転生王子の異世界生活〜8回目の人生は幸福であれ〜

玲央

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1章 幼少期

閑話1 アルカディア国王一家 ※挿絵アルカディア国王

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創造神デーメーテール。その名は、豊穣と大地の神として、大地に恵みをもたらす存在。
彼が見守る世界には、6つの壮大な国々が広がっている。

その広大な大地の一国、アルカディア王国の王座に君臨する、クロヴィス・ディ・アルカディア国王陛下の第2側妃ディアナが、小さき命を宿したことは、国中に歓喜の波紋を広げた。

人々は、その小さな命がこの世に誕生する瞬間を、心の底から待ち望んでいた。

銀色の髪、金色の瞳が美しい美丈夫の国王陛下は、まさに『氷の王』と称されるにふさわしい存在である。

彼の美貌は人々を魅了してやまない。そんな彼は統治者としての才に溢れているが、氷のように冷たく、『如何なる場合でも冷静であれ』という信念を胸に秘めている。

彼は感情を一切表に出さず、無表情で政務を執り行う。その姿はまさに『氷の王』という名にふさわしい、冷徹でありながらも美しい存在なのだ。

だが、彼は正妃オリビアに対して溢れんばかりの愛情を注ぎ、子供たちには無限の愛を与える、家族愛に溢れた王者であった。

アルカディア王は多重婚しており、オリビアの他に2人の妻がいる。
ただし、第1側妃ルナは故人である。彼女は幼き日の思い出を共にした、友のような存在であり、愛情というよりも、友情という名の愛を深く育んでいた。

彼女は第1王女をこの世に送り出した後、運命の神によって天の彼方に連れられて逝ってしまったのだ。

死因は不明である。

もう一人の妻、第2側妃ディアナは、正妃オリビアの親友である。

幼き頃からの婚約者に、無情にも婚約破棄され、実家で肩身の狭い思いを抱えながら日々を過ごしていた彼女を、オリビアが「彼女を側妃に迎えよう」と痛む心を押し込んで王に進言した結果、妃の座に着けた所謂ラッキーガール。

正妃の気遣いと王の慈悲で妃の座に収まった彼女は“王の妃”という仮面を被った、ただのお飾り妻であった。

それでも、婚姻したからには初夜で閨を共にしたし、「寂しい」という彼女を憐れに思い、何度か身体を重ねた。
そうすれば、それなりに愛情は沸くもので、懐妊したと知った時は歓喜した。

体調が思わしくない彼女を気づかい、「出産まで離宮で過ごしたい」と言う願いを叶えるため、数人の使用人を宛てがい、「誰にも会いたくない」と言う希望を聞き入れ、離宮には近寄らないようにした。

状況は、ディアナ付きのメイドから報告が挙がっていたので、そこまで心配はしていなかった。


ディアナが懐妊してから9ヶ月ほど経過した。

いつもの如く、デスクの上に山積みとなった報告書の数々を、魔物を退治するかの如く捌いていたその時、執務室に再び報告書を持った文官が現れた。

心の底からうんざりしつつも、受け取った書類を急ぎの物がないかと確認する。ディアナ妃が過ごす離宮からの報告書を発見した。


宰相「陛下、如何なさいましたか?」


「ああ。ディアナの近況報告書だ」


宰相「そうですか。どうです?お変わりないですか?」


“”悪阻も治まり母子共に健康です。出産時期に入りましたので乳母の派遣をお願い致したく思います“”


「おいセバスチャン。そろそろ産まれるらしい。乳母の手配を頼む」


セバス「手配済で御座います。ディアナ妃殿下の要望で、ミスト国に遣いの者を向かわせました。あと10日もすれば此方に到着致しますでしょう」


「ミスト国からか?....相分かった」


わざわざ他国の、しかも年齢不詳の魔女が統治するミスト国から呼ぶ事に訝しんだ王だが、(セバスが了承したのだから大丈夫か)と納得した。
 
セバスチャンに全幅の信頼を寄せているのは、アルカディア王国、初代国王の時代から仕えてくれている筆頭執事だからである。

知力、武術、魔法、洗濯、掃除と、全てのスキルレベルが高く、武術に関しては近衛騎士団長より上だ。
それもそのはず。セバスチャンは羅刹族。種族は鬼人で、齢450歳。人生経験豊富なのだ。

弱点は料理オンチなところだ。作らせたら奇怪な物が出来上がる。
理由は、「食事の楽しみが分かりません。なので料理をする必要性を感じません」との事。

その意見に同意する国王。王も色々なスキルレベルが高いが、料理に関しては作られた物を食べるのみ。

噛む事で顎を鍛え、飲み込む事で栄養を取る。ワインは喉を潤す物。食事とは一つの行為という認識でしかないので、楽しく食べるというのが分からないのだ。

とりあえず、乳母の件は“”ミスト国から呼んだ“”という事で了承し、その旨を綴った書簡を、遣いの者に届けるよう申し渡した。

新たな生命の誕生を心待ちにしながら、再度デスクに向かい、ペンを走らせた。

陛下の様子を横目に見ながら溜め息を吐いた宰相のサイモンに、セバスチャンが声を掛けた。


セバス「サイモン様、何か心配事でもおありですか?憂う事柄がありましたら仰って下さいませ」


「ん?なんだ宰相。困り事か?」


宰相は暫し逡巡した。確かに心配事はある。何故か嫌な予感がしているから。
“”何が起こるのか?“”それは分からないが、漠然と“”何かが起こる“”予感がするのだ。

そんな曖昧な“”かもしれない“”話を陛下にするのは躊躇われたが、「漠然とした不安なんですが....」と前置きしてから不安要素を口にした。


宰相「ディアナ妃殿下の懐妊は、誠に喜ばしい事で、私も誕生を心待ちにしてるのですが....
離宮に籠って誰にも会わない事を徹底している。それも陛下も含めご両親に至って全てです。
使用人も、私が抜粋した者達を下がらせ、下級召使いを雇ったと聞きます。
そして今回の要望、“”ミスト国のマリアという乳母が良い“”という名指しでのお願い事。全ての事柄が不安を煽るのです」


「召使いの件は私も驚いた。だが、傍付きメイドの推薦だというので、別段気にしていなかった。
が、ミスト国の乳母の件は私も気に掛るな。あの国は最近きな臭いからな。セバス、調べたんだろ?」


特産品の美容品を粗悪品にも関わらず輸出しているし、開運ギルドの海賊共が他国船を襲ってるとの情報も入ってきてるから、海に面しているアルカディア国の民が不安になっているのだ。


セバス「はい。召使いも、マリアなる乳母もお調べ致しました。
召使いの一人が、なかなか個性的な称号持ちなので、要注意人物として警戒しております。
“”マリア“”という乳母に関しましては、ミスト国の教会シスターで、その国では“”聖女“”と崇められてる方のようです。
称号が“”ミスト国の母“”という産婆経験豊富な聖属性持ちだとの情報が入ってきてます」


「ほぉ。“”聖女“”か。聖属性魔法は神の魔法と言われ、持ってる人は神の使徒だとか。
昔その者を巡って騒ぎになったと学院で習った。その神の使徒様が産婆なら安心して任せられるではないか」


聖属性は神が特別に授けるスキルで、昔いた神の使徒と呼ばれていた人々は、転移人や転生者なので、みな加護持ちだった。なので“”神の使徒“”なのは間違いない。

ただ、現在デーメーテールの世界には、聖属性持ちが一人もいない。なのでマリアという人物はとても怪しいのだが、セバスは気付いていない模様。


宰相「なるほど。神の使徒様だと知っててマリア様を指名したのですね。それなら私も安心しました。
懸念事項は特殊称号持ちの召使いと、面会謝絶をしている理由ですね」


セバス「特殊称号が“”犯罪者予備軍“”なので、暗部組織の“”闇夜の鴉“”を使い監視しております。面会謝絶に関しましては私も心配しております」

(理由は何となくわかりますが、敢えて教えなくても良いでしょう)


「我々と会わない事で心晴れやかに過ごせてるなら、このままで良いだろう。
それよりも、犯罪者予備軍?そんな者が王城内の離宮に入り込んでるのか?鴉達には厳戒態勢で監視するよう指示を出しとけ」
 

セバス「畏まりました。『何か事を起こせば排除せよ』と指示は出しておりますが、警戒レベルを上げるよう申しておきます」


暗部組織“”闇夜の鴉“”を率いているセバスが、部下への指示出しのため部屋を後にした。
陛下と宰相はその後、二言三言、言葉を交わした後、それぞれの仕事に取り掛かった。


その日から10日後、乳母の到着と同時にディアナが産気づき、3時間後、元気な男の子を出産した。

が、誰もその事実を認知していなかった。
 

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