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みっかめそのよーん。

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 大きな通りを歩く。きちんと整備されてて、歩きやすい道だ。馬車とかも通るのか車輪による轍とかもあるけど、そんなにデコボコもしてない。
 それなりに人も歩いていて、看板の文字も日本語じゃないし、なんていうか、ファンタジーっぽい。

 とはいえ、ファンタジーだからこそ気になるところは気になるわけで。

「……この街の警備、あんなんでいいんすかね」

 ユルすぎて怖いんだけど。いきなりどっかの国のスパイとか言われて大変なことになったりしないよね?

『大丈夫です。吟遊詩人が異常に少ないだけですから』
「え? なんで?」

 ファンタジーの定番じゃん、吟遊詩人。少ないの?

『この世界の職業を参考にしたゲームが、ユーリャさん達のプレイしてたオンラインRPGだからですよ』
「いや、あのゲームの吟遊詩人って、個人のレベルじゃなくて職レベルのカンストで出てきますよ」
『それが無理だったんですよ』
「へ?」

 どゆこと?

『そもそもあのゲームの吟遊詩人って、狩人を弓術士に進化させて、その次のガンナーまで進化させたら出て来る暗器使いアサシンを忍者に進化させて、その全部の職レベルをカンストさせてないと出てこないじゃないですか』

 簡単に言うなら、遠距離物理系の職レベルの全部をカンストさせないと出てこない職業が、吟遊詩人だ。
 たしかに手間は掛かるしちょっと大変だけど、モーションも派手だし、痒いところに手が届くみたいな強力な強化バフ弱体化デバフが人気だったけどな。
 それでも、基本の攻撃力は低めだったからバフで底上げが必須ではあったけど。

「まぁ、遠距離物理系職業の一番最後に出て来ますね」
『だからそれが無理なんですよ』

 いやだからそれどゆこと。

『どう考えたって暗殺者しか吟遊詩人になれないじゃないですか』
「あー……」

 そういえばそうか。

『だから暗殺者を引退した人とかそんなんじゃないとなれないんですよ吟遊詩人』
「なるほど。ゲームだとなんも思わなかったけど、現実だとそうなるんすね」

 そんな弊害があったんすねェ。そりゃ数少ないわ。仕方ないね。

『いや、なんで吟遊詩人がそんなレア職業なんですか! だいたいのファンタジーはそのへんにゴロゴロいるでしょ!』
「それは制作陣に文句言ってもらわんと」

 アタシに言われても困るっす。

『しかも! なんで忍者!? 忍者って近接系じゃないの!?』
「暗器使いから派生したからじゃないすかね」
『暗器使いも遠距離系じゃない気がするけど、百歩譲って遠距離にしたとしても! それらがどう吟遊詩人と関係してんの!?』

 言われてみればたしかにそうだけど、プレイヤーからすれば普通に全部やっちゃうから、特になんも思ってなかったなァ。

「さぁ……? 追加で作った遊びの職業とかなんじゃないすか、吟遊詩人」
『制作陣んんんん!!!』

 頭の中で反響するくらい大声でのツッコミである。

「いや、そのまま持って来たアンタの落ち度でしょうよ」
『ひぃん』

 嘆いたところで自業自得ですよそりゃ。

『……あっ、でも、元暗殺者の吟遊詩人って、美味しいですね?』
「今気付いたんすかそれ」

 つーか、なんだろう。嬉しそうな声とか上げられると地味に腹立つな。すごくシバきたい。

『くうぅ……でも吟遊詩人もう少し増えてほしいし……ジレンマなんですけど……!』
「知らんがな」

 すっぱりと切り捨てるみたいに答えながら歩を進める。

 たしか真っ直ぐ行けば役所があるんでしたよね。
 あの正面に見えてる大きい建物かね。

「あー、それでもまぁ、今回は助かったんで、それはそれでいいんじゃないすか」
『ぐぬぅぅ……』

 いや、ぐぬぅてアンタ。

 実際に助かった部分はあるんだから、結果オーライにしときゃいいじゃん。
 娯楽だって吟遊詩人だけじゃないだろうし。

 あー、そういえば今度あのゲームで踊り子ダンサーが実装される予定だったのに見損ねたなぁ。
 どんな戦闘スタイルかめっちゃ気になってたのに、こんなとこ来たんじゃ見れないよ。
 はーぁあ。

 若干しょんぼりしつつ、簡易地図に視線をやる。

「あれ、役所の方に青い点がありますね?」
『えっ? あっ! ほんとですね!』

 ってことは、真っ直ぐ進めば正面にハーツさんがいるかもしれないのか……。

「とりま行きやしょ」
『はい!』

 なんか少し緊張するけど、大丈夫っしょ。多分。
 この人が本物のハーツさんかどうかは、会って話せば分かるだろうしね。

 周囲を確認しつつ、おノボリさんには見えないようにゆったりと足を動かす。
 進むたびに青い点がだんだんと近付いて、そして。

「ん?」
『どうしたんですか?』
「今青い点が通り過ぎたっすね」
『えっ!?』

 驚くワタナベさんの声を聞きながら首を捻る。

「おかしいなぁ、今すれ違ったの、白コートの金髪眼鏡可愛い系イケオジエルフだったんすけど」
『……いや、それだぁ!』

 えっ?

「……あ、そうか! 今アタシらイケオジになってるんでしたね!?」
『忘れないで! イケオジ設定忘れないで!』

 自分の顔なんてほとんど見えないからそのこと完全に忘れてましたよ!

「ってこたァ、今のがハーツさんか! おーい! ハーツさーん! いや足速ェな!?」
『あっ、曲がっちゃいます!』

 声をかけるけど、全然届かない。
 多分、声が低いから届きにくいんだろう。

 仕方ないので軽く踏ん張って跳んだ。 

「うぉらァッ!」

 ハーツさんらしき人の真上くらいにまでジャンプで跳んで、そのまま勢い良く、ダァン! と正面あたりに着地すると驚いたような声が上がった。

「ひぇっ!?」
「わぁ。どちら様ですか?」

 このマイペースさ。記憶の中のハーツさんに、とても近い。

 顔を上げて、目の前のハーツさんらしき人を見る。

「ハーツさ……ん?」
「えぇ、わたしがハーツですが……、んん?」

 え、えええ……。

「「うわぁイケオジー……」」
『綺麗にハモリましたね』

 仕方なくない?
 だってこれ、すごいイケオジじゃん。
 え、良いなあハーツさん。眼鏡似合うー。しかもめっちゃイケオジじゃん。いやアタシも負けてないんだけどさ。

「あの、誰ですかこの方……」

 えっ可愛い女の子もいる。なにこれ、ハーツさんてば女の子早速釣ったの? 早くね?

「え? あぁ……えーと、どちら様ですか?」

 促されて気付いたハーツさんらしき人が、不思議そうに首を傾げた。

「あ、どうも、ハーツさんの仲間で、ユーリャ・ナーガと言います」

 軽く埃を払いながら立ち上がり、帽子を取ってお辞儀をする。
 吟遊詩人だからなのか、お辞儀がものすごく大仰になってしまったけど、まあ似合うからいいよね。

「えっ、ユーリャさん!? ユーリャさんもイケオジに!? どうしてそんな猫耳褐色チャライケオジに!?」

 ものすごく驚くハーツさんらしき人。

 ちなみにそれはアタシも聞きたい。
 いや、理由は分かってんすけどね。

「ハーツさんこそ、なんかもうめっちゃ素敵な可愛い系眼鏡イケオジエルフじゃないすか」
「そうなんですよねー」
『え、気になるところそっちなんですか』

 ワタナベさんうるさいからちょっと黙ってて。

「で、ハーツさん、こっちの可愛い子はどこで拉致したんです?」
「違いますよ。なんかなりゆきです。あとこの方男性で、メルガイン君です」

 まじかよ。しかも名前が地味にゴツイ。

「リアルオトコの娘? うわー、初めて見た」
「あ、僕、ミルガインと申します」

 ぺこっとお辞儀されて、なるほど、と納得した。

「ハーツさんまた名前間違えて覚えてるんすね」
「はい、長いと覚えにくくて」

 困ったように笑いながら、しかしそれでもそんなに気にしてないハーツさんのマイペースな言葉に、ミルガイン君とやらが大きな溜息を吐いた。
 この感じから考えると、きっとこのミルガイン君は今までずっとハーツさんのこのマイペースさに振り回されて来たんだろう。

 そんな二人を見てしみじみと思う。

 ……あぁ、うん。やっぱりハーツさんだわこの人。

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