19 / 68
ドラゴさんのみっかめそのにー。
しおりを挟むロンちゃんが切り株の上に丸太を置いて、自分がそれを斧で割る。
そのへんにパッコンパッコンと軽い音が響いている。
力加減の練習にもなって一石二鳥だ。
こうやって薪を作るなんて、テレビでしか見たことないから地味に楽しい。
なんというか、のどかって感じだ。
でも作りすぎてもいけないらしいから気を付けないとな。
たしかに、使い切れない量作っても腐っちゃったりするしね。仕方ないね。
ふと、ロンちゃんが話しかけて来た。
「そういやオッサン、もう夢じゃないって気づいたのに、あんまり変わんねーんだな?」
「え? ロンちゃんが嫌がったんじゃん」
何言ってんのこの子。きみの為にやってたんだけど。
「えっ? いつ?」
「ほら、“昨日までのアッパラパーなオッサンはどこ行ったんだよ!”って言ってたじゃん」
覚えてないの?
「いや、たしかにいったけど……」
「だからなるべく変わらないようにしてたんだけど、変えていいの?」
頑張ってテンション高くアッパラパーしてたんだけど。自分元々そんなアッパラパーじゃないんだよ。ほんとに。
「え……変えたらいいじゃん」
「分かった。じゃあ今から普通に話す」
すっと音程とテンションを同時に下げる。
たいぶ楽だけど、なんか普通に話したら声ひっくいな?
「えっ……」
「ん? なに、どうかした?」
ロンちゃんの手が止まったので、思わずロンちゃんを見たら、なんかすごくドン引きした顔してたんですけど、なに。
「声がひくくてしずかでこわい」
「どうしろっていうのさ」
「こわい」
うーん、怖がられたらダメだな。
「んーと、じゃあこのくらいの音程ならどう?」
「まだちょっとひくいけど、さっきよりはマシ」
「ほんじゃこのくらいのテンションで行くよ」
気のいいオッサン、くらいのテンションにしてみたら、OKが出た。
これはこれでちょっと面倒くさいけど、ずっとあのテンションだと疲れるんだから仕方ないよね。
「なんか……」
「なに?」
「へんなモン食った? ってききたくなるかんじがする」
「そんなこと言われても」
ロンちゃん、何気にひどいよね?
自分、一体ロンちゃんにどう思われてんだろう。
でもこれ、聞くのやだな。ひどいのが返ってきそう。
「……オッサンはさ」
「なに?」
ロンちゃんが丸太を置く。自分が、パッカンと割る。
そんな音が響く中、どこかから鳥のさえずりも聞こえた。
「どっか、とおくから来たんだろ?」
「そうだね」
日本と異世界って遠いよね。
「つーことは、どっかとおくに帰んの?」
「んー、遠過ぎて帰れないから無理だなぁ」
「そーなん?」
そーなんよ。帰れないんよ。異世界だもん。帰れるなら一回帰りたいけどね。漫画とかゲームとか小説とかスマホとか取ってきたい。無理だろうけど。
「それに、おばあちゃんの足腰が心配だから、暫くはこの村に居るよ」
「……そっか!」
転がった薪を回収しながら、ロンちゃんが嬉しそうに笑った。
「それよりもロンちゃん」
「なんだよ?」
「こんな怪しいオッサンをたった二日程度ですぐに信用するの良くないと思う」
「それオッサンがいうの?」
なんでよ。
「でもこれ間違ってないよ?」
「……たしかにそうだけどさ」
分かっててなんで信用しちゃうの?
「ロンちゃんこそ、最初の警戒どこいったの?」
「あれ、つかれるんだよ」
「自分もあのテンション疲れるんよ」
「なんだよ、おんなじじゃん」
「おんなじにしていいのアレ」
そよそよと吹く風に木がざわざわと揺れる。
はー、のどか。平和。
「いーよ、もうめんどくせーもん」
「だよねー」
なんか面倒になったので、二人してそんな感じに諦めたその時、半泣きのサラちゃんが走って来た。
「ロンちゃーん! ドラゴさーん! たいへんだよぉー!」
「なんだよサラ、おれたちいま薪割りしてんだけど……どうしたんだよ?」
えぐえぐと今にも泣きそうなサラちゃんが、ロンちゃんをわざわざ避けてこっちの横っ腹に突っ込んできた。
別に痛くはないからいいけど、なんで?
「むらのひとが、ドラゴさんがあやしいから街につうほうするって!」
「はぁ!?」
つうほう……、通報かー。
「あー、ですよねー」
ロンちゃんに疑われてたんだから、村の人にだって疑われるよねー。そりゃそうだよなぁー。
「なにのんきなこといってんだよ!」
「そうは言っても、自分どう考えても怪しいし、ロンちゃんだって疑ってたじゃん」
「そうだったけど! でもオッサンそういうやつじゃないじゃん!」
「だからロンちゃん、会って二日程度で気を許しちゃだめだって」
そんなんじゃいつか騙されるよ?
どうすんのさ、大変なことになったら。
警戒ってほんとに大事なんだからね。まったくもう。
とか思ってたら、サラちゃんから不思議そうな声で質問が飛んできた。
「あれ、おじさんどうしたの? 具合わるいの?」
「いや、こっちのが普通」
「そうなんだ……、じゃあ昨日はお酒のんでたの?」
「そんな感じ」
ずっと夢だと思ってたからもうお酒飲んでたのと変わらないよね。間違ってない。たぶん。知らんけど。
「それよりも! どーすんだよオッサン、このままじゃつうほうされて、街から冒険者がオッサンをトーバツにきちまうぞ!」
「そーなんだ」
冒険者とかいる世界なんだね。どんな人達かなぁ。楽しみだなぁ。
「なんでそんなのんきなんだよ!」
「え? だって、来るもんはどうしようもなくない?」
「だからって……!」
悔しそうに顔を歪めるロンちゃんだけど、それが現実ってものなのでなんとか納得して欲しいものだ。
「それよりサラちゃん、ここから街までどのくらい?」
「えっと、たしか、馬で三日、歩くと五日半、だったかな」
「じゃあしばらくは大丈夫だね」
一瞬で連絡出来たとしても来るのに三日かかるなら、最低でも三日は大丈夫か。
その間に出来ることやった方がいいよね。説得とか。めんどくさいけど、おばあちゃんに迷惑をかけるのは嫌だし。
「……おれ、むらのやつらせっとくにいってくる!」
「え? ちょ、ロンちゃーん」
納得が無理だったらしいロンちゃんが、薪を放り投げて走って行ってしまった。
薪はちゃんと定位置に置かないと乾かないよー、どこ行くのロンちゃーん。
「……リリンちゃんが説得してくれてるけど、子供だからふんべつがつかないんだって、ぜんぜん話をきいてくれないの」
「あらまぁ」
そーゆーの、差別って言うんだよねぇ。ダメな大人だなぁ。
それより、横っ腹にサラちゃんが抱き着いたままなので動けないんだけど、今は斧をどっかに置きたいです。サラちゃんごめん離してー。
「おじさん、こどもを盾に老人をおどしてる人にされちゃってるの」
「そっかー」
よく分からんけど、なんか酷いやつにされてるんだね自分。
仕方ない気はする。
なにせ自分は、のどかな村に突然現れて、おばあちゃんの家に居座ってる謎の人物になるわけだし。そりゃ怖いね。
「おじさんは、こんなにもせいれいさまに好かれてて、いい人なのに……」
「あー、ほらほら、泣かない泣かない。女の涙はここぞという時に取っとくもんだよ」
涙で脇腹が濡れていくのを感じる。そういえば自分今上着脱いでタンクトップだった。黒いやつ。ちなみに下はカーキ色のカーゴパンツ。
「うぅぅ……、どうしておとなってわたしたちの話を聞いてくれないの……?」
「うーん、大人は子供が大きくなっただけだから、そんなに万能じゃないんだよ」
サラちゃんの頭を撫でて宥めたかったけど、力加減間違えてメコってなったら嫌だからそっと添えるだけにする。怖いもん。
「そうなの?」
「うん、馬鹿だよ大人」
「……そっか」
ようやく涙を引っ込めてくれたサラちゃんだが、まだ離してくれない。んー。
「それより、ロンちゃんとこ行こうか」
「……うん」
促したらようやく離れてくれたけど、横っ腹が湿ってて冷たい。
鼻水は……あ、ついてる……やだ……。あとで洗おう……。
ちょっとげんなりしつつ斧を置いて、ロンちゃんの向かった方へと歩き始めたのだった。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~
斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている
酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
おじさんが異世界転移してしまった。
明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか?
モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる