上 下
11 / 68

ドラゴさんのふつかめそのにー。

しおりを挟む
 


 頭の上の子供がめっちゃ笑っている。
 なんでこうなったかというと、ロンちゃんのせいだ。

 なんか、おばあちゃんのお手伝いで薪割りしようと外に出たらロンちゃんに気付いた子供達がわらわらとやって来たのだ。
 気付いたら子供まみれになっている。五人くらい小さい子がいる。女の子も一人いるけどそれは遠くからこっちを見ていた。何歳くらいかとかは興味ないからよく分からんけど。

「おじちゃんどっからきたのー?」
「上流だよ~」

 元気な男の子が足元からよじ登ってくる。
 ものすごく元気である。

「じょーりゅーってなにー?」
「なんだったか忘れた~!」
「そっかー!」

 もう一人の元気な男の子が腕にぶら下がった。
 頭の上の子はゆらゆら揺れている。元気。

 これで三人の子供によじ登られている。なにこれ。
 めっちゃ元気。それもこれも全部ロンちゃんのせいだけど。まじでなにこれ。

「おまえらっ! なにやってんだよ! そいつはさんぞくだぞ!」
「ロンにいちゃんもあそぼー!」
「あそぼあそぼー!」

 自分、ジャングルジムじゃないんだけどな。ロンちゃんのせいなんだからなんとかしてほしい。

「そんなヒマねぇ! いいからそいつからはなれろ!」
「ねーねーロンにいちゃん、さんぞくってなにー?」

 頭の上というか、これ肩車なのかな。あ、肩車だこれ。
 その子が不思議そうな感じで聞いた瞬間、ロンちゃんが怒鳴った。

「わるいやつだ!」
「ふーん、おじちゃんわるいやつなのー?」
「え~? ちがうよ~?」

 下からの声を聞きながら首を傾げたら、肩車してる子も傾いてキャッキャと笑った。
 わるいやつってこう、なんか、わるいんだよね?

「ちがうっていってるよー?」
「くちではなんとでも言えるだろーが!」

 たしかに!
 だがしかし!
 ロンちゃんはひとつ、間違っている!

「ロンちゃん、ひとを見た目で判断しちゃ、ダメなんだよ?」
「うぐっ」

 ビシッと言ってやると、ロンちゃんがショックを受けたように後ずさる。

 せんにゅうかんにとらわれちゃいけない! ってハーツさんが言ってたから、間違ってないはずだ。

「そーだよー! うちのとーちゃんもゆってた!」
「かーちゃんも!」
「そーだそーだ!」
「ぐぬぅっ」

 色んな人が言ってるから、やっぱりハーツさんは間違ってないな! さすがはハーツさん!

 その時、遠くにいた女の子がおどおどしながらそーっとやってきて、ロンちゃんに話しかけた。

「あ、あの、ロン君、このひと、ほんとにさんぞくなの?」
「……まだしょーこがねぇから、だんげんはできねぇけど、ばあちゃんの秘伝のレシピをねらってるとおもうんだ」

 だから秘伝のレシピは秘伝だから秘伝なんだってば。勝手に外に出しちゃダメだよロンちゃん。まったくもう。

「証拠がないなら、うたがっちゃダメなんじゃないの?」
「…………でも、こいつ、あやしいんだ」

 影であやしいとか悪口言ってるよロンちゃんてば。面と向かって言えばいいのに。あれ? 言ってたっけ? どうだったっけ。忘れたや。

「ロン君、あのね、せいれいさまは、このひと、わるいひとじゃないって、いってるよ」
「…………」

 無言のロンちゃんである。顔は、なんか完全に拗ねた子供だ。
 あ、ロンちゃん子供だからホントにそのままだ。拗ねてる子供。
 そんでこの女の子はアレかな、不思議ちゃんってやつかな。知らんけど。

「それに、ひとみしりの三つ子たちが、あんなにわらって、なついてるし」
「………………」

 ロンちゃんの眉間のシワがすごい。顎もシワシワだ。めっちゃ拗ねてる。すごい拗ねてる。

 ていうかこの登ってきてる子達三つ子なの?
 なんか動きがアグレッシブすぎてか顔がブレてよく見えないんだけど。アグレッシブが何かはよくわかんないけど、ダバダバしてたら多分アグレッシブだから間違ってないと思う。知らんけど。

「サラちゃん、気にしないでいいわよ。ロンはただ引っ込みがつかなくなってるだけだから」

 なんか女の子増えた。これで合計六人の子供達に囲まれてしまったことになる。え、なにこれ。

「リリン! てめぇ!」
「なによ、ほんとうのこと言ったからって怒んないでよね」

 うーん、多分この、リリンちゃんて子が一番年上だな。そんできっと皆幼なじみとかいうやつなんだ。すごいなぁ。初めて見たこういうの。あとドヤ顔すごいねリリンちゃん。

「ホントにあぶねぇやつだったら、どーすんだよ!」
「どーもこーも、あの三つ子がすぐに懐くような大人が悪いやつだったら、この村終わってるわよ」
「そうだよロン君、わたしの家の隣のジムおじさんすら、なつかれてないんだよ」
「たしかにジムおじさんはヤなやつだけど……」

 ジムおじさんヤなやつなんだ……。おいしいパン焼きそうな雰囲気の名前してるのに……。
 あ、パン食べたい。いちごジャムのたっぷり入ったジャムパン食べたい。

 ふと、ロンちゃんが目の前にまでやって来て、ものすごくバツが悪そうにモジモジしながら口を開いた。

「……悪かったよ、ドラゴのおっさん」
「略すとドラさんになるね?」
「なんのはなしだよ!」

 なごませようとしただけなのに怒ることないじゃん。ひどいなぁロンちゃん。

 とか色々やってたら、あっという間に夕方になって、夜になった。

 おばあちゃんのお手伝いで薬草園の雑草抜いたり、畑手伝ったり、薪割りしたり、ご飯作るの手伝ったり、子供達と遊んだりしてただけなのに、すごく一日が早かった。夢だから仕方ないんだけど。

 自分が今いるのは、朝起きた時と同じ、おばあちゃんのお家のリビングっぽいところだ。床に転がってゴロゴロしている。
 これで寝たらさすがに夢から覚めるだろう。

 そういえばお昼くらいに“テロレン♪”みたいな変な音してたけど、なんかどっかで聞いた音なんだよなぁ。なんだっけアレ。
 ひとしきり考えて、ふと思い出した。そうだ、ゲームのメール着信音だ。

 これ夢だし、ゲームみたいになんかやったらメール画面出てくるかな。と思った瞬間なんか出た。さすが夢。
 確認してみると未読のメールが二件あった。

「ワタナベ……、だれ? まぁいいや。あ、こっちはユーリャさんだ」

 ポチっとメールを開いて、読む。
 …………うん、なるほどわからん!

「す、ご、い、ゆ、め、変換、だ、ね、まる、変換、と。送信!」

 送ったらすぐに“テロレン♪”と返事が返ってきた。
 文面にはひとこと。

『いや、夢じゃないすよこれ、マジの現実っす』

「ぱ?」

 ぺ?

 今度はフレンドチャットの方の“テロン♪”という着信音が聞こえた。
 メニュー画面を出して、ポチッとチャットを開く。

『なんか知らん人からメール来てると思うんで、それ読んでください』

 えっ。

 慌てていつの間にか出てた、なんか透けてる薄いキーボードでぽちぽち文字を打つ。
 仰向けでもキーボード打てるとかすごいなぁ。この夢。あれ、でもユーリャさんは夢じゃないって言ってたよね?
 んん? 頭がこんがらがってきた。

『知らん人からのメールとか怖くて開けないんだけど』
『大丈夫だから安心して』

 打った瞬間に返事が返ってくる。

 まぁ、ユーリャさんがそう言うなら多分大丈夫なんだろう。
 いきなりよく分からん怖いページに飛ばされたりとか、そういうのが自分一番嫌いなんだけど、ユーリャさんはそういうことする人じゃないから、きっと大丈夫だ。
 色々と頭が混乱してるけど、それでもそーっとワタナベさんとかいう人からのメールをぽちっと開いた。

 そこには、なんていうか、ユーリャさんからも着てたけど、意味不明な内容が羅列していた。

 だってさ、異世界とか、ファンタジーとか、もう帰れないとかさ、意味が分からな過ぎて、なんか。
 だけど、すとんと納得して、腑に落ちた部分があった。なんか色々というか、あちこち表現おかしい気がするけどまあいいや。

 思えばたしかに色々と違和感はあった。寝て起きたのに夢から覚めてないとか特に。あとはあんまり覚えてないけど。
 だんだん冷静になって来て、冷や汗が出てきた。

 うん、ていうかさ。

 おそるおそる、空中の透明キーボードでぽちぽちとチャットを打つ。

『これ全部夢だと思ってたから、本当に好き勝手やってしまったんだけど、どうしたらいい?』

 まじで。


 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...