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本編 最強冒険者

story196/黒髪の青年

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「ん…あれ…ここ何処だろ…凄くフカフカなベッド…」

なんか身体が重だるい…高熱出して寝込んでるみたいな気だるさが全身を襲い、起き上がるのが億劫だ。

身体が動かないから、顔だけ動かし窓の外を見たが、部屋の中と同じく真っ暗で何も見えない。
唯一の灯りは、空に輝く無数の星々だけだった。

「凄い綺麗な星…都会でこれだけの星を見るのは初めてだなぁ」

暫くボーッと空を眺めていたら、部屋の扉が「ガチャ」と開き、誰かが入室してきた。

その人の手元には、宙に浮いた淡い光を放つ幻想的な灯りが揺れていた。

誰だろ…外国人?良く見えないけど、髪の毛が蒼い?
僕、何処かで倒れたのかなぁ?それでこの人が助けてくれたとか?

(僕、英語の成績は良いけど、喋れるかなぁ?
というか、さっきから声が変な気がする…風邪で喉がやられちゃったのかなぁ?)

とりあえず、お礼を言わないとね…
(助けて頂きありがとうございます。だから…)

「えっと…Sorry, thank you for your help(通じるかなぁ?)」

「ショウマ目が覚めたのか!良かった…腹減ってないか?お父様が作ってくれたぞ」

「え?…あ、はい。お腹…は、減ってます…」

日本語…なのか?言葉は一応通じるみたいだけど、口の動きと聞こえてくる音が違う気がする…

それにこの人、僕のことを知ってるの?「翔馬」って呼んだよね…カタコトだけど…
なんだろ…僕こんな人と知り合いだったっけ?いつ出会ったんだろ?
家と学校と書店しか行く所がないのに…

訝しげに思いながらも、空腹には耐えきれず、彼のお父さん?が作ってくれたらしい食事を頂く事にした。

のだが…「頂きます…」と呟き、トレーを受け取ろうと手を伸ばしたのに彼は渡してくれず、
あろう事か、「あ~ん」をしてきた。

その行動に驚き、恥ずかしくて、「あ、あの自分で…」と言ったのに、

「まだ力入らないだろ?手が震えてる」そう言って、なぜか凄く優しそうに笑い、ゆっくりと食べさせてくれた。

終始ご機嫌な目の前の彼を不思議に思いながら食べ進めていたら、気付いた。味付けが妙に懐かしい事に。

(小さい頃、まだパパが生きてた頃に作ってくれた味付けに似てるような気がする…)

そのことが嬉しくて、普段なら食べきれない量なのに、ペロッと完食してしまった。

「あ、あの…ご馳走様でした…作ってくれた方にお礼を言いたいのですが…お会い出来ますか?」

“美味しい食事をありがとう“そう伝えたくて、彼に聞いたのに、目を見開いて凝視してきた。

「あ、その…ダメなら良いのです。そ、それと…その…お腹が満たされたせいか少し眠くなってきてしまって…
もう少しだけ休ませて頂いても宜しいですか?あ、あの烏滸がましいですかね…」

「なぁ、ショウマ。お前なんか変じゃねぇか?どうしてそんなにオドオドしてる?口調も丁寧だしよ」

「ふわぁ…あ、すみません。ちょっと…眠気が…うっ…オドオ…ド…は…いつも…です…あ…すみませ…ん…」

彼の質問に答えようと、急激に襲われる眠気に必死に抵抗したんだけど、抗えずにベッドに沈み、そのまま眠りについた。

この時の僕は、ここが異世界だなんて、彼が自分の旦那さんだなんて、ましてや子供がいるだなんて、
そしてそして、幼少期に死に別れた実父に再会するだなんて、全く思ってもいなかった。

その事実を知るまで約六時間、僕は夢を見ることもなく眠り続けていた。



亜神ヴェルムに精神洗脳を掛けられ、魔力を使い過ぎたショウマが気を失い、目覚めるまで傍で見守っていたのだが、

「ガイアたちと新しい国を見てきた」と上機嫌で帰って来たショウヨウさんが寝室に顔を出し、
愛おしそうにショウマの頭を撫で、「色味が違うだけで、面影はあの子のままで嬉しいよ」と呟いた。

そして、「食事の用意するから後で取りに来なさい。起きたらお腹空いてるだろうから食べさせてあげて」

そう俺に告げ、部屋を出て行った。

「へぇ。じゃあ、この姿で黒髪黒目を想像すれば、元々のショウマってことか…どっちにしろ可愛いな…」

そういえば、未だちゃんとした再会を果たしてねぇんじゃねぇか?ショウマとショウヨウさん。

「どんな反応すんのかねぇ。…感極まって泣くなたぶん。俺だって母親に会えたら感極まるだろうしな…」

…そういえば、ショウヨウさんって亜神ヴェルムの愛し子なんだよな…会えたり、話したり出来ないのかな?
もし出来るなら是非とも罰して頂きたい。フェリス神様って何もしてくれなさそうだしな。

未だスースーと寝息をたてて眠る愛しい人の頭を撫でながら、時おり口付けをしながら、傍に寄り添ってたら、
階下から俺を呼ぶ声が聞こえたので、「ちょっと待っててな。ちゅ」と囁き、部屋を出た。

この数分後、ショウマの異変に気付くのだが、この時の俺はまだ知る由もなく、呑気にただ目覚めるのを待っているだけだった。

でもそれは俺だけじゃなく、家族みんなも、ガイアたち亜人達も同じだった。

ショウヨウさんだけは心当たりがあったのだろう。
階下に降り、食事を渡された時に悲しそうな顔をしながら、「もし目覚めて異変を感じたらすぐに知らせて」
と言っていたからだ。

そう言われた時は、「洗脳くらい俺の愛があれば解けます」と高を括っていたのだが、
精神洗脳の恐ろしさを知る事になるのは、この後すぐだった。


未だ体調が悪そうにフラフラしていたショウマに、ゆっくりと食べさせてやり、
「腹が膨れて眠い」と言って横になった瞬間眠りに落ちた姿を眺め、俺は頭を抱えた。

「なんだ?なんかショウマの様子がおかしくないか?語り口調もそうだし、俺に対して凄ぇよそよそしかった」

知らない人を見るような目っていうのか…洗脳が解けていないのか?…ショウヨウさんに報せねぇと!

そう思い、部屋を出ようとドアノブに手を掛けたら、向こう側から「コンコン」とノックがあり、
気配を探ったらショウヨウさんだったので、扉を開き、中に招き入れた。

その腕には眠ったエスポアを抱えており、

「エスくんが寝ちゃったから連れて来たんだけど…翔馬は未だ寝てるのかな?一緒に寝かせてあげようか…」

そう言って、ショウマの横に降ろして布団を掛け、2人の頭を撫でてから、「話をしようか」と俺に告げた。

そうして2人で部屋を出てリビングへと行き、ソファに座った瞬間、「申し訳なかった…」と謝られた。

「え?何ですか?どうしたんです?」

(突然頭を下げ謝られても何がなんだかわからんのだが…)と困惑していたら、次に発せられた言葉に更に困惑した。

「あの子、一度起きたでしょ。その時の様子変だったと思うんだけど…理解不能な言葉を話してなかった?
もしくは…“貴方は誰?”的な…ことを言われなかったかい?…その…記憶が無い感じしなかった?」

「…そういえば、聞いた事ない言語を喋ってた気がします。あと“貴方は誰?”とは言われてませんが、
俺を見る目がいつもと違ってました。それと、妙に丁寧な口調で話してましたね。記憶云々は分かりません。
食べたあと、少し喋ってからすぐ寝てしまったので…」

記憶が無いって…そんなこと…ウソだろ!?

「そうか…やっぱりか…これは憶測だけど、たぶん翔馬は記憶の一部を欠如してると思う。
精神洗脳を掛けられた後に膨大な魔力を使って気を失ったでしょ?それが原因で記憶を失ってると思う」

「…ッ…な…んで…そんな…ど…して…どうしてそんな…アイツがなにか悪い事でもしたのか?
なんでいつもショウマばかり酷い目に遭うんだよッ!元に戻すにはどうしたら?口付けすれば良いのか?」

「…心して聞いてくれ。洗脳で記憶を失ったら…元には戻らないと思う…
大昔、ヴェルムに精神支配のことについて聞いた事があるのだが…
神が施す術は強力で、“精神崩壊した者は奇跡でも起こらない限り元には戻らない“と言っていたのだよ…」

その言葉を聞いた瞬間、悲しみと怒りの感情が同時に俺の心を支配し、内側からグサグサと心に突き刺さった。

ショウマは本当に元には戻らないのか?アイツの笑顔、共有した思い出が全て無駄になってしまったのか?

あの邪神は、この結果が見たくてショウマに術を掛けたのか?
“街づくりに必要だから”とヤツは言っていた、“解くカギは俺の覚悟“とも言っていたが、あれは嘘か!

最終的にこうなる事を予想して術を掛けたんだな!さすが邪神だよ!全人類の敵!

絶対許さねぇ…邪神ヴェルム…この世界から消えて無くなれ!フェリス神も!運命神も!消えろよ!
何が“神”だよ!全員が邪神じゃねぇか!厄災でしかない存在だよ!

「うぅ…絶対…許さねぇ!…うぅッ…ショウヨウさん…ヤツに会う方法は有りませんか…」

「…会ってどうするの?」

「そんなの決まってるだろうが!ヤツは邪神だ!邪悪な存在なんだよ!この世界から排除するんだよ!
どんなに強かろうが、俺がこの手で葬り去ってやる!」

「その気持ちは私も同じだよ。なので翔馬が洗脳されてると知った時点で接触を試みてるんだけどね…
念話も届かないし、ヴェルムの元へも転移出来なくなってるんだよ。
だから、雲隠れしたか…或いは創造神様が処罰してる最中かもしれない…」

「クソっ…クソが!あのぬるい神がちゃんと処罰してる訳がねぇよ!信用ならねぇんだよ!だから俺がこの手で…」

「ふふ。創造神がぬるいと思うのは私も同感だ。身内に甘いのは、人も神も同じなんだろう。
神からすれば、我々など盤上の駒みたいな物なんだろうね。平気で人の人生を掻き乱す事が出来るんだから。
そんな絶対的存在に歯向かっても無駄だから、今は翔馬の事だけを考えようじゃないか。
朝陽が昇ってきたからね、あの子が目覚めるのを、傍で待とうじゃないか」

「はは…盤上の駒…言い得て妙だな…分かりました。今はショウマの事だけ考えます。
ただ…どんな形でも良いから、報いは受けさせたい。この復讐心が消える事はないでしょう」

それは私も同じ気持ちだよ。ただ、神に人が対抗しても軽く去なされるだけなんだよアレクレスくん。

神を処すには、同格かそれ以上の神じゃなきゃ対処出来ないんだ…しかも我々の味方をしてくれる神じゃなきゃね…

そんな力を持つ存在を一神だけ知っている…

闇魔神ダークライと魔法神マジナヴェルの交じない子。月の女神ルアナーシュ。

創造神に匹敵する力を持つと言われているキミは果たしてどちらの味方なのか…

「我々の味方をしてくれるのを願うばかりだな…」

そして願いが叶うのならば、ヴェルムを処刑してくれるのを願っている。

「ショウヨウさん?先程からブツブツとどうかしました?部屋に着きましたが」

「ん?ああ。ふふ。何でもないよ。さぁ、可愛い我が息子はお目覚めかな?私の事を覚えているだろうか…」

そう言ったショウヨウさんを伴い、部屋の中に足を踏み入れた俺の目が捉えたのは、
ベッドの上で身体を起こし、窓の外をジーッと見つめている、黒髪の青年の後ろ姿だった。
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