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本編 2 『婚約者』
第2-16話 戦場に立つ13歳。一方的な蹂躙
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戦争への出兵命令が出され、ギルドで倒れそうになった所を、ユージに抱き留められたベリーは、彼の逞しい力強い腕に縋りつき、掠れた声を発した。
「ユ、ユージ…せ、戦争って、強制だって!何なのよ…」
ユージ「いいから大丈夫か?顔が真っ青だ。掴まってろよ、屋敷に転移するから」
ユージの冷静な声が聞こえ、私はその言葉に頷くしかなかった。彼はいつもそんな風に、自分を守ってくれる。
戦場に送り出されることを知った時、私は不安と恐怖に打ちのめされていた。だが、今はユージがそばにいることで心が少し落ち着いた。
ユージ《転移!》 シュンッ……
自室に運んでくれたようで「ほら、ソファ座れよ…」ゆっくりと座らせてくれ、寄り添い背中を撫で続けてくれた。
「ありがとう。ねぇ、なんでギルドにいたの?もしかして私についてきてた?」
凄い絶妙なタイミングで現れたもんなコヤツ。
ユージ「いや、戦争の件でエドと一緒にギルマスに呼ばれててな。たまたま居たんだよ」
ギルドホールでベリーの魔力感知して、声を掛けようとしたら、目の前でフラッと倒れそうになってて咄嗟に支えたんだよ。マジでビビったわ。
「そうなの…ねぇ、戦争の件ってことは知ってたの?シュガーズ王国が仕掛けたの?何処と戦するの?ユージもエドも参加するの?Dランク以上ってことは私も参加なの!?」
混乱してた私は湧き出る疑問を次々にぶつけた。だって、戦争なんて、想像もしていなかったし、自分がまさかこんな大事な出来事に巻き込まれるなんて考えもしなかった。
でも、現実なのか。私もDランク以上の力を持つ者として、参戦することになるのか。未知の戦場でどう振る舞ったらいいのか、不安でならない。
魔物との戦闘とは違う。人対人の戦いなんだ。これまでの戦いとは全く異なる環境で、自分の生存をかけて戦わなければならない。
どう対処すればいいのか、どんな戦術をとれば勝利につながるのか。それらについて考えるだけで、心は落ち着かない。
私の心は不安でいっぱいだ。敵の思考や行動を読むことができるのか、自分たちの命を守るために何が必要なのか。
もしも巧妙な罠や策略に引っかかってしまったら、どうすれば生き残れるのか。
戦場での私の使命は果たせるだろうか、自分自身や仲間を守り抜くことができるだろうか。未知の危険が待ち受ける中で、私は決断を下す勇気を持てるだろうか。この不安な心の内を抱えながらも、前へ進むしかないのだろうか。
見えない恐怖に震えていたら、ぎゅっと暖かい温もりに包まれた。私を安心させてくれるこの腕の中は、一番ホッとできる場所で……やっぱりこの人が好きなんだって再確認した……
ユージ「大丈夫だ。大丈夫だよベリー落ち着いて。俺やエド、サイラスは参加するけど、お前はまだ未成年だから参加は強制じゃないんだ。“”Bランクだろ!“”って言われても従う必要はない」
ユージは私の頭を撫でながら再度囁いた。「だから大丈夫だ。俺達が終わらせてくるから。信じて待ってて」その言葉に、心が安心し、少しずつ平穏な気持ちに戻っていった。私はユージの腕に身を委ね、彼の温もりに包まれながら、ひと時の安らぎを感じていた。
どのくらいそうしていたのか、「そろそろ落ち着いたか?」と問われた。
「うん…でもまだユージの腕の中にいたいわ…」
ユージ「ッ!?クッ…あのさベリー、凄ぇ嬉しいんだけど、その…抜け駆けしてるみたいで…」
色々と不味い!弱ってるベリーが新鮮で、可愛さがハンパねぇ!キスしたい……あ゙~ダメダメ!俺もう恋人じゃないし!
「何が抜け駆けよ!!!」
ユージが動揺し、心の中でワタワタとしていたら、突然ベリーが腕の中から抜け出し、胸ぐらを掴んで怒鳴ってきた。そしてユサユサと揺さぶりながら声を荒らげ続けた。
「私は!ユージが好きだから、恋人になるのだって嫌じゃなかったし!キスだって、一緒に寝るのだって許してたのよ!なのにどうして……どうして私の気持ちを無視して、他の誰かと共有するなんて決断を下したの!!
あの2人とどんな話をしたか知らないけど!『俺のだから手を出すな』くらい言えなかったわけ!?」
恋人関係を白紙に戻すって言ったからって、添い寝まで辞めるしさ。いや、それは当然なの?でもでも、前までのユージなら強引に潜り込んで来たわよ。
私は強引な人が好きなのよ。他の人に遠慮して、一線引くような人は好きじゃないの。男らしくないじゃない。
その強引さがユージの良い所だったのに、2人に遠慮してオドオドしちゃってさ!3人で酒盛りする度に距離が出来てしまって、何度3人の前からフェードアウトしようと思ったか分からないわ。
ギザちゃんを連れて、キリさんの所へ行くことを決意した日もあったわ。その度に、3人の悲しい顔が浮かんでしまって、やめてしまう……
っだぁ!今までだったら思い出すのはユージだけだったのに!!あの告白された日からエドとサイラスが“”俺も忘れないで“”私もいますよ“”ってピョコンって顔出すのよ!!ピコピコハンマーで何度も叩いたわ!
「クソバカユージ…私は貴方が!ユージが好きで、一途に貴方だけ想っていようって決めてたのに……なのに…どうして決断を鈍らせるような行動を取るのよ!一妻多夫なんて、どうすりゃいいのよぉ……」
ヒートアップして支離滅裂なことをギャーギャー言ってたら、思いっきり抱き締められた。「はーなーせー!!」
ユージ「いーやーだー!そんな熱烈な愛の告白を聞かされたら、最高に嬉しすぎて!!ごめんなベリー困惑させてしまって……でも……はぁ……マジで好き、大好き。愛してるよベリー!!」
『強引に行き過ぎだ』 『少しは遠慮しないと嫌われる』って散々あの2人に言われたから我慢してたけど!そうか、そうかぁ!ベリーは俺の強引さが好きだったのか!
「はぁ~?熱烈!?何処がよ!!ってか、離しなさいよ!出兵命令が出てるんでしょ!?」
『勇者ユージ』への強制依頼じゃないの!?ギルマスに情報が回ってるから呼び出し受けたんでしょ?違うの?
ってか、本当に力強い!ビクともしない!
ユージ「そりゃ、お前の言葉全部が俺を大好きだと言っている。いや、もう俺達だな。“”一妻多夫“”に戸惑ってるだけで、嫌ではないんだろ」
いやぁ、こんな清々しい気持ちで戦争行ったら、瞬殺だな!長々と戦ってたらベリーとの時間が無くなるし!
「もうアレだな!戦争終わったら15歳を待たずに結婚しよう!そうしよう!エドとサイラスにも伝えなきゃな!善は急げだ!行くぞベリー!」
「なんでアンタが言うのよ!自分で言うわよ!15歳になったらね!そういう約束したもの!ねぇ!ちょっと聞いてるの!」
頬を叩いても、腕を引っ掻いても、二の腕を噛んでも、ユージはニコニコと笑みを浮かべ歩みを止めなかった。
でも、エドは戦場に向かったあとでギルドには居なく、サイラスも昨夜から出掛けてて屋敷に居なかった。(何処行った??)と思ってたら、突然立ち止まったユージから爆弾発言が飛び出した。
ユージ「あ!そういえば、サイラスは昨夜ギザと一緒に戦地へ赴いたんだったわ…」
「は、はぁぁあ??なんでギザちゃんと??」
まさか、悪魔を戦わせるわけ?確かに強いけど、争うのが嫌いな優しい変な悪魔なのよ!?
ユージ「痛ッ!叩くな、落ち着け。いや、《戦地に行けば負の感情をタップリ頂けますねぇ》ってついて行ったんだよ。《攻撃など全て取り込んであげましょうねぇ》ってさ。あ、因みにウルも行ってるわ《天罰ぅ~悪い子にはお仕置よぉ~》って歌いながらな」
あー!なるほど。戦場って『憎悪』と『恐怖』が溢れる悪魔の好都合な食事処だもんな。そりゃ嬉々として行くわ。
で、ウルまで行ったと……ん?ということは、戦争にならなくない?
悪魔と半神を相手に、まともな戦いになるの?一方的に蹂躙されて終わりじゃない?サイラスも居るんでしょ?剣鬼って呼ばれてる『仮英雄』が。
「なら、ユージが行く必要無くない?他の冒険者も」
ユージ「いや、そうなんだけどさ。『悪魔が味方だから安心しろ』なんて言えないだろ?だから、普通に出兵命令に従わなきゃならんの。到着前に終わってそうだけどな」
「はぁ…そう…そうなのね…ギザちゃんが仲間だと心強いのに…」
もういっその事ギザちゃんが勇者で良くない?変装魔導具を付けさせてさ……はっ!そうよ、そうしなきゃまた『悪魔が!』って言い出して騒ぎになりそうなんだけど。
で、また討伐命令が出て……ってループするじゃない。
決めたわ!「……ユージ、私も戦地に行く事にする!西の国境よね?近くまで転移するわ!行くわよ!」《転移!》
ベリーは「こう!」と決めたら即行動する、猪突猛進なのだ。『ギザに変装魔導具を!』と決めて、ユージに有無を言わさず国境付近まで転移した。そして、はい!到着しました。
ふんっ!と鼻を鳴らしたら、「このバカ!」ゴンッ。と頭をグーで殴られた。
「痛ぁぁあ!なんで殴るの!」チカッと星が飛んだわ!力が強いのよ!加減しなさいよね!
ユージ「なんでいきなり転移すんだよ!説明をしろ!せ・つ・め・い!ゴホッゴホッ…凄ぇ砂埃…」《防御結界》
着地した場所は、一面砂漠の乾燥地帯で、風に舞う砂埃が目や口に入ってきてかなり不快。咄嗟に結界を張り防御した。そして、再び苦言を呈そうとしたら、ベリーが一点見つめて指をさし、口をパクパクさせていた。
恐る恐る振り返って見たら、国境より向こう、ビターズ王国が有るだろう場所の上空が真っ黒に染まっていて、バリバリと稲光が閃光していた。
雲が重く垂れ込め、雷鳴が轟き、瞬間的に光が全体を照らし出す。それはまるで、神々が激しく怒っているかのような光景だった。
ユージ「な、な、なんだアレ!!」
「え、ま、禍々しい雨雲?天変地異とか??」
いや、あれってギザちゃんがやってる!?魔力反応があるもの!ウルのも感じるわね。ちょっと吃驚しちゃったけど、「近くまで行ってみようよ」
ユージ「はぁ…言うと思ったよ。ギザとウルだろアレやってんの。サイラスの魔力反応もあるわ」
というか、よく見たら黒いツブツブが吸い込まれてんな。「ありゃ人間か?」
「ウソでしょ…まさか吸い上げてるの?」
初めて見たけど、アレがウルの考えた天罰ってやつ?それともギザちゃんの能力?「合同作業?」
ユージ「ウルとギザの共同制作魔法か?」
あのスパークは闇と聖がぶつかってるからか?「恐ろしいなマジで」
手を繋ぎながら、恐る恐る近付いていき、辿り着いた場所でサイラスを発見した。向こうも私たちに気が付き、「ベリー様!?ユージも!」と慌てて走って来た。
「ぶっ!あだだ……サイラス!!無事ね?何処も怪我してない??」走ってくるサイラスに抱き着いたら、顔面を思いっきり強打した。痛い……
怪我の有無を確認するのに身体をペタペタ触ってたら、「ふふっ。擽ったいですよ。大丈夫です。チュッ」と頭頂にキスされた。「ファッ!!」
ユージ「おい!あ、いや…えっと、アレはどんな状況だ?」
サイラスは、ユージを一度見据え、そして私を抱き締めたまま話し出した。「見たまんまですよ。敵兵を数人ずつ吸い込んで、魔力と感情を吸収。吸い終わったら城へ返品…その作業中ですね」
作業…作業って言ったぞ。そして返品かい!不良品かよ! (ゔッ…頭撫で撫でをやめてくれぇ…)
というか、やっぱり一方的な蹂躙だったわねぇ。戦闘のせの字も無いわ。恐怖の大魔王の晩餐会だよ。圧巻っす。やはりギザちゃんは『勇者』だよ。うん。
「そうよ!早く『勇者』に仕立てなきゃ!また討伐命令されちゃうわよ!」
ここから呼んで聞こえるかしら!……くっ、サイラスも力強いわね。一旦離してくれないかな!?
ユージ「はぁ?ギザを『勇者』にする為にここまで来たのか?あんなんどう見たって悪魔だろ」
ギザ歯の赤目なんて悪魔以外の何者でもないだろ。というか、いい加減に離れろよ2人共!!
サイラス「あ!もしかして、変装魔導具を装着させるんですか?」
以前ブツブツ言いながら作ってたんだよな。何を作ってるのか聞いたら、『ベテラン冒険者な風貌になれるの』って言ってたっけ。
それよりも……はぁ…ベリー様の抱き心地が最高だな。すっぽり収まる感じ……癒される……
「そう!良く分かったわね。アレを装着させて暴れさせれば、歴代と同じ『黒髪勇者』の完成よ」
モデルは前世のユージなのよ。離れ離れになってた時に、逢いたすぎて作っちゃったのよね。
“”今のユージじゃないの?“”って?いやぁ、私ガチムチが好きでしょ?ぶっちゃけ前世の『黒田悠司くん』がタイプなのですよ……だから、ねぇ。てへっ。
ユージ「へぇ。エドの祖先と同じ感じか?ってことは日本人顔ってことか。面白い魔導具だな」
勇者に憧れた奴が作ったんかね。見た目だけでも同じにしたくてとかか?
サイラス「じゃあギザ呼びますね」 《ウル、聞こえるか?ベリー様がギザに会いに来たんだが、ここまで来れるか?》
ウル《合点承知之助!》
サイラスが念話でウルに声を掛け、数秒後にパッと現れました。超ご機嫌なギザちゃんが。
ギザ《ヒッヒッヒッ。我が姫よ!如何したのでぇすかぁ?私は今!愉快爽快で気分が良いのでぇす!》
サイラスの拘束を解いてギザちゃんを手招きし、耳元でコソコソと計画について語った。(……ということにすれば、良いと思わない?)
ギザ《フヒッ!私がその様な大役をでぇすかぁ~?魔界13位の悪魔でぇすからぁ……我が姫本気なんでやんす?》
不安そうなギザちゃんに、サムズアップして親指立てたら、顔を引き攣らせながらも了承した。そして魔導具装着。
「ギザちゃん!変身の時は手を胸の前でクロスして!」
ギザ《むむ。こ~うですかぁ?》
「ぶっ。そうそう!で、クルクル回って!」
ギザ《クルクル!こうですねぇ》
「ブハッ。上手だよ!で、さっき教えた決めセリフだよ!」
ギザ《デ、デーモンチェンジ、メークアップ!!》
変身セリフを言ったと同時に、キラキラと星のエフェクトが舞い上がり、『勇者ギザ』が完成した。
ユージ「ギャハハハハ!!何させてんの!!お仕置きしちゃうわけ?あっははは!」
サイラス「ブハッハハハ!!何ですかアレ!!」
いやぁ、ちょっとしたネタだよ。魔力を流せば良いだけなんだけど、一捻りほしかったんだよねぇ。てへっ。
ギザ《ヒッヒッヒッ。どぉ~です?悪魔な勇者でぇす!『ブレイブデーモン』とでも呼びましょ~うかぁ。格好良いでぇすか?ヒッヒッヒッ》
「お!イイネ!ブレイブデーモン!カッコ良きだよ!」
はい。完成した姿を見てユージが停止しました。
目を擦ってます。そんなに擦ると赤くなりますよ。
あ、高速瞬きをしてます。早いです!
眉間に寄った皺を指で揉んでます。目が痛いのか?
あ!ゆっくり振り返り私をロックオン!
ジリジリと距離を詰めて来た!無表情の目が怖たん!
私はゆっくり後退。そして、「ベリー!!アレ『黒田悠司』じゃねぇか!俺だよ俺!」肩をガシッと掴まれた。
「オレオレ詐欺かよ!」
ユージ「ちげぇよ!バカかよお前ぇ!」
サイラス「へぇ!前世のユージだったんですか!今と真逆ですね。黒髪黒目、伝承の勇者と本当に同じですね」
ユージ「そうなんだよ…アレが本来の俺なんだわ…」
今は紫髪で優男風……実は、鏡見る度に未だに違和感ハンパなくてな…はぁ…なんでよりによって変身勇者がアレだよ…つーか改めて見るとブ男だな。
(そう!アレが私の黒田くん。最高に素敵だわ……)と、ウットリと見詰めていたら、「キャッ!?」
「おっと!暴れんなよ嬢ちゃん」知らない男に羽交い締めされた。「離しなさいよ。汚い手で触らないで!」
「うるせぇ黙れよ。テメェは人質……グハッ!!ゴフッ」最後まで言わさず、「「ベリーに触んな!!」」2人の鉄拳が顔面にめり込んで、男が地面に倒れ伏せた。
それをギザちゃんが《ヒッヒッヒッ》と笑いながら雲の中に回収していった。新しい食事らしい。存分に食ってこい。『ブレイブデーモン』
空に消えていったギザちゃんに手を振っていたら、周りの草や、木の影から、簡素な鎧を身に纏った下卑た笑みを浮かべた男たちが現れた。
(いるのは知ってたんだけどね…臭うわ…完全に破落戸だわ)
彼らは剣を構え、私達を取り囲んで対峙した。彼らの目は敵意に満ちている。
一人の男が前に出ようとすると、他の者たちが「待て、アレは……で、……だろ?」とそれを制止した。
彼らの間で何かが議論されているようだったが、私を見ているってことは、狙いは私か。
それでも、彼らが私達に対して敵意を向けていることは明白だったので、身を守るために、覚悟を決めて、収納から剣を取り出し握りしめた。
男たちは手許に持っていた武器を構え、私達に向かって近づいてきた。彼らの足音が近づいてくるにつれて、私の心臓の鼓動が早くなった。
(う…やっぱり人を斬るのは怖いわね…手が震えるわ…)
しかし、私は決して彼らに引かず、自分を仲間を守るため、深呼吸して心を落ち着かせた。
とうとう、彼らと私達の間には一切の距離がなくなり、戦いの火蓋が切って落とされた……のだが……
ユージ「ベリーは結界内で大人しくしてろ!行くぞサイラス!」
サイラス「貴女は私達がお守りします!」
2人は私に完全防御結界を張り、敵勢に突っ込んでいった。超~笑顔で。
「あ!!……もう…めっちゃ楽しんでるな男共。私の覚悟が無駄になったわ……」
彼等の敵陣を貫く勢いは凄まじかった。一方的に蹂躙する戦闘風景が目の前に広がり、その光景はまるで地獄のようだった。
敵は全く抵抗出来ず、一人、また一人と倒れていく。ユージとサイラスの攻撃は容赦なく続き、血の海が広がっていく。破落戸達の悲鳴が響き渡り、戦場は地獄絵図と化していた。
彼等の力は強大であり、敵はその前には全く無力だった。その差がますます大きくなり、敵は絶望の匂いを漂わせていた。そしてついに、戦場は私たちの勝利で埋め尽くされた。
ユージ「っしゃ!終わったな」
サイラス「ふぅ…終わりましたね」
「お疲れ様。しかし凄い光景だわ……夢に見そう……」
一方的に蹂躙する戦闘風景は終わり、私たちは勝利を手にした。しかし、その光景は忘れ難いものとなり、戦いの記憶は私の心に深く刻まれた。
「ユ、ユージ…せ、戦争って、強制だって!何なのよ…」
ユージ「いいから大丈夫か?顔が真っ青だ。掴まってろよ、屋敷に転移するから」
ユージの冷静な声が聞こえ、私はその言葉に頷くしかなかった。彼はいつもそんな風に、自分を守ってくれる。
戦場に送り出されることを知った時、私は不安と恐怖に打ちのめされていた。だが、今はユージがそばにいることで心が少し落ち着いた。
ユージ《転移!》 シュンッ……
自室に運んでくれたようで「ほら、ソファ座れよ…」ゆっくりと座らせてくれ、寄り添い背中を撫で続けてくれた。
「ありがとう。ねぇ、なんでギルドにいたの?もしかして私についてきてた?」
凄い絶妙なタイミングで現れたもんなコヤツ。
ユージ「いや、戦争の件でエドと一緒にギルマスに呼ばれててな。たまたま居たんだよ」
ギルドホールでベリーの魔力感知して、声を掛けようとしたら、目の前でフラッと倒れそうになってて咄嗟に支えたんだよ。マジでビビったわ。
「そうなの…ねぇ、戦争の件ってことは知ってたの?シュガーズ王国が仕掛けたの?何処と戦するの?ユージもエドも参加するの?Dランク以上ってことは私も参加なの!?」
混乱してた私は湧き出る疑問を次々にぶつけた。だって、戦争なんて、想像もしていなかったし、自分がまさかこんな大事な出来事に巻き込まれるなんて考えもしなかった。
でも、現実なのか。私もDランク以上の力を持つ者として、参戦することになるのか。未知の戦場でどう振る舞ったらいいのか、不安でならない。
魔物との戦闘とは違う。人対人の戦いなんだ。これまでの戦いとは全く異なる環境で、自分の生存をかけて戦わなければならない。
どう対処すればいいのか、どんな戦術をとれば勝利につながるのか。それらについて考えるだけで、心は落ち着かない。
私の心は不安でいっぱいだ。敵の思考や行動を読むことができるのか、自分たちの命を守るために何が必要なのか。
もしも巧妙な罠や策略に引っかかってしまったら、どうすれば生き残れるのか。
戦場での私の使命は果たせるだろうか、自分自身や仲間を守り抜くことができるだろうか。未知の危険が待ち受ける中で、私は決断を下す勇気を持てるだろうか。この不安な心の内を抱えながらも、前へ進むしかないのだろうか。
見えない恐怖に震えていたら、ぎゅっと暖かい温もりに包まれた。私を安心させてくれるこの腕の中は、一番ホッとできる場所で……やっぱりこの人が好きなんだって再確認した……
ユージ「大丈夫だ。大丈夫だよベリー落ち着いて。俺やエド、サイラスは参加するけど、お前はまだ未成年だから参加は強制じゃないんだ。“”Bランクだろ!“”って言われても従う必要はない」
ユージは私の頭を撫でながら再度囁いた。「だから大丈夫だ。俺達が終わらせてくるから。信じて待ってて」その言葉に、心が安心し、少しずつ平穏な気持ちに戻っていった。私はユージの腕に身を委ね、彼の温もりに包まれながら、ひと時の安らぎを感じていた。
どのくらいそうしていたのか、「そろそろ落ち着いたか?」と問われた。
「うん…でもまだユージの腕の中にいたいわ…」
ユージ「ッ!?クッ…あのさベリー、凄ぇ嬉しいんだけど、その…抜け駆けしてるみたいで…」
色々と不味い!弱ってるベリーが新鮮で、可愛さがハンパねぇ!キスしたい……あ゙~ダメダメ!俺もう恋人じゃないし!
「何が抜け駆けよ!!!」
ユージが動揺し、心の中でワタワタとしていたら、突然ベリーが腕の中から抜け出し、胸ぐらを掴んで怒鳴ってきた。そしてユサユサと揺さぶりながら声を荒らげ続けた。
「私は!ユージが好きだから、恋人になるのだって嫌じゃなかったし!キスだって、一緒に寝るのだって許してたのよ!なのにどうして……どうして私の気持ちを無視して、他の誰かと共有するなんて決断を下したの!!
あの2人とどんな話をしたか知らないけど!『俺のだから手を出すな』くらい言えなかったわけ!?」
恋人関係を白紙に戻すって言ったからって、添い寝まで辞めるしさ。いや、それは当然なの?でもでも、前までのユージなら強引に潜り込んで来たわよ。
私は強引な人が好きなのよ。他の人に遠慮して、一線引くような人は好きじゃないの。男らしくないじゃない。
その強引さがユージの良い所だったのに、2人に遠慮してオドオドしちゃってさ!3人で酒盛りする度に距離が出来てしまって、何度3人の前からフェードアウトしようと思ったか分からないわ。
ギザちゃんを連れて、キリさんの所へ行くことを決意した日もあったわ。その度に、3人の悲しい顔が浮かんでしまって、やめてしまう……
っだぁ!今までだったら思い出すのはユージだけだったのに!!あの告白された日からエドとサイラスが“”俺も忘れないで“”私もいますよ“”ってピョコンって顔出すのよ!!ピコピコハンマーで何度も叩いたわ!
「クソバカユージ…私は貴方が!ユージが好きで、一途に貴方だけ想っていようって決めてたのに……なのに…どうして決断を鈍らせるような行動を取るのよ!一妻多夫なんて、どうすりゃいいのよぉ……」
ヒートアップして支離滅裂なことをギャーギャー言ってたら、思いっきり抱き締められた。「はーなーせー!!」
ユージ「いーやーだー!そんな熱烈な愛の告白を聞かされたら、最高に嬉しすぎて!!ごめんなベリー困惑させてしまって……でも……はぁ……マジで好き、大好き。愛してるよベリー!!」
『強引に行き過ぎだ』 『少しは遠慮しないと嫌われる』って散々あの2人に言われたから我慢してたけど!そうか、そうかぁ!ベリーは俺の強引さが好きだったのか!
「はぁ~?熱烈!?何処がよ!!ってか、離しなさいよ!出兵命令が出てるんでしょ!?」
『勇者ユージ』への強制依頼じゃないの!?ギルマスに情報が回ってるから呼び出し受けたんでしょ?違うの?
ってか、本当に力強い!ビクともしない!
ユージ「そりゃ、お前の言葉全部が俺を大好きだと言っている。いや、もう俺達だな。“”一妻多夫“”に戸惑ってるだけで、嫌ではないんだろ」
いやぁ、こんな清々しい気持ちで戦争行ったら、瞬殺だな!長々と戦ってたらベリーとの時間が無くなるし!
「もうアレだな!戦争終わったら15歳を待たずに結婚しよう!そうしよう!エドとサイラスにも伝えなきゃな!善は急げだ!行くぞベリー!」
「なんでアンタが言うのよ!自分で言うわよ!15歳になったらね!そういう約束したもの!ねぇ!ちょっと聞いてるの!」
頬を叩いても、腕を引っ掻いても、二の腕を噛んでも、ユージはニコニコと笑みを浮かべ歩みを止めなかった。
でも、エドは戦場に向かったあとでギルドには居なく、サイラスも昨夜から出掛けてて屋敷に居なかった。(何処行った??)と思ってたら、突然立ち止まったユージから爆弾発言が飛び出した。
ユージ「あ!そういえば、サイラスは昨夜ギザと一緒に戦地へ赴いたんだったわ…」
「は、はぁぁあ??なんでギザちゃんと??」
まさか、悪魔を戦わせるわけ?確かに強いけど、争うのが嫌いな優しい変な悪魔なのよ!?
ユージ「痛ッ!叩くな、落ち着け。いや、《戦地に行けば負の感情をタップリ頂けますねぇ》ってついて行ったんだよ。《攻撃など全て取り込んであげましょうねぇ》ってさ。あ、因みにウルも行ってるわ《天罰ぅ~悪い子にはお仕置よぉ~》って歌いながらな」
あー!なるほど。戦場って『憎悪』と『恐怖』が溢れる悪魔の好都合な食事処だもんな。そりゃ嬉々として行くわ。
で、ウルまで行ったと……ん?ということは、戦争にならなくない?
悪魔と半神を相手に、まともな戦いになるの?一方的に蹂躙されて終わりじゃない?サイラスも居るんでしょ?剣鬼って呼ばれてる『仮英雄』が。
「なら、ユージが行く必要無くない?他の冒険者も」
ユージ「いや、そうなんだけどさ。『悪魔が味方だから安心しろ』なんて言えないだろ?だから、普通に出兵命令に従わなきゃならんの。到着前に終わってそうだけどな」
「はぁ…そう…そうなのね…ギザちゃんが仲間だと心強いのに…」
もういっその事ギザちゃんが勇者で良くない?変装魔導具を付けさせてさ……はっ!そうよ、そうしなきゃまた『悪魔が!』って言い出して騒ぎになりそうなんだけど。
で、また討伐命令が出て……ってループするじゃない。
決めたわ!「……ユージ、私も戦地に行く事にする!西の国境よね?近くまで転移するわ!行くわよ!」《転移!》
ベリーは「こう!」と決めたら即行動する、猪突猛進なのだ。『ギザに変装魔導具を!』と決めて、ユージに有無を言わさず国境付近まで転移した。そして、はい!到着しました。
ふんっ!と鼻を鳴らしたら、「このバカ!」ゴンッ。と頭をグーで殴られた。
「痛ぁぁあ!なんで殴るの!」チカッと星が飛んだわ!力が強いのよ!加減しなさいよね!
ユージ「なんでいきなり転移すんだよ!説明をしろ!せ・つ・め・い!ゴホッゴホッ…凄ぇ砂埃…」《防御結界》
着地した場所は、一面砂漠の乾燥地帯で、風に舞う砂埃が目や口に入ってきてかなり不快。咄嗟に結界を張り防御した。そして、再び苦言を呈そうとしたら、ベリーが一点見つめて指をさし、口をパクパクさせていた。
恐る恐る振り返って見たら、国境より向こう、ビターズ王国が有るだろう場所の上空が真っ黒に染まっていて、バリバリと稲光が閃光していた。
雲が重く垂れ込め、雷鳴が轟き、瞬間的に光が全体を照らし出す。それはまるで、神々が激しく怒っているかのような光景だった。
ユージ「な、な、なんだアレ!!」
「え、ま、禍々しい雨雲?天変地異とか??」
いや、あれってギザちゃんがやってる!?魔力反応があるもの!ウルのも感じるわね。ちょっと吃驚しちゃったけど、「近くまで行ってみようよ」
ユージ「はぁ…言うと思ったよ。ギザとウルだろアレやってんの。サイラスの魔力反応もあるわ」
というか、よく見たら黒いツブツブが吸い込まれてんな。「ありゃ人間か?」
「ウソでしょ…まさか吸い上げてるの?」
初めて見たけど、アレがウルの考えた天罰ってやつ?それともギザちゃんの能力?「合同作業?」
ユージ「ウルとギザの共同制作魔法か?」
あのスパークは闇と聖がぶつかってるからか?「恐ろしいなマジで」
手を繋ぎながら、恐る恐る近付いていき、辿り着いた場所でサイラスを発見した。向こうも私たちに気が付き、「ベリー様!?ユージも!」と慌てて走って来た。
「ぶっ!あだだ……サイラス!!無事ね?何処も怪我してない??」走ってくるサイラスに抱き着いたら、顔面を思いっきり強打した。痛い……
怪我の有無を確認するのに身体をペタペタ触ってたら、「ふふっ。擽ったいですよ。大丈夫です。チュッ」と頭頂にキスされた。「ファッ!!」
ユージ「おい!あ、いや…えっと、アレはどんな状況だ?」
サイラスは、ユージを一度見据え、そして私を抱き締めたまま話し出した。「見たまんまですよ。敵兵を数人ずつ吸い込んで、魔力と感情を吸収。吸い終わったら城へ返品…その作業中ですね」
作業…作業って言ったぞ。そして返品かい!不良品かよ! (ゔッ…頭撫で撫でをやめてくれぇ…)
というか、やっぱり一方的な蹂躙だったわねぇ。戦闘のせの字も無いわ。恐怖の大魔王の晩餐会だよ。圧巻っす。やはりギザちゃんは『勇者』だよ。うん。
「そうよ!早く『勇者』に仕立てなきゃ!また討伐命令されちゃうわよ!」
ここから呼んで聞こえるかしら!……くっ、サイラスも力強いわね。一旦離してくれないかな!?
ユージ「はぁ?ギザを『勇者』にする為にここまで来たのか?あんなんどう見たって悪魔だろ」
ギザ歯の赤目なんて悪魔以外の何者でもないだろ。というか、いい加減に離れろよ2人共!!
サイラス「あ!もしかして、変装魔導具を装着させるんですか?」
以前ブツブツ言いながら作ってたんだよな。何を作ってるのか聞いたら、『ベテラン冒険者な風貌になれるの』って言ってたっけ。
それよりも……はぁ…ベリー様の抱き心地が最高だな。すっぽり収まる感じ……癒される……
「そう!良く分かったわね。アレを装着させて暴れさせれば、歴代と同じ『黒髪勇者』の完成よ」
モデルは前世のユージなのよ。離れ離れになってた時に、逢いたすぎて作っちゃったのよね。
“”今のユージじゃないの?“”って?いやぁ、私ガチムチが好きでしょ?ぶっちゃけ前世の『黒田悠司くん』がタイプなのですよ……だから、ねぇ。てへっ。
ユージ「へぇ。エドの祖先と同じ感じか?ってことは日本人顔ってことか。面白い魔導具だな」
勇者に憧れた奴が作ったんかね。見た目だけでも同じにしたくてとかか?
サイラス「じゃあギザ呼びますね」 《ウル、聞こえるか?ベリー様がギザに会いに来たんだが、ここまで来れるか?》
ウル《合点承知之助!》
サイラスが念話でウルに声を掛け、数秒後にパッと現れました。超ご機嫌なギザちゃんが。
ギザ《ヒッヒッヒッ。我が姫よ!如何したのでぇすかぁ?私は今!愉快爽快で気分が良いのでぇす!》
サイラスの拘束を解いてギザちゃんを手招きし、耳元でコソコソと計画について語った。(……ということにすれば、良いと思わない?)
ギザ《フヒッ!私がその様な大役をでぇすかぁ~?魔界13位の悪魔でぇすからぁ……我が姫本気なんでやんす?》
不安そうなギザちゃんに、サムズアップして親指立てたら、顔を引き攣らせながらも了承した。そして魔導具装着。
「ギザちゃん!変身の時は手を胸の前でクロスして!」
ギザ《むむ。こ~うですかぁ?》
「ぶっ。そうそう!で、クルクル回って!」
ギザ《クルクル!こうですねぇ》
「ブハッ。上手だよ!で、さっき教えた決めセリフだよ!」
ギザ《デ、デーモンチェンジ、メークアップ!!》
変身セリフを言ったと同時に、キラキラと星のエフェクトが舞い上がり、『勇者ギザ』が完成した。
ユージ「ギャハハハハ!!何させてんの!!お仕置きしちゃうわけ?あっははは!」
サイラス「ブハッハハハ!!何ですかアレ!!」
いやぁ、ちょっとしたネタだよ。魔力を流せば良いだけなんだけど、一捻りほしかったんだよねぇ。てへっ。
ギザ《ヒッヒッヒッ。どぉ~です?悪魔な勇者でぇす!『ブレイブデーモン』とでも呼びましょ~うかぁ。格好良いでぇすか?ヒッヒッヒッ》
「お!イイネ!ブレイブデーモン!カッコ良きだよ!」
はい。完成した姿を見てユージが停止しました。
目を擦ってます。そんなに擦ると赤くなりますよ。
あ、高速瞬きをしてます。早いです!
眉間に寄った皺を指で揉んでます。目が痛いのか?
あ!ゆっくり振り返り私をロックオン!
ジリジリと距離を詰めて来た!無表情の目が怖たん!
私はゆっくり後退。そして、「ベリー!!アレ『黒田悠司』じゃねぇか!俺だよ俺!」肩をガシッと掴まれた。
「オレオレ詐欺かよ!」
ユージ「ちげぇよ!バカかよお前ぇ!」
サイラス「へぇ!前世のユージだったんですか!今と真逆ですね。黒髪黒目、伝承の勇者と本当に同じですね」
ユージ「そうなんだよ…アレが本来の俺なんだわ…」
今は紫髪で優男風……実は、鏡見る度に未だに違和感ハンパなくてな…はぁ…なんでよりによって変身勇者がアレだよ…つーか改めて見るとブ男だな。
(そう!アレが私の黒田くん。最高に素敵だわ……)と、ウットリと見詰めていたら、「キャッ!?」
「おっと!暴れんなよ嬢ちゃん」知らない男に羽交い締めされた。「離しなさいよ。汚い手で触らないで!」
「うるせぇ黙れよ。テメェは人質……グハッ!!ゴフッ」最後まで言わさず、「「ベリーに触んな!!」」2人の鉄拳が顔面にめり込んで、男が地面に倒れ伏せた。
それをギザちゃんが《ヒッヒッヒッ》と笑いながら雲の中に回収していった。新しい食事らしい。存分に食ってこい。『ブレイブデーモン』
空に消えていったギザちゃんに手を振っていたら、周りの草や、木の影から、簡素な鎧を身に纏った下卑た笑みを浮かべた男たちが現れた。
(いるのは知ってたんだけどね…臭うわ…完全に破落戸だわ)
彼らは剣を構え、私達を取り囲んで対峙した。彼らの目は敵意に満ちている。
一人の男が前に出ようとすると、他の者たちが「待て、アレは……で、……だろ?」とそれを制止した。
彼らの間で何かが議論されているようだったが、私を見ているってことは、狙いは私か。
それでも、彼らが私達に対して敵意を向けていることは明白だったので、身を守るために、覚悟を決めて、収納から剣を取り出し握りしめた。
男たちは手許に持っていた武器を構え、私達に向かって近づいてきた。彼らの足音が近づいてくるにつれて、私の心臓の鼓動が早くなった。
(う…やっぱり人を斬るのは怖いわね…手が震えるわ…)
しかし、私は決して彼らに引かず、自分を仲間を守るため、深呼吸して心を落ち着かせた。
とうとう、彼らと私達の間には一切の距離がなくなり、戦いの火蓋が切って落とされた……のだが……
ユージ「ベリーは結界内で大人しくしてろ!行くぞサイラス!」
サイラス「貴女は私達がお守りします!」
2人は私に完全防御結界を張り、敵勢に突っ込んでいった。超~笑顔で。
「あ!!……もう…めっちゃ楽しんでるな男共。私の覚悟が無駄になったわ……」
彼等の敵陣を貫く勢いは凄まじかった。一方的に蹂躙する戦闘風景が目の前に広がり、その光景はまるで地獄のようだった。
敵は全く抵抗出来ず、一人、また一人と倒れていく。ユージとサイラスの攻撃は容赦なく続き、血の海が広がっていく。破落戸達の悲鳴が響き渡り、戦場は地獄絵図と化していた。
彼等の力は強大であり、敵はその前には全く無力だった。その差がますます大きくなり、敵は絶望の匂いを漂わせていた。そしてついに、戦場は私たちの勝利で埋め尽くされた。
ユージ「っしゃ!終わったな」
サイラス「ふぅ…終わりましたね」
「お疲れ様。しかし凄い光景だわ……夢に見そう……」
一方的に蹂躙する戦闘風景は終わり、私たちは勝利を手にした。しかし、その光景は忘れ難いものとなり、戦いの記憶は私の心に深く刻まれた。
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