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本編 2 『婚約者』
第2-14話 混乱する12歳。3人の男とベリー
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ウルが王都で“”神様ごっこ“”をして来た日から数日経ち、その間ベリーは平和な日々を過ごしていた。
この日も、毎朝の恒例になってる『ギャオちゃん目覚まし』で起こされた。「こんのアホ鳥が!!」
そして、私を抱き枕にして眠ってるユージを「重いってぇ!起きてバカユージ!」と引っペがし、
「ギャオちゃん覚悟!《ウィンドカッター!》ムっかつく!避けんなし!」バカにしてくるアホ鳥との攻防を繰り広げ、
コンコン。「おはようございますベリー様」起こしに来たサイラスに、「婚約前の同衾はお控え下さい」と小言を言われ、「だって、ユージが入ってくるのよ」と返し、
「全く…はぁ…お支度なさって下さい」と着替えを渡され、「食事の用意が済んでおります」と食堂へと連れられ朝食を食べた。「今日のスクランブルふわっふわ!」
その後サロンでまったりし、ちびっ子メイド達と戯れていたらハクがスススっと来て、「ルカリオ様がお越しになりました」と伝えられた。
ルカ「数日ぶりですね。朝から申し訳ありません。侯爵様がベリー様をお呼びになっており伝えに参りました。あと、ギザさんは?少しお願いが有りまして、お会いしたいのですが」
「おはようルカ。あの日以来ね!それで、お父様が呼んでると…」 また何か厄介事かしらね… 「分かったわ、後で行ってくるわね」
「で、ギザちゃんなら地下の自室でまだ寝てるんじゃないかな?」と伝えた。朝が苦手だからねぇ。悪魔だからなのかな?《闇がぁ~!太陽がぁ~!》ってたまに叫んでるし。
「ハク、ギザちゃんの所まで案内してあげて?」
ハク「畏まりました。ではルカリオ様此方です」
ルカ「ハクさん、ありがとうございます。ではベリー様、失礼致しますね」
「はいは~い。寝てたらぶっ叩いて起こしてぇ」
悪魔にお願いなんて何かしらね?剣の指南か、魔法の講義か、その両方か……シュタイザー家の騎士達、ギザちゃん信者だからなぁ。あれは凄かったわ。
数日前、部屋に《我が姫!!》と乱入してきたギザちゃんに、《暇ですねぇ、何かこう…ガっ!ギュン!って心躍るような催しは有りませんかねぇ》と無理難題を言われたのよ。
で、護衛中だったサイラスが、「では、シュタイザー家の騎士団で模擬戦でもしますか?」と提案して、
《むむむ!人族は私を恐れる者よの…》と何やら思案していたギザちゃんを、「良いじゃん!行こ!」と、問答無用で連れてったわけ。
エドとユージが揃って留守にしてて、私とサイラスでミライの子守りをしていたので、騎士団にはミライも連れて行った。
サイラスに抱っこされてたミライが、「じーちゃ、とー、リーちゃ、とー、ちゃいらちゅ、とー、みりゃ、とーいくのー?」
と何やら喋ってたけど、私とサイラスは「「???」」だったわ。ギザちゃんは解読出来たようで、ミライとやり取りしていた。
《“”じーちゃん“”では有りませんねぇ、“”ギザちゃん“”ですねぇ。“”じー“”じゃなく、“”ギザ“”ですよぉ》
「じー!ちゃ!」
《ギザちゃん!》
「じあちゃ!」
《むむむ。違いますねぇ、難しいですかぁ?》
「ちあうぅー?むちゅかちーね!……ん~、あーちゃ?」
《ヒッヒッ。悪魔の“”あーちゃん“”良いですねぇ》
「ヒヒッ。あーちゃ、リーちゃ、ちゃいらちゅ。ねー」
《うむ。ヒッヒッ、賢いですねぇ。素っ晴らしい!》
「ヒヒッ、ちゅっららちい!ぷくくく」
何故か成り立ってる2人の会話を聴きながら、到着した騎士団訓練場。そこには団長もルカも揃っていて、各々が剣を振るっていた。
「さ、ギザちゃん着いたよ……って何で鉄マスクしてんねん!」
ミライ「くーち、あーちゃ、ないないたー」
ギザ《ヒッヒッヒッ。恐ろしさを足して、負の感情を享受するためなのでぇす!チビ太、口はあるのでぇす!》
ミライ「みりゃよー、ちーた、ちあう!」
「あーさいでっか……てか、チビ太じゃなくてミライだから」
ギザ《ヒッヒッヒッ。さぁ人間共よ!私は魔界より召喚されし悪魔だ!恐怖の感情を寄越すのだ!》
そんなギザちゃんの思惑は無残に砕け散った。私達に気付いた団長を初め、ルカも団員達も悪魔に興味津々で、一瞬で人気者に登りつめた。
団長は「悪魔って、あの伝説の存在な悪魔か!是非とも手合わせ願いたい!」と、ブンブン握手するし、
ルカは「目が真っ赤なんですねぇ。瞳孔も縦長、いやはや大変興味深いです。そのマスクの下は?」と、マジマジ観察するし、
団員達も、「魔力ビンビンっすね!」 「剣技は?魔法だけ?」 「本物の悪魔っすか!顔真っ青っすね!」 「鉄マスク格好良いです!」 「自分、槍が得意っす!」 「角とか尻尾は?ないの?」と、ギザちゃんを取り囲み、ワラワラ、ワラワラ。
困惑したギザちゃんが《ウヒッ!》と変な奇声を上げて、
《わ、我は魔界の序列13位の悪魔なのだ、人族が疎むべき存在であるからしてぇ、恐ろしくないのですかぁ?》と聞いたら、
団長「忌む奴等もいるだろうが、何もされてない内から疎んでどうするよ」
ルカ「そうですねぇ。それに、ベリー様と一緒にいる時点で悪者では無いのでしょうしね」
団員A「悪魔より、人間の方が恐ろしいって」
団員B「街中でバッタリ出会したら怖いかもなぁ」
団員C「ヒョロっこくて強そうに見えないしな」
団員D「サイラスが殺気立ってないし。全く怖くねぇな」
団員E「天使と女神と剣鬼神(※サイラスの2つ名)と伝説の悪魔。絵面が凄っ!」
と、口々に言われ、嬉しくなったギザちゃんは、見えない尻尾をブンブン振り回しながら訓練に参加した。
私はミライと見学してたんだけど、ヒョロガリ悪魔は剣技も魔法もずば抜けて強かったのよ。付いていけてたのは団長とサイラスだけだったわ。
凄い!の一言に尽きるわね。その身のこなしは滑らかで、相手の攻撃を見切り、瞬時にその威力をかわす。相手はその技に圧倒され、その身の動きに翻弄されてたわ。
魔法に関しては属性が『闇』なので、放たれる魔法攻撃を全て闇魔法で吸収し、その力を自らの力として取り込んでいた。完全なる敵の攻撃の無力化は圧巻だったわ。
闇魔法は、他の属性にない力を秘めていて、戦闘において非常に厄介で強力だった。まさに『The悪魔』って感じよ。
で、普通ならそんなに強い相手って、恐怖の対象になるでしょ?なのに、訓練戦が終わった瞬間、大歓声よ。
「「ヒューヒュー!!ギザスゲー!!」」って、フィーバーよ、「「やっべぇ!カッケー!!」」「「剣鬼神サイラスも勝てないとか最強じゃん!!」」とお祭り騒ぎ!
んで、団員達に《あの時は、こう!するのでぇす》 《貴方は軸足が…》 《詠唱というのは…》 《貴方は剣より槍向きですねぇ》と、一人一人アドバイスしてて、帰る時には“”師匠“”と呼ばれていたわ。
数日前の出来事を思い出し、側に立つサイラスを見上げ「ね、あの時のギザちゃん凄かったよねぇ。師匠に特訓のお願いでもしに来たのかな」と話し掛けた。
サイラス「そうでしょうね。私ももう一度手合わせしたいものです。ギザはとても強かったですよ」
「行ってくれば?ユージに侯爵家まで付き合ってもらうから。あれが起きたら行ってくるわ」
サイラス「…………」
な、何よ?え、なんでそんなジッと見るわけ??顔にパンくずでも付いてる?ペタペタ
そんな私にサイラスは、「…ぷっくく。パンくず等、付いておりませんよ。安心して下さい。付いているのは……」頭を撫でながらそう言ったと思ったら、
「綺麗な眼と…」スッと親指で瞼をなぞり、「え…」
「小さい鼻と…」人差し指でツンっと突き、「あ、あの…」
「桃色の頬…」手の平でスルッと撫で、「サ、サイラ…」
「それと…」指キスで口に触れ、「この潤わしい唇だけですよ」と至近距離で微笑まれた。
そのまま暫し見詰め合うこと数秒。まさに空気はピンク色。花でも舞ってたんじゃなかろうか。
私とサイラスのピンクな空気を分散したのは、「おい…何してる」地を這うようなユージの声音だった。
瞬時にパッと姿勢を正した私の護衛騎士は、澄ました顔して「ベリー様に何時ものお小言です」と宣った。
「だからって、距離感おかしいだろ」と、詰め寄るユージに、「私とベリー様の仲ですので、御理解下さい」と頭を下げた。そしてウィンク。
その色香にやられた私は、ボッ!と、瞬間湯沸かし器のように顔が真っ赤に染まった。(マジで勘弁してぇ!)
恥ずかしさに耐えきれず、両手で顔を覆って下を向いてブツブツ言ってる間、男2人がコソコソ話してたなんて気付かなかった。
ユージ(はぁ…お前…いや、うん。腹括ったから良いわ…でも複雑だぁ…)
サイラス(いや、同衾してるくせによく言うよな。朝起こしに行って見せつけられる側になってみろって。かなり辛いぞ)
ユージ(今後お前もその立場になれるかもじゃん?侯爵様には許可もらったんだろ?)
サイラス(許可は貰ったが、あとはベリー様次第だよな。もし同じ立場になれたら、初日は譲れよ?)
ユージ(くっ…仕方ない。でも手は出すなよ)
サイラス(……まぁ、善処する)
ユージ(善処じゃない!約束しろ!)
サイラス(……約束なぁ…それは出来ない)
ユージ「おっ前~!!」
「!?キャッ!なになに?どしたのユージ」
いきなりの怒鳴り声に驚いたベリーは、ビクッと身体を跳ねさせソファから飛び上がった。声の主を見遣ったら、相手の胸ぐらを掴んでて驚いた。何やら揉めてたらしい。
「何してるの?喧嘩?やるなら外でやってよね。その間に侯爵家に行ってくるから。じゃ!」
存分に暴れなさいなぁ。と、手を振って歩きだしたら、ガシッと両肩を掴まれた。男2人に。
ユージ「待て待て、喧嘩じゃない。俺も行くから待て」
サイラス「ベリー様、護衛を置いて行くのはダメですよ?さ、行きましょうか」
そう言って色気振り撒き男は、腰をスっと抱いて、「!?!?」私を促し玄関に向かった。
ユージが着替えに行って、戻って来るのを待たずに外へ出て歩き出したが、サイラスの腕が腰に回されたままだったので、
「ねぇサイラス!こ、腰を抱かなくても歩けるわ」と、離すよう伝えた。なのに返ってきたのはニコッとした笑みだけだった。
困惑しながら侯爵邸に向かってたら、「待てぇ!」と猛スピードでユージが走って来て、バッと回収された。ちょっとホッとした。(今日のサイラスは心臓に悪いわ)
2人に挟まれる形で侯爵邸に到着。メイドさん達に「こんにちは」と挨拶しながら執務室へ。
(あら?エドまでいるじゃない。何かしらね)
侯爵「お、来たか。悪いな呼び出して。まぁ、座ってくれ。サイラスもユージーンもな。茶はいるか?」
ユージ「失礼します。お茶は大丈夫です」
サイラス「私もお茶は大丈夫です。御前失礼します」
「私もお茶は要らないわ。で?なんか大事な用事?」
私がそう聞いたら、お父様はセバスに下がるように伝え、部屋の中は私達3人と、エド、パパンのみとなった。
そして真剣な目で見詰められ、(なに?なんなの?)困惑していたら、ゆっくりと語りかけてきた。
侯爵「ベリーは今12歳か?もう13歳だったか?」
「もう少しで13歳ですね。あと、半月くらいで」
侯爵「そうか。うむ。あー、今ユージーンとお付き合いしているのだったね?12歳で婚約するとも聞いていたが、間違いないかな?」
確かにそうだけど……
「お付き合い…そうですね、恋人ではあります。婚約の約束?も一応しています」
「ふむ。実はな……」と話し出した言葉を、「侯爵様、発言を許して頂けますか」と突然遮ったサイラス。「うむ」と許可したお父様に「感謝します」と答え、「続きは私からお話しします」と頭を下げた。
(何が始まんねん)と傍観者になってたら、私の前で胸に手を当て跪いた。「え?え?ちょ、サイラス?」
混乱してる私の手を取り、甲にチュッとキスを落とし、真剣な表情で見詰めてきた。
もうここまでされたら、私だってこの先の展開が分かる。サイラスは私に求婚するんだと。どうしていいか分からないけど、話はちゃんと聞かないとと思って大人しくしていた。
サイラス「ベリー様。私は貴女をお慕いしております。本当は伝えるつもりは無かったのです。専属護衛騎士として許されない感情ですから。
主人に従っている以上、私の心に宿るこの想いは隠さなければなりません。
しかし、それでもなお、貴女への気持ちが抑えきれないのです。この葛藤が、とても苦しい……
貴女に許されない想いを抱く、このバカな男を許してください。そして、願わくばどうか私に貴女の愛を下さい。愛してますベリー様」
私はその言葉を聞いて胸が熱くなった。サイラスの言葉は心に響いた。私もまた彼を大切に思っている。
でも、彼に寄り添い、想いを受け入れることも、拒絶することもできない。
今は時間が必要だと思う。私の中で整理をつけ、サイラスに正直になれる日がくるまで待ってほしい。
だから、「……ありがとうサイラス。正直言って、とっても嬉しいわ。私なんかにそこまで!?って思う気持ちもあるけどね。ただ…私にはユージが居るから…どうして良いか分からないわ…少し考える時間をくれる?」
サイラス「!?はい、はい!考えて頂けるんですね!待ってますベリー様!っしゃー!」
いや、え?OKしてないから!何そのガッツポーズは!そういえばユージはどうしたのよ!チラッ。
(ユージ!あんた何でそんな落ち着いてんの?貴方の恋人が熱烈に口説かれたけど!)
そう思って口を開こうとしたら、「俺からも!」と、今度はエドが胸に手を当て跪いた。そしてまた手の甲にチュッとキス。「ええ!エドまで……」
エド「ごめんねベリーちゃん。困らせるのは分かってるんだ。でも、こうして伝えられるチャンスを貰ったから言葉にすることにした。俺も貴女をお慕いしています。
ずっと前からキミのことが好きだった。君の笑顔や優しさ、全てが俺を惹きつけて止まないんだ。少しでも君に近づきたくて伝える事にした。
ユージとサイラスと一緒に、俺も生涯ベリーちゃんを傍で見守っていきたい。俺の気持ちを受け入れてくれないかな?大好きだよベリーちゃん」
私は驚きと戸惑いでいっぱいだった。エドが私を好きだという言葉に、3人で私を……という言葉に、どう返していいのか分からなかった。
どんな答えを出すべきなのか、ひとつひとつ考えながら、自分の気持ちに向き合っていかなければならない。でも、彼等を傷つけることなく、どうやって答えを伝えればいいのだろう。
分からないわ……ユージ一筋って決めてたのに……心がざわめく。彼等の思いを軽視したくない……でも……全員を受け入れるなんて……(ああ…神様…私はどうすれば…)
(というか!なんで執務室で愛の告白なのよ!ユージが何も言わないって事は、今日こうなるのを知っていたわね!)
シリアスな雰囲気だったが、ユージの態度を見て段々イラッとしてきたベリーは、「ダンっ!」と足を床に叩きつけ、徐に立ち上がった。
「エド!サイラス!貴方達は私を愛していて、最終的には結婚したいのね?それは、一妻多夫に納得してるってこと?後で後悔しない?」
エド「はい!結婚したいし、納得してる!絶対に後悔しない!」
サイラス「!?はっ!私も夫の一人になれるなら後悔なんて致しません。きちんと話し合ったので納得もしています!」
「そ、そう…」むー。話し合いなんていつの間にしたのよ…はっ!あれか、数日前ビールを懇願してきた時!男3人で朝まで酒盛りしてたあの時か!
それよりユージよ! 「ユージーンさん。貴方も異論は無いのね?エドとサイラスと同じ立場になる事に」
ユージ「なんで“”さん“”付け?ま、まぁ。異論は…ない。話し合った時に腹括ったから。3人でベリーを幸せにしていこうって」
この男!『誰にも取られたくない』って泣きそうになって縋ってきたのに!
「ふぅ…分かったわ。正直、2人とも同じくらい好きなのよね。それが友愛なのか親愛なのか、まだ分からないのよ。ママとお兄ちゃん的な感覚で接してたから尚更ね」
ユージに対する気持ちは親愛だって分かってるんだけどね……
エド「お兄ちゃん……」
サイラス「マ、ママ!?」
「少しだけ時間を下さい。やっぱり一妻多夫に抵抗があるのよ。なんか不誠実な気がしてね。でも、ちゃんと考えるわ」
ウルにも『常識を捨てて考えなよぉ。ここは異世界!日本じゃないんだからぁ』って言われたし……
あの時は、いきなり言われて、なんの事を言ってるのか分からなかったけど、この事だったのね。
というか、あの阿呆うさぎ。また酒瓶抱えてグースカピーと寝てるんじゃないわよね!!まんまる尻尾取るぞコノヤロー!いや、ウルの事は後で良いわ。今はコッチね。
「という事で、ユージ。貴方との恋人関係は一度白紙に戻すわ。そしてまっ更な状態で考える。分かった?」
ユージ「そんな!?……うっ…はぁ…分かったよ」
あら、聞き分けがいい事。もっと反発すると思ったのに。
「ではお父様。3人は私の婚約者候補ってことで宜しいですか?最終決定は、15歳の時に下すわ。それまで傍観者でいて下さいね」
侯爵「15歳だな。あい、分かった。ベリーの意思を尊重しよう」
「ありがとうお父様。では屋敷に帰りますね。《転移!》」
『もう話す事はない』と、一人その場から自宅へ転移したベリーだが。今日集まって貰った面々に、まだ話があった侯爵は慌てて引き止めようと手を伸ばしたが、その手は虚しく空をきった。
侯爵「あ!待て……ああ…まだ話があったのに…」
あの子は少々せっかちではないか?全く誰に似たのか…
サイラス「侯爵様、本日はこの様な機会を下さりありがとうございました」
エド「俺からも、ありがとうございました。今日が無かったら一生言わずに後で後悔してたと思う」
ユージ「私からも、感謝します。それで、ベリーに話とは?私達から伝えましょうか?」
まぁ、あんなに必死に頼まれたら『ダメ』と言えんだろうが。毎日のように執務室まで来よってからに。
侯爵「うむ。これからは3人共が同じ立場になった。どういう決断を下されても文句は言わないようにな」
ユージ「はい。覚悟してます」
サイラス「はっ!心得ております」
エド「分かってる。文句は言わないよ」
それぞれの返答を聞いて頷いた侯爵は、セバスを呼び戻し話をする事に。その内容を聞いた3人は、複雑な表情と、心境を抱えながら屋敷に帰った。
ベリー伝えるかどうか、取り敢えず3人で会議をする事にし、ユージの自室へと消えていった。手に酒瓶を持って。
団結した彼等は、会議という名の酒盛りで夜を明かした。二日酔いで現れる3人に、ベリーの雷が落ちるのは数時間後だ。それまで存分に楽しめ若者よ。
この日も、毎朝の恒例になってる『ギャオちゃん目覚まし』で起こされた。「こんのアホ鳥が!!」
そして、私を抱き枕にして眠ってるユージを「重いってぇ!起きてバカユージ!」と引っペがし、
「ギャオちゃん覚悟!《ウィンドカッター!》ムっかつく!避けんなし!」バカにしてくるアホ鳥との攻防を繰り広げ、
コンコン。「おはようございますベリー様」起こしに来たサイラスに、「婚約前の同衾はお控え下さい」と小言を言われ、「だって、ユージが入ってくるのよ」と返し、
「全く…はぁ…お支度なさって下さい」と着替えを渡され、「食事の用意が済んでおります」と食堂へと連れられ朝食を食べた。「今日のスクランブルふわっふわ!」
その後サロンでまったりし、ちびっ子メイド達と戯れていたらハクがスススっと来て、「ルカリオ様がお越しになりました」と伝えられた。
ルカ「数日ぶりですね。朝から申し訳ありません。侯爵様がベリー様をお呼びになっており伝えに参りました。あと、ギザさんは?少しお願いが有りまして、お会いしたいのですが」
「おはようルカ。あの日以来ね!それで、お父様が呼んでると…」 また何か厄介事かしらね… 「分かったわ、後で行ってくるわね」
「で、ギザちゃんなら地下の自室でまだ寝てるんじゃないかな?」と伝えた。朝が苦手だからねぇ。悪魔だからなのかな?《闇がぁ~!太陽がぁ~!》ってたまに叫んでるし。
「ハク、ギザちゃんの所まで案内してあげて?」
ハク「畏まりました。ではルカリオ様此方です」
ルカ「ハクさん、ありがとうございます。ではベリー様、失礼致しますね」
「はいは~い。寝てたらぶっ叩いて起こしてぇ」
悪魔にお願いなんて何かしらね?剣の指南か、魔法の講義か、その両方か……シュタイザー家の騎士達、ギザちゃん信者だからなぁ。あれは凄かったわ。
数日前、部屋に《我が姫!!》と乱入してきたギザちゃんに、《暇ですねぇ、何かこう…ガっ!ギュン!って心躍るような催しは有りませんかねぇ》と無理難題を言われたのよ。
で、護衛中だったサイラスが、「では、シュタイザー家の騎士団で模擬戦でもしますか?」と提案して、
《むむむ!人族は私を恐れる者よの…》と何やら思案していたギザちゃんを、「良いじゃん!行こ!」と、問答無用で連れてったわけ。
エドとユージが揃って留守にしてて、私とサイラスでミライの子守りをしていたので、騎士団にはミライも連れて行った。
サイラスに抱っこされてたミライが、「じーちゃ、とー、リーちゃ、とー、ちゃいらちゅ、とー、みりゃ、とーいくのー?」
と何やら喋ってたけど、私とサイラスは「「???」」だったわ。ギザちゃんは解読出来たようで、ミライとやり取りしていた。
《“”じーちゃん“”では有りませんねぇ、“”ギザちゃん“”ですねぇ。“”じー“”じゃなく、“”ギザ“”ですよぉ》
「じー!ちゃ!」
《ギザちゃん!》
「じあちゃ!」
《むむむ。違いますねぇ、難しいですかぁ?》
「ちあうぅー?むちゅかちーね!……ん~、あーちゃ?」
《ヒッヒッ。悪魔の“”あーちゃん“”良いですねぇ》
「ヒヒッ。あーちゃ、リーちゃ、ちゃいらちゅ。ねー」
《うむ。ヒッヒッ、賢いですねぇ。素っ晴らしい!》
「ヒヒッ、ちゅっららちい!ぷくくく」
何故か成り立ってる2人の会話を聴きながら、到着した騎士団訓練場。そこには団長もルカも揃っていて、各々が剣を振るっていた。
「さ、ギザちゃん着いたよ……って何で鉄マスクしてんねん!」
ミライ「くーち、あーちゃ、ないないたー」
ギザ《ヒッヒッヒッ。恐ろしさを足して、負の感情を享受するためなのでぇす!チビ太、口はあるのでぇす!》
ミライ「みりゃよー、ちーた、ちあう!」
「あーさいでっか……てか、チビ太じゃなくてミライだから」
ギザ《ヒッヒッヒッ。さぁ人間共よ!私は魔界より召喚されし悪魔だ!恐怖の感情を寄越すのだ!》
そんなギザちゃんの思惑は無残に砕け散った。私達に気付いた団長を初め、ルカも団員達も悪魔に興味津々で、一瞬で人気者に登りつめた。
団長は「悪魔って、あの伝説の存在な悪魔か!是非とも手合わせ願いたい!」と、ブンブン握手するし、
ルカは「目が真っ赤なんですねぇ。瞳孔も縦長、いやはや大変興味深いです。そのマスクの下は?」と、マジマジ観察するし、
団員達も、「魔力ビンビンっすね!」 「剣技は?魔法だけ?」 「本物の悪魔っすか!顔真っ青っすね!」 「鉄マスク格好良いです!」 「自分、槍が得意っす!」 「角とか尻尾は?ないの?」と、ギザちゃんを取り囲み、ワラワラ、ワラワラ。
困惑したギザちゃんが《ウヒッ!》と変な奇声を上げて、
《わ、我は魔界の序列13位の悪魔なのだ、人族が疎むべき存在であるからしてぇ、恐ろしくないのですかぁ?》と聞いたら、
団長「忌む奴等もいるだろうが、何もされてない内から疎んでどうするよ」
ルカ「そうですねぇ。それに、ベリー様と一緒にいる時点で悪者では無いのでしょうしね」
団員A「悪魔より、人間の方が恐ろしいって」
団員B「街中でバッタリ出会したら怖いかもなぁ」
団員C「ヒョロっこくて強そうに見えないしな」
団員D「サイラスが殺気立ってないし。全く怖くねぇな」
団員E「天使と女神と剣鬼神(※サイラスの2つ名)と伝説の悪魔。絵面が凄っ!」
と、口々に言われ、嬉しくなったギザちゃんは、見えない尻尾をブンブン振り回しながら訓練に参加した。
私はミライと見学してたんだけど、ヒョロガリ悪魔は剣技も魔法もずば抜けて強かったのよ。付いていけてたのは団長とサイラスだけだったわ。
凄い!の一言に尽きるわね。その身のこなしは滑らかで、相手の攻撃を見切り、瞬時にその威力をかわす。相手はその技に圧倒され、その身の動きに翻弄されてたわ。
魔法に関しては属性が『闇』なので、放たれる魔法攻撃を全て闇魔法で吸収し、その力を自らの力として取り込んでいた。完全なる敵の攻撃の無力化は圧巻だったわ。
闇魔法は、他の属性にない力を秘めていて、戦闘において非常に厄介で強力だった。まさに『The悪魔』って感じよ。
で、普通ならそんなに強い相手って、恐怖の対象になるでしょ?なのに、訓練戦が終わった瞬間、大歓声よ。
「「ヒューヒュー!!ギザスゲー!!」」って、フィーバーよ、「「やっべぇ!カッケー!!」」「「剣鬼神サイラスも勝てないとか最強じゃん!!」」とお祭り騒ぎ!
んで、団員達に《あの時は、こう!するのでぇす》 《貴方は軸足が…》 《詠唱というのは…》 《貴方は剣より槍向きですねぇ》と、一人一人アドバイスしてて、帰る時には“”師匠“”と呼ばれていたわ。
数日前の出来事を思い出し、側に立つサイラスを見上げ「ね、あの時のギザちゃん凄かったよねぇ。師匠に特訓のお願いでもしに来たのかな」と話し掛けた。
サイラス「そうでしょうね。私ももう一度手合わせしたいものです。ギザはとても強かったですよ」
「行ってくれば?ユージに侯爵家まで付き合ってもらうから。あれが起きたら行ってくるわ」
サイラス「…………」
な、何よ?え、なんでそんなジッと見るわけ??顔にパンくずでも付いてる?ペタペタ
そんな私にサイラスは、「…ぷっくく。パンくず等、付いておりませんよ。安心して下さい。付いているのは……」頭を撫でながらそう言ったと思ったら、
「綺麗な眼と…」スッと親指で瞼をなぞり、「え…」
「小さい鼻と…」人差し指でツンっと突き、「あ、あの…」
「桃色の頬…」手の平でスルッと撫で、「サ、サイラ…」
「それと…」指キスで口に触れ、「この潤わしい唇だけですよ」と至近距離で微笑まれた。
そのまま暫し見詰め合うこと数秒。まさに空気はピンク色。花でも舞ってたんじゃなかろうか。
私とサイラスのピンクな空気を分散したのは、「おい…何してる」地を這うようなユージの声音だった。
瞬時にパッと姿勢を正した私の護衛騎士は、澄ました顔して「ベリー様に何時ものお小言です」と宣った。
「だからって、距離感おかしいだろ」と、詰め寄るユージに、「私とベリー様の仲ですので、御理解下さい」と頭を下げた。そしてウィンク。
その色香にやられた私は、ボッ!と、瞬間湯沸かし器のように顔が真っ赤に染まった。(マジで勘弁してぇ!)
恥ずかしさに耐えきれず、両手で顔を覆って下を向いてブツブツ言ってる間、男2人がコソコソ話してたなんて気付かなかった。
ユージ(はぁ…お前…いや、うん。腹括ったから良いわ…でも複雑だぁ…)
サイラス(いや、同衾してるくせによく言うよな。朝起こしに行って見せつけられる側になってみろって。かなり辛いぞ)
ユージ(今後お前もその立場になれるかもじゃん?侯爵様には許可もらったんだろ?)
サイラス(許可は貰ったが、あとはベリー様次第だよな。もし同じ立場になれたら、初日は譲れよ?)
ユージ(くっ…仕方ない。でも手は出すなよ)
サイラス(……まぁ、善処する)
ユージ(善処じゃない!約束しろ!)
サイラス(……約束なぁ…それは出来ない)
ユージ「おっ前~!!」
「!?キャッ!なになに?どしたのユージ」
いきなりの怒鳴り声に驚いたベリーは、ビクッと身体を跳ねさせソファから飛び上がった。声の主を見遣ったら、相手の胸ぐらを掴んでて驚いた。何やら揉めてたらしい。
「何してるの?喧嘩?やるなら外でやってよね。その間に侯爵家に行ってくるから。じゃ!」
存分に暴れなさいなぁ。と、手を振って歩きだしたら、ガシッと両肩を掴まれた。男2人に。
ユージ「待て待て、喧嘩じゃない。俺も行くから待て」
サイラス「ベリー様、護衛を置いて行くのはダメですよ?さ、行きましょうか」
そう言って色気振り撒き男は、腰をスっと抱いて、「!?!?」私を促し玄関に向かった。
ユージが着替えに行って、戻って来るのを待たずに外へ出て歩き出したが、サイラスの腕が腰に回されたままだったので、
「ねぇサイラス!こ、腰を抱かなくても歩けるわ」と、離すよう伝えた。なのに返ってきたのはニコッとした笑みだけだった。
困惑しながら侯爵邸に向かってたら、「待てぇ!」と猛スピードでユージが走って来て、バッと回収された。ちょっとホッとした。(今日のサイラスは心臓に悪いわ)
2人に挟まれる形で侯爵邸に到着。メイドさん達に「こんにちは」と挨拶しながら執務室へ。
(あら?エドまでいるじゃない。何かしらね)
侯爵「お、来たか。悪いな呼び出して。まぁ、座ってくれ。サイラスもユージーンもな。茶はいるか?」
ユージ「失礼します。お茶は大丈夫です」
サイラス「私もお茶は大丈夫です。御前失礼します」
「私もお茶は要らないわ。で?なんか大事な用事?」
私がそう聞いたら、お父様はセバスに下がるように伝え、部屋の中は私達3人と、エド、パパンのみとなった。
そして真剣な目で見詰められ、(なに?なんなの?)困惑していたら、ゆっくりと語りかけてきた。
侯爵「ベリーは今12歳か?もう13歳だったか?」
「もう少しで13歳ですね。あと、半月くらいで」
侯爵「そうか。うむ。あー、今ユージーンとお付き合いしているのだったね?12歳で婚約するとも聞いていたが、間違いないかな?」
確かにそうだけど……
「お付き合い…そうですね、恋人ではあります。婚約の約束?も一応しています」
「ふむ。実はな……」と話し出した言葉を、「侯爵様、発言を許して頂けますか」と突然遮ったサイラス。「うむ」と許可したお父様に「感謝します」と答え、「続きは私からお話しします」と頭を下げた。
(何が始まんねん)と傍観者になってたら、私の前で胸に手を当て跪いた。「え?え?ちょ、サイラス?」
混乱してる私の手を取り、甲にチュッとキスを落とし、真剣な表情で見詰めてきた。
もうここまでされたら、私だってこの先の展開が分かる。サイラスは私に求婚するんだと。どうしていいか分からないけど、話はちゃんと聞かないとと思って大人しくしていた。
サイラス「ベリー様。私は貴女をお慕いしております。本当は伝えるつもりは無かったのです。専属護衛騎士として許されない感情ですから。
主人に従っている以上、私の心に宿るこの想いは隠さなければなりません。
しかし、それでもなお、貴女への気持ちが抑えきれないのです。この葛藤が、とても苦しい……
貴女に許されない想いを抱く、このバカな男を許してください。そして、願わくばどうか私に貴女の愛を下さい。愛してますベリー様」
私はその言葉を聞いて胸が熱くなった。サイラスの言葉は心に響いた。私もまた彼を大切に思っている。
でも、彼に寄り添い、想いを受け入れることも、拒絶することもできない。
今は時間が必要だと思う。私の中で整理をつけ、サイラスに正直になれる日がくるまで待ってほしい。
だから、「……ありがとうサイラス。正直言って、とっても嬉しいわ。私なんかにそこまで!?って思う気持ちもあるけどね。ただ…私にはユージが居るから…どうして良いか分からないわ…少し考える時間をくれる?」
サイラス「!?はい、はい!考えて頂けるんですね!待ってますベリー様!っしゃー!」
いや、え?OKしてないから!何そのガッツポーズは!そういえばユージはどうしたのよ!チラッ。
(ユージ!あんた何でそんな落ち着いてんの?貴方の恋人が熱烈に口説かれたけど!)
そう思って口を開こうとしたら、「俺からも!」と、今度はエドが胸に手を当て跪いた。そしてまた手の甲にチュッとキス。「ええ!エドまで……」
エド「ごめんねベリーちゃん。困らせるのは分かってるんだ。でも、こうして伝えられるチャンスを貰ったから言葉にすることにした。俺も貴女をお慕いしています。
ずっと前からキミのことが好きだった。君の笑顔や優しさ、全てが俺を惹きつけて止まないんだ。少しでも君に近づきたくて伝える事にした。
ユージとサイラスと一緒に、俺も生涯ベリーちゃんを傍で見守っていきたい。俺の気持ちを受け入れてくれないかな?大好きだよベリーちゃん」
私は驚きと戸惑いでいっぱいだった。エドが私を好きだという言葉に、3人で私を……という言葉に、どう返していいのか分からなかった。
どんな答えを出すべきなのか、ひとつひとつ考えながら、自分の気持ちに向き合っていかなければならない。でも、彼等を傷つけることなく、どうやって答えを伝えればいいのだろう。
分からないわ……ユージ一筋って決めてたのに……心がざわめく。彼等の思いを軽視したくない……でも……全員を受け入れるなんて……(ああ…神様…私はどうすれば…)
(というか!なんで執務室で愛の告白なのよ!ユージが何も言わないって事は、今日こうなるのを知っていたわね!)
シリアスな雰囲気だったが、ユージの態度を見て段々イラッとしてきたベリーは、「ダンっ!」と足を床に叩きつけ、徐に立ち上がった。
「エド!サイラス!貴方達は私を愛していて、最終的には結婚したいのね?それは、一妻多夫に納得してるってこと?後で後悔しない?」
エド「はい!結婚したいし、納得してる!絶対に後悔しない!」
サイラス「!?はっ!私も夫の一人になれるなら後悔なんて致しません。きちんと話し合ったので納得もしています!」
「そ、そう…」むー。話し合いなんていつの間にしたのよ…はっ!あれか、数日前ビールを懇願してきた時!男3人で朝まで酒盛りしてたあの時か!
それよりユージよ! 「ユージーンさん。貴方も異論は無いのね?エドとサイラスと同じ立場になる事に」
ユージ「なんで“”さん“”付け?ま、まぁ。異論は…ない。話し合った時に腹括ったから。3人でベリーを幸せにしていこうって」
この男!『誰にも取られたくない』って泣きそうになって縋ってきたのに!
「ふぅ…分かったわ。正直、2人とも同じくらい好きなのよね。それが友愛なのか親愛なのか、まだ分からないのよ。ママとお兄ちゃん的な感覚で接してたから尚更ね」
ユージに対する気持ちは親愛だって分かってるんだけどね……
エド「お兄ちゃん……」
サイラス「マ、ママ!?」
「少しだけ時間を下さい。やっぱり一妻多夫に抵抗があるのよ。なんか不誠実な気がしてね。でも、ちゃんと考えるわ」
ウルにも『常識を捨てて考えなよぉ。ここは異世界!日本じゃないんだからぁ』って言われたし……
あの時は、いきなり言われて、なんの事を言ってるのか分からなかったけど、この事だったのね。
というか、あの阿呆うさぎ。また酒瓶抱えてグースカピーと寝てるんじゃないわよね!!まんまる尻尾取るぞコノヤロー!いや、ウルの事は後で良いわ。今はコッチね。
「という事で、ユージ。貴方との恋人関係は一度白紙に戻すわ。そしてまっ更な状態で考える。分かった?」
ユージ「そんな!?……うっ…はぁ…分かったよ」
あら、聞き分けがいい事。もっと反発すると思ったのに。
「ではお父様。3人は私の婚約者候補ってことで宜しいですか?最終決定は、15歳の時に下すわ。それまで傍観者でいて下さいね」
侯爵「15歳だな。あい、分かった。ベリーの意思を尊重しよう」
「ありがとうお父様。では屋敷に帰りますね。《転移!》」
『もう話す事はない』と、一人その場から自宅へ転移したベリーだが。今日集まって貰った面々に、まだ話があった侯爵は慌てて引き止めようと手を伸ばしたが、その手は虚しく空をきった。
侯爵「あ!待て……ああ…まだ話があったのに…」
あの子は少々せっかちではないか?全く誰に似たのか…
サイラス「侯爵様、本日はこの様な機会を下さりありがとうございました」
エド「俺からも、ありがとうございました。今日が無かったら一生言わずに後で後悔してたと思う」
ユージ「私からも、感謝します。それで、ベリーに話とは?私達から伝えましょうか?」
まぁ、あんなに必死に頼まれたら『ダメ』と言えんだろうが。毎日のように執務室まで来よってからに。
侯爵「うむ。これからは3人共が同じ立場になった。どういう決断を下されても文句は言わないようにな」
ユージ「はい。覚悟してます」
サイラス「はっ!心得ております」
エド「分かってる。文句は言わないよ」
それぞれの返答を聞いて頷いた侯爵は、セバスを呼び戻し話をする事に。その内容を聞いた3人は、複雑な表情と、心境を抱えながら屋敷に帰った。
ベリー伝えるかどうか、取り敢えず3人で会議をする事にし、ユージの自室へと消えていった。手に酒瓶を持って。
団結した彼等は、会議という名の酒盛りで夜を明かした。二日酔いで現れる3人に、ベリーの雷が落ちるのは数時間後だ。それまで存分に楽しめ若者よ。
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