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みんないっしょのむいかめそのよーん!
しおりを挟む「ていうか、それよりも気になってることあるんすけど」
「分かる。あれでしょ」
「あれですよね」
空中に浮き出たステータス画面を三人ともがそれぞれ眺めつつ、呟いた。
「レベルっすよね」
「レベルですよね」
「レベルだよね」
上からアタシ、ハーツさん、ドラゴさんである。
「ゲームだと確か上限が99だったっすね」
「そう、だからなんもすることなくて三人で高難易度コンテンツばっかり行ってたんですよね」
「自分はアイテム製作ばっかもしてた」
「それを言ったらわたし採掘とか採取とか漁もしてましたよ」
記憶を辿れば、ワタナベさんはアタシらのことを“レベルが高い”とは言ってたけど、“カンストしてる”とは言ったことがない。ということはつまり、そういうことなんだろう。
なお職業レベルとこっちのレベルは完全に別物で、簡単に言うなら職業レベルというものは練度というか、完全に独立した職業に対するレベルだったりする。
「でもそれ、このステータス画面には出てないっすね」
『それはこの紋章が戦闘に関するステータス画面だけに接続されてるので、それしか表示されてないんですよ』
なるほど。冒険者と言えば探索、探索といえば戦闘だから仕方ないのかもしれない。
「じゃあ生産職系は?」
『ゲームのメニュー画面を出して、自分の名前のところを長押しするともっと細かいステータスが見られますよ!』
「長押し」
「スマホかよ」
「草」
それぞれ納得したところで、もう一度紋章から出てるステータス画面に視線を送る。
『あれ、見ないんです?』
「ラノベでもステータスの表示とか飛ばし読みしてたし、ゲームでも気にしたことなかったから、良いかなって」
「わかる。わたしも新しい装備手に入った時すら最強装備ボタン押して終わらせてました」
「数字で出されても意味わからんすもんね」
「ねー」
ステータス出されてもイマイチ分からんからね。DEXが685とか言われても、それよりギミック覚えてどれだけ正確に避けられるか、スキル回し完璧にしてどれだけ高火力が出せるか、どれだけ短時間で攻撃を叩き込めるかとかが重要だし。
とか考えていたら、ふとドラゴさんが何かに気付いてしまった。
「……ん? え、じゃあワタナベの輝きって加護、戦闘系なの?」
『戦闘中はきっとめっちゃカッコイイでしょうから、すごく輝けますね!』
「なにそれやだ」
「目がチカチカしそう」
戦闘中に輝かそうとすんなよ。どうすんだよそれ。
「前向きに考えましょうよ二人とも。洞窟とかで戦闘すれば光源が要らなくなりますよきっと」
「そんな光られたらめちゃくちゃ目立つじゃん」
「草」
めっちゃ敵寄ってきそうだよね洞窟なんかで光ったら。あと隠密行動出来んすわそれ。まじどうすんの。
「そんなことよりレベルなんだよ」
「あ、そうそう、レベル」
「レベルレベル」
なんかレベルって言いすぎて脳内で文字が崩壊してきたな……。一回落ち着けアタシ。
「ねェワタナベさん、この255って上限?」
『そうですよ。255までレベル上げられます』
改めて問い掛けるドラゴさんに、ワタナベさんが頷きつつ答えてくれた。
そして、その答えはアタシらゲーマーにとって、とてつもなく価値のあるものだった。
「やっっったーーー!!」
「よっっっしゃあアアア!!」
「これで……ようやく……!」
両手を突き上げ喜ぶドラゴさんに、ガッツポーズで叫ぶアタシ。
それから、天を仰いで目頭を押さえるハーツさん。
そしてそんなアタシらに戸惑うワタナベさんである。
『な、なんですか皆さん、どうしたんですか』
「どうしたもこうしたも! レベル上げ出来るってめちゃくちゃ嬉しいんすよ!?」
『そ、そうなんですか?』
そうなんだよ!
「毎日インしては、まったり素材を採取してもらって装備作るだけの日々……」
「繰り返し同じようなコンテンツを周回して、もう目を瞑っても躱せる作業と化したギミック……」
「その全てからおサラバなんですね……!」
過去を思い返して出てない涙を拭う三人に、何故かワタナベさんが引いていた。
『ガチ勢ってそんな感じなんだぁ……』
いやなんでお前が引いてんだ。失礼な。
ちなみに真のガチ勢はアタシらみてーに生ぬるくねーから。もっとヤベー奴めっちゃいるっつーの。
「そりゃそうだよ。次のパッチでの拡張がいつになるか分からんし、それがあってもすぐ終わらせちゃうし、楽しいけど脳死状態というか」
「255なんて、めっちゃレベル上げられるじゃん。レベル上がるってことは新しい技が増えるし、着られる装備も増えるってことすよね」
「ですねぇ」
たのしみー、とほくほくしている三人に、ワタナベさんはバツが悪そうに口を開いた。
『あの、喜んでいるところで水を差したくはないんですが、一応言いますね。ここ、ゲームじゃないので、技とか装備とか、作るのは全部あなた方になります……』
「………………えっ」
「それはどういう……?」
ちょっと言ってる意味が分からんすけど、どういうことかねそれ。
『まずこの世界の、世間一般的なレベルの上限は50とされています』
「へ?」
ドラゴさんが素っ頓狂な声を上げた。しかしその気持ちが凄くわかる。
えっ、上限に対してそれは低くない?
なんで技とか装備とか存在してないの?
『上限は255なんですが、そこまで辿り着く前に寿命その他もろもろで死ぬ人が多いんですよ。だからこそ、50の壁と呼ばれていて、そこを越えるのが本当に難しいそうなんです。
ちなみにそれを越えると超越者と呼ばれて、国からも神に選ばれし勇者とか言われて、なんかめんどくさいことになります』
え、まじでか。
『一番長生きなエルフの中でレベルの高い人でも70までで頭打ちなんです』
エルフでも70……?
え、エルフってファンタジー世界じゃ相当長生きだよね?
それでもそんなにレベル上がらないのはおかしくない?
「……えぇと」
「つまりこの世界って、あのゲームで一番最初のパッチで上限だったレベル50で止まってて、凄いヒトでもレベル70ってことすか?」
『少し違います』
「え」
違うの?
『この世界の平均レベルは25で、凄い人が50、それ以上はエルフやその他の寿命が長い種族しか居ないけど、それでも上限が70なんです』
はァ!?
「どうしてそんなことに!?」
「何があったんすかこの世界」
『なんかちょっと目を離した隙に衰退してました』
「お前のせいじゃねェか」
衰退させてんじゃねェよ。にも関わらずなに他人事みたいに言ってんだお前。
『仕方ないんです。推しの雷神トーリェンダーさんが引きこもって出て来なくなっちゃって、神界大騒ぎだったんですから』
「いやなんも仕方なくねェだろ……」
なに言ってんだお前……。
「いや、推しは仕方ない」
「推しは仕方ないですね」
「えっ、責めてんのアタシだけ?」
推しって仕方ないものなの? 実はアタシそういうの居ねェからよく分からんのだが。
しかしハーツさんとドラゴさんには推しが居るらしい。多分アタシの知らん作品の知らん奴なんだろう。
「一旦推しは置いといてもらっていいっすか」
「推しは置いとくもんじゃなくて愛でるもんなんだよ」
「アッハイ」
ドラゴさんの目が怖い。白目が黒いから余計に怖い。
「で、何の話でしたっけ?」
「えぇと、レベルの話っす」
ハーツさんナイス助け舟である。
『御三方のレベル、この世界じゃ高過ぎるんですよね……』
「そう、それ。完全にチートっすよコレ、どーすんすか」
「ラノベでよくある、クソ設定の最強チートみたいな、マジでそんなんになってますねぇ」
「すっげぇヤなんすけどそれ」
もうちょい別の表現なかったんすか。
しかしハーツさんがそういうラノベを読んでいるということは分かった。
「自分あぁいう苦労知らずみたいなの好きじゃない」
「気持ちは分かる」
うんうん、レベルは着実に上げていくものだよね。
でもドラゴさん、前に職業レベル上げるのめんどくさがって、課金でレベルを買ったこと、アタシは覚えてるよ。
「楽して最強とか、どう考えても対価ヤバそうですよね。人間性とか持ってかれてる気がします」
「ヒェッ」
「こわっ」
疑いの目で、フワフワ浮きながら光り輝くワタナベさんを三人で見つめると、当のワタナベさんから苦笑とも微笑とも取れる声が聞こえて来た。
『わたくしたち神々があなた方に望むのは……歌って踊って戦って、カッコよく過ごすあなた方を撮らせて頂いて、それをキャーキャー愛でさせてもらうことだけですので、どうぞご安心ください……』
「いやそれはそれでどうなの」
キモイんすけど。
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