上 下
132 / 233
本編 最強冒険者

story112/ 我慢してた涙が頬を伝う

しおりを挟む
エクシェル兄様達、騎士団の面々と、
ギルドから派遣されて来た冒険者達が
それぞれの役割を熟す為、忙しく動いている。

被害者達のケアをする者。

瓦礫を撤去し証拠品を集める者。

豚野郎と鬼畜野郎を護送用の馬車に乗せる者。

館の周りに潜んでいた破落戸を捕らえる者。

そうやって各自役割を熟していたんだけど……
僕はある一角を見て(皆さんハート強いね)
そう思ってしまったのは仕方ないと思うの。

今回の被害者って、皆んな美形なんだよねぇ~
しかも守ってあげたくなる感じの儚げ美人なの。

そんな彼等を“”ケア“”するという
素晴らしい役割を与えられた皆さんがデレデレ!

それを甘受する被害者達は
屈強な男達による手厚い介抱で目がキラッキラ!

あちらコチラで♡♡が飛び交ってます!
何処ぞのハッテン場みたいなんです!

散々イヤな思いしてきたのにね、鋼の心ですよ。
ま、それで忘れられるなら良い事だよね♪

そんな幸せそうな光景を見ながら、
僕は今、エクシェル兄様の話を聞いてるの。
その内容を聞いた僕は“”無“”です。
そして現実逃避をしてるの。


「国民を震撼させた極悪人を捕らえたフェリ君は、
たぶん、いや絶対に、王宮に召喚される筈だ。
なので、何時でも応じられるようにしといてくれ。
……フェリ君?聞いてるか?……おーい」


「エクシェル兄様、その話は俺からしておくよ。
ぷッ。色々あって疲れてる、くくく、んだろ」
(王宮に召喚って聞いて思考停止してんな)


「??ん、ああ。じゃあそうしといてくれ。
あと、今日は野営になるが大丈夫か?」


「ああ。フェリの魔法鞄を持ってるから大丈夫だ」


「へぇ……。なあ、その鞄…本当にフェリのか?
妖精ちゃんが持ってたのと……同じ?……
というか、愚弟よ。お前、フェリと恋人なのか?
婚約者は妖精ちゃんだろ?破棄したのか?」


「こ、コレはフェリのですよ?
それと、恋人も婚約者もショウマです。
フェリは、生涯の相棒ですかね」
(凄ぇ~!複雑!姿形違うけど同一人物だし!)


「……ふ~ん。ま、それならいいが……
あんまりフェリ君とイチャイチャしてたら、
妖精ちゃんが泣いちゃうから止めとけよ!
今日はもう解散だ。明日までゆっくり休めよ」


(イチャイチャは……盛大にするんだよコレから)
「おーい、ペチペチ、フェリ?起きろぉ~!」


(まーた妄想してんのか?くくくく)
「フェリ、ペチペチ、起きてくれないと、
ココでセックスしちゃうぞ~?ちゅっ」


「は!え?アレクぅ、王宮って何!?
それとココでSEXなんて嫌なんだけどぉ~!」


「くくく。王宮の話しは(セックス)の後に教えてやる。
それより、今日はココで野営だからテント出して」


「ん?何って言ったの?何の後って?」

「それは秘密」「何で?」「何でも」「もう!」


そんな遣り取りをしながら、テントを出し、
早速中に入り寛ぐ事にしたんだけど……
入った瞬間、思いっきり抱き締められた。


「ショウマっ。すぐに来れなくてゴメンな……
攫われた時も何も出来なくてゴメンな……
本当に無事で良かった……頑張ったなショウマ」


そう言って瞳の奥を揺らしながら、ちゅ、と
額に口付けをしてきた。

その瞬間、僕の瞳から涙が溢れてきて頬を伝い、
ぽたっ、ぽたっ、と落ちていって床を濡らした。

そして嗚咽を漏らしながら必死に言葉を紡いだ。


「こわがっだ…ゔぅ゙」 「……うん」

「ひとがッ、ヒク、い゙っばい、血がッ、ぐずっ。
がみッ、を、ぅ゙ぅ゙、ギッでされだのッヒク」


その後も「逃げたかった」「辛かった」

「いっぱいイかされた」「気持ち悪かった」

「アレクが来てくれるの待ってた」

「神様は何もしてくれなかった」

「抵抗したけどダメだった」「苦しかった」

と、言葉が嗚咽と共に口から漏れ出るのを、
アレクは静かに聞いていた。
彼の表情にも辛そうな影が浮かんでいた。

その顔を見て(辛かったのは僕だけじゃない)
そう思って、言葉を飲み込み、アレクの胸に顔を埋め、
止めどなく溢れてくる涙で服を濡らしながら、
彼の逞しい身体に縋りき泣き続けた。

そして、徹夜で嬲られ続け、精神的に疲れてた僕は、
彼の身体に凭れたまま、腕の中で眠ってしまった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「……ショウマ?……寝ちゃったか。ちゅっ。
泣くの堪えて、必死に抗ってたんだろうな……
ちゅっ。はー、本当に何も無くて良かった……」


腕の中で、すぅ、すぅ、と寝息を立てて眠る、
愛しい婚約者を抱きかかえてベッドに寝かせた。

そして、上着とスボン、下着と肌着も脱がした。

少しだけ……少しだけ裸体を目で堪能してから、
全裸の上に毛布を掛けて、額に、ちゅっ、とした。

その後、未だ濡れてる目元の滴を指で拭い、
ショウマとは違うフェリの美貌を眺めながら、
頭を優しく撫で、昨日からの事を思考した。


昨夜、何の手掛かりも掴むことができず、
絶望の淵に立たされていた。

焦りと不安が心を乱し、
どうすればいいのか分からないまま、
ただ夜空を見上げるだけの俺の姿があった。

夜風が肌に触れ、涙が頬を伝っていく。
その涙は悔しさや怒り、努力を嘆くと共に、
新たな決意を秘めていた。

俺は深く深呼吸をし、心の中で固く誓った。
(必ず見付ける。絶望の淵から這い上がり、
地を這ってでも諦める事なく、探し続ける)と。

そして頭を振って、頬を、パチン、と叩き、
気合いを入れた瞬間、頭の中に声が響いた。


{お困りのようねぇ。そんな貴方に朗報よ♡
ヨウマ・フェリアスの行方を教えてあげるわ。
東に広がる“光の森”の奥にある泉付近に、
オウグ子爵が所有する建物があるのぉ~♪
そこで繰り広げられてる情事のお相手として、
攫われて囚われているのよぉ~!
今から急いで行けば、朝には着くわ~♪
早く助けてあげてねぇ~♡頑張ってねぇ♪}


そんな事を告げられ、半信半疑になりながらも、
エク兄に伝え、闇が広がる森の中を疾走した。

そして、暗闇が晴れ陽が昇ってきた頃、
遠くの方から膨大な魔力反応を察知した。

魔力の質から、すぐにショウマだと分かった。
そしてお互い走り寄って抱き締め合った。


「あの時聞こえた声ってフェリス様じゃない神か?
情報は有り難かったが、妙に癇に障るヤツだったな」


そんな事を呟きながら、頭を撫でていたら、
ショウマが眉間に皺を寄せて苦しそうに呻きだした。


「……っ……ぐぅッ……やめ……ァゥ……たすけ」


「ショウマ、大丈夫だ、もう助かったから」


俺はそう言いながら手を握った。

そしたら息を切らしながら瞳を開けたけど、
瞳には何も映しておらず、
虚ろな目で空虚を見つめ口唇を噛み締めながら、
断片的に言葉を発した。


「……ァァ……おねが……い……やめ……ィゥ……」


ショウマの声音は絶望と苦しみに満ちていた。


「アレク……たす……け……ど……して……こな……
も……ゥゥ……イきな……くなぃっ……ァゥ……」


「ショウマっ!ごめん、本当にごめんな」


ショウマの顔は、苦痛に歪んだままだった。
その身体は震え、汗でびっしょり濡れている。
ショウマは必死に俺の手を握りしめ、
助けを求める言葉を発していた。


「ショウマ、本当にごめんな」


と俺は繰り返し謝罪の言葉を口にした。
ショウマの目からは涙が流れ、
不安と絶望が溢れているように見えた。


「アレク……たすけて……もぅ……やなの……」


ショウマは声を震わせながら再び訴えた。


「いたぃょ……もぅ……つらぃ……くるしいょ」


何もできない自分に悔しさがこみ上げ、
心が押しつぶされそうになった。


「ショウマ、もうお前から離れないよ。
どんな時でも一緒に居よう。ずっと傍にいる。
愛してるよショウマ。早くガーディアンに帰ろう。
俺たちの帰る家は、あの地にある。
そこでずっと一緒に居よう。2人でずっと」


そう言い続けてたら、瞳に光が宿ったように見えた。
そして細く震える唇からは微笑みが浮かび上がり、


「ありがとう、アレク。ずっと傍にいてね。
信じているよ、その言葉を信じている」


そう小さな声で呟いて、安心した顔で再び眠った。

俺は手を握ったまま華奢な身体を抱き寄せ、
優しく包み込むように抱き締め、
ショウマの横で一緒に眠った。


そして朝の目覚まし音はショウマの絶叫だった。


「ぎゃぁぁああ!なんで全裸なのぉぉおおお!」
しおりを挟む
感想 140

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

処理中です...