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本編 最強冒険者

story174/賑やかな食卓

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朝陽が差し込む寝室の窓辺に座り、ウトウトとしながらも眠る事をせず、
アレクとマイキーの無事を祈り、帰宅する瞬間を今か今かと待ち侘びていた。

気配を辿ったら、街の中の1箇所から動かず、その場に留まっているのが分かっていたので、
(何処かの宿屋で一晩過ごしたのかな……)と思ったり、
(まさか怪我して動けないとか……)と思ったり、
(心配だから迎えに行こうかな……)と思ったりしながら夜を明かした。

太陽が昇って暫く経った頃、ベビールームから、
「んぎゃぁあ、んぎゃぁあ」とエスポアの泣き声が聞こえてきたので、重い腰を上げ部屋へと向かった。

「エスポア~、起きたのぉ。お腹空いたかなぁ?」

そう声を掛けながら、お尻のチェックをし、オムツを替えてから抱き上げ、ミルクを飲ませた。

「んきゃ、あいぃ、んく、んく、んく」

「美味しいぃ?凄い勢いで飲むねぇ。ふふっ」

小さい手で、必死に僕の指とポーション瓶を掴み、真面目な顔して飲んでる姿が可愛くて、
ニコニコと笑顔で暫し見入っていたら、

「まーまー、まーまー、パパと、にぃにと、にゃんと、きちゃよ、ぶーんって」

アレクとマイキーが帰ってきたという知らせを、ルナが伝えに来た。
その報告を受けて、僕は「ホッ」と一息ついた。
そして「良かった…」と呟いた瞬間、身体に安心感が広がり、同時に一筋の涙が頬を伝った。

昨日から魔物討伐に向かったアレクとマイキー。
彼らの戻りを心配して、不安で、一晩中祈り続けていた僕の想いが、少しだけ報われた瞬間だった。

「ルナ、エスポア、一緒にお外まで行ってお出迎えしようか。そしてお帰りのハグだよぉ」

「あい!ルナ、にゃんとギューしゅる!」

ルナの言葉を不思議に思い「“にゃん“って何?」と首を傾げて聞いてみたら、
「…?にゃん、にゃん、にぇこしゃん!」と元気いっぱいに答えた。

(ん~?子猫でも拾ったのかな?)と思いながら、エスポアを抱え、ルナと手を繋ぎ、外へと出た。
そして丘の入り口まで歩いて行き気配を辿ってみたら、
アレクとマイキーの他に、もう1つ知らない魔力をキャッチした。

ルナは“にゃん”と言っていたから猫だと思ったのに、感じる魔力反応は人のもの。
しかも大きさからして、子供のものだと気付いた。

だから(被害に遭った孤児でも連れ帰ってきたのかな?)と考えながら到着を待ちわびた。

暫くすると肉眼でハッキリ見える距離まで近付いて来ており、
「あ!ルナ見えたよ!パパとお兄ちゃん!」と喜びの声を上げた僕と、
「きゃあ!パーパー、にぃにー、にゃんにゃん!」と飛び跳ねながら奇声を上げたルナが、
こちらに向かってくる2人に、手を振りながら待っていた。アレク達も気付いたようで手を振り返してくれた。

でもよく見ると、お腹に小さい子供を抱え、後ろにマイキーを乗せてバイクを走らせており、
その姿がなんともシュールで、腹を抱えて笑ってしまった。「あっはは!なにあの格好!」

でも、やっと、やっと無事な姿を自分の目で確認できた安堵感から、嗚咽を漏らして泣いてしまった。

「良かったよぉ、ぐすっ、アレクゥ、ぐすっ、マイキー」

そして数分後「ブォン」というエンジン音と、
「ショウマー!ルナー!エスポアー!」というアレクの声と、
「ママー!ルナー!エスくーん!」というマイキーの声、そして……
「んにゃぁああ!」という猫の叫び声を辺り一面に響かせながら、僕達の目の前に到着した。

瞬間、エスポアがマイキーに向かって手を伸ばし「んだぁあ!」と抱っこをせがみ、しがみつき、
ルナがアレクに張り付いてる子供を「にゃんにゃん!」と言いながら魔法で自分の元へと運び抱きつき、
僕とアレクは「おかえりなさい」「ただいま」と言いながら口付けと共に抱き合った。

そのまま暫く、キスしたり、抱き合ったりと、イチャイチャとしていたら、もの凄い視線を感じ、
「はっ!」として目線を向けたら、茶色と白のグラデヘアと琥珀色の瞳をした、子猫の人形さんと目が合った。

そして一瞬の間を置いて「超かわいい!!」と叫んだ僕の声と、
「エンジェルだにゃ!」と叫んだ子供の声が重なり合って、その場で共鳴した。

「ア、アレク!この猫ちゃんはどうしたの??めちゃくちゃ可愛い!こんにちは、お名前は?」

「カイト・ツシマにゃ、昨日この世界に来て、速攻スタンピードに出会したにゃよ。エンジェル様のお名前は?」

可愛いクリクリの猫目と、ピコピコと動いてる耳に悶えていたら、聞こえたフレーズに固まった。
そして、頭の中で(カイト・ツシマ?)と(昨日来た?)と言葉を反芻してから、

「どぇえ!その名前の響きって…君、日本からの転生者なの!?ウソでしょ~!!」

事実に盛大に驚き、頬に手を当て叫んだら、アレクに頭を撫でられ「ほら、自己紹介しろ」と言われた。

「あ、ごめんね。つい驚いちゃって。僕は、ショウマ・アマギ・フォルティエです。同じ転生者だよ」

ニコッと笑い、自分の名前を告げたら、今度はカイト君が目を見開き驚き、何故か涙を流した。

「まさか、天城 翔馬くんだったにゃんて…君さ、○○市に住んでて、その地域の進学校に通ってにゃかった?
ボクちの名前に聞き覚えにゃい?“対馬 海斗”にゃよ。
自分で言うのもにゃんだけど、あの街じゃ有名にゃ名前だった筈にゃよ」

そう問われ、「ん~?」と記憶を手繰り寄せていたら、いきなりアレクに抱っこされ、
「ショウマ、カイトも。とりあえず家の中入ろうぜ。俺達さ、昨日の夜から何も食ってねぇから腹減った」
と言われたので「それは大変!」と慌ててユアゾンを開き、サンドイッチを購入した。が……

アレクは僕を抱っこ、マイキーはエスポアを抱っこ、
カイト君はルナを抱っこしており、手が離せない状態だったので、家に着くまでは諦めて、大人しく運ばれた。

その間に思い出した。
彼は同じ市内にあった男子校の陽キャ集団の中の1人で、天才ボクサーって言われてた人だと。

そして同時に思い出したのは、近所に住んでいたということと、幼少期にカイト君に虐められていたこと。

それは僕にとって忘れたい記憶の一つで、その出来事は僕の人格形成に大きな影響を与え、
暗くジメジメとした性格を持つキッカケの1つとなったんだ。

そんな彼が目の前にいる。何故か頭に耳を付けた猫の子供の姿で。可愛いんだけどね、凄く。

だけど、古傷が開きジクジクと痛む感覚に襲われ、それを払拭したくてギュムッと目を瞑り、
アレクの胸に顔を埋めて、背中に手を回し、ギュッとしがみついた。

その様子を哀しそうな顔をして見つめていたカイト君だけど、僕はそれに気付かなかった。

そしてその状態で家の中へと入り、リビングに到着したけど、離れたくなくて必死にしがみついていた。

「ショウマ…心配させてごめんな。……お前、顔色悪いぞ?ベッドで横になるか?」

「ん…凄く心配した。ずっと帰ってくるの待ってた…。ご飯食べたらアレクと2人になりたい」

「それは俺も大歓迎だが、エスポア達はどうする?」

僕たちの会話を聞いていたマイキーが「エスポアはオレが見てるよ。全然離れてくれないし…」と言い、

ルナはカイト君に掴まり「にゃんと、あしょんでりゅ!まーま、ねんねちてきて」
と言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。

「ありがと2人とも。さあ、ご飯たべようか。今日は和食だよぉ。ほら、座って。カイト君もね」

過ぎ去った過去の出来事は一旦頭の隅に追いやり、今は家族が揃ったことを喜ぼうと、明るく声を掛けた。

カイト君は「翔馬くん、ボクちのことは放っといていいにゃよ。家族水入らずの邪魔はしないにゃ」

と言っていたけど、ルナに「めっ!にゃん、ごあん、たべりゅの!うまうまよー」と怒られ、

アレクに「遠慮すんな、カイトも昨日から何も食ってねぇだろ?ショウマの飯は美味いぞ」と頭を撫でられ、

マイキーには「そんな細いと、ルナの遊びについていけないよ。もっと筋肉付けないと」とニヤッとされ、

そこに参加したエスポアからも「んだぁ、うぶぶ、だぁだぁ」と通訳必須なバブ語で言われ、

「にゃはっ」と苦笑を漏らし「じゃあ、遠慮にゃく頂くにゃ。オールウェイズありがとにゃ。
翔馬くん、グッドなファミリーにゃね」と言いながら席についた。

僕はその言い方に「あはは!カイト君、ルー語で喋っても誰も分かんないから!」と爆笑しながら座った。

案の定、アレクもマイキーもキョトンとしており、
「オルウェイ?」「グドなファミ?」「ルゴって何だ?」と口々に言葉を発し首を傾げていた。

それを見て「あ、ソーリー、ごめんにゃ!」と慌てて謝ったカイト君が面白くて、僕は更に笑い声を上げた。

そんな賑やかな食事風景を楽しんでいたら、過去のことなんてどうでも良くなり、頭の隅から消し去った。
そして、食事中は色々なことを聞いてみた。

「ねぇ。カイト君って“プロ目前”って言われてたボクサーだよね?どうしてこの世界に?」

「んにゃ。ベタな漫画のひとシーンみたいにゃけど。
ハートブレイクして、ズーンってなってる所に、川で溺れるニャンコを発見したにゃ。
慌てて飛び込んでレスキューしようとしたら溺れて、ドンブラコと流され、気付いたら白い部屋に居たにゃね」

だから、言葉!悲しい話なのに笑っちゃうから!

「ん゙ん゙ッ。えっと、失恋して川で溺れて、神様のところで目覚めたってことね。
で、フェリス様に猫獣人にして貰って、この世界へと転生して来たってことかな?」

アレク達にも分かるように解釈しながら聞き返したら、

「んにゃ?神様のネームは、レディなんとかだったにゃね。オネェ様のゴッドだったにゃよ。
“猫になりたい”って言ったのに、この地に降りたら猫ボーイになってたにゃよ」

と、真面目な顔して喋ってますけど!言葉!やめて!

「もーだめ!あっははは!カイト君なんで単語を英語にして喋るの!
真面目に話してても巫山戯て聞こえるんだけど!あー可笑しい。それに、ぷぷぷっ、なんで猫なの!」

その後もルー語…いや、カイト語を炸裂させながら喋るカイト君と、終始笑いながら会話をし、食事を終えた。

そして、満腹になったお腹を擦りながらリビングでまったりしていたら睡魔に襲われ、
アレクの肩にもたれ掛かり、幸せな気持ちのまま、深い眠りに落ちていった。

(パパ、まーま、ニコニコて、ねんねちた。みーな、ちーよ)コソッ

(アレクも寝ておいでよ。ルナとエスポアのことはオレとカイトに任せて)コソッ

「あいあいさー!(あ、ごめんにゃさい。ルナちゃんと遊んでるにゃ、おやすみにゃ)コソッ

「ははっ。ありがとな。カイト、遠慮せずこの家でゆっくりしてろよ。マイキー、あとは頼んだぞ」

(((あいあいさーーー!!)))コソコソ

「あはは!仲良くしてろよーおやすみー」

元気な子供たちの返事に笑いながら声を掛け、ショウマを抱え寝室へと入り、ベッドに2人で横になり、
「おやすみショウマ、ちゅっ」と口付けをしてから目を閉じ、ギュッと抱き締めながら、俺も眠りについた。
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