腐男子、転生したら最強冒険者に溺愛されてる

玲央

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本編 最強冒険者

story190/仲違い

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ショウマに、「ガイアたちの今後について何か考えがあるのか?」と聞いたら、
一瞬だけピキっと固まり、「フェリス神様から貰った贈り物がある」と答えた。

「それがガイアたちの今後に役立つ物なのか?」と更に質問したら、小声で「モゴモゴ」と呟いた。

その声は本当に小さくて、クルマの「ブルルル」という唸り音に掻き消されてしまい、全く聞こえなかった。

ので、もう一度ハッキリ言えと伝えたら、
目線を泳がしながら言った言葉に理解が追いつかず、その場がシーンっと静まり返った。

どのくらいの時間が流れたのか、静寂を破ったのはガイアの声だった。

「あ、あの。ショウマさん。さきほど主神ピースフェリス様に“シマを贈り物として貰った“と聞こえたが…
それは、あの…何かの冗談…です?それと、“マチを作る”と聞こえたような…」

その言葉に、俺はただ頷いた。動揺して声が出なかったんだよ。

問いに対してショウマは、自分の考えとフェリス神様の考えを聞かせてくれた。

「そうだよ。シマを開拓して、ガイアたちのような人達の街にするんだよ。
このアイデアは…というか、ほぼ決定事項なんだけど、フェリス神様からの手紙に書かれていたんだ」

「決定事項……」

「そう。自分が手を出せない変わりに、僕に託すって。手紙には、“人間の意識改革は非常に難しい“と書かれていたんだ」

僕もその意見には賛同した。「その通りだな」って。
人の意識を一変させるのは容易ではなく、長期的な努力と時間が必要だと思うんだ。

「だから、差別を無くしたり迫害を阻止したりする方法を模索するよりも、建国した方が手っ取り早いってさ」

「……建国…スケールがデカすぎる…」

「そして、こうも書かれていた。『新たな都市を建設し、亜人であるガイア達との共同生活を始めることで、
より包括的で寛容な社会を実現することができる』と、そう手紙には書かれていたんだ」

島を開拓することによって、亜人であるガイアたちが安心して生活できる場所を提供する事が出来るし、
彼らが自分らしく生きることができる環境を整えることが重要だとも書かれていた。

『この新たな街では、人種や出自に関わらず、互いを尊重し、平等な権利を持つことを念頭に置け』

とも書いてあった。もうね、「作ってあげて」のレベルじゃなくて、「お前が作れ」の命令書だねあれは。

「いや待て。神様の手紙の内容は分かったが、いや、分かりたくないが…“共同生活”って?
……まさか俺達もそのシマに住むってことなのか!?」

「そう書かれてたね。“島の開拓は、人間と亜人が共に生きる社会の実現を目指す先駆けとなるでしょう“
“差別や迫害をなくし、包括的で寛容な社会を築くためには、共同の努力と相互理解が不可欠です“だってさ」

「はあ??それって、俺やショウマが歴史を変える1ページになれってことじゃねぇか!
で、その内容を聞く限りじゃ、“お願い”じゃなくて、“命令”じゃねぇかよ。俺達が作れ!っていう」

「そうなの。もう場所も決められててね。
基礎工事が済んでるマチの土台を贈るから、好きに建物を配置してってさ。
で、その為の硬貨もたっぷりイベントリに投入されててね…もう…やるしかない!って感じ」

天界から僕達の動きを全部把握してるのだろう。アレクが用事を済ませて戻って来るまでの間に、
“土台に山や川とかの自然を作ることをオススメする“ってのも書いてあってね、
“今の日本の都市”のような近未来系にも出来るし、古き良き時代の日本、“純和風“にも出来る”ってさ。

『亜人たちが住みやすいのは“純和風”だろう。モニターで操作出来るようにしてあるから、自由に作れ。
完成したら、他の亜人たちを転移させる』

「だってさ。で、最後の一文に、
“アレクレスが調べようとしている人物には話を通しておいた。彼奴を国の頭にして、一緒に統治せよ“
って書いてあって、手紙が燃えた。ボッ!ってね」

そこで初めてアレクの用事が分かったんだけど、調べてる人物って誰だろ?
フェリス様がその人に伝えたってことは、何処かの国の元国王とかかな?それとも…昔の愛し子とか??

(そのことも後で聞いてみよう。うんうん。気になるし)

そう心の中で思って頷いてたら、突如「キキーッ」とブレーキ音が響き、道沿いに急停車した。

そして、横から「はぁぁぁ」と深~い溜め息が聞こえ、
視線を向けたら、顔を腕で覆い天井を見上げてるアレクを視界に捉えた。

暫く無音の状態が続き、アレクから発せられる怒りのオーラにビクビクとしていたら、
地の底から響くような重低音ボイスで話し掛けられた。

「フェリスの野郎の言いたい事は分かった。その提案…いや、命令から逃れられないのもな。
で、ぶっちゃけ“街を作る”ってのには賛成だ。ガイア達が安心して暮らせる街なんて最高だと思う。
それを作るのに手を貸すのは全然構わないんだ。むしろ率先して手を貸すよ。
でもな、俺たちが移り住むってのは…それは納得が出来ない。というか、そんな簡単に決められん」

「それはどうして?」

「は?どうしてって…分からないか?“建国する”ってことは、移り住むってことは、国を捨てるってことだぞ?
生まれ育った国や街を簡単に捨てられるか?親や友達だって居るんだぞ?
それに、お前に出会った街だし、思い出がたくさん詰まってるだろ?あの場所には」

「……アレクの言いたい事は分かったよ。
それを踏まえて敢えて言うけど。僕はね、移り住んでも良いかなって思ってる。
確かにアレクに出会った街だし、僕にだって沢山の思い出があるよ。
ユアンやシェリー、他にも仲の良い冒険者も居るし、パパたちだって居る。
でもね、ぶっちゃけ、この国が好きじゃないんだ。だから極力あの丘の上から出なかった」

最初に「あ、この国ダメだ」と思ったのは、ギルドとか街中で絡まれた時ね。
アレクが居なかったら街の中になんて住んでなかったんじゃないかな。
森の中でテント張って生活してたと思う。そのくらい第一印象が最悪だったんだ。

その後が、盗賊に襲われた時。で、次が、この国の人達の貞操観念の低さを目の当たりにした時。
次が、マイキーやルナ、幼稚園の子供達が被害にあった、教会の闇を見た時。
で、最後が、今回のガイアたち亜人に対しての差別の酷さね。

だから、この国…いや世界が好きじゃないんだ。良いと思えるところは、“魔法が使える“ってことだけ。

それ以外に良いところが全く無いと思う。
何かあれば「呪いだ」「悪魔だ」って言う考えも、萎びた野菜や、腐った肉を売る商店もね。

あと、「王政」もイヤだね。
貴族が悪巧みをする王政体制では、一部の特権階級だけが権力を握り、庶民は不平等や不正義な扱いを受ける。

このような社会では、貴族だけが享受する特権が認められ、平等や民主的な価値が脇に置かれる。
そのため、貴族に対する不信感やこれらの王政体制への抵抗感が強くあるんだ。

「そんな奴等にヘコヘコしなきゃならない国に住み続けるのは、御免こうむる!」

そこまで言いきったのを、アレクは目を閉じて聞いていた。一言も話さず、頷きもせず。

「それにね、国に蔓延る闇を見る度に、関わる度に、心が磨り減っていくんだよ。もう見たくないの。
だからね、僕はガイアたちと一緒に開墾して、シマに移り住もうかなって思ってる。
アレクに反対されても、僕はもう決めた。これで離れ離れになったとしても、気持ちは揺るがないよ」

僕は決めたんだ。この決定は覆らないよ。

「反対するなら……くっ、お、お別れだよアレク」

そこまで言う気は無かったのに、思ってもいなかったのに、何故か口からその言葉が飛び出た。

アレクはそう言った僕を、目を見開き睨み付けてきて、

「またそれか。一生一緒に居るって誓ったのに、お前は簡単に「別れ」「サヨナラ」という言葉を吐くんだな。
話し合いもせず、自分勝手に考えて結論を出すんだな。俺の意見を聞く耳も無いってかよ」

そう言って、運転席のドアを開け、

「王都行きはやめだ。ガーディアンに戻る。暫く1人になりたいから、ガイア運転変われ。俺は歩いて戻る」

そう僕とガイアに告げ、車を降りて颯爽と草原の中へと去って行った。

「ショ、ショウマさん!!アレクを止めなくて良いのか!?今ならまだ間に合う!連れ戻して来ます!」

「あ、ガイア待って。良いの。大丈夫だから。
アレクは反対するだろうなって思ってたし。まぁ…旅行を中断して車を降りるとは思わなかったけどね」

「なんでそんなに冷静なんです!少しは焦らないんですか!?」

「ふふふ。心配してくれてありがと。でも大丈夫」

「しかし!!」

「ガイア、本当に大丈夫だから。考えが纏まったら戻ってくるよ」

「申し訳ない…俺達のせいで仲違いをさせてしまった」

「ガイア達のせいじゃないよ。これは僕の自分勝手な振る舞いが引き起こした事なの。
さ、ここに留まってても仕方ないから、来た道を戻ろうか。運転してくれる?僕じゃ足が届かなくてね」

そう言って、ガイアに操作の仕方を教え、
Uターンして、ゆっくりと走行させ、来た道を戻り、ガーディアンへと向かった。

僕は席を立ち、「他の子達に事情を伝えてくるね。何かあればラッパマーク押して知らせてね」と伝え、
子供達が居るだろう2階へと昇って行った。

(流石に別れの言葉はダメだったなぁ。ちゃんと話し合えばアレクは分かってくれた筈だよね…)

「はぁ。やっちゃったなぁ……」

というか、ガイア達を拾った辺りから、アレクに対する気持ちにセーブが掛かってるような…
自分の意思じゃなくて、誰かに妨害されてるような…
なんか、そんな感じがしてモヤモヤするんだよね…

愛してるのに、大好きなのに、気持ちに一線引いてあるような感覚がして、気持ち悪い。

それに、フェリス様の手紙読んだあと、グルグルと思考していたら、唐突に、
「ガイア達のために作らなきゃいけない」って考えに思い至ったんだよね。

この国や世界に対して悪感情しか無かったのは僕の本当の気持ちなんだけど、
「移住は決定!決めた!気持ちは覆らない!」ってあの言葉…言わされた感がするっていうか、
“言わなきゃいけない“って思ったっていうか…

今だって、なんかおかしい。アレクが怒って車を降りたのに対して冷静っていうか…
いつもなら絶対に泣いてるだろう場面なのに、涙の一滴も出ない。

淡々と子供達に説明している自分に違和感を感じるんだ。まるで精神支配されてるような感覚がする。

「は!精神支配!…ま、まさか…神様の…仕業?」

もしそうだとして、理由はなに?

……もしかして、建国させる為に僕を操ってるとか?

あれ?そういえば、念話で聞こえてきた声って…フェリス様のようでフェリス様じゃ無いような…

あの声って、衛兵に天罰下した時の声に似てる…

それに、あの手紙の書き方とか、フェリス様にしては柔らかく無いというか、上から目線過ぎるというか…

そんな風に色々と考えていたら、また唐突に思考が切り替わった。

「……そんな事より、土台に自然を配置しないとね。
あ!ガーディアン手前で、シマを設置する場所に転移しないと。ん~いや、このまま転移するかぁ」

場所は幼稚園の裏の森を抜けた先にある、崖の下に広がる海の上だしな。うんうん。

「じゃ、行こう」«ガーディアン丘の上へ転移!»

術を発動させ、自宅前の広場に転移し、困惑しているマイキー達を横目に、リビングへと降り、
モニターに映し出されてる“街作りキット”の操作を始めた。

そんな行動をとる僕に、ルナやカイトが話し掛けてたんだけど、そんな声は僕の耳には届いていなかった。
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