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ドラゴさんのみっかめそのにー。

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 ロンちゃんが切り株の上に丸太を置いて、自分がそれを斧で割る。
 そのへんにパッコンパッコンと軽い音が響いている。
 力加減の練習にもなって一石二鳥だ。
 こうやって薪を作るなんて、テレビでしか見たことないから地味に楽しい。

 なんというか、のどかって感じだ。
 でも作りすぎてもいけないらしいから気を付けないとな。
 たしかに、使い切れない量作っても腐っちゃったりするしね。仕方ないね。

 ふと、ロンちゃんが話しかけて来た。

「そういやオッサン、もう夢じゃないって気づいたのに、あんまり変わんねーんだな?」
「え? ロンちゃんが嫌がったんじゃん」

 何言ってんのこの子。きみの為にやってたんだけど。

「えっ? いつ?」
「ほら、“昨日までのアッパラパーなオッサンはどこ行ったんだよ!”って言ってたじゃん」

 覚えてないの?

「いや、たしかにいったけど……」
「だからなるべく変わらないようにしてたんだけど、変えていいの?」

 頑張ってテンション高くアッパラパーしてたんだけど。自分元々そんなアッパラパーじゃないんだよ。ほんとに。

「え……変えたらいいじゃん」
「分かった。じゃあ今から普通に話す」

 すっと音程とテンションを同時に下げる。
 たいぶ楽だけど、なんか普通に話したら声ひっくいな?

「えっ……」
「ん? なに、どうかした?」

 ロンちゃんの手が止まったので、思わずロンちゃんを見たら、なんかすごくドン引きした顔してたんですけど、なに。

「声がひくくてしずかでこわい」
「どうしろっていうのさ」
「こわい」

 うーん、怖がられたらダメだな。

「んーと、じゃあこのくらいの音程ならどう?」
「まだちょっとひくいけど、さっきよりはマシ」
「ほんじゃこのくらいのテンションで行くよ」

 気のいいオッサン、くらいのテンションにしてみたら、OKが出た。
 これはこれでちょっと面倒くさいけど、ずっとあのテンションだと疲れるんだから仕方ないよね。

「なんか……」
「なに?」
「へんなモン食った? ってききたくなるかんじがする」
「そんなこと言われても」

 ロンちゃん、何気にひどいよね?
 自分、一体ロンちゃんにどう思われてんだろう。
 でもこれ、聞くのやだな。ひどいのが返ってきそう。

「……オッサンはさ」
「なに?」

 ロンちゃんが丸太を置く。自分が、パッカンと割る。
 そんな音が響く中、どこかから鳥のさえずりも聞こえた。

「どっか、とおくから来たんだろ?」
「そうだね」

 日本と異世界って遠いよね。

「つーことは、どっかとおくに帰んの?」
「んー、遠過ぎて帰れないから無理だなぁ」
「そーなん?」

 そーなんよ。帰れないんよ。異世界だもん。帰れるなら一回帰りたいけどね。漫画とかゲームとか小説とかスマホとか取ってきたい。無理だろうけど。

「それに、おばあちゃんの足腰が心配だから、暫くはこの村に居るよ」
「……そっか!」

 転がった薪を回収しながら、ロンちゃんが嬉しそうに笑った。

「それよりもロンちゃん」
「なんだよ?」
「こんな怪しいオッサンをたった二日程度ですぐに信用するの良くないと思う」
「それオッサンがいうの?」

 なんでよ。

「でもこれ間違ってないよ?」
「……たしかにそうだけどさ」

 分かっててなんで信用しちゃうの?

「ロンちゃんこそ、最初の警戒どこいったの?」
「あれ、つかれるんだよ」
「自分もあのテンション疲れるんよ」
「なんだよ、おんなじじゃん」
「おんなじにしていいのアレ」

 そよそよと吹く風に木がざわざわと揺れる。
 はー、のどか。平和。

「いーよ、もうめんどくせーもん」
「だよねー」

 なんか面倒になったので、二人してそんな感じに諦めたその時、半泣きのサラちゃんが走って来た。

「ロンちゃーん! ドラゴさーん! たいへんだよぉー!」
「なんだよサラ、おれたちいま薪割りしてんだけど……どうしたんだよ?」

 えぐえぐと今にも泣きそうなサラちゃんが、ロンちゃんをわざわざ避けてこっちの横っ腹に突っ込んできた。
 別に痛くはないからいいけど、なんで?

「むらのひとが、ドラゴさんがあやしいから街につうほうするって!」
「はぁ!?」

 つうほう……、通報かー。

「あー、ですよねー」

 ロンちゃんに疑われてたんだから、村の人にだって疑われるよねー。そりゃそうだよなぁー。

「なにのんきなこといってんだよ!」
「そうは言っても、自分どう考えても怪しいし、ロンちゃんだって疑ってたじゃん」
「そうだったけど! でもオッサンそういうやつじゃないじゃん!」
「だからロンちゃん、会って二日程度で気を許しちゃだめだって」

 そんなんじゃいつか騙されるよ?
 どうすんのさ、大変なことになったら。
 警戒ってほんとに大事なんだからね。まったくもう。

 とか思ってたら、サラちゃんから不思議そうな声で質問が飛んできた。

「あれ、おじさんどうしたの? 具合わるいの?」
「いや、こっちのが普通」
「そうなんだ……、じゃあ昨日はお酒のんでたの?」
「そんな感じ」

 ずっと夢だと思ってたからもうお酒飲んでたのと変わらないよね。間違ってない。たぶん。知らんけど。

「それよりも! どーすんだよオッサン、このままじゃつうほうされて、街から冒険者がオッサンをトーバツにきちまうぞ!」
「そーなんだ」

 冒険者とかいる世界なんだね。どんな人達かなぁ。楽しみだなぁ。

「なんでそんなのんきなんだよ!」
「え? だって、来るもんはどうしようもなくない?」
「だからって……!」

 悔しそうに顔を歪めるロンちゃんだけど、それが現実ってものなのでなんとか納得して欲しいものだ。

「それよりサラちゃん、ここから街までどのくらい?」
「えっと、たしか、馬で三日、歩くと五日半、だったかな」
「じゃあしばらくは大丈夫だね」

 一瞬で連絡出来たとしても来るのに三日かかるなら、最低でも三日は大丈夫か。
 その間に出来ることやった方がいいよね。説得とか。めんどくさいけど、おばあちゃんに迷惑をかけるのは嫌だし。

「……おれ、むらのやつらせっとくにいってくる!」
「え? ちょ、ロンちゃーん」

 納得が無理だったらしいロンちゃんが、薪を放り投げて走って行ってしまった。

 薪はちゃんと定位置に置かないと乾かないよー、どこ行くのロンちゃーん。

「……リリンちゃんが説得してくれてるけど、子供だからふんべつがつかないんだって、ぜんぜん話をきいてくれないの」
「あらまぁ」

 そーゆーの、差別って言うんだよねぇ。ダメな大人だなぁ。
 それより、横っ腹にサラちゃんが抱き着いたままなので動けないんだけど、今は斧をどっかに置きたいです。サラちゃんごめん離してー。

「おじさん、こどもを盾に老人をおどしてる人にされちゃってるの」
「そっかー」

 よく分からんけど、なんか酷いやつにされてるんだね自分。
 仕方ない気はする。
 なにせ自分は、のどかな村に突然現れて、おばあちゃんの家に居座ってる謎の人物になるわけだし。そりゃ怖いね。

「おじさんは、こんなにもせいれいさまに好かれてて、いい人なのに……」
「あー、ほらほら、泣かない泣かない。女の涙はここぞという時に取っとくもんだよ」

 涙で脇腹が濡れていくのを感じる。そういえば自分今上着脱いでタンクトップだった。黒いやつ。ちなみに下はカーキ色のカーゴパンツ。

「うぅぅ……、どうしておとなってわたしたちの話を聞いてくれないの……?」
「うーん、大人は子供が大きくなっただけだから、そんなに万能じゃないんだよ」

 サラちゃんの頭を撫でて宥めたかったけど、力加減間違えてメコってなったら嫌だからそっと添えるだけにする。怖いもん。

「そうなの?」
「うん、馬鹿だよ大人」
「……そっか」

 ようやく涙を引っ込めてくれたサラちゃんだが、まだ離してくれない。んー。

「それより、ロンちゃんとこ行こうか」
「……うん」

 促したらようやく離れてくれたけど、横っ腹が湿ってて冷たい。
 鼻水は……あ、ついてる……やだ……。あとで洗おう……。

 ちょっとげんなりしつつ斧を置いて、ロンちゃんの向かった方へと歩き始めたのだった。


 
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