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1章 幼少期
1章10話 400年前の英雄 ※挿絵サリバン
しおりを挟むハヤテは夢を見ていた。
夢の中で見た景色は、美しい大地と争う人々。
人間が、「ケモノの成りそこない!化け物!」と剣を抜き、亜人が「弱者は我等に従え!軟弱者!」と牙を剥く。
そこに天から光が差し、1人の人間が落ちてきた。俺に背を向け立ち上がった男は、黒髪だった。
その男は争いの中心に立ち、諍いを止めるべく奮闘していた。時が経ち、平和が訪れた。彼は英雄と呼ばれ、人々に愛されていた。
数年後、6つに分かれた国々は、手と手を取り合い共存し、平和な世を楽しんでいた。
英雄はある日突然居なくなった。神に元の世界へと戻された。去り際、振り返った時に初めて顔を見た。
ずっと背中を見ていた彼の顔は……
――――――――――――――――――――――――
そこでパチッと目が覚めた。そして、振り返った男の顔に見覚えがありまくりだったので、驚愕し発狂した。
「嘘だろ!涼太じゃねぇか!!」
そう。振り返った男は、7回目の人生で一番の親友だった涼太だった。青天の霹靂とはまさにこの事だと、転生人生の中で一番の衝撃を受けた。
「めちゃくちゃリアルな夢だったな……」
いや、まさか本当にあった出来事か?
そういえば確かにアイツ、中二の夏休み明けから雰囲気変わったんだよな。妙に達観してるというか……」
しかも、運動神経がいきなり良くなって、それでサッカー選手として活躍したんだ。陸上でも、バスケでも。
ボクシングや総合格闘技、剣道に弓道も、俺と一緒に初めて、同じくらい強かったんだよ。
まあ、頭はそこそこだったから、高校と大学はスポーツ推薦だったけど。それでもプロからスカウトきたりしてて凄ぇヤツだった。
「なるほどな。夢がリアルな出来事だったとしたら、転移で得たスキルのお陰で、《涼太TUEEEE》が出来上がったのか。で、400年前の英雄が涼太だったと」
400年前に異世界で無双して、日本に戻って無双して、リアル体験談を執筆して、学生のうちから稼いでた親友は、今頃なにをしているのか……
「どっかの国で勇者召喚して、涼太と乃木ちゃんが来たりしてな。聖女は大和だな。ふくふく頬っぺのドラ○もん」
来たら面白いのにな。ダンジョン潜って戦闘チートして、島を開拓して知識チートして……
また4人でバカやりたいな。みんなで独身貫いて4人で仲良く大往生!ってな。
「神様、ゼウス様。そんな夢を叶えてくれたら最高に幸福だと思えるよ」
ベッドの中で手を組んで祈ってみたけど、叶うと思ってないので言ってから自嘲した。
ベッドから降り、伸びをしてから窓辺に向かい、カーテンを開け放った。
まだ薄暗くて景色はモノクロだけど、朝日が昇るにつれ徐々に色付く庭の花や、木々の美しさを目に焼き付け楽しんでた。
そんなハヤテ(仮名)の様子を最高神が見ていた。
――――――――――――――――――――――――
最高神『勇者召喚のう。それは出来なんだが、異空間転移なら可能かの。彼の英雄は戻りたいと思っとるみたいだし、ハヤテが居なくなって泣いてたからのう。ちょいとデーメーテールと話してくるかの』
この数年後、彼らは再会する事になるのだが、まだ誰もその事実をしらない。知っているのはゼウスとデーメーテールのみだ。
どんな形で出会うのか、それはまだ先の話だ。
――――――――――――――――――――――――
トントントン……
マーレー「ハヤテ王子殿下。起きてらっしゃいますか」
ボケーッと外を眺め、(この歪な窓、どうにかならんか)等と考えていたら、ノック音とマーレーの声が聞こえた。
「起きてます。着替えてからそっち行きます」
もうそんな時間かと、収納から服を取り出した。新たなリスト項目《子供服》が増えていて、そこから出した。
「わぁ。着ぐるみかい。しかも狼の……まあ良いか。まだ俺2歳児だし。《可愛いは正義!》って乃木ちゃんが言ってたし」
クローゼットの前に備え付けてある、歪な鏡の前で全身チェック。そこで初めて自分の容姿を見た。
3等身くらいの小さな幼児、髪はパープルシルバー、目は大きく紫の中に金のラメ、小ぶりな鼻に、プルプルな唇。
「なんという、無駄に良い容姿……というか、顔立ちが女っぽくね?ドレス着たら令嬢だよ」
「もっと男らしくしてよ」「銀髪に紫の目とか厨二病か」身体を作った神様にブチブチと文句を言っていたが、遺伝子は受け継がれたもので、両親の良いとこ取りをした結果なのだが、ハヤテは神様のせいだと思ってる。
理不尽に文句を言われてるゼウス神は、デーメーテールと一緒に、日本にいるハヤテの友人達を観察していた。転移させるに相応しい魂か、能力は何を付けるか、もう呼ぶ気満々である。
そんな事になってるとは露にも思ってないハヤテは、狼になった姿の全身チェックを済ませ、ニマニマしていた。
リビングへと繋がってる続き扉を開け、マーレーとサリバンに「2人とも、おはよう」と声を掛け、テクテクとソファまで歩いていたら、突然抱き上げられた。
「うわっ!え?なに?」
マーレー「え!?ハヤテ王子殿下!?す、す、すみません!子狼が迷い込んだのだと、つい捕まえてしまいました!」
なるほど。と思った。こういう衣装はこの世界に無いんだろう。ならば間違えても仕方ない。
(だがな、ふんふん匂いを嗅いで頬を擦り寄せるなよ。摩擦熱でヒリヒリする!)
サリバン「コラ!やめろマーレー。可愛いのは分かるが王子に無体を働くな。全く……」
《可愛い》と。確かに子狼姿のハヤテは悶えるくらい可愛いのだ。本人も鏡の前で自画自賛していたくらいだ。
マーレー「あっ!すまんサリバン。ハヤテ王子殿下も申し訳御座いません。あまりにも可愛いかったのでつい……」
また出たフレーズ《可愛い》 確かにそうなのだが、立て続けに言われてハヤテが恥ずかしさで瀕死しそうだ。なんせ中身は20代だからな。
「ん"ん"っ。えぇと、大丈夫。すぐ治るから。紛らわしい格好した俺も悪いからさ。で、緑の騎士さんがサリバンだね。護衛という事だけど、これから宜しく」
サリバン「緑……そうです。昨日少しだけ相見えましたが、こうして話すのは初めましてですね。黒騎士団所属のサリバンと申します。以後お見知りおきを」
黒騎士団のサリバンは、緑の短髪に緑の目、細マッチョのイケメン。ナヨっとしてるからあまり強くないのかな?と、こっそり鑑定してみたら、なんとエルフでした。
エルフは妖精の森に隠れ住んでいて、戦闘が嫌いだとAIナビゲーターユエに習ったのだが、サリバンは完全に戦闘特化したエルフでした。
(エルフにしては耳が普通だな)などと思って観察していたら、「殿下、我々以外を勝手に鑑定するのはダメですよ」と耳打ちされてしまった。ウインク付きで。
「!?すまない。以後は気をつける」
マーレー「ハヤテ王子殿下。我々は貴方様の為の護衛です。ですから、鑑定しようがコキ使おうが何も問題ありません。ですから、謝る必要は無いですよ」
「そう?コキ使うつもりは無いけど、鑑定はしていくね。母に要らない子扱いされて、召使いには蹴られて、昨日のメイドには敵意を向けられたからね」
ジャウフレに、“”城は悪の住処“”って言われたし、警戒しとかないと、後ろからグサッてされたら怖いからね。
サリバン「女性は怖い者だと、仲間うちでよく話していますが、本当に恐ろしいですね……
黒騎士団を信じて下さい!と胸を張って言えないのが歯痒いですね。ココだけの話、人族の団員は警戒して下さい」
サリバンは、心底嫌そうに顔を歪めてそう言い切った。女関係と団員の事で何か嫌な目にあったのだろう。
女関係は何となく想像がつく。サリバンはエルフなだけあって、かなり麗しいから、勝手に惚れられて迫られたりでもしたんだろう。
自分の物にしたいが為に追いかけ回す姿は、獲物を狙うハンターのようで恐ろしいのだ。
そんなのに迫られたら恐怖でしかないし、世の女性全てが同じに見えて恋愛したいと思わなくなる。
最初の人生と、勇者時代。ハヤテが経験したからこその見解なのだが、概ね合っている。
サリバンだけではなく、近衛騎士団に所属している見目の良い騎士は総じてモテるのだ。
だから、モテる男は一部を除いて女性が苦手なのが多い。嫌な目に合いすぎて。
目の前で顔を歪めているサリバンを見て、(可哀想に)と思ったと同時に、「自分達を信じろ!」と、根拠のない主張をしてこないだけで信用に値すると思った。
人族の団員の件も何となく分かるけど、敢えて聞いて見ることにした。サリバンと話してたらジャウフレが入室してきて、会話の主導件がチェンジした。
ジャウフレ「おはようございます殿下。朝から濃い話をしていますね。“”人族の団員を信用するな“”については、“”貴族だから“”という点と、“”第1王子の子飼いだから“”という2点が理由です。
黒騎士団は元々、羅刹族と獣人族、妖精族という亜人と呼ばれる種族の集まりで、筆頭が鬼人族のセバスチャンなのですが、第1王子は《人族至上主義》なため、我々を排除したいのです。そのため子飼いの貴族子息を入団させ、暗殺するよう命令しているのです。だから信用してはダメなんです」
《人族至上主義》嫌なフレーズだ。4度目の転生で、ハヤテはその筆頭貴族子息に転生したのだ。
女神は、そんな考えを捨てさせる為にハヤテを転生させ、意識改革頑張れ!っていう軽い感じで送り出したのだが、人の意識をそう簡単に変えさせる事など出来る訳もなく、
《亜人族VS人族》
という戦場の最前線で戦い、デス・ブラック・ドラゴンによって命を狩られたのだ。
そんな非情な凄惨な過去を思い出してしまった。ゼウスはその過去を封印したはずなのだが。思い出してしまった。一番最悪な過去を。
だから、《人族至上主義》を掲げ、暗殺するよう指示を出している第1王子を許せなかった。
「実際に暗殺された仲間はいたの?」
そう聞いたハヤテの声が冷え冷えしていた。相当お怒りだ。答えは出なかったが、サリバンやマーレーの表情を見たらYESなんだと悟った。
なので、ジャウフレに命令した。自分が《王子》で良かったと初めて思った。
「黒騎士団隊長ジャウフレ。並びに黒騎士サリバン、狼人騎士マーレー。第1王子の子飼い貴族を捕らえよ」
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