用意が整う頃には普段と同じ態度に戻っていた。

 本日の朝食は、昨夜お風呂の後に夕飯で食べた焼いただけの肉の残り鹿肉を、柔らかく煮てスープにしたポトフ的なやつです。
 野菜が無くておばあちゃんから貰った薬草だけが肉以外の具である。
 早めに調味料何とかしたい。あと野菜。素材の味しかない。美味いけど。
 しかし基本的な調理器具は置いてあって助かったよね。
 まぁ、作ったのほとんどドラゴさんなんだけども。

 薬師のおばあちゃん家でも似たようなことやってたらしくて、めちゃくちゃテキパキ動いてくれた。スープ煮ながら混ぜるくらいしか手伝えなかった。

 なお、ハーツさんには食器の用意などのテーブルのセッティングをお願いしました。
 ちなみに昨日は地下倉庫からダイニングテーブルと椅子を持って来てくれたよ。有難いね。

『そういえばずっと気になってたんですが、どうして女の子のアバターじゃなかったんです?』

 三人でテーブルを囲み、うまうまポトフをむしゃむしゃしていたら、ワタナベさんにそんなことを尋ねられた。
 めっちゃ柔らかい肉をもごもごと頬張り、ごっくんと飲み込む。

「あぁ、だって変な奴寄ってきてめんどくさかったから」

 そう、実はアタシだって女性キャラで始めなかった訳じゃねェのだ。

『変な奴ですか』
「そう。なんていうか、恋愛目的な奴」
『え、女性が女の子アバター使うとそんなことあるんですか』

 あるんだよなァこれが。なんなんだろねアレ。

「あーいるいる。妙にチヤホヤしてきてプレゼントめっちゃしてきて、通話とか無駄にしたがる男キャラ」
「わかる。あとさー、なんか他の女子キャラから変に嫉妬向けられたりするンすよね」

 こっちはなんもしてねェのに、ホント迷惑な話よ。

「あー、わかる。姫チャンは私だけでいいのーとか言ってたとか、変な噂流されたりね」
「そんな為にゲームしてねーわってなりますよねぇ」
『はぇー……』

 これぞネットゲームの闇だよねぇ。
 そういう感じでギルドでトラブルになって、そのまま脱退とかあちこちで聞くんだよね。
 人間関係ってただでさえ難しいのに、なんでゲームの中でまでそんなん気にしなきゃならんのか。

 それよりもゲームしろよって何度も思った思い出。

 まぁ、そんなやつしか居ない訳じゃねェんだが、どうも中身も女性だと知ると優しくしてりゃいつかワンチャン……みたいな空気が出てくる男多いンよな。対人運悪すぎ問題なのかもしれんが、友達なんだから友達でいてェのよアタシぁ。

 そういうのもあって男キャラに落ち着いたのである。

「自分は女性キャラ作るより男性キャラの方が自分! って感じしたからメインで使うキャラはそっちにしたー」
『なるほど……?』

 ドラゴさんらしいね。
 まぁ、このひとの場合は過去に色々あったっぽいからそれも理由な気がするけど、そんな野暮なことは聞かんかったので全然わからん。
 これは自論だが、友人の過去ほどの地雷原はないと思ってる。
 自分から話してくれるまで待つのが一番良いっしょ。

 なお、聞いてもねェしなんならそんな仲良くもねェのに自分の過去を暴露する奴と、言いたくねェのにわざわざ根掘り葉掘り聞いてくる奴にロクなンいねェからな。ただの経験則だけどさ。

「わたしは少々薔薇を嗜んでおりましたので、あのゲームのとあるストーリーのトレーラームービーで一目惚れしたとあるNPCの相手っぽいのが作りたくてこうなりました」
「あー、あの、死んだキャラの」
「出来上がったのはただの地獄でした。ハピエンください」
「しかたないね」

 かわいそうに。

 とか考えた次の瞬間、ドラゴさんが真顔で口を開いた。

「でもヒーラーで敬語の攻めは美味しいから良いと思う」
「たしかにそれは美味しいですよねぇ」
「ドラゴさんハーツさん帰って来て」

 そういう話してないのよ今。

「まぁでも、一番は……同性のケツ見ながらプレイすんのつまんなかっただけな気がするっすわ」

 真理だと思う、コレ。

「あー、なんとなくわかる。結局ずっと見てるのってムービーじゃなくて自キャラの背面だもんね」
「何が楽しくて同性のケツばっか見なきゃならんのか」

 可愛い女の子キャラ使ってる人を悪く言ってる訳じゃない。これはただの趣味嗜好の問題だ。
 可愛い子は正義。ただし、自分は除く。

「それならなるべく好みのキャラ作ってそれ動かしてた方がマシですよねぇ」
「ねー」

 三人でうんうんと頷き合い、そして天井を見上げた。

「……まァ、そのせいでこんなことになるなんて思ってなかったンすけどね?」
「まさかこんなことになるとは」
「人生って不思議だねぇ」

 真顔である。
 三人が見事に真顔をしている。

『その節は本当に申し訳ございませんでした』

 ワタナベさんは空中で土下座をしていた。表情や顔立ちは分からんけど動作は分かるンよな、光ってても。


 そんなことがあったりしつつ、朝食を終えた。

「はー、美味かった。ごちそうさまでした」
「ごちそーさまでしたー!」
「ごちそうさまでした」

 満足げに言いながら席を立つ三人が、食器を持ってキッチンのシンクへと集まる。
 三人分だから地味に多いが、食器を洗うアタシと洗ったあとの食器を拭くハーツさんに拭いたあとの食器を片付けるドラゴさん、と流れ作業をしていたらあっという間に片付いてしまった。

 分業って重要すね。

「あっ!」

 一通り終わった頃にドラゴさんが声をあげる。
 なにごとかとドラゴさんを見ると、ポトフが入っていた鍋を持って驚愕していた。

「どしたンすか」
「お昼に食べられるようにポトフ量産したはずなのにもう無くなってる……」

 え。

 確認の為に鍋の中を覗き込むと、見事にスッカラカンだった。
 ドラゴさんがこの反応をしているということは、ドラゴさんは犯人ではない。
 そして、アタシにも心当たりはまったくない。
 となると残りは一人だけになるわけで。

「…………ハーツさん?」
「ごちそうさまでした。大変美味しかったです」

 当の本人は、にっこりと物凄く満足げに笑っていた。

 いや何してくれてんねん。

「ちょっとー、どうすんのさ昼飯ー」
「え? まだお肉ありましたよね?」

 そういう問題じゃないのよ。

「肉はあるけどさぁ、料理って大変なんだよハーツさん」
「……料理人の職業をカンストさせてたドラゴさんが、大変?」

 諭すようなドラゴさんの言葉に、ハーツさんが不思議そうな言葉を返した。

 いや、そういう問題でもないと思うンよ。

「ん? あ、そっか、これでレシピ出来たことになるから、次はそのまま簡易製作すればいいのか」

 ドラゴさん納得せんでいいから。そういう問題じゃないからマジで。

「いや、そんなことしたら同じ料理ばっかですぐ飽きるっしょ」
「大半わたしの胃に消えるので問題無いと思います」
「いやいやいや問題だわ」

 問題しかねェわ。

「たしかに。食料すぐなくなっちゃうよ」
「そっちじゃねェけどそっちも問題だな?」
「え、ユーリャさんの考える問題点はなんなんです?」

 ハーツさんの問いに、堂々とした真顔を返しつつ答える。

「アタシらがおかわり出来ねェ」
「それはたしかに問題ですね……!?」

 ハーツさんにとってとても共感しやすく、そして重要な部分だったのだろう。
 彼は顔色を青ざめさせ、本気でショックを受けていた。

「そうそう、問題だよハーツさん。もうちょっと自重しよ?」
「……そうですね、気を付けます……。おかわり出来ない食事なんて、食事じゃありませんから……」
「うんうん」

 ドラゴさんの言葉で、心から反省した様子で謝罪するハーツさんに、ようやく分かってくれたか、と頷いた。

 なんか違う気もするけどそういうことにしといてほしい。
 アタシだっておかわりしたいのは本音だし、OKだろう。きっと。知らんけど。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...