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ハーツさんとのみっかめそのごー。
しおりを挟む改めて目の前の金髪眼鏡エルフイケオジがハーツさんだと確信したところで、横のミルガイン君とやらが意を決したように声をかけてきた。
「あ、あの……」
「ん?」
帽子を被り直して、耳を出す。
被ったらちゃんと猫耳用の穴が開いてくれるの有難いっすね。どういう原理かとかはもう知らん。
「あなたは、この方の仲間なんですよね?」
真剣な表情で、穴が空きそうなくらいの眼力で見つめられながらの質問だ。
遠目から見れば二人が親子に見えるくらいには、彼はハーツさんに懐いているらしい。
そんな間に入り込んだアタシは相当胡散臭く見えることだろう。
「そうそう。この国に入った時に不慮の事故ではぐれちゃって、ずっと探してたんす」
なるべく普通に答えたつもりだが、どうも昔から胡散臭い雰囲気が標準装備されてるらしいアタシにゃ無理だったかもしれない。
「それにしては、初対面な雰囲気でしたが……」
ですよねー。
「……え? 気のせいっすよ」
「気のせい、ですか……?」
「そーそー気のせい」
頑張って誤魔化したものの、怪訝そうな顔で、比較的ガチめの、訝しそうな雰囲気しかない。
信用は出来ないけど、それでもハーツさんが信用してる人だから、とか葛藤してるのが手に取るように分かる。
一生懸命悩んで、結論を出したらしい彼はようやく口を開いた。
「……僕には、まだ話せないこと、なんですね?」
「あー、うん、そーね」
「……分かりました、今は聞かないでおきます」
………………えーと、何か知らんがやったぜ。
「ユーリャさんすごいですね。そんなにすらすらと」
「一応嘘じゃないすよコレ」
「あれ、そうなんですか?」
さすがのハーツさん。アタシのことなんだと思ってんすかね。マジで。
「そうすよ。細かいところはまた後で説明するんで、えーと、……ミルガイン君、だっけ」
「……はい」
ハーツさんのことは一旦置いといて、ミルガイン君へと向き直る。
「君は、どうしたい?」
「えっ?」
予想外の問いだったのか、驚いた表情でこちらを見る彼は、いくつだかは知らんから分からんがさっきよりも幼く見えた。
「いや、なりゆきでハーツさんと一緒に居たんでしょ? それってつまり、ハーツさんと行動したかったからだと思ったんだけど」
「……はい。この方には危ないところを助けて頂きました。恩を返すまでは、離れるわけにいきません」
キリッとした表情で見つめられると、可愛い女の子をナンパしてるオッサンに見えるんだろうなと思いつつ肩を竦めた。
「なるほどなるほど、そんじゃあ、好きにするといい」
「いいん、ですか?」
わあ、すごくハトが豆鉄砲食らってそうな顔。
「だってアンタ、何言っても聞かない顔してるんすもん」
「……え……」
アレかね。もっとこう、反対だとか色々言われたりすると思ったんかな。
とはいえアタシにゃ若い子を虐める趣味なんぞないわけで。
「いいんですか? ユーリャさん」
「こういう子、一度決めたら絶対覆さないっしょ」
「ですよねぇ」
ハーツさんの言葉に思ったままを返しつつ、二人でうんうんと頷いた。
よっぽど嫌な奴なら全力で色々するけど、この子からはそういう気配が一切無い。
むしろ変なやつにサラッと騙されそうな……、そう、ドラゴさんみたいな危なっかしい素直さが見える。
いや、まぁ、ドラゴさんほどじゃないんだけどね。心配になる感じはするよね。だってホイホイオッサンについてってるんだよこの子。大丈夫なん?
だがしかし、ここでこちらの事情を彼に全て暴露しておくべきかというと、それは違うとも思う。
正直、こんなオッサンたちが本当は女子だったとか、この子の場合相当なショックを受けそうな気もする。
それに、それがもしも自分たちの弱みになってしまったら。
様々なマイナスの可能性は考えれば考えるだけ出てくる。
だからこそ、なるべくプラスになるように動かなければならない。
それ以前に、秘密は秘密を持ってる者同士でちゃんと共有して、相談した上でバラすかどうか決めたいよね。
そんなわけで、彼にはちょっとどっか行ってて貰おう。
「ミルガイン君には申し訳ないっすけど、積もる話があるんで、少しの間どっか行っててくれると嬉しいっす」
「あ、わかりました。じゃあ僕、なにか飲み物でも買ってきます」
ものすごく素直に頷いてくれた。
ミルガイン君は空気が読める子だったらしい。
ええー、めっちゃいい子じゃん。こんな子の名前間違えて覚え続けてるとかハーツさんてばマジでハーツさん。しかしハーツさんはハーツさんなので、ハーツさんなのである。
なんか自分でも何言ってるか分からんくなったので、置いておくとして。
「これ使って」
ミルガイン君にはさっき稼いだチップから適当に一枚の硬貨を渡しておくことにする。
「えっ、銀貨? いいんですか?」
「うん、ついでになんかおいしそうな屋台のなんか色々買ってきて。ハーツさんが食べたいだろうから」
「よく分かりましたね?」
「だってハーツさんずっとあっち見てるし」
「えへへ」
いや、こっちの話聞きながら屋台の方チラッチラ何度も何度も何度も見てりゃ分かるよそりゃ。
「分かりました! なんか色々買ってきます!」
頼まれたのが嬉しかったのか、それをそのまま顔に出しながら踵を返し、走っていくミルガイン君。
なんというか、本当に素直ないい子だ。
そして彼との距離がある程度空き、確実に会話が聞こえない距離だと確信してから、ハーツさんに向き直る。
「ハーツさん」
「さて、積もる話、でしたっけ……あれ、ユーリャさん?」
「良かったぁ……、ハーツさんほんとに居た……」
なんというか、なんだろう。
よく分からないけど、たぶん、これはホッとしたんだと思う。
「どうしたんですか、そんな顔して」
「全部嘘で、自分一人で異世界転移してたらどうしようかと思った……」
「寂しかったんですか?」
予想外な言葉過ぎて面食らった。
「い……いや、そういうわけじゃないすよ」
「猫耳、ぺっそりしてますよ?」
「うぇ……!?」
「しっぽもなんかゆっくりパタパタしてますし……えーと、これはなんだったかな、たしか……」
「いやー! なんかあついなー! 夏かなー!?」
はっず!
え、ちょ、はっず!!
待って待って待って、恥ずかしいにも程がある。
「ふふふ、そういうことにしておきましょうか」
なんだか楽しそうに笑っているハーツさんを見つつ、自分の耳としっぽを掴んだ。
なにそれ、つまり、多少の感情はバレバレってことじゃん。うそでしょ。
それってつまり、猫耳にまで神経を使わないと感情を悟られないようにするのは無理ということで、ということは、ワタナベてめぇ最初から分かってて黙ってやがったな?
『はァ……! イチャイチャするイケオジ……尊い……!』
うるせぇだまれこの野郎。
「そういえばこのやかましい妖精なんなんですか? どこかで聞き覚えがあるような声ですが」
『忘れないで!? 一回脳内に直接語りかけたよ!?』
「え? そうでしたっけ?」
忘れられてやんのウケるー。
とはいえ、このままじゃ話が進まないので、簡単に説明を開始することにした。
「あー、コイツは全ての元凶で、自称元神のワタナベさん」
「ワタナベさん……」
『待って!? 自称じゃなくてほんとに元神だよ!?』
「え、なんでワタナベさん?」
『そっち!?』
まぁ、ハーツさんだしなぁ。
「なんか名前なくて不便だったからテキトーに付けたっす」
「ユーリャさんのネーミングセンス、絶妙ですよねほんとに」
「いやぁ、えへへ」
『はにかむイケオジ……よき……』
おまえは黙ってていいよ。
「それで、一体なにが起きてるんです? これ」
ハーツさんのその言葉で、ようやく今までのことについての説明を、ワタナベさんを交えつつ始めたのだった。
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