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ハーツさんのみっかめー。
しおりを挟む役所で説明を受けている間に、気づいた時にはもう夕方になってしまっていたので宿泊施設を探したところ。
なんか運良くメルガイン君と再会出来たので、同じ宿に泊めて貰うことにした。
宿泊代金は、街に来る途中で摘んだビリビリ草で許されたのでそれを一つ。なお、見つけるたびに摘んでいたのであと四本はある。
乾燥させるとバジルに似た香りがするらしくて、萎びても新鮮でも値段は変わらないらしい。ありがたい草である。
また見付けたらポケットに入れておこうと思う。
ポケットの中が土でドロドロになるのが問題だけど、他に入れる所もないし、まあいいや。
ともかく、一晩考えてみた結果。
「やっぱり、冒険者が一番楽に身分証作れますよね」
宿の一階に併設されていた食堂にて、朝食のシチューのようなものをもぐもぐしつつ、そう呟く。
すると、正面を陣取って同席していたメルガイン君がなんだか嬉しそうな顔をした。
「冒険者になるんですか!?」
「だって他の方法めんどくさそうですからね」
商人とかもう、みんな働くの大好きみたいなイメージしかなくてちょっと嫌なんですよね。すぐに働かされそうで。
偏見だとは分かってるんですけど、なんとなく。
「あ、あの、じゃあ、僕の仲間に……!」
「あ、遠慮します」
即座に拒否したら、なんだかものすごくショックを受けた顔をされてしまった。
「どうして!? や、やっぱり僕が未熟ですから……!?」
いや、そういうんじゃなくてですね。
「ほら、仲間になったら、依頼とかこなさなきゃいけなくなるじゃないですか」
「え? はい、まぁ、それはそうですよ。早く階級を上げて、高難易度の依頼を出来るようになりたいですから……」
へぇーなるほど。この世界の冒険者が上げるのはランクとかではなく階級なんですね。
まあそれはともかく。
「そこですよ」
「はい?」
キョトンとした顔で聞き返されてしまったが、気にせずにキッパリと言い放つ。
「暫くは働きたくないんです」
「へっ?」
大事なことなのでもう一度言おうか。
「ですから、今は働きたくないんですよ」
「……なるほど……? でも、働かずにどうやって生きていくんです?」
「そのへんの獣とか、草とか採ってたらお金はなんとかなるでしょう」
「……たしかに……」
せっかくの異世界なんですから、冒険者になってみたいっていうのもある。
だけど、今はゆっくりしたい。
どうせならまったり街を見物したり、のんびり食道楽とか、そういうことがしてみたいし、一日中ゴロゴロだってしたい。
わたしは疲れているんだ。色んな意味で。
「そう、ですか……」
「そうなんです」
残念そうな顔してるとこ悪いんですが。
「それ食べないんなら貰っていいですか?」
「だ、だめですっ!」
だめかぁ。
そんなわけで来ました、冒険者ギルド。
この世界ではギルドじゃなくて組合って言うみたいだけど、意味は似たようなものですから間違えそうですね。
大体どのファンタジーラノベでも冒険者ギルドですからねぇ。少し珍しいタイプなのかもしれない。
探せばゴロゴロあるんでしょうけど。
ともかく、メルガイン君に案内してもらって、役所に併設されていた冒険者組合の建物に入った感想はというと。
「意外と静かなんですね?」
あんまり人がいないんですけど、こんなもんなんですかね?
「冒険者は日が出てすぐに出発したがるので夜明け前に依頼書争奪戦をしますからね。今は少し時間が外れてるんです」
「へぇー」
なるほど。よく学園モノで出て来る焼きそばパンみたいなものか。それは仕方ない。焼きそばパンっておいしいですからね。食べたい。
なんか違う気もするけど、そこまで間違ってないとも思うから大丈夫でしょう。多分。
「冒険者って早起きなんですね」
「早く来ないと良い依頼取られちゃいますからね」
「そうなんですね」
あ、やっぱり焼きそばパンみたいなものだった。さすがはわたし。
「では、僕はここで待ってますね。何かあったら呼んでください。手助けくらいは出来ると思いますので」
「わかりました」
そんな感じでメルガイン君と別れ、受付っぽいところの列に並ぶ。
と言っても二人くらいしかいなかったのでちょっとぼんやりしていたらすぐに自分の番が来た。
「ようこそ冒険者組合へ。ご依頼ですか?」
……なんかこの受付の人すごく面倒臭そうなんですけど。
「登録をしたいのですが」
「おお、ご登録ですね! ではここに名前をどうぞ」
え、なに、いきなりテンション上げないで何この人。
しかも笑顔がすごく胡散臭い。何この人。
若干気味悪く思いつつ、備え付けのペンで名前を書く。
「……書けました」
「ありがとうございます。では、あちらの扉へどうぞ!」
「そこには何が?」
「犯罪歴を調べる照合魔法陣と、冒険者章を手の甲へ入れる作業をしています」
「あの、組合の決まり事などの説明は無いんですか?」
「冒険者章を入れてからお話しております」
「なるほど。そうですか」
なんというか、違和感がひどいですね。
これ、ちょっと腐ってるのでは?
こういう勘、実は結構当たるんですよね。経験してるからこそなんですけど。
「では、次の方どうぞ」
本当にこれだけの説明で放置されてしまった。
仕方ないので、言われた通りに扉へと進むことにする。
扉を開けて中に入ると、受付に居たのとはまた違う雰囲気の胡散臭い女性がわたしを見てにっこりと笑った。
正直もう帰りたいんですけど、身分証作らなきゃだし、どうしたものですかね。
「ご登録ですね。こちらの水晶に手をかざしてください」
さっきの説明じゃ魔法陣があるって聞いたのに、なんで水晶なんでしょうかねとか思ったりもしたけど、とりあえず言われた通りに水晶に手をかざす。
すると、一度だけ水色に光った。
「犯罪歴なし。ありがとうございます。ではこちらの椅子に座って、左手をチェストの上に置いたあと、備え付けの器具で固定してください」
「……はい」
なんでしょう。この嫌な気配。
とはいえ、今抵抗しても正当防衛にすらならないし、面倒なことになる気しかしない。
今はとりあえず、流れに身を任せるしか無さそうだ。
椅子に座って、言われた通りにやってみる。
「……ハンコ、ですか?」
ふと視線を女性へ向けると、少し大きめのハンコを棚から取り出した所だった。
いや、すぐ使うものなのになんでそんな棚に入れてんのですかね?
「はい、特殊なインクでして、これで手の甲へ捺したあと魔力を通すと、刺青みたいになるんですよぉ」
「へぇ……」
「では捺しますねぇ」
拒否する間もなく、ぽん、と手の甲へ捺された印章は、なんか見たことのない文様だった。
「他の冒険者の方と違う印章なんですね」
「えっ? あ、あぁ、どこの組合で捺したのか分かるようになってるんですよ!」
これ、嘘ですねぇ。なんか雰囲気がアウト。
「では魔力を流しますねぇ」
女性がそう言って手に触れたあと、手の甲に何か毛虫みたいなのが這っている感じがして、その次の瞬間だった。
『隷属の印による精神干渉を確認。レジストします』
ん? れいぞく? なんて?
一瞬何が起きたのか分からず、理解が出来なかった。
そして、パァン! という、旧型の銃声に似た強烈な破裂音が響き渡る。
それから、女性が謎の衝撃で吹っ飛んで行った。
部屋の外にも聞こえたのか、メルガイン君が慌てて入って来てくれた。
「大丈夫ですかっ!? なんだかすごい音が……!」
「あ、すみません、この方から冒険者の印を入れて貰ってたら急に……」
左手の甲を指差しながら、とりあえずの状況説明をする。
すぐ側まで来てくれたメルガイン君が、手の甲の印章を見た瞬間、顔面を蒼白にさせた。
「そんな……、え、待ってください、それ冒険者章じゃないです!」
「え、じゃあこれは一体」
「ど、奴隷印です……!」
奴隷印?
つまりそれはあれか?
わたしを奴隷にしようと?
「─────……は?」
何してくれてるんですかね、あの女。
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