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みっかめそのさーん。
しおりを挟む「なるほど、あっこを通るにゃ通行証と通行料が必要と」
それは門を通っている人達の様子を遠くから観察した結果の結論だった。
まじかー、詰んでるじゃん。
『詰んでるんですか?』
「詰んでるでしょうよ」
両方無いよアタシぁ。どうすりゃいいのよ。
『このままで通ろうとしたらたしかにそりゃダメでしょうけども、ユーリャさんは吟遊詩人でしょう?』
「まぁそうすけど」
草木の隙間に潜みながらの会話である。
変な人になりそうなので、ちゃんと小声です。
『吟遊詩人だと分かる装備で行けば大丈夫ですよ』
「まじ?」
え、ザルすぎん?
変装とかだったらどうすんの?
『まじです。吟遊詩人は定住してない流民扱いなので、通行料さえ払えば大丈夫です』
「あー、そういうことっすか」
『そういうことです』
やっぱザルだよね。
そうやって通行料ちょろまかす人とかいるんじゃないの。
『吟遊詩人だって誤魔化す人も居ますが、パフォーマンスすればすぐボロが出ますんで、その時に徴収してますよ。どこの国も』
「なるほど」
それなりに目立つもんね、吟遊詩人。
その点、ガチで職業が吟遊詩人なアタシは上手いこと行ける可能性が高いんすね。なるほどなるほど。
そうと決まれば装備の変更だ。
メニュー画面を開いて、装備の項目をタップすると、ゲームで集めていた装備たちが並んでいた。
「うーん、詩人ぽい装備……色々あって迷っちゃうね」
『特に、ファンタジーな世界観に合いそうな物が、一番良いと思います』
アイコンしか分からんから何となくでしか選べんなコレ。まあいいか。
「じゃぁー、デカめの羽根が付いたデカめの帽子とー……、あとは、そうだな……なんかこうシュッとしてヒラっとしてフワッとした、なんかこう……形が派手めな服かな」
『擬音の数多いな』
「服の説明苦手なンすよ」
頭から順番に選んで装備していく。
大きめの羽根がついた紺色の帽子に、カーキ色のマント。服は、襟が立った胸元がガッツリ開いた白いシャツに紺色のベスト。それから紺色の……なんだっけ、裾が広がったシュッとしたパンツ……パンタロンパンツ?
靴は先がなんかシュッとしたショートブーツかな。
えーと、あとは、適当に金色系のアクセサリーを装備するか。
よし。これは良い感じですね。
『おお、いいですね! ファンタジーに出て来る吟遊詩人っぽい!』
「でしょ?」
アイテムを選択して装備する、を選択したらもう着てるのマジで便利だな。
「あとは、……ハープでいいか」
吟遊詩人といえばハープでしょ。
『ギターも捨て難い』
「でもここファンタジーじゃん」
『くっ……じゃあシタールとか!』
「シタールって、ギターの弦のとこ長くして背面を丸くしたみたいなやつ?」
『それだ!』
「一応あるけど……」
『あるの!?』
吟遊詩人なんで色んな楽器集めてました。
「でもひとつ問題があってね。コイツでけぇんすよ」
これ座って弾く楽器だからたしかに見栄えはいいんだけど、あのゲームだと武器じゃなくてインテリア、つまり家具なんよね。
だからこそデカくて豪華なんだけども。
『あー……』
「詩人だからってこんな高そうなの持ってうろうろしてると思われてもね」
『たしかに』
なんか弾けそうな気がするから弾けるとは思うけど、それ以前にさ。
「そもそも、シタールってあるんすかこの世界」
『…………どうだっけ』
「はい、ハープで行きます」
『はぁーい』
危ない橋は渡らないに限る。
というわけでハープを……、ハープ……、……うん。
「……んー……」
『どうしたんですか?』
「どのハープがいい?」
『そんなに種類が!?』
「いや、そりゃそうでしょ。初期装備の攻撃力低めのやつから、最難関ダンジョン用まであるよ」
何に驚いてるんすかね。ハープは吟遊詩人の基本武器じゃよ。
『あ、初期装備のにしときましょう』
「……それもそうすね」
『間違ってスキル使って街が吹き飛んだら困りますからね』
「うん」
マジでそれありそうで怖い。
やだわー、そんなんなったら一気に犯罪者だもん。
まだ二人と合流出来てないのにそんなんとか、マジでやだわー。
初期装備の小さなハープを装備して、軽く伸びをする。
まるで長年着てたみたいなしっくり感の装備たちに、逆に違和感を感じてしまう。
元が普通の人間だから仕方ねェんだけどさ。
「よし、ほんじゃ行きますか」
『あっ、ちなみにですが、お金、ゲームで使ってたヤツ一応使えますよ』
今更小出しされた新情報に、進めようとしていた足が止まる。
「それ早く言って?」
『てへぺろ』
シバくぞ。
『あ、でもそれ古代文明の遺物扱いなのでめちゃくちゃ希少です』
「いや使えねぇじゃん」
『だから一応、って言ったじゃないですか』
なんなのお前。
いや、まぁ、何かで使えるだろうから一応ありがたい情報ではあるけどさぁ。
今言う必要あった? なかったよね?
「仕方ねェ、当初の目的通りに行くか……」
『何をするんです?』
ハープをの弦を爪弾き、ポロン、という音を響かせてから、告げる。
「歌うんだよ」
「いやー、儲かった儲かった」
待機列の最後の方に並んで、ポロンポロンとハープ弾きつつ歌ってたら、聞いてたらしき人達からめっちゃポケットにお金入れられたんだけど、これ吟遊詩人の営業的に合ってんのかな。
『なんか、ちょっと怖いくらいお金くれましたね皆……』
まぁたしかに、歌ってる途中でチップをポケットに突っ込まれたのは予想外だったけど。
「そりゃあそうさね。いくら暫くすりゃ入れるとはいえ待ち時間なんて暇だし、そこで最高のパフォーマンス見たら、それなりにチップも弾むってモンよ」
『たしかに、すごかった』
「しかしハープ習ったことないのに弾けるもんなんすね」
聞こえてくる声にぽそぽそと返しつつ、お金を数える。
えーと、銅貨っぽいのが四十枚、銀貨っぽいのが……ん? これ鉄? 分からんな……。まあいいか。それぞれ各十枚はあるし。
『いや、一番は歌声でしょう。あんな良い声で歌われたら人によっては大金積みますよ』
「まじかぁ、なんか照れますね」
さすが、めっちゃこだわっただけあるね。
『連写もする指も弾みました』
「何してんすか」
『ご馳走様でした』
なんなんすかコイツまじで。
「ま、とりあえず、これだけありゃ街には入れるっしょ」
ベストのポケットでジャラジャラしてる硬貨を指先で確認しつつ、小さく呟く。
多分五千円くらいの価値にはなってるんじゃないかな。知らんけど。
どっかで価格の調査しとかないとなぁ。
「おお、吟遊詩人か! さっき聞こえて来た歌はアンタだったんだな!」
「あ、はい」
ようやく自分の番が来たと思ったら、門番の兵士は、なんかめっちゃ嬉しそうに応対してくれた。
「この街には娯楽が少ないからなぁ、歓迎するよ。アンタの通行料は銅貨十枚だ」
「え? でもさっきの商人さんは銀貨だったような」
「吟遊詩人は珍しいからな。この街では優遇措置されてんだ」
そんなんあるの?
え、大丈夫それ。
「えぇー、それはなんかちょっと申し訳ないンだけどなァ」
「申し訳ないと思うなら街でたくさん歌ってくれりゃいいさ」
「まじかぁ」
これ、またどっかで歌わないといけないパターンじゃん。
まぁ、吟遊詩人って職業だからか知らんけど、歌ったり弾いたりって行動に対する羞恥心耐性があんのか、ノリノリで歌えるからいいんだけどさ。
ポケットからチップでもらった銅貨を十枚数えてから、門番の兵士に渡す。
「はいたしかに。そんで、この国で市民権は取るかい?」
「出来れば取りたいと思ってますねェ」
「んじゃあ、役所が詳しく教えてくれるよ。この道をまっすぐ進んで突き当たりのデカい建物だ。そんで、この簡易通行証見せるといい」
「おー、ありがとうございます」
渡された紙を見る。読める。やったぜ。
細かいとこは置いといて、走り書きで、吟遊詩人、ってでっかく書いてあるのが一番気になるけど。
「いいってことよ。ちなみに役所を左に進むと酒場があるからそこ行くといい。よく歌い手や弾き手を募集してるぞ」
「何から何まで、ありがとうございます」
酒場は情報収集の基本だから、めちゃくちゃありがたいですありがとうございます。
「なぁに、おれの行きつけの酒場ってだけさ」
「ええー、客として来るならチップくれるんすよね?」
「ははは! アンタの歌が良かったら払うさ!」
「その言葉忘れないでくださいよー?」
「わかったわかった! さあ通んな。アルヘインへようこそ!」
そんな感じで、なんか知らんけど明るく爽やか朗らかに、しかもめちゃくちゃ簡単に門を通過出来てしまったのだった。
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