転生王子の異世界生活〜8回目の人生は幸福であれ〜

玲央

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1章 幼少期

閑話3 アルカディア国王一家 ※挿絵オリビア

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ディアナは傍付きメイドに命じて、城の書庫から魔法に関する書籍を持ってこさせた。
上級属性が“”月の精霊魔法“”という特殊魔法だったため、学院でも侯爵家でも学ぶ事が出来なかった。だけど、城になら関連書籍があるのでは?と思い至り、メイドに探させる事にしたのだ。

思った通り、精霊魔法の教本があったので、隅々まで読破し、犯罪者にならないように子供を消す方法を模索した。

本からは得られず、神に祈ってみた。が、そんな願いを神が聞いてくれるはずもなく、なんの効果も、策もなく日々が過ぎて行った。

一旦諦めて、「頭空っぽにしよう」と肩の力を抜いて生活していたら、召使い達が噂話をしているのを耳にした。
市井の裏路地にいるという「何でも当たる占い師」が平民の間で話題になっているらしく、「占い。いいわね」と、なんか策に光が見えそうだったので、離宮に招いた。

そのオババの占い結果が、「水の国、教会、産婆、母」だった。メイドに調べさせた結果、ミスト国で聖女と言われているマリアという産婆がいるとの情報を得たので、その方を呼ぶ事にした。

そろそろ産まれるかな?とベッドで安静にしていたある日、産婆マリアが離宮に到着した。寝室で対面した瞬間産気づき、約3時間踏ん張って男の子を産んだ。
 
銀髪でパープルゴールドの瞳が、異次元の存在にしか見えず、自分と似ても似つかない容姿は全く可愛くなかった。
 
洗浄され綺麗になった赤子を胸に抱くよう言われたが拒否した。だって『要らない子』だし。
 
それよりも、腹がスッキリしたのが嬉しくて、「身軽になった事だし明日から何しようかしら」と、産んで早々育児放棄する気満々で嬉々な声を上げた。

そんなディアナを見て、マリアが帰り際、「その子は特別な子。育てる気がないなら仮名を付けるな。そして関わるな」と言い残して去って行った。

勿論、育てる気はないから、「地下の物置きを赤子置き場にするわ」と召使いに命令して、地下へ追いやった。
放置して餓死されたら、不名誉な称号持ちになってしまうから、最低限の世話をさせるべくアグリーを付けた。

やっと解放されたと安堵し、肩の力を抜いたあと、いつの間にか寝ていたようで、目を覚ましたのは、出産してから5日後だった。

長い眠りから覚め、スッキリした気持ちで最初にした事は、子供の存在の隠蔽。
『要らない子』だから、クロヴィスにもオリビアにも会わせるつもりがなかった。
 
離宮で自由に過ごしたいがために、『死産』した事にして宮に篭ろうと思い、出産に関わった口の軽い召使い達を3階の一室に閉じ込め軟禁し、傍付きメイドには“”口外禁止“”の魔法誓約を施した。

アグリーに、「要らない子だから好きにしていい。けど世話だけは最低限して」と言いに行った時に、ベッドでいる赤子を暫し眺めた。

泣きもせず、笑いもしない。ボーッと天井を見詰め続ける赤子が不気味だった。人形みたいに整った顔が羨ましく、憎かった。

城でディアナをイビリ倒していた王太后にソックリで、心の底から嫌悪した。このまま此処にいては、絞め殺してしまうかもしれないと思い、アグリーに後を任せてその場を後にした。

 
「忌々しい....」

 
それから1年。ハヤテ(仮名)が1歳になるまで全く見向きもせず、悠々自適に暮らしていた。
 
出産後3ヶ月ほど経ってからオリビアが訪ねて来て、「死産だったわ」と報告し、「悲しみが癒えるまで放っておいて」とお願いしてから、本当に誰も離宮には近付かず、快適だった。

1年経ち、子供の存在を忘れ、部屋で呑気に刺繍をしていたら、凄く慌てたメイドがノックも無しに部屋へ飛び込んできた。

 
メイド「ディアナ様!!たたた大変です!!」

 
いつも冷静な彼女の取り乱し方に驚いて、針で指を刺してしまった。

 
「ッ....どうしたのメリー。落ち着きなさい」

 
メイド「し、失礼しました。お子の世話をしていたアグリーが、坊ちゃんの部屋の前で発狂していて、声を掛けたら気絶してしまいました」

 
“”坊ちゃん“”と言われ、一瞬首を傾げた。

 
「ああ。あの赤子ね。そんなのも居たわね。それで?部屋の前で暴れていたからなに?気絶したとしても放っておけばいいじゃない」

 
底辺召使いが倒れたくらいで大袈裟なのよ。と呆れた。

 
メイド「そ、それが、まだ赤子の坊ちゃんに蹴り飛ばされ、足首が折れ、襟首を持たれ部屋から追い出され、“”行き遅れ“”と言われたと....」

 
まさか!と思った。足首が折れるほどの攻撃が赤子に出来るわけないし、アグリーはガリガリだけど、赤子に引き摺られるほど軽くはないだろうと。
しかも、“”行き遅れ“”なんて。まあ、確かに行き遅れだけど、赤子がそんな言葉知ってるとは思えなかった。

 
「あのねメリー。1歳?くらいかしら?そんな幼児が、それほどの事を出来ると思う?普通に考えて有り得ないわ」

 
ヤレヤレと首を振り、否定した。が、次の言葉が衝撃だった。「部屋から魔力反応がありました」と。

メリーは魔力感知スキルを持っていて、誰が魔法を使ったか把握出来るらしい。それで分かったのは、自分が産んだ子が魔法を使ったって事だったと。

 
メイド「それだけじゃありません。使った魔力量が桁違いなのです。たぶん、此処で使われた膨大な魔力を、クロヴィス陛下や騎士団長、羅刹族の団員が感知してると思います」

 
それを聞いて血の気が引いた。異変を感知した陛下達が離宮に押し寄せるはずだからだ。
そうなると隠蔽した子の事がバレるし「死産した」という虚偽で、王族侮辱罪に処される。

称号に“”犯罪者“”と記載されるだけじゃなく、幽閉される可能性が浮上し、ディアナは真っ青な顔でガタガタ震えた。

メイド「ディアナ様。一つ案が御座います」

 
「な、なに?早く教えなさい」

 
メイド「今すぐ坊ちゃんのところへ行き、アグリーが誘拐した事にするのです。必要に探しても見付からなかったから、死産した事にしたと王に伝えるのです」

 
なるほど。と思った。それなら侮辱罪は回避出来るかもと。今の快適な生活が出来なくなるのは嫌だけど、幽閉されるよりマシだと思い、早速メリーを連れて地下へと下りた。

アグリーから鍵を取り上げ、鍵穴に差し込んだけど、うんともすんともいわない。扉を思いっきり蹴飛ばしても、力の限り押しても、ビクともしない。

 
「あ、開かないわ!!どうなってるのメリー!!」

 
メイド「ディアナ様!扉に魔法が掛けられています!結界かもしれません!」

 
「嘘でしょ!?」ドンドンドン!   「開けなさい!」ドンドンドン    「貴方の母よ!出て来てちょうだい!」ドンドンドン!「魔法を解除してちょうだい!」ガチャガチャ…

 
パニックになりながら扉を叩き、声を張り上げ続けたが、扉が侵入者を拒んでるようにドッシリ佇んでいた。

暫くその場にいたけど、どうする事も出来ず、メリーと一緒にオロオロとしていた。

「あ…」と呟いたメリーの視線の先を辿ると、騎士を引連れたクロヴィス陛下が、険しい顔でディアナを見詰めていた。
陛下の両脇には、金王子と銀王子がピッタリとくっ付いており、その斜め後ろにいるセバスチャンが、ディアナに殺気を放っている。

5mほど間隔を開け対峙したクロヴィス王にカーテシーをし、言葉を待った。恐怖で足が震える。倒れそうだ。

クロヴィス「……久しいなディアナ第2妃。傷心で床に伏せってると報告にあったが、随分と召かしこんでいるな。オリビアよりも元気そうじゃないか?」

 
ディアナ「…………」(しまったわ!)

 
ディアナは離宮に商人を呼び付けて、ドレスや装飾品を度々購入し、ミスト国の美容品も取り寄せ愛用していた。放っておかれてる間、自由に好きなだけ買い物を楽しんでいた。その為、ツヤツヤキラキラしていて、どうみても傷心中には見えない。

返事もせず、俯いて震えてる女を見遣り、胸元に光る豪華な宝石に目を留め、その価値を見出していた。

(いったい幾らするんだ。こんなもの買える予算など側妃にはないがな……少し調べるか)

 
セバス「陛下。発言の許可を」

 
クロヴィス「うむ。良いセバス」

 
国庫の不正使用があるかもしれないと、頭の中で調査の段取りをしていたら、怒気の篭ったセバスの声に耳を傾けたた。

 
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