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みんないっしょのむいかめそのさーん!
しおりを挟むワタナベさんが叩き落とされてピクピクしてる床を見て、モティさんが不思議そうに首を傾げていることから考えると、やっぱりあの存在はアタシら以外にゃ認識出来んらしいと再確認した。
見えてないならその方がいい気はとてもする。あいつ無駄に眩しいから直視したくないし。目ェ痛くなるんすよねマジで。
「……まあいいや、それで、鍵になる言葉だけど“開示”とか“情報”そういう意味の言葉だったらなんでも大丈夫だよ。ちゃんと自分にしか見えない仕様だから安心してね」
よく分からないことはスルー。大事だよね。うん。
しかしなるほど。
紋章に魔力を通して、鍵になる言葉を唱えるとステータスをオープンさせられるのか。
冒険者たちの成長の指針とかそういうのになってんすかね。まだどういう風に表示されるんか知らんからなんも分からんけど。
「え、でもこれ、冒険者協会に情報が行ったりしてないんです?」
「本当は一応来てるらしいけどもうめっちゃ昔に消失したからねぇ~、外部から見る方法。エルフとかハイエルフなら知ってるかもだけど、知っての通りエルフって口下手で引きこもりじゃん? あと専門知識多過ぎて何言ってんのかさっぱり分かんないから誰も理解できないし、ハイエルフなんてほとんど伝説だし」
「なるほど?」
ハーツさんの鋭い質問で、新たな事実が判明した。エルフってそんな種族なんすね。草。
「ふむ、ということはつまりロストテクノロジーなんですね」
「あ~、出たよエルフの専門用語~。もう何語かもわかんないやつ~。知識はすごいんだけどモティそういうの苦手なんだよなぁ~」
「いや草」
エルフに対する認識がファンタジー的世界観から逸脱してんのマジで草なんだが。
『この世界のエルフは、コミュ障口下手引きこもりの知識オタクばかりです。なので、ハーツさんに対するイメージも珍しくコミュ力ある変わったエルフだと思われてるのだと思います』
いつの間にか復活していたワタナベさんの補足説明である。
まじかぁ。
「あ、そういえば魔力の流し方分かんないひととかいる?」
「はいはーい!」
「わあ良いお返事」
モティさんの呼びかけにドラゴさんが元気よく片手を上げた。
見掛けがワイルドなおっさんの良いお返事ってなかなかシュールだな。
「ドラゴさんはタンクなんで、魔法とかあんまり使わないんですよ」
「前衛ってこと? まぁ、魔法だけに魔力を使うわけじゃないけど、無意識に使ってるタイプならよくあるよねぇ~」
「暗に脳筋って言われてて草」
「ひどくない?」
ハーツさんの説明に納得するモティさんと、冷静に感想を口にするアタシと、それに反応する真顔のドラゴさんである。
ひどくはない。
「ユーリャさんが教えてても良さそうなものだけど……」
「やー、アタシも魔力がどれかわかんなくて」
「天才肌タイプかー。ハーツさんは……エルフだしなぁ」
「え」
その理由は草過ぎる。
「じゃあ簡単に説明するね~」
「はーい!」
モティさんの呼びかけにドラゴさんが元気なお返事しつつ、なぜか三人ともが正座で聞く姿勢である。
つーかドラゴさんマジ良いお返事だな。小学生かな。
「まず外部からの刺激を遮断するために目を閉じて~、その時に自分の中にモヤみたいなのがあるでしょ?」
「血液なら分かる!」
なるほどなるほど。そういう感じか。
言われたように体内の雰囲気を探ったら、たしかになんかあったのでこれが多分魔力だろう。なおハーツさんもなんとなく理解したのか納得顔である。
そんでドラゴさんはさすがって感じである。
「いやむしろなんでそっちが分かるの。まあいいや、それ以外になんかあるでしょ?」
「んー? んんんんん……」
うまく見つけられないのか、ドラゴさんが唸っている。
ドラゴさんって基本が感覚タイプだから仕方ない気はする。
「あ、この湿気みたいなやつ?」
「そっちは魔力じゃなくて気力かな」
「んんんんん……? あ、わかった、この空気みたいなやつ?」
「それそれ」
いや、どれ。
え、魔力ってそんな感じ?
それとも感じ方って人それぞれ?
「それ動かせるから、動かしてみて」
「こう?」
「そうそう」
いやなんで出来てんの。
あ、でもたしかに動かせそう。
「したらそれを手の紋章のとこまで持ってってみて」
「んんんんん……難しいねぇ……」
「待ってドラゴさんそんな量要らないから、もっと少なくていいから」
「できたぁ!」
モティさんが頑張って忠告してくれたのでハーツさんもアタシも直前で止めたが、ドラゴさんはさすがのドラゴさんというか、そのままやってしまって、なんというか、紋章が大発光した。
効果音を付けるなら、ゴッ! とか、ビッカアアア! とかそんなごつい光り方である。
「うわあああああああ目がああああああああぁぁぁあ痛!!」
直視してしまった可哀想なモティさんが床をゴロゴロと転がって、ズゴンというとても痛そうな音と共に壁にぶつかって止まった。
「……こうなる気はしてた」
「同じくです」
その日、冒険者協会からの謎の発光現象に対する通報が相次いだそうな。
目ェ閉じててよかったー。
そんな感じに色々なにかしら起きはしたけど、なにはともあれ大体のことを終えた三人は、村へ帰る前にみんなに買うお土産を見に行き、どれも気に入らなかったドラゴさんが材料買って自分で作り始めたりということがありつつ、お昼前にはトトラ村へと帰還を開始した。
「そういや、うやむやになっちゃったけど皆ステータス見た?」
「見てねっすわ」
「見てないですねぇー」
ほてほて歩きながらの会話である。走っても良いけど、街が見えなくなってからの方がいいだろうってことで今は歩いていた。まだ街が見えてんなぁ。
「一応見とく?」
「確認しときましょうか」
「そーね」
そんな軽い感じでステータスをオープンして確認してみることになった。
魔力とやらを動かしつつ考える。
えーと、魔力は少しでいいんだっけか。こんな感じかな……、で、なんだっけ。
「情報開示?」
疑問形ながらも唱えると、紋章が緩く明滅してから、古いパソコンに電源を入れた時のような、ヴンッ、という音と共に半透明の画面のようなものが紋章から映し出された。
──────────────
名前:ユーリャ・ナーガ
年齢:六日
種族:神獣
性別:男
Lv:99/255
職業:吟遊詩人(LvMax)狩人(LvMax)弓術士(LvMax)ガンナー(LvMax)暗器使い(LvMax)忍者(LvMax)
常時スキル:言語理解、状態異常無効
加護:ワタナベの輝き
──────────────
「いや草」
「ねぇ、なんか変な加護ついてる」
「なんですかこれ」
『カッコつけたり、写真撮ったりしてる時になんかキラキラします!』
なんかキラキラすんのかよ。
「なんの意味があるんですか」
『カッコイイですよ!』
「エフェクト付けられてんのまじ草なんだが」
つーか何してくれてんだ。
職業欄がカンストしてんのはゲームで頑張った結果だから分かるとして、何この加護。
「……ねぇねぇ、なんか自分、種族のところにエンシェントドラゴニアって書いてあるんだけど……」
「わたしのところはエンシェントハイエルフって書いてます……」
「アタシんとこは………………なんか……神獣って書いてる……」
ドラゴさんがふと気づいてしまったことで、三人のそれぞれの種族がヤバいことになってるのに気づいてしまった。加護に誤魔化されてたけどなにこれ。なにが起きてるの。
『エンシェントドラゴニアは簡単に言うと龍神の眷属ですね! それからエンシェントハイエルフはエルフの祖と呼ばれてる森の神が一番最初に作った眷属です。神獣は戦いの神々に仕えてた獣の眷属ですね!』
ドヤ顔してそうな感じで答えるワタナベさんを叩き落としたい。
「…………いや、なにそれ」
「あの、どうしてそんなことに」
「すごく中二病っぽい」
「わかる」
なんというか、ドン引きである。他人なら笑えるけど、自分がソレなんてまったく笑えない。
神の眷属って明らかに“ヒト”から逸脱してんじゃん。
中学生の、ぼくがかんがえたさいきょうのせってい、みたいなそんな、なんか、アレな感じにしか思えない。
『仕方ないじゃないですか。神々のための偶像アイドルとして作った肉体なんですからそりゃそうなりますよ』
「あー……なるほど……」
改めて納得してしまった。
正式にこの世界で生まれ育った訳じゃなく、神様が作った肉体だったからこうなったのか……。
魂だけ転移したからか肉体年齢が六日なのがその証拠なんだろう。
『あ、そうそう、寿命無いんでご注意ください』
「それは早く言って」
「うそでしょ」
「情報の後出しがひどい」
『てへ』
いい加減シバくぞテメェ。
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