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みんないっしょのむいかめそのはーち!
しおりを挟む「そんで、アンタらが住んでいい土地なんだけど、三箇所あるみたいだよ」
クレイヤーさんがドラゴさんとハーツさんに髪の毛をガチで毟られそうになって、あまりの恐怖に全力の土下座をしたあと。
村長さんは何も気にした様子のない普段通りの態度で明るくそう言った。
「村長さん、今の見てもなんも思わんのすね」
「まあそりゃね。領主さまは厳しいお人だから、新規参入してくる相手を試すくらいはするさ。なにせ、女の身で領主やってんだ。自己防衛は大事だろ?」
「え、領主さまも女性なんだ」
不思議に思って村長さんに聞いてみたら、地味に予想外な言葉が返ってきて、なんと言うかそれはそれで納得してしまった。
領主っていうと男性、みたいなイメージ強いなやっぱり。自分の中の固定観念ってのァ、なかなかどうにもならんねェ。
「むしろ、領主さまがあたしと同じ女だからこそ、あたしは村長になれたんだよ」
「なるほどなぁ」
どこか誇らしげに胸を張る村長さんに、更に色々納得出来た。
前例があると制度を色々変えやすいのは、どんな世界でも共通なんだろう。知らんけど。
「領主さまは冒険者だからあなた方を試した訳じゃなくて、誰にでも平等に関わる人をふるいにかけるお人なんです」
「でもハゲイヤーさんなんか楽しそうだったよね」
言い訳するみたいに理由を言うクレイヤーさんに、ドラゴさんがジト目で言い放つ。
「クレイヤーです。俺は演技派なんですよ」
「でも腹立つもんは腹立つ」
「すみませんでした……」
真顔のドラゴさんが地味に怖い。仕方ないね。
まァ、ちゃんと謝れるから一応いい人なんだろうとは思う。なんかMっぽいけど。
……謝ってるんだし、いっちょ説得と参りますか。
「あの契約書、もうちょい細かく定義してくれたら許しましょ」
「え?」
「あれ、受ける気なんですかユーリャさん」
不思議そうなドラゴさんとハーツさんの方に向き直り、ピシッと人差し指を立てて説明を始めた。
「よく考えてみ。自分たちの家の周りで魔物がウロウロしてるとして、それほっとく?」
「……あー……」
「鬱陶しいから狩るねぇ」
ハーツさんは思い当たる節があったのか言葉を濁す。そしてドラゴさんはというと呑気にうんうんと頷いた。
ですよね。
「んじゃ、その狩った素材はどうなる?」
「所持品の中で肥やしになる!」
「ほら、もったいないじゃん」
「たしかに」
ていうか肥やしにはならんやろ。そこは埃カブるとか他の表現あるやろ。
「てなワケで、もうちょい、お互い同じくらいに得する内容にして来てくれたら許そう」
「なるほど、かしこまりました」
懐からメモ帳を取り出し、万年筆のような何かでメモを取るクレイヤーさんが、ふと、ドラゴさんへと視線を送った。
「あ、あの、ところで……」
「なにハゲ」
不意に話し掛けられてイラッとしたらしいドラゴさんがぞんざいに返す。
さすがに今回の件は悪いと思っているのか、クレイヤーさんはすまなさそうに眉を下げた。
でもそれただの悪口なんよ。
「すみません、あの、えっと……毛生え薬……」
「……それとこれは別だからちゃんと作るよ」
「ありがとうございます!」
段々と声が小さくなっていくクレイヤーさんに、ドラゴさんは大きなため息を吐いてからめんどくさそうに腕を組んだ。
ほんでクレイヤーさん、なんか嬉しそうにしとるが、アンタそれでええんか?
「……で、住む土地はどこにするんだい?」
村長さんのそんな言葉で本題を思い出す。
忘れるところだったけどその話してたんよねアタシら。村長さんありがとう。
「どれどれ……んー、……村のすみっこと、ちょっと外と、めっちゃ外か……」
机の上に広がっていた書類の上に、いつの間にか周辺の地図が置かれている。それを確認しつつ、顎に手を当てて悩んだ。
ありがたいことに誰だか知らんけど地図に丸を付けて分かりやすくしてくれている。うん、多分これ村長さんだな。ホントありがとうございます。
「どこがいいですかね」
「うーん……」
ハーツさんとドラゴさんの言葉を聞きつつ、みんなで考える。
「村のすみっこはおばあちゃんの家から遠いなぁ」
「あー、そういや薬師のおばあちゃん、ちょっと外に住んでるンすよね」
「そう。薬草が村の外側の環境じゃないと育たないんだって」
地図で見るとたしかにちょうど村の端っこと端っこでだいぶ距離があるように見える。しかも村の形が長方形だからか余計に遠く見えた。
なるほど、そうなると必然的に村の外側か。
“おばあちゃんの家からそんなに離れてないし村にも近い土地”か、“村からは遠いけどおばあちゃんの家からそんなに離れてない森の中の土地”のどちらかになりそうだ。
「わたしはどうせならこのめっちゃ外がいいです」
そう言ってハーツさんが指差したのは、“村からは遠いけどおばあちゃんの家からは離れてない森の中の土地”のほうだった。長いなこれ。
「あー、ハーツさんの療養も考えるとそっちのがいいかも」
「あ、そっか」
ドラゴさんの言葉で、そういえば家用意する目的のひとつがハーツさんの療養だったことを思い出す。
「え、エルフの方、どこか悪いんですか?」
「仕事し過ぎて死にそうだったンすよ」
「エルフなのに!?」
クレイヤーさんが驚きに目を見開き、なかなかのツッコミを見せてくれた。いいツッコミありがとう。
「彼は珍しいコミュニケーション能力が高いエルフなンすわ」
「あぁなるほど……そりゃ仕方ないねぇ。……気の毒に……」
「静かな郊外に来たがるのも納得ですね……。では、この、村から一番遠い森の中の敷地にしますか?」
アタシのテキトーな誤魔化しで簡単に納得してくれた村長さんとクレイヤーさんである。チョロい。まぁ種族以外はほぼ真実だしな。
だってハーツさんオタクに珍しいコミュ強だし。
「そこならおばあちゃんの家も近いし、自分はいいよ!」
「おばあちゃん家の隣だとハーツさんが仕事しなきゃってなって休めないかもしれんし、なるべく人が来ない所がいいからちょうどいいっすね」
「森の中でスローライフ最高ですね」
それぞれが好き勝手に言いながらサクッと決める。なおハーツさんは目が死んでいた。しかたないね。
「わかりました。そこは元々領主館があった場所なのですが、森の奥に低級ダンジョンが発生したことで閉鎖になったという経緯があります」
「はぇー、ダンジョンかぁ」
「とはいえ、戦闘力のない村人ではない冒険者であるあなた方でしたら問題ないでしょう」
あー、なるほど。
「つまり、それなりに危険な場所なンすね」
「俺なら絶対そこに住まないような場所を進んで選ぶあたり、さすが冒険者です」
それ褒めてンの? 貶してンの?
「つまりこれ、村の外側であればあるほど魔物の討伐難易度高いってことですか?」
「その分森の奥になっていきますから、必然ですよ。それでも本当にここを選ぶんですか?」
最後の確認としてちゃんと必要な情報を言ってくれるあたり、性格は悪くても仕事はキッチリな、地味に損するタイプぽいクレイヤーさんである。
真剣な顔してるけど、まあなんとかなるやろ。
「うん、この村から一番遠いところがいいっす」
「そうですね、素材もレベル高いの多そうですし」
「おばあちゃんの家が真っ先に狙われる状態、よくないしね」
「……わかりました。ではこの書類に署名をお願いします」
クレイヤーさんから、三人のあまりの軽さに何か言おうとしてやめた気配がものすごくしたが、気にせず三人で必要書類に署名していく。なお、ペンはクレイヤーさんが貸してくれた。
「………………よし、みんな書いたね? これでいいです?」
「確認しました。では、ドラゴ・アイスさん、フレア・ハーツさん、ユーリャ・ナーガさん。あなた方は本日より冒険者兼村人です。せいぜい頑張ってください」
やっぱ性格悪いなこのハゲ。
「では、俺はこれで」
「ハゲどこ行くの?」
「報告の為に帰るんです、ていうかそれただの悪口ですよね!?」
悪口っすねェ。
「クライマーさん、次はいつごろ来られるんです?」
「クレイヤーです。次は来月の中頃に書類持って様子を見に来ますのでそれまで頑張って整地したりなんだりしててください」
「なるほど、わかりましたクライマーさん」
ハーツさんもうこれ名前覚える気ねェな。
「じゃーねーハゲ!」
「クレイヤーです! 絶対薬作れよアンタ!」
「はーい!」
いや、……なんかめっちゃ良いお返事してっけど、ホントに作る気あるンかなドラゴさん……。
そんな感じのやりとりをして、クレイヤーさんは帰って行ったのだった。
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