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本編 最強冒険者
story170/小さき命
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ルナの規格外スキルをチェックして、内容に驚き、暫し部屋の中がシーンっと静まり返った。
その沈黙を破ったのは、自分の能力を明かしたマイキーだった。
「えっと…こんな凄い能力を見せられたら、オレのが霞むし、普通に教えても大丈夫な気がしてきた。
オレは光魔法以外の属性持ちで、魔法神の加護があるよ。スキルは魔法創造が珍しいかな…ははっ」
その声に、アレクと僕は「はっ!」と我に返り、申し訳なさそうに俯いてるマイキーに言葉を掛けた。
「いや、それだって凄い能力だよ。ルナのに比べたら僕のだって、アレクのだって霞むから!」
「そうだぞ、ルナのと比べちゃダメだろ。
というか、魔法創造って凄くないか?オリジナルの魔法を創れるんだろ?」
僕達2人の言葉に、眉根を下げながら「ありがと、アレク、ショウママ…」と呟いた。
何故そんな風に、俯きながら申し訳なさそうに話すのか分からず、
「なんでそんな顔する?」とアレクが聞いたら、
「…だって、オレだって皆んなを守りたいのに…魔法に特化したスキルだから、役に立たないと思って…」
と、そんな事を言い出した。マイキーだって充分凄いのにね。
「マイキーは、充分みんなを守ってくれてるから。アレクよりもパパっぽい時あるしね。「コラ!」ははっ。
それに、僕達が危険に晒された時も、勇敢に立ち向かってくれるじゃん。だから本当に頼れる存在なんだよ」
「そうだぞ。あと、お前の物作りの腕前なんか一流の職人レベルだぞ?俺あれ見て感動したからな。
もっと自信を持て。凄さを自覚して自分自身を認めてやれ。お前の優しさや勇気が、家族を支えてんだぞ」
そう2人で伝えたら、やっと顔を上げ、いつものマイキーに戻り、それに安心してルナの話に戻った。
その結果、無邪気にアレコレ魔法を使われたら困る…
という事で、大きくなるまで魔力制御の腕輪を着ける事になった。
作ったのは僕だよ。初めて魔工士のスキルと付与を使いました。これが中々面白くて、嵌りそうです。
話も纏まった事だしと、部屋に戻るマイキーとおやすみのハグをしてから別れ、
布団に潜り、ルナを間に挟んで川の字で就寝した。
次の日の朝、腕に装着されてる腕輪を見て奇声を上げたルナに起こされ、
そのあと「えしゅ、こえ、ないない、ちた」と首を傾げるルナに色々と説明し、
一応「わかちゃ」と納得してくれたのに「ホッ」として、朝食を皆で食べ、
アレクとマイキーが出掛けるのを見送り、幼稚園までゆっくり向かい、
いつもの様に園児達と戯れ、疲れたら家に戻り昼寝して、皆が帰宅した頃に起き出し、
転移が使えなくなったルナとの、普通の鬼ごっこをする3人を笑顔で眺め、
晩御飯を食べ、風呂に入り、アレクとの2人の時間を楽しみ、就寝した。
そんな穏やかな、平和な日常を過ごし、気付けば妊娠4ヶ月目に突入した。
最近は、お腹が重すぎて、少し歩いただけでも息切れしてしまうんだ。
そのため、朝起き上がるのも億劫で、ベッドの中で生活してるんだ。気分は肥満児のニートだよ。(笑)
トイレもね、行くのが辛いので、どうにか出来ないか?と考えた末、
“排泄物だけ転移させる“という荒業をやってのけた。
「さすが異世界、さすが魔法、さすが規格外!」と叫んだら、傍で見ていたアレクに、
「そんな事して、エスポアが出てきたらどうすんだ!」と怒られちゃった。ショボーン。
「じゃあどうするか?」と悩んだ末に導き出した答えは“トイレに自分を転移させる“だよ。
「これならいいでしょ?」と聞いたら「ダメだ」と言われた!
「なぜ?Why?」と問い掛けたら、「魔法はなるべく使うなって言ってるだろ」ときたもんだ。
「じゃあ、どうしろって言うの旦那様ぁ。翔馬くん、おトイレに行きたいのですぅ、シクシク」
「ぷふふっ。まーま、シクシク、たね。んち、ちたいの?パパ、ちゅれてて、ちょいれ」
「連れてくのは良いんだが、お前さっきしたばっかりじゃねぇか。また出るのか?」
「ママ……もしかして産まれるとかじゃないよね?」
マイキーに言われた瞬間、排泄感と共に襲ってきた凄まじい下半身の痛みに顔が歪み、苦痛の声を漏らした。
「ゔッ…まさか…まだ4ヶ月しか経ってないのにぃ。がァァ、痛いぃ!」
「アレク!たぶん産まれると思うよ!」
「嘘だろ!わ、分かった。良し、頼むぞマイキー」
「まーま、がんばりぇー!にぃに、おねがちましゅー」
「ママ、そのまま横になっててね!」
「え゙ッ、マイキーが取り出すの?ぐっ…」
「そうだよ。頑張って習得したんだ!いくよー!」
«願い叶え、小さき命降り落ちよ。聖なる魔法舞い踊り、赤子現れん。与えられた祝福、愛と保護と共に»
聖魔法の詠唱に応えるように、空中に輝く円環が現れた。その美しい光輪が、小さな存在を呼び寄せた。
エスポアは天使のように、透明な羽根がヒラヒラと舞い散る中「んきゃぁ…」と小さな産声を上げ、
神秘的な光景を纏いながら、僕の腕の中にゆっくりと降りてきた。
僕はその美しい光景に見惚れながら、腕の中の小さき命を優しく抱きしめ、
声を出す事もせず、感動の涙を流しながら誕生を祝福した。
感動と幸福に打ち震えながらエスポアを眺めていたら、啜り泣く声が聞こえてきた。
目線を向け周りを見渡したら、アレクは片手で顔を覆い天井を見上げ、小さく嗚咽を漏らしながら涙を流していた。
マイキーは、膨大な魔力を使った後なので、肩で息をしながら、笑顔で静かに涙を流していた。
ルナは…「ちいちゃい、おしゃるしゃん。かあいい、ねー。まーま、こりぇ、えしゅでしゅか?」
と、エスポアの頬をツンツンしながら聞いてきた。不思議そうに、首を傾げながら。
「ふふっ。この子はエスポア。ルナの弟だよ。小さくて可愛いね。アレク、こっち来て抱っこしてあげて」
ルナの質問に答えながら、産着とオムツを着せ、未だ泣いてるアレクに声を掛けたら、震えながら近付き、恐る恐る抱き上げた。
「エスポア、パパだよ。産まれてきてくれてありがとう」
アレクの手は震えていたが、その視線は温かさに満ちていた。
エスポアはその声に応えるように微笑み、小さな手でアレクの指を握りしめた。
「ちいせぇ手だな…おお、こんな小さいのに力が強ぇぞ。
ほら、マイキーも抱っこしてみろよ。お前の弟だぞ」
「え、大丈夫かな…。わぁ、小さいね。可愛い…。
やぁ、エスポア。君のお兄ちゃんだよ」
おっかなびっくり抱き上げたマイキーが、エスポアに話し掛けた瞬間パチッと目を開け、凝視したまま固まった。
そして数秒後「んだぁぁ、んきゃぁ」と声を出し、満面の笑みを携えたまま、マイキーにしがみついた。
それを見ていたルナが「えしゅ、だめよ、にぃには、ルナのよー」と言いながら近寄って行き、背中に張り付いた。
前にエスポア、後ろにルナをくっ付け、困惑してオロオロするマイキー。
そんな光景を見ながら、隣に座ったアレクの肩にもたれ掛かり、暫し幸せを噛み締めていた。
アレクはそんな僕に寄り添い、頭を撫でながら「ショウマありがとう。こんな幸せを与えてくれて」と囁いた。
「それを言うのは僕のほうだよ。
家族のいる幸せな人生なんて知らなかった僕に、愛を、家族を与えてくれてありがとう」
そのまま2人の世界でイチャイチャとしていたら「助けてぇー!」と、くぐもった悲鳴が響いた。
その声で我に返り慌てて目線を向けたら、仰向けで寝転がるマイキーの後頭部に張り付くルナと、
顔面に腹這いで乗っかるエスポアを視界に捕らえた。
「わぁあ!マイキーごめんね、エスポア大丈夫?ほら、ルナもそこから避けなさい」
慌てて駆け寄り、エスポアを抱き上げようと持ち上げたら、ガッチリと髪の毛を掴んで離さない。
「痛ぁ!ママ、エスポアの手がオレの髪の毛掴んでる!痛い、離してぇー!ルナも止めてー!」
「わわわ!コラ、エスポアちゃん、お手手を離しなさい!あ、ルナまで!止めなさい!」
「まーま、えしゅが、にぃに、とっちゃ!メッちて!」
なんだこのカオスな状態は!エスポア、君は産まれたばかりでは?
なのに、なんだこの状況は!幸せな、神聖な雰囲気は何処へ?
まさか、産まれたばかりで喋ったりしないよね!?成長を見守るのは親として嬉しいけど、
いきなり喋り出すとか止めてよ!?心臓に悪いから!まだバブバブの赤ちゃんで居て下さい!切実に願います!
「お兄ちゃんは、ルナとエスポア、2人のお兄ちゃんだからね?仲良くしなきゃダメだよ」
「…えしゅ、と、ルナの、にぃに…むー。れも、えしゅ、ちゅの、ないないよ?」
自分の額と、エスポアの頭を指差し「角が無い」と言って、コテンと首を傾げたあと、
「ちゅのありゅ、ルナと、にぃには、きょーらいで、しゅてられたこ、らって、いわれちゃのよー?のりょわりぇたこ、らって」
と、衝撃的な発言をして、場が一瞬にして凍りついた。
その一言で、我が子の誕生で幸せムードだった空気が、一気に怒りと悲しみに包まれた。
「な!誰がそんな事を言ったんだ!?」と怒りを露わにして怒鳴り声を上げたアレクと、
「はは…捨てられた子…呪われた子か…」と悲しげに顔を歪めボソッと呟いたマイキー。
僕はそんな空気を払拭するように、冷静に対応した。
エスポアをアレクに託し「マイキー、ルナおいで」と声を掛け、
「まーま!」と飛びついてきたルナと、おずおずと近寄ってきたマイキーをギュッと抱き締め、言葉を紡いだ。
「ルナとマイキーは、僕達の魂の一部となっている、愛しい子供たちなんだよ。
生まれながらの家族や、血のつながりはなくても、自分達の子供として育ててきたんだ。
誰が言った言葉なのか知らないけど、それは君達の心を傷つける言葉でしかない」
「…きょーかいれ、いわれちゃ、のよー」
(また教会か!どうなってんだよ、神の遣いなんでしょ!?巫山戯るなよ!言ったヤツ炙り出してやる!)
そう心の中で毒づいてから「すー、ふぅー」と深呼吸をして2人を見据えた。
この子達の笑顔と成長を見守ることは、僕達にとって喜びそのものなんだよ。
「いいかい2人共。血のつながりなんて関係ない。家族は、愛と絆で結ばれた存在なんだ。
そして君達は、僕達にとって最愛の存在なんだよ」
「かじょく、しゃいあい?」
「……ぐすっ」
「そうだよルナ。ほら泣かないでマイキー。悪魔の言葉になんて囚われちゃいけない。
ママもパパも、ルナとマイキーを心から愛してるし、
今後はエスポアも入れて5人で、幸せな未来を築いて行くんだ」
「…あきゅま?…わりゅいこ、ルナ、ポイッてしゅる。にぃに、えんえん、ないちて。ニコニコよ」
「くくっ。ルナが悪魔をやっつけてくれるってよ。だから泣くな。笑えマイキー。目出度い日に悲しみの涙は止めとこうぜ」
「ふはっ。ありがとルナ。お前は強くて格好いいよ。
ママとアレク、ごめんね、もう大丈夫。
エスポアの誕生を笑顔でお祝いしなきゃね!」
やっと心からの笑顔で笑ったマイキーの頭を撫でながら「ホッ」と安心していたら「んぎゃァ」と小さい怪獣が泣き出した。
その泣き声を止めたのは僕…じゃなくて、
「えしゅ、うりゅしゃい、えいっ」と、何処から出したのか、口にミルクポーションを突っ込んだルナだった。
その沈黙を破ったのは、自分の能力を明かしたマイキーだった。
「えっと…こんな凄い能力を見せられたら、オレのが霞むし、普通に教えても大丈夫な気がしてきた。
オレは光魔法以外の属性持ちで、魔法神の加護があるよ。スキルは魔法創造が珍しいかな…ははっ」
その声に、アレクと僕は「はっ!」と我に返り、申し訳なさそうに俯いてるマイキーに言葉を掛けた。
「いや、それだって凄い能力だよ。ルナのに比べたら僕のだって、アレクのだって霞むから!」
「そうだぞ、ルナのと比べちゃダメだろ。
というか、魔法創造って凄くないか?オリジナルの魔法を創れるんだろ?」
僕達2人の言葉に、眉根を下げながら「ありがと、アレク、ショウママ…」と呟いた。
何故そんな風に、俯きながら申し訳なさそうに話すのか分からず、
「なんでそんな顔する?」とアレクが聞いたら、
「…だって、オレだって皆んなを守りたいのに…魔法に特化したスキルだから、役に立たないと思って…」
と、そんな事を言い出した。マイキーだって充分凄いのにね。
「マイキーは、充分みんなを守ってくれてるから。アレクよりもパパっぽい時あるしね。「コラ!」ははっ。
それに、僕達が危険に晒された時も、勇敢に立ち向かってくれるじゃん。だから本当に頼れる存在なんだよ」
「そうだぞ。あと、お前の物作りの腕前なんか一流の職人レベルだぞ?俺あれ見て感動したからな。
もっと自信を持て。凄さを自覚して自分自身を認めてやれ。お前の優しさや勇気が、家族を支えてんだぞ」
そう2人で伝えたら、やっと顔を上げ、いつものマイキーに戻り、それに安心してルナの話に戻った。
その結果、無邪気にアレコレ魔法を使われたら困る…
という事で、大きくなるまで魔力制御の腕輪を着ける事になった。
作ったのは僕だよ。初めて魔工士のスキルと付与を使いました。これが中々面白くて、嵌りそうです。
話も纏まった事だしと、部屋に戻るマイキーとおやすみのハグをしてから別れ、
布団に潜り、ルナを間に挟んで川の字で就寝した。
次の日の朝、腕に装着されてる腕輪を見て奇声を上げたルナに起こされ、
そのあと「えしゅ、こえ、ないない、ちた」と首を傾げるルナに色々と説明し、
一応「わかちゃ」と納得してくれたのに「ホッ」として、朝食を皆で食べ、
アレクとマイキーが出掛けるのを見送り、幼稚園までゆっくり向かい、
いつもの様に園児達と戯れ、疲れたら家に戻り昼寝して、皆が帰宅した頃に起き出し、
転移が使えなくなったルナとの、普通の鬼ごっこをする3人を笑顔で眺め、
晩御飯を食べ、風呂に入り、アレクとの2人の時間を楽しみ、就寝した。
そんな穏やかな、平和な日常を過ごし、気付けば妊娠4ヶ月目に突入した。
最近は、お腹が重すぎて、少し歩いただけでも息切れしてしまうんだ。
そのため、朝起き上がるのも億劫で、ベッドの中で生活してるんだ。気分は肥満児のニートだよ。(笑)
トイレもね、行くのが辛いので、どうにか出来ないか?と考えた末、
“排泄物だけ転移させる“という荒業をやってのけた。
「さすが異世界、さすが魔法、さすが規格外!」と叫んだら、傍で見ていたアレクに、
「そんな事して、エスポアが出てきたらどうすんだ!」と怒られちゃった。ショボーン。
「じゃあどうするか?」と悩んだ末に導き出した答えは“トイレに自分を転移させる“だよ。
「これならいいでしょ?」と聞いたら「ダメだ」と言われた!
「なぜ?Why?」と問い掛けたら、「魔法はなるべく使うなって言ってるだろ」ときたもんだ。
「じゃあ、どうしろって言うの旦那様ぁ。翔馬くん、おトイレに行きたいのですぅ、シクシク」
「ぷふふっ。まーま、シクシク、たね。んち、ちたいの?パパ、ちゅれてて、ちょいれ」
「連れてくのは良いんだが、お前さっきしたばっかりじゃねぇか。また出るのか?」
「ママ……もしかして産まれるとかじゃないよね?」
マイキーに言われた瞬間、排泄感と共に襲ってきた凄まじい下半身の痛みに顔が歪み、苦痛の声を漏らした。
「ゔッ…まさか…まだ4ヶ月しか経ってないのにぃ。がァァ、痛いぃ!」
「アレク!たぶん産まれると思うよ!」
「嘘だろ!わ、分かった。良し、頼むぞマイキー」
「まーま、がんばりぇー!にぃに、おねがちましゅー」
「ママ、そのまま横になっててね!」
「え゙ッ、マイキーが取り出すの?ぐっ…」
「そうだよ。頑張って習得したんだ!いくよー!」
«願い叶え、小さき命降り落ちよ。聖なる魔法舞い踊り、赤子現れん。与えられた祝福、愛と保護と共に»
聖魔法の詠唱に応えるように、空中に輝く円環が現れた。その美しい光輪が、小さな存在を呼び寄せた。
エスポアは天使のように、透明な羽根がヒラヒラと舞い散る中「んきゃぁ…」と小さな産声を上げ、
神秘的な光景を纏いながら、僕の腕の中にゆっくりと降りてきた。
僕はその美しい光景に見惚れながら、腕の中の小さき命を優しく抱きしめ、
声を出す事もせず、感動の涙を流しながら誕生を祝福した。
感動と幸福に打ち震えながらエスポアを眺めていたら、啜り泣く声が聞こえてきた。
目線を向け周りを見渡したら、アレクは片手で顔を覆い天井を見上げ、小さく嗚咽を漏らしながら涙を流していた。
マイキーは、膨大な魔力を使った後なので、肩で息をしながら、笑顔で静かに涙を流していた。
ルナは…「ちいちゃい、おしゃるしゃん。かあいい、ねー。まーま、こりぇ、えしゅでしゅか?」
と、エスポアの頬をツンツンしながら聞いてきた。不思議そうに、首を傾げながら。
「ふふっ。この子はエスポア。ルナの弟だよ。小さくて可愛いね。アレク、こっち来て抱っこしてあげて」
ルナの質問に答えながら、産着とオムツを着せ、未だ泣いてるアレクに声を掛けたら、震えながら近付き、恐る恐る抱き上げた。
「エスポア、パパだよ。産まれてきてくれてありがとう」
アレクの手は震えていたが、その視線は温かさに満ちていた。
エスポアはその声に応えるように微笑み、小さな手でアレクの指を握りしめた。
「ちいせぇ手だな…おお、こんな小さいのに力が強ぇぞ。
ほら、マイキーも抱っこしてみろよ。お前の弟だぞ」
「え、大丈夫かな…。わぁ、小さいね。可愛い…。
やぁ、エスポア。君のお兄ちゃんだよ」
おっかなびっくり抱き上げたマイキーが、エスポアに話し掛けた瞬間パチッと目を開け、凝視したまま固まった。
そして数秒後「んだぁぁ、んきゃぁ」と声を出し、満面の笑みを携えたまま、マイキーにしがみついた。
それを見ていたルナが「えしゅ、だめよ、にぃには、ルナのよー」と言いながら近寄って行き、背中に張り付いた。
前にエスポア、後ろにルナをくっ付け、困惑してオロオロするマイキー。
そんな光景を見ながら、隣に座ったアレクの肩にもたれ掛かり、暫し幸せを噛み締めていた。
アレクはそんな僕に寄り添い、頭を撫でながら「ショウマありがとう。こんな幸せを与えてくれて」と囁いた。
「それを言うのは僕のほうだよ。
家族のいる幸せな人生なんて知らなかった僕に、愛を、家族を与えてくれてありがとう」
そのまま2人の世界でイチャイチャとしていたら「助けてぇー!」と、くぐもった悲鳴が響いた。
その声で我に返り慌てて目線を向けたら、仰向けで寝転がるマイキーの後頭部に張り付くルナと、
顔面に腹這いで乗っかるエスポアを視界に捕らえた。
「わぁあ!マイキーごめんね、エスポア大丈夫?ほら、ルナもそこから避けなさい」
慌てて駆け寄り、エスポアを抱き上げようと持ち上げたら、ガッチリと髪の毛を掴んで離さない。
「痛ぁ!ママ、エスポアの手がオレの髪の毛掴んでる!痛い、離してぇー!ルナも止めてー!」
「わわわ!コラ、エスポアちゃん、お手手を離しなさい!あ、ルナまで!止めなさい!」
「まーま、えしゅが、にぃに、とっちゃ!メッちて!」
なんだこのカオスな状態は!エスポア、君は産まれたばかりでは?
なのに、なんだこの状況は!幸せな、神聖な雰囲気は何処へ?
まさか、産まれたばかりで喋ったりしないよね!?成長を見守るのは親として嬉しいけど、
いきなり喋り出すとか止めてよ!?心臓に悪いから!まだバブバブの赤ちゃんで居て下さい!切実に願います!
「お兄ちゃんは、ルナとエスポア、2人のお兄ちゃんだからね?仲良くしなきゃダメだよ」
「…えしゅ、と、ルナの、にぃに…むー。れも、えしゅ、ちゅの、ないないよ?」
自分の額と、エスポアの頭を指差し「角が無い」と言って、コテンと首を傾げたあと、
「ちゅのありゅ、ルナと、にぃには、きょーらいで、しゅてられたこ、らって、いわれちゃのよー?のりょわりぇたこ、らって」
と、衝撃的な発言をして、場が一瞬にして凍りついた。
その一言で、我が子の誕生で幸せムードだった空気が、一気に怒りと悲しみに包まれた。
「な!誰がそんな事を言ったんだ!?」と怒りを露わにして怒鳴り声を上げたアレクと、
「はは…捨てられた子…呪われた子か…」と悲しげに顔を歪めボソッと呟いたマイキー。
僕はそんな空気を払拭するように、冷静に対応した。
エスポアをアレクに託し「マイキー、ルナおいで」と声を掛け、
「まーま!」と飛びついてきたルナと、おずおずと近寄ってきたマイキーをギュッと抱き締め、言葉を紡いだ。
「ルナとマイキーは、僕達の魂の一部となっている、愛しい子供たちなんだよ。
生まれながらの家族や、血のつながりはなくても、自分達の子供として育ててきたんだ。
誰が言った言葉なのか知らないけど、それは君達の心を傷つける言葉でしかない」
「…きょーかいれ、いわれちゃ、のよー」
(また教会か!どうなってんだよ、神の遣いなんでしょ!?巫山戯るなよ!言ったヤツ炙り出してやる!)
そう心の中で毒づいてから「すー、ふぅー」と深呼吸をして2人を見据えた。
この子達の笑顔と成長を見守ることは、僕達にとって喜びそのものなんだよ。
「いいかい2人共。血のつながりなんて関係ない。家族は、愛と絆で結ばれた存在なんだ。
そして君達は、僕達にとって最愛の存在なんだよ」
「かじょく、しゃいあい?」
「……ぐすっ」
「そうだよルナ。ほら泣かないでマイキー。悪魔の言葉になんて囚われちゃいけない。
ママもパパも、ルナとマイキーを心から愛してるし、
今後はエスポアも入れて5人で、幸せな未来を築いて行くんだ」
「…あきゅま?…わりゅいこ、ルナ、ポイッてしゅる。にぃに、えんえん、ないちて。ニコニコよ」
「くくっ。ルナが悪魔をやっつけてくれるってよ。だから泣くな。笑えマイキー。目出度い日に悲しみの涙は止めとこうぜ」
「ふはっ。ありがとルナ。お前は強くて格好いいよ。
ママとアレク、ごめんね、もう大丈夫。
エスポアの誕生を笑顔でお祝いしなきゃね!」
やっと心からの笑顔で笑ったマイキーの頭を撫でながら「ホッ」と安心していたら「んぎゃァ」と小さい怪獣が泣き出した。
その泣き声を止めたのは僕…じゃなくて、
「えしゅ、うりゅしゃい、えいっ」と、何処から出したのか、口にミルクポーションを突っ込んだルナだった。
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