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みんないっしょのよっかめそのさーん!
しおりを挟む「おれ、ばあちゃんとこ行ってどうなったか言ってくる!」
「わ、わたし、村長さんに知らせてくる……!」
「じゃあ、あたしはうわさ好きのおばさんのところに行ってみる。上手くいけば情報が村じゅうにひろがるはずよ!」
アタシらがドラゴさんの仲間だと発覚したからか、子供たちは情報伝達のため、それぞれそう言って三方向にパーッと散らばってしまった。
さすが子供、自由である。
「いってらー」
テキトーに手を振りながら見送り、そしてドラゴさんとハーツさんに向き直る。
なんというか、三人揃うと感慨深い。
たった四日とはいえ、離れ離れになってたからね。
「いやー、しかし、みんな見事にイケオジだね」
「つーかドラゴさん背ェ高すぎん?」
「わたしも無駄に高いけど、それ以上ありますねぇ」
いつも通りの、グダグダな会話が始まった。
「ユーリャさん猫耳とツムジ見える」
「そりゃ見えるでしょうよ」
「ユーリャさん目ェ開いてなくない?」
「うっすら開けてますよ、見えんもん」
ドラゴさんの顔見るのに帽子が邪魔だから取ったらこれである。
「ハーツさん耳長くない?」
「エルフですから」
「ユーリャさんツムジ押していい?」
「やだ」
ツムジを守るために帽子をかぶる。これでツムジは守られた。
しかしおかげでドラゴさん腰しか見えん。
「ドラゴさん腰細過ぎん?」
「龍人だもん」
そういやそうか。
「あの」
「どしたんミルガイン君」
「紹介して頂いてよろしいですか」
苦笑しながらミルガイン君からそう言われて、そこでやっと思い出した。ごめんミルガイン君。
「あ、忘れてた」
「ドラゴ・アイスです。よろしくお願いします」
ハーツさんも忘れてたらしい。さすがハーツさんである。
そして気にせず名乗るドラゴさん。みんなマジでマイペースだな。
「ミルガインと申します」
「ユーリャさん、ハーツさん、だめだよ女の子拉致しちゃ」
「してねぇわ」
アタシらをなんだと思ってんだ。
「残念ながらオトコの娘ですよ彼」
「どうして会う人会う人みんな僕を女の子だと思うんですか……たしかに軟弱で小柄ですけど……」
「へー、そうなんだー」
落ち込むミルガイン君と、まったく気にしていないドラゴさんの対比がすごい。
ていうかドラゴさん、感想それだけ?
「筋肉でもつければいいんじゃないですか」
「あー、たしかに。筋肉あるだけで一気に男っぽくなるもんね」
「……でも僕、神官ですし」
もっともな意見を出すハーツさんに、軽く同意するドラゴさん。そしてそれを聞いてなぜかしょんぼりするミルガイン君。
んー?
「え、神官って槍術士か剣士か取ったら派生で僧兵にもなれやせんでしたっけ」
「そういや、なれた気がする」
「ありましたねぇそんなの」
たしか、ハーツさんがゲームでやろうとして、自キャラの外見が変わりそうってんでやめたんじゃなかったっけ。
「えっ? そうなんですか!?」
「こっちにはないの?」
ゲームだと結構な人がやってたけど、だいたい筋肉増えてた気がするなぁ。
「いえ、派生職業は口伝でしか伝わってなくて、ほとんどが噂とかそんなのしか……」
「あー、つまり、そんなに正確じゃないのか」
吟遊詩人と同じことがここでも起きてんすね。仕方ないね。
「大変だねー」
「ねー」
テキトーに言ったら、ドラゴさんもノってくれる。
あー、このノリ久しぶりだ。
「しかしなるほど、前衛職を少しかじれば別の職業が出て来るんですか……」
「僧兵なら回復も出来るから、筋肉も鍛えやすくなるんじゃない?」
よっぽど筋肉が付きにくい種族以外はだいたいムキムキになってたよ、僧兵。
「ありがとうございます。ちょっと検討してみます」
「え、筋肉付ける気なん?」
「筋肉、憧れなんです」
あー、憧れかぁ。
「なるほど。じゃあ仕方ない」
「応援するよ」
「頑張ってください」
「ありがとうございます!」
どうなるかは全然保証出来んすけどね!
決意を新たにするミルガイン君を横目に、ふとドラゴさんが首を傾げた。あざとい。
「そういやみんな、今日はどうすんの? 野宿?」
「まあ、宿とかあるならそこ行きますが、無さそうだし、野宿かな」
今から街まで行っても良いけど、多分門閉まってるだろうから、結局野宿になると思うんすよね。
「ふんふん。それなら、自分が滞在してるおばあちゃん家のまわりに野宿するといいよ」
「あー、じゃあ許可貰わんと」
「ついでに村長さんに挨拶も行かなきゃですね」
「たしかに」
滞在するなら一応ご挨拶せんと、ドラゴさんみたいに通報されちゃうすもんね。
そんな訳で、ドラゴさんの、若干というか大分不安な案内で村長さんの所へ行くことになった。
ドラゴさんでも案内出来るくらい小さな村で、本当に良かったと思う。
辿り着いた家からはトンテンカンと聞こえていて、ドラゴさんのことを若干疑ってしまったけど、どうやら奥さんの方が村長をしているらしいとよく聞いたら理解出来た。
ドラゴさんなので仕方ないね。
なおミルガイン君にはおばあちゃんの家の周辺で、野宿にちょうど良さそうな場所取りをしてもらっている。
そんなこんなで、村長さんにご挨拶したところ、快く出迎えてくれた。
その上で、一晩滞在したいことを告げると、少しだけ考えるそぶりをしたあと、笑って許可を出してくれた。ありがたい。
「たしかに、今から帰ってもすぐに夜になっちまうもんねぇ。わかったよ。皆に伝えておく」
「よろしくお願いします」
本当にありがたい。お願いだから通報しないでね。マジで。
「ごめんなさいねぇ。家が狭くて庭先になっちゃって……」
「だいじょーぶだよばあちゃん! 冒険者は野宿がフツーなんだろ?」
「そうだけど……」
開け放たれた窓から見えるロン少年と薬師のおばあちゃんのやりとりはとても微笑ましい。
窓際にテーブルと椅子があるらしく、そこで二人はいつも食事をしているようだ。
だがしかし、ベッドがあるならベッドで寝たいのは人類共通なんだよロン少年。
「ねーねー、自分も野宿したい」
「おっさんは冒険者じゃねーんだからやめとけよ! あぶねーぞ!」
「なんで?」
そんでドラゴさん子供から子供扱いされてんだけどなにこれウケる。
「皆さん、ここでよかったですか? もっと別の場所の方がよかったのでは……」
「大丈夫ですよメルガイン君」
そんでミルガイン君はそのネガティブやめようか。おばあちゃんに許可貰った上で勧められたからここにしたんだろうけど、そんなんだからハーツさんに名前間違え続けられるんすよミルガイン君。
パチパチと燃える炎を眺めつつ、火打石と意外と広い庭先と鍋を貸してくれた薬師のおばあちゃんに感謝だ。
なお、その鍋は現在、ドラゴさんが色々入れてスープを作ってくれている。なんかいい匂いする。
「それよりみんな、ユーリャさんがくれた鹿肉で薬草スープ出来たよー! 食べよー」
「ご飯ですかご飯ですね食べましょう」
さすがのハーツさんである。
「鹿肉って意外と臭みあるから、薬草と相性いいみたい。薬草と揉んで一緒に煮ただけですごい出汁でたよ」
「へぇー、めっちゃいい匂いする」
「この薬草は、香草にも使われてるライライって種類ですね。お茶にしても美味しいですよ」
スープが入った木で出来たボウルとスプーンが一人ずつ配られていく。
いやこれほんとめっちゃいい匂いする。お腹減る匂い。
肉と草だけなのになんでこんなにいい匂いになってるんだろう。すごいなドラゴさん。
「しかしミルガイン君詳しいね?」
「冒険者なので、採取依頼してたら自然と覚えますよ」
「なるほどなぁ」
ちなみにハーツさんはもうすでに食っている。なんか静かだと思ったら集中して食ってたらしい。
とりあえず一口食って、暖かさと味に涙が出そうになった。
うまい。なにこれうまい。
今まで調味料もなんもない焼いた肉の味しかしない肉しか食ってなかったからマジでうまい。
「えっ、なんでこんなに美味しいんですか……?」
「おかわり!」
「わたしもおかわりお願いします」
「えぇ……待ってよ、自分が食べる隙ないじゃん……」
自分の分をボウルによそっていたドラゴさんに向けて、空のボウルが向けられている。かわいそうに。
そしてミルガイン君はほぼスルーされている。かわいそうに。
「しかたねーよ、おっさんの料理ムダにうめーもん」
「仕方ないのこれ」
それでもちゃんと二人分をお玉で入れてくれるドラゴさんマジ神。
「賑やかねぇ」
にこにこと笑いながらそんなみんなを眺める薬師のおばあちゃんと、むしゃむしゃと鹿肉を頬張っているロン少年。
なんとも暖かい時間が流れていた。
いいなぁ、この村。程々に森で、程々に人が居なくて、雰囲気が完全にスローライフ。
報告で街には行かなきゃならんけど、住むならこういう村がいいなぁ。
暮れゆく空を眺めつつそんな風に考えながら、ちゃんとこれからのことも考えなきゃなぁ、とも思ったのだった。
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