上 下
37 / 68

みんないっしょのいつかめそのよーん!

しおりを挟む
 



「本当に申し訳ございませんでした」

 なんか知らんが冒険者組合の受付のお兄さんに全力の謝罪をされてしまった。
 まぁ、理由はドラゴさんが通報された結果出てたあの調査依頼が取り下げられてたことなんだけど。
 実はこれがちょっとした騒ぎになってたらしい。

「早めに戻って下さって本当に良かったです……、あなたが依頼を受けたすぐあとに取り下げになってしまって……」
「あー、なるほど」

 騒ぎとは言っても、信用に関わる問題だからとここの支部長がプンプンしてた、ってくらいらしいけど、受付や他の組合員さんからすれば大変なわけで。まぁ、仕方ねェやな。

 ちなみに、ドラゴさんは保護した希少種族だと門番さんが判断してくれたので特に問題なく普通に街に入れました。残り全員冒険者だしね。

 そんなわけで、冒険者組合にやって来たらこれである。

「そういうことはたまにあるんですけど、それでもやはり問題ではありますので……、ただでさえとある事件のせいで支部長から色々言われてたのに……」
「そうなんすねー」

 お兄さんの相手というか、ちょっとした愚痴みたいなのを聞きつつ、何かの書類を渡された。
 書いてあることを読むに、同意書というかなんかそんなやつっぽいんだけど、なんかこれを書くとお金が貰えるらしい。

「うーん、でも受けた依頼、該当の人物が知り合いだった場合は無報酬、って前提なんすよ」
「その場合でも依頼を受けたことには変わりないので、保証金が出ます」

 書類をよく確認すると、受けた依頼金の半分が保証金として払われるらしいことが分かる。え、これいいの?

「なんかそれはそれで申し訳ないっすね」
「そこは信用問題なので受け取ってください」
「じゃあとりあえず受け取っときます」

 信用問題なら仕方ねェやな。

「では、ユーリャ・ナーガさま名義の冒険者組合口座に入れておきますね。引き出すのは冒険者組合の支部か、出張所、または役所、役場で出来ますので」
「え、口座作った覚えないんすけど」
「冒険者組合では報酬の受け取りに組合口座を使用しておりますので、登録の際に皆さん自動で作られているんです」
「なるほどー、そういえば説明された気がする」
「細かい規定って忘れちゃいますからね。良ければこちらの冊子をどうぞ」
「ありがたく貰っときます」

 渡された冊子をポケットに入れるように見せかけてアイテム欄にぶち込みながら、同意署名として書類に名前を書く。
 筆記体にも似たその文字は改めて見ても、明らかに見たことないもので、ホントに異世界来たんだなぁと思ってしまった。

 そして、今後はきっと日本人として生まれ育ち、使っていた慣れ親しんだ“永見 結莉弥なまえ”も使うことが無いんだろうと考えると、ちょっとしんみりしてしまった。
 しゃーないとはいえ、寂しいもんは寂しいわけで。

 ……そういえばあの二人はどう思ってるんだろう。
 ミルガイン君がいるところでそういう話は出来ないから、正直二人がどう思っているのか、予想しか出来ない。

 ミルガイン君に三人の事情を話すのはまだ早計な気がするし、それこそどこかでちゃんと三人で話し合わないとアカンすよね。

 書類を書き終え、一通りやること全部終わらせたら、ふと周囲が騒がしいことに気付いた。
 なんだなんだと辺りを見回す。

「いやー、ホントにイイ筋肉だよね、どうやって鍛えてるの?」
「特になんもしてないよ?」
「またまたー! モティには分かるよ! これは一朝一夕で手に入る筋肉じゃない!」

 まって、なんかドラゴさんが黄緑色した派手なイケオジに絡まれてるんすけど、なにこれ。

「やっぱ大豆? あ、それともルルソン肉?」
「ルルソン肉ってどんなやつ?」
「高タンパク低カロリーな、筋肉野郎御用達の鳥の肉だよー。アビャビャって変な鳴き声で鳴くのと、鳥類では最大であんまり鳥っぽくないのが特徴でめっちゃ美味しいんだけど、山奥とかにしか居ないんだー。依頼なんて毎日出てるよ!」

 なにそのボディビルダーのために生まれたみたいな鳥。

「えっ、あの鳥そんな名前だったんだ」

 そんな中ぽそっと呟いたのはハーツさんだ。

 いやまってハーツさん心当たりあるの? え、食ったの?

「へぇー、見付けたら焼き鳥にしなきゃ。あ、鍋もいいなぁ……」

 そしてドラゴさんはいつも通りである。
 いや、めっちゃ背中とか腹筋とか二の腕とかぺたぺた触られてるけど良いのアレ。そんでドラゴさんなんで服作る時の採寸されてる人みたいなTの字の姿勢で止まってんの。黄緑色の人めっちゃ触りやすそうだけどさ。

 ミルガイン君は、……なんだあの顔。なんか、感情が読めない顔してる。なんかをめっちゃ我慢してる顔には見える気がするけど、なんだアレ。

 まぁ、考えていても仕方ないし、とりあえず声をかけてみるとしよう。

「おおーい、みんなー、なにしてんすかー」
「あ、ユーリャさんおかえりー」
「終わったんですか?」

 黄緑色のイケオジに色々言われながらぺたぺた触られつつ出迎えてくれるドラゴさんと、なんか普通なハーツさん。なにこれどういう状況。

「うん、こっちは滞りなく終わったすけど、そっちは? ドラゴさんの登録とキトさんへの証明どうなったんすか?」
「はい、こちらも滞りなく終わりましたよ。キトさんは“なんや紛らわしわ!”って捨て台詞吐いてどっか行きました。でもなんか、全部終わったら支部長のモティさんに捕まっちゃいまして」

 どうやら、ドラゴさんの筋肉を眺めたり触ったりしているイケオジは、ハーツさんの知っている人らしい。
 え、なんで止めないの。

「この人、ここの偉い人なの?」
「らしいです」

 偉い人なら止められないか。…………いや、それでもドラゴさんは気にしようよ。なんでそんな平気なの。セクハラじゃないのそれ。そろそろTの字やめよ?

 そんなこと考えてたら目の前にひょっこりその黄緑色のイケオジが、ちょっと興奮気味にやってきた。

「へぇー! この人もハーツさんの仲間? いいねぇ、こっちのチャラそうな方はハーツさんと同じで着痩せするタイプっぽい! でもちょっと細いかなぁ!」
「この人何の話してんすか」
「主に筋肉ですね」
「なんで?」

 話が全く読めなくてさっぱり意味がわからんのんすけど。

「あ、気になっちゃいますよねぇ! 実はモティ、筋肉が付きづらい種族なんです! だから筋肉への憧れが強くて、いい筋肉してる人見るとモティはこうなるんです!」

 いや、そんなドヤ顔で言われてもそれ、セクハラじゃないんすか。本人全く気にしてないぽいからセーフだけどさ。
 しかし、異様にドラゴさんをぺたぺたしてると思ったら筋肉触ってたんか。なるほど。それは仕方ない気がする。ドラゴさん無駄にいい筋肉っすもんね。
 ……いや、仕方なくはないけど仕方ない……訳分からんなってきたな?

「え、鳥獣人って筋肉付きにくかったっけ?」
「鳥獣人は鳥獣人でもモティは小型種族なんだよー」
「あぁ、なるほど」

 鳥獣人って鷹とか白鳥とかの大型からインコやスズメみたいな小型までいるからなぁ。確かに体格や筋力に違いはありそう。

「そんなわけで、この人の筋肉とか体格の凄さとこの絶妙なバランスにハスハスしてるんですよー!」

 モティさんとやらの言葉で、色々と納得した。

「あー、ドラゴさん、すげェ逆三角っすもんね」
「そうなんですよ! ここまでの筋肉をつけながら、腰の細さを保ってるなんて、なかなか出来ることじゃないですよ! しかもそれが全然キモくない!」
「分かります!!!」

 ものすごく真剣な顔でものすごく急に話に入ってきたミルガイン君に、さすがにちょっとビビる。

「ミルガイン君どうした」
「ずっとずっと気になってたんです、どうしたらそんな筋肉を維持出来るんだろうって!」
「お、おう」

 なんか語り始めたけど、そういえばこの子筋肉が憧れとか言ってたな?

「分かる! トレーニングじゃ作れない、普段から使ってるからこその筋肉だよね! つまり、長年の蓄積! 種族的な体格ってのも少しはあるだろうけど、それ以上の自然さ!」
「はい! 人間族には出せないこの絶妙な角度!」
「チッチッチッ、実はこれ、鍛え方次第では人間族でも出せるんだなぁ」

 モティさんの情報は、ミルガイン君にとって衝撃の事実だったようだ。
 驚愕に目を見開き、興奮気味にモティさんへと詰め寄るミルガイン君。

「出せるんですか!?」

 その様子を見て、モティさんは不敵に笑った。ニヒルな笑みだった。

「出したい?」
「出したいです……!」

 真剣な表情でモティさんを見つめるミルガイン君と、同じくらいには真剣な表情でミルガイン君を見つめるモティさん。
 甘い雰囲気や、たるんだ空気など一切無い。そこにあるのは筋肉に対する情熱だけ。

「そっか、わかった。モティの修行は厳しいよ?」
「耐えてみせます、そして、あの逆三角を手に入れてみせる……!」

 そんなミルガイン君とモティさんのやり取りを、周囲は固唾を飲んで見守っていた。

「なにこれ」
「さあ?」
「お腹空きましたねぇ」

 巻き込まれたアタシらはというと、正直どうでもよかったのでボーッと見ているだけだった。

 全然わからんのんすけど、なにこれ。


 

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~

斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている 酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...