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本編 最強冒険者

story185/差別に天罰を

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キャンピングカーを狙い襲ってきた盗賊たちを、マイキーとカイトが討伐し、土に埋めたんだけど、
ピコピコハンマーで叩いた拍子に取れた布の下は、1本角や2本角、動物の耳だった。

僕はその盗賊達に、種族を聞いてまわり、「なぜ盗賊になったのか」を最後に問いかけた。
それでわかったことは、僕が暮らしている国“ウォルデン王国”と、隣接する“シュナウザー帝国”は、
いつの時代からか人族至上主義となっていて、亜人族に対する差別が深刻化しているってことだった。

まぁ、亜人族に対してだけでは無いんだろうけどね。

だって、以前アレクが言ってたけど、痒毒病(水虫)が酷くなると不治の病だ!って職場を解雇されるとかさ、
マイキーが言ってた、五体不満足で産まれた赤子は「呪われた子」と言われ捨てられるとかさ、
そんなの完全な人種差別だからね。

理不尽な国に憤りを感じ、フツフツと怒りの炎を燃やしていたら、赤肌オーガくんがボソッと喋りだした。

「…盗賊なんて、やりたくてやってる訳じゃねぇ。
ただ、故郷には居場所ねぇから帰れねぇし、普通に街の中で暮らせないから、生きる為にこんな事してんだ。
言い訳みたいに聞こえるかもしれんが、半端者の亜人族の現状なんてこんなもんだ」

その言葉に、他のメンバーが涙しながら項垂れたのを見て、カイトくんをチラッと見てから、僕はある決断をした。

「皆んな、どれだけ悪い事をしてきたの?具体的に教えてくれない?人を殺したとかは?ある?」

そう聞いたら、フェアリーくんと、ウサちゃんが、ボソボソっと教えてくれた。

「…あの。人は殺してないです…」

「いつも馬車を止めて、布とか服を剥ぎ取ったりしてます」

まさに追い剥ぎのようね「金品とか食料を奪う為に人質取ったり、怪我させたりは?」

そう問い掛けたのに答えてくれたのは黒ヒョウくん。

「あ、あの。金はあっても使う所が無いので取らないし、食べ物は魔物の肉や野草を食べるので取りません」

んん?じゃあ、布と服を剥ぐだけで実際は危害を加えてないってこと?まぁ、それでも悪い事なんだけどさ。

話を聞きながら考え事をしていたら、ハーフオーガくんが発言した。

「…ふん。殺したり怪我させたりする趣味はないね。
ただ、頭に巻く布とかボロボロになった服を着替えたい時に、ちょっくら拝借すんだよ」

そのあと、他のメンバーにも話を聞いたら、似たり寄ったりな内容だったので、
「なるほどねぇ」と呟いてから、穴から出してあげることにした。

「マイキー、みんなを穴から出してあげてくれない?あとさ、この人達って手配される程の盗賊だと思う?」

(え?…ああ…ママが何したいのか分かった…はぁ。
お人好しっていうか…まぁ、ショウ兄ちゃんってこういう人だもんね。…アレクが何て言うかな…)

「出すのは良いけど、逃げ出さないように拘束だけはさせて貰うよ。
あと、手配はされてないと思うよ。見た目は凶悪犯みたいだけど、盗賊じゃなくて…小悪党でしょ」

それを聞いて安心した僕は、首を傾げ困惑している面々をニコニコと見つめ、アレクの到着を待った。

マイキーは「エスポアのとこに居るね」と車内へ入り、カイトくんはウサギの彼に夢中で話し掛けていた。

いや、その気持ち凄く分かる!ピンクの髪の毛にピョコンと生えた耳がラブリー過ぎます!

でもね、僕が気になってるのは…オーガの彼なんだよ。
オーガってさ、この世界に来て初めの頃に討伐した事あるんだけど、
その時に対峙したのは獰猛な顔した“鬼”だったんだけど、目の前に居るオーガ族の彼…
今はスス汚れてるからハッキリ分かんないけど、超絶イケメンだと思う!

気になって、チラッチラッと見ていたら、不思議な顔をしながら声を掛けてきた。

「何だ?俺に用でもあんのか?あー。角と肌の色が珍しいか?それともこの気持ち悪い顔か?」

(うひゃあ!めっちゃ脳天に響く良い声ぇ!腰砕けそうになったわ!)
「ぐぅ…コホン。いえいえ、うちの長男も次男も角あるし、肌の色なんて皆んな違うから気にならないよ。
顔なんて、気持ち悪いとか有り得ない!めちゃくちゃ格好良いです!ちょっと見惚れちゃったの。あはは」

「あ、え、そ、そうか…(こんなこと言う人族なんて初めて会ったな)ボソッ…変なヤツ…」

そんな話をしながら待つこと数分。
ドゥルンドゥルンとエンジン音を響かせながらアレクが戻って来た。後ろに2人の衛兵を引き連れて。

それを見た8人の亜人族たちが、一斉に溜息を吐き、絶望した顔して空を見上げてしまった。

大丈夫。そんな顔しないで。君たちはコレから幸せになるんだよ。
偽善的かもしれないけど、本当は良くない事だって分かってるけど、僕が手を差し伸べるから。掴んでね。

「アレクー!ルナー!お帰りなさ~い!衛兵さんもお疲れ様でぇす!」

「ショウマ!ただ…い…ま…ぇぇええ!」

「まーまー!たらいまぁー!カイちゃ、おにしゃ、ウサしゃ…んとんと、いぱーい、たらいまぁ!」

ルナがバイクの上から転移し、黒ヒョウくんに抱きつき、アレクは亜人族を見て驚きながら僕の傍でバイクを停めた。

そして衛兵は馬の上で剣を構え、厳しい顔をしながら、僕たちが立ってる場所に到着した。

瞬間、剣先を彼等に向け「「忌まわしき亜人の盗賊共よ、詰所まで来て貰おう」」と声を発した。

その言葉に「プッチーーン」とキレた僕は、衛兵に食って掛かった。

「あの!ここまでわざわざ来て貰って有難うございます。でも!この人達は忌まわしく有りません!
盗賊行為なんて微塵もしてないですし、忌まわしいのは、あなた方です!剣を仕舞いなさい!」

衛兵①「んな!いくら愛し子様でも、我々を侮辱する言葉は控えて頂きたい!」

衛兵②「人族の暮らす国に、彼等のような異分子が紛れては大変なのです!剣は降ろしません」

「異分子は、彼等の存在を否定する、国や人族です!」

衛兵①「愛し子様、彼等は亜人族。我々とは違う生き物なのです」

「僕たち人族だって、彼等から見れば亜人なんですよ!」

衛兵②「それは違いますね。人は尊い者であり、彼等は悪でしかない。生きていてはいけない存在なのです」

「この世界に生きる人達は、全て尊い者です!
彼等は、差別され、迫害される為に産まれて来たわけじゃない!」

1歩も引かない衛兵たちと睨み合い、口論をしていたら、

ヒョォオ…と、突如として辺り一面に、真っ黒い靄が広がり、空の彼方から威厳のある声が降り注いだ。

『愚か者よ剣を仕舞え。それ以上口を開けば天罰を下す。元の場所へ戻れ。これは神からの警告だ』

その声がそう告げたあと、衛兵が突き出してる剣に向かって稲妻が落ち、真っ二つに折れた。

それを直で受けた衛兵の2人は「「呪いだ!亜人の神からの天罰だ!」」と叫び、
「「ぎゃぁああ!」」と悲鳴をあげながら馬の腹を蹴り、来た道を全速力で戻って行った。

その背を「ふん」と鼻を鳴らし見据え、天に向かって、
「フェリス神様…だよね?ありがとうございました」とお礼を言い、くるっと皆のほうを振り向いた。

そして「アレク、勝手に決めてごめんね?でもね、僕この人達を見放すことは出来なくて…」

「…ショウマ、彼等は盗賊なんだぞ?悪い事をしたなら罪を償わなきゃならない。それは、人族も亜人も一緒なんだぞ」

「そんなの分かってるよ!でもね…」と、一旦言葉を止めて、唖然と立ち尽くしてる8人を見回してから、
この国の差別の酷さとか、彼等に聞いた今迄の所業を話して聞かせ、

「━━ということで、彼等の罪は、僕たち人族が作り出してしまったんだよ。
だから、罪を償うのは彼等じゃなくて僕たち人族だと思うの…で、何が言いたいのかというと…」

眉間に皺を寄せて聞いてるアレクにそこまで伝えたら、「はぁぁ」と盛大に溜息を吐き、僕の言葉を遮って、

「お前の言いたい事は分かった。それに、納得もした。確かに俺たち人族のほうが罪深いな。
だからさ、良いぞ。彼等に手を差し伸べたいんだろ?」

と言って、優しく微笑み、頭を撫でてくれた。
分かってくれた事が嬉しくて、「ありがとアレク!」とお礼と共に思いっきり抱きつき、
未だ呆然としている彼等に向き直り、ニコッと笑い、言葉を掛けた。

「という事で、僕たちと一緒に行きましょう!偽善者だと、余計なお世話だと、そう思うかもしれないけど、
僕はあなた達を見捨てる事はしたくないの。ね?手を掴んでくれませんか?」

手を出し、そう告げたら、皆んな一斉に泣きながらお礼を言い、僕の手を掴んでくれた。

その後アレクが「さぁ、クルマに乗れよー。暗くなる前に待機スペースまで行くからなー」と声を掛け、
オーガさんの背を「バンッ」と叩いてから運転席に乗り込んだ。

カイトくんは「ウサウサ、フェアにゃ、皆んな行くにゃよ~」と言い、躊躇ってる彼等の背を押し乗り込んだ。

僕は、そっぽ向いて肩を震わし泣いてる、ハーフオーガの彼の手を握り、
「さ、行こう」と声を掛け、無理やり押し込んだ。

そして最後にオーガさんが、ガバッと頭を下げ、
「神の愛し子様、本当に…ありがとうございます!」と大声で叫んでから、キャンカーに乗り込んだ。

「この国の人間は罪深い。差別は許せない。理不尽な目に遭ってるのは他にもいるのは分かってる。
だから、見掛けたら手を差し伸べるんだ。それで少しでも彼等に希望を与えられたら良いな…」

「ショウマー。そろそろ出発すんぞ!ブツブツ言ってないでさっさと乗れよー」

「あ、はぁい!」

こうして出発早々起こった一悶着は終息し、キャンピングカーは新たな乗客を迎え、王都へ向けて出発した。

僕はルンルン気分で助手席に座り、暫くの間アレクと話していたんだけど、
「彼等の様子を見てくるね」と一言告げて、リビングへと足を踏み入れた。

……んだけど…目の前の光景に笑顔のまま固まった。

獣人族も魔族も妖精族も、風呂に入ったんだろう。綺麗になってた。それは、まぁ想定内だったんだけど…

「ママママイキーさん。その床に散らばってる食べ物や衣装は何でしょう??そんなの何処に??」

「あ、ママ。えっと…ユアゾンで購入したんだよ。ルナとカイトが…あのモニターで…」

そう言って巨大モニターを指さしたので、ギギギっとゆっくり目線を向けたら、
毎度お馴染み、ユアゾンを開いた時のトップ画が、デデーンっと映し出されていた。

それを見て思わず「アンビリバボー!」と叫んでひっくり返った。

慌てたオーガさんが「愛し子様!」と駆け寄り抱き起こしてくれたんだけど、
視界に入った瞬間「グハッ!」と声を漏らし、顔を覆って、心の中で悶絶した。
(何この超絶イケメンは!!至近距離ヤバっ!!)と。

でもそれよりも強く思ったのは、(何でも軽々しく言うもんじゃないな…)だった。

「レディス様ぁ!切実にお願いします!何かするなら事前連絡をして下さぁい!」
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