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1章 幼少期
1章8話 護衛騎士を手に入れた ※挿絵サイモン
しおりを挟むテーブルに広がる果実の残骸を片しながら、ビンビン感じる視線に「見えてんのかな?」と、気になったので手を振ってみた。
「うう~ん、わからん」
次いでラジオ体操をしてみた。身体がポカポカしてきた。なかなか良い運動になった。
その後も、踊ってみたり、変顔してみたりと遊んでいたら、竜人くんが部屋の前に到着した模様。
「はっや!オリンピックで金メダル取れるよ!」
今日の夜の監視は竜人くん一人なのか。と、呑気に部屋で寛いでいたら、「ドゴォォん!!」と扉が破壊した。
吃驚しすぎて目が点になった。
あっという間の出来事に侵入阻止する暇もなく、風通しが良くなった扉の先を呆然と凝視していたら、破壊神と目が合った。
ジャウフレ「2度目まして第3王子殿下。黒騎士団隊長ジャウフレと申します。貴方様の護衛隊を率いております。以後お見知りおきを」
「ジャウフレ殿ですか。仮名ではありますが、ハヤテと名乗らせて頂きます。真名はありません。どうぞよろしく」
恭しく胸に手を当て騎士の礼をとってきたジャウフレなる男に対し、反射的に挨拶を返してしまった。
(やべ)と思ったが、ジャウフレは特に気にしていなかったのでスルーした。
ジャウフレ「護衛のため、スキルで様子見させて頂いてましたが、王子は随分と規格外ですね。デーメーテール神様の愛し子か、使徒様か……」
「……護衛兼監視ですよね。で、俺が規格外ならジャウフレも規格外だと思うぞ。アーティファクトが2度も破壊されたからな。それで?愛し子とか使徒だったらどうするんだ?城に連行でもすんのか?」
警戒レベルMAX。毛を逆立てた猫のようにフーフーと威嚇している姿が可愛くて、ジャウフレは内心悶えていた。
それと、ジャウフレは城に連れて行く気は全く無く、ただ幻となってしまった太陽のたまごが食べたいだけなのだ。
ジャウフレ「アーティファクトは我々羅刹族には効かないんですよ。精霊の血が入ってるのでね」
なるほど。と思った。亜人は獣人以外、精霊や妖精の眷属だって前世で聞いた事があったから。
ジャウフレ「それと、城にも連れて行きません。金銀王子達が少々厄介なのですよ。クソ生意気でしてね……おっと、不敬罪で捕まりますね!あははは!」
いや、もう、ぶっちゃけ過ぎてポカーンとしてしまった。そして、面白いと思った。あけすけな言動が妙に心地好くて、一瞬で警戒を解いた。
ジャウフレ「お!警戒解いてくれたのは嬉しいですが、私以外には常に張ってて下さいよ?城は悪の住処ですからね」
「悪の住処ですか……言い得て妙ですね……」凄く納得した。
で、急に真剣な顔で「それでですね王子。実は一つだけお願いがあるのです」と言ってきたので、ちょっと訝しみながら聞いてあげたのだが、「太陽のたまごが食べたい!」と……
「ええ?あのバナナ味のマンゴー?別にいいけど……」
ジャウフレ「え?そ、そうです!そのバナーナ味?のマゴーです!」
いや、確かに美味いけど。そんな少年のように瞳をキラキラさせてまで食べたいもんか?と、思ったが、《高級品》と記載されてたのを思い出した。
「ふむ」と一つ頷いてから、収納から偽マンゴーとソーンモンスターという名のパイン、ピンクのお尻という名の桃を取り出し、飾り切りしてお皿に盛ってあげた。
どうぞ。と、手で座れと示し、早よ食え。と、促した。
ジャウフレ「え!?マジすか……いや、王子は可愛いけど……流石に2歳児は……」
何やら皿とハヤテ(仮名)を交互に見ながらブツブツ呟いてるジャウフレ。(ん?なんだよ……)
一向に食べる気配がなく、頭にハテナを浮かべ困惑していたら、突然ガバッと頭を下げ、「成人まで待って下さい!」と叫ばれた。
言ってる意味が分からず、ますます混乱してきたので詳しく聞いてみたら、《ピンクのお尻》は好意のある人に贈る果物で、剥いて食べさせる行為は『私を食べて』という意味があるらしい。
だから、食べるのを躊躇ってて、悩みに悩んで出した答えが、「成人まで待って下さい」だったと。
「待て待て待てぇい!俺にBでLな趣味はなぁい!普通に女性が良いわ!」
前世で“”涼太×颯“”で腐ってた女子がいたけど、そっちの趣味は無いんです!
ジャウフレ「びーでえる?が分かりませんが、成人まで待たなくて良いんですね?私を求めた訳じゃないと?」
心底「信じられない……」というふうに言うもんだから、どんだけ自信あんだよ!と声を大にして言いたかった。
確かにイケメンだけど、ゴリラじゃん。竜っていうよりゴリラだよ。
「BでLは、男同士の恋愛模様の事!待たなくて良いし、求めてないから!早よ食え!」
ジャウフレがあからさまにホッとしたのを見て、ぶん殴ってやろうかと思ったが堪えた。だって筋肉凄いし、ダメージ受けるのは自分のほうだと思ったから。
美味そうに食う姿見てたら自分も食べたくなったので、《黄金の手》という名のバナナを取り出した。
剥き剥きしてたら視線を感じ、ジャウフレに目を向けたら、口に偽マンゴーを突っ込んでワナワナしていた。
「何?これ食べたい?」と、身がオレンジ色のマンゴー味のバナナ(もう突っ込まんよ)を差し出したら、手をシュッと後ろに隠された。
その行動にムッとして、眉間に皺を寄せ睨み付けたら、モゴモゴと教えられた内容に驚愕した。
黄金の手(見た目はバナナ)は、男性のアレを連想させるから、貴族や王族は『下品』だと言って食べないし、食べるとしたら高級娼館でが主らしい。
男性で食べるのは、平民かダンジョンに潜ってる冒険者、娼年なんだと。
で、異性と密室で2人きりの時に食べるのは、情交の合図なんだってさ!
「知らんがな!!何でも卑猥に考え過ぎなんだって!ただのフルーツじゃねぇか!普通に食わせろよ!」
マジで、異世界の常識というか、異世界人の発想の仕方が独特過ぎて、聞いてるだけで疲れる。
俺は、娼年でもBでLでも無ければ、ジャウフレと情交しようだなんて、これっぽっちも思ってないんだと、懇々と説明したら、やっと分かって貰えた。
その後は軽く談笑しながら普通に過ごした。
ジャウフレは羅刹国から派遣された騎士なんだって!だから、アルカディア国王に特別忠誠を誓ってるわけじゃないから自由なんだって。
その話の中で、国王と王妃、セバスチャンには一度会ってほしいと言われた。忠誠は誓ってないけど、俺の事を心配しているから一度だけでも……と言われた。
「分かった。でも、城へ行くのは嫌だ」と訴えたら、「ハヤテ(仮名)王子用の屋敷でお会いしましょう」と言われた。
「え?俺の屋敷ってなに?」
なんでも、此処に俺が居ると分かった日から建設が始まり、もう住めるように整えてるのだとか。
ジャウフレ「王宮の裏に広がる森林の中にあり、王と王妃、セバスチャンと黒騎士団しか把握してません。此処より安全なので居をそこに移しましょう」
そう引越しを提示されたが、渋った。屋敷ってなるとメイドとかいて煩わしいし、そんな施しをされて政に関わるよう言われたくないから。
そう伝えたら、申し訳なさそうに、引越しをせざるを得ない状況にあるのだと説明された。
ジャウフレ「貴方様の母君である、ディアナ元側妃様が居た離宮なので、縁起が悪いという事から取り壊しが決定したのです。ですから、近々ハヤテ(仮名)王子には、移動のお願いをする予定だったのです」
母親の側妃は、色んな罪が明らかとなり、国を追放され、奴隷に身を落としたらしい。
あるんだね奴隷制度。
「分かった。この場所、結構気に入ってたけどね。まあ朝日を浴びて起き、星々を見ながら寝る……普通の生活はしたかったから、有難く屋敷を使わせて貰おうかな」
でも……と。メイドとか料理人は要らないと言っておいた。どうしても世話役が必要なら、面談させてほしいとお願いした。
ジャウフレ「……そうですよ。貴方様はこんな陰日向に居ていい人じゃありません。陽を、夕闇を、星々を。緑の大地を、青い空を、海を……自然が綺麗な事を知って下さい。デーメーテール神様の大地です。美しいですよ」
「ふふふ。そうだね」
“”寿命まで幸福であれ“”って言われたし、好きな事を自由に!隠れてるなんて勿体無いね!
ジャウフレ「世話人については黒騎士団が護衛をしながら行います。家令はセバスチャンが選出してると思います」
「それなら良いかな?これから宜しくね」
という事で、名残惜しいけど引越しすることになりました。いつが良い?と聞かれたので、「いや、扉無いし。今でも良いよ」と伝え、部屋のインテリアを全て収納に仕舞い、トイレと風呂を壊し、準備万端。
部屋を出ていたジャウフレの元へ向かい、一度振り返って「さよなら」と呟いた。
何も無くなった、無機質な空間の片隅に光る小さな物体が、手を振って見送ってくれた。
それは、ハヤテ(仮名)の癒しとなってくれていた“”ブラウニー“”という家妖精。
いつの間にか住み着いてて、懐いてくれてたので離れるのは悲しいが、仕方ない。
自分も小さく手を振り返し、ジャウフレと共に歩きだした。
離宮から出た。転生してきて初めて感じる外の空気、夜空に光る星々。月の明かりに照らされた大地。
頬を流れた涙は、感動か安堵か寂しさか……
どんな感情で流れたのかは自分でも分からなかった。
ジャウフレが心配そうに見ていたので、涙を拭い「大丈夫だ、行こう」と先へ促し、闇の中を歩き出した。
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