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ハーツさんのみっかめそのさーん。

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「だいたいさぁ、まさか奴隷印使うなんてそこまで卑怯なことを、誇り高き冒険者組合の者がするなんて思わないじゃん!」
「そうなんですか?」

 モティさんからしてもブチギレ案件だったらしい。

「それはそうだよ! 組合に入るためにめちゃくちゃ試験とか審査とかあって、もっのすっごく大変なのに!」

 この怒りよう、よっぽど大変なんですね。組合員になるの。
 しかしそれでも気になる部分はあるわけで。

「横領は左遷で許されてるんですよね?」
「どーせあの二人はあっちにコネでもあって、それだよきっと」
「……色々と矛盾がありますね」

 バイトならまだ分かりますが、あんなのが組合員になってること自体、おかしいと思うんですが。

「……うーん。それに関してはほんとに申し訳ない。謝ることしか出来ないよ。本部の方でどういう腐り方してるかまでは情報が少なくてさ……」

 何度も謝罪されてしまって、たしかに支部長という微妙な地位じゃ出来ることは少ないだろうなぁと気付く。

「……まず、冒険者の行方不明者が出ているのは把握していたんですよね?」
「うん。でもね、冒険者って危険と隣り合わせでしょ? だからこそ発覚が遅れたのもあるんだよ」
「ふむ」

 言われてみれば確かにそうだ。

「せいぜい、気絶させて違法に人身売買してるんだと思ってたよ。ほんとに、そのくらいの正気も残ってないなんて」

 今回のことは、どうやらよっぽどのイレギュラーだったらしい。
 奴隷印とかあるわけだから、奴隷っていう存在は一般的なのかと思ってたけど、モティさんのこの全力で嫌悪感を露わにしている様子から、そこまで一般的じゃないのかもしれない。
 
「今後、どうするおつもりなんです?」
「んー……、キミは被害者だし、言ってもいいか。あの二人は多分、氷山の一角だと思うんだよね。裏にどっか繋がってるやつが絶対居るはず。だからそいつを何とかするまでは出来ることをするつもりだよ」
「……そうですか」

 何をするつもりかは興味がないのでどうでもいいですね。頑張ってください。

「ここまで聞いて、まだここで冒険者になりたい?」
「……別の所へ行くの面倒なので、ここでいいです」
「あはは! そっかそっかー」

 早く身分証作りたいんですよわたし。

「ん、よし、もういいかな? ちょっと失礼……お、綺麗にとれたね。証拠ありがとー!」

 ふと、左手の甲に貼ってた湿布みたいなものがモティさんによって剥がされた。
 見れば、手の甲にあった奴隷印がその湿布みたいなものへと綺麗に転写されている。

「……それどうするんです?」
「この印に残った魔力痕を、審判の時に証拠として使うんだー」
「へぇー」

 一応、裁判みたいなことするんですね。

「それじゃあ冒険者のススメ。これ読んどいてください!」
「手抜きですか?」

 渡された小さな冊子をパラパラと捲りながら尋ねたら、モティさんがちょっと拗ねた。

「失敬な! 意外と決まりが多いからまとめてあるんだよ! ほとんど常識ばっかりだけど」
「あぁ、本当ですね。盗みをしない、とか」
「読んだね? ヨシ!」
「まだ途中ですが」

 読みかけなんですけど。

「大丈夫大丈夫、人に迷惑をかけない、横取りしない、仲間を殺さない、死ぬ前に逃げる。それだけ分かってればいいからね。またあとでテキトーに読んどいて」
「はぁ」

 そんなんでいいの。

「それより重要なのは、冒険者章の取り扱いについて」
「ふむ」

 それは聞いておかないといけませんね。
 ていうかモティさんマシンガントークすぎて思考すらちょっとしか出来ないんですが。

「一度魔力を通すと刺青みたいになるから取れる事は無いけど、取ることも出来ます。それがこの液体ね。錬金薬。これは一般的に冒険者組合にしか置いてません」

 なるほど、……ん?

「……つまり、奴隷印は冒険者組合でしか取れないってことですか?」
「初期段階ならね。売られた先で契約者が出来たら、また違う錬金薬が必要になるんだよ。しかもこれが厄介なことに契約者の体液入りで作らないといけないから面倒なんだ」
「なるほど」

 なんか、すごく面倒くさそう。

「ほんとーに面倒なことしてくれたよねあの二人。冒険者組合の面汚しだよ。信用問題だよ。なんなのさあの二人。犯罪奴隷にしたいよマジで。審判でその結果出ないと無理だけど」

 モティさんの顔も面倒くさいって堂々と書いてそうなくらい歪んでいる。すごい面倒くさいっていう顔だ。

「まあともかく、辞めたかったらいつでも辞められるから、好きな時に辞めるといいよ。でも冒険者章って身分証発行の担保になるから、ほとんど辞める人居ないんだけどね」

 そういえば役所でも担保になるみたいなこと聞いた気がする。
 ん? あれ?

「……スラム街の人達は何故冒険者にならないんですか?」
「殺人とかの犯罪歴があると冒険者にはなれないし、戦闘とか採取の適正が無いと無理だから、まぁそういうことだと思うよ? キミは水晶が何色に光った?」
「水色でしたね」
「うん、盗みすらもやったことない善良な一般市民だけど、レアな職業に就けるっていう色だね」
「色でそこまで分かるんですか」
「うん。早見表があるんだけど、それは職員にだけ分かるようになってるんだ」

 なるほどなぁー。

「だからこそ今回あの二人がやらかしたんだろうけど、それはともかく。そんな感じで冒険者章はスタンプされるんだけど、功績が増えていくと階級が上がって、冒険者章が勝手に成長してどんどん豪華になっていきます」
「え?」

 なにそれどうなってんですか。

「それだけじゃないよ? 受けられる保障も増えるし、手数料だって安くなってくし、通行料も組合がたくさん補填してくれるようになる!」
「……わたし、この街の門の通行料払ってませんが」
「ミルガイン君連れてたでしょ。そこから二人分補填されてるはずだよ」
「ふむ?」
「彼は鉄級じゃなくて銅級の冒険者みたいだからね。二人までは組合が補填してくれるよ」

 ふむふむ?

「どうして二人なんです?」
「荷物持ちを雇ったりする場合もあるんだよ。アイテムボックス持ってる人めちゃくちゃ少ないからね」
「へぇー」

 いいなぁアイテムボックス持ってる人。

「ちなみに、この冒険者章、古代の人達が作った謎のシステムで管理されてたりして出来てるから、まじでなにがどうなってんのか未だに解明されてません」
「そんなん使ってるんですか」

 危なくない?

「古代から連綿と受け継がれてきた冒険者章なんで、これに関してはエルフのが詳しいと思うよ」
「専門分野じゃないんでわたしには分かりませんね」
「だろうね! んじゃ、スタンプするけどいいー?」
「はい、どうぞ」

 左手の甲を差し出すと、流れるような動作でぽんっと冒険者章がスタンプされた。なにいまの。

「よし、綺麗に出来たね! これさぁ、一発勝負だから毎回怖いんだよねぇ。あ、魔力通していいー?」
「どうぞ」
「はい、よっこいしょー。おっけー、ちゃんと定着したね。これでキミは銅級冒険者です! おめでとう!」
「ありがとうございます」

 いや、早いて。

「それじゃ、スタンプも終わったし帰っていいよー、お疲れ様ー!」

 なんか、そんな感じに解散させられました。早いて。




 今日は大変だったな、とりあえず役所行くか、と思ったのもつかの間、メルガイン君がなにか言いたげに声をかけてきた。

「あ、あの」
「どうしました?」
「……お気を悪くされたら申し訳ないんですけど、あの」
「なんですか? 大丈夫なので言ってみてください」
「は、はい。あの」

 早く言えよ、と思った瞬間、意を決したような顔をしたメルガイン君が、口を開いた。

「僕はいつになったら、あなたからお名前を教えて貰えるんでしょうか?」
「あれ、きみに名乗ってませんでしたっけ」
「えっ!?」

 あちゃー。

「なるほど、君から名前を呼ばれた覚えがないわけです」
「わ、忘れてたんですかっ!?」

 名乗ったつもりだったよ。

「とはいえ、わたしも君の名前を間違え続けている自覚があります」
「自覚あったんですか!?」

 ありますよそのくらい。

「それはそうですよ。昔から名前を間違って覚えてしまうのが悩みなんです」
「……そうだったんですね」
「ともかく、わたしがきみの名前を間違えないようになったら、改めて名乗ることにします。不公平ですからね」
「……わ、わかりました」

 納得して頂けてなによりです。

「でも、意外です。そういうところはキッチリしてるんですね」
「好きなんですよ。“平等”という言葉が」

 あと、“ウィンウィン”も好きです。
 まあ一番好きな言葉は“有給”なんですけど。

「ちなみに嫌いな言葉は“搾取”です」

 “職場”って単語も嫌いです。
 でも一番嫌いな言葉は“残業”。

「……平等……搾取……」

 あ、これ、またなんかものすごい勘違いしてる顔だな?
 面倒だからほっとくけど。

「わかりました。僕、待ってます」
「すみませんね、メルガイン君」
「ミルガインです」
「うん、ミルガイン君」

 本当にその名前紛らわしいよね。


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