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1章 幼少期
1章5話 完全な平和は存在しない
しおりを挟むカリカリカリカリ……
堅牢な部屋に相応しくない洗練された家具に囲まれ、ローテーブルに広げたノートに向かって、一心不乱に文字を書いてる男児。
男児はまだ1歳なので、座るとローテーブルに届かない。なので立ったままペンを走らせている。
ドンドンドンドン。
一通り書き終わって集中力を切らした瞬間、耳障りなノック音が耳を劈いた。
(いい加減にしろよ!)と顔を顰め、扉を睨みつけた。
気配を探ったら1、2、3、、、8人分もある。大きいのが3つ、中くらいのが3つ、小さいのが2つ。
その中の大きい2つの気配が扉を叩いてるみたいだ。
けたたましく鳴る音が煩くて、耳を塞ごうとしたら、中くらいの気配の人に交代したようだ。
ドンドンドドーンドドーンドドーン。
「!?」
(いや、リズム感良いなおい!気ぃぬけたわ!)
面白いけど、これが続くと気が散ってしょうが無いので、魔法で遮音が出来ないか?と逡巡した、ピタッと音が消えた。
成功したようだ。
ため息をつきながら、首をゆっくりと振り、気になった点をメモしたノートを軽くめくった。
確認を終え、「うぅ~ん!」と大きく伸びをし、氷が溶けて薄まったアイスティーを一気に飲み干した。
そこで、ふと疑念が芽生えた。そう、目覚めてから紅茶しか口にしていないのに、なぜか腹の虫が鳴りを潜めているのだ。
栄養が不足して衰弱の道を辿るのは避けたいし、身長が伸びないという未来も受け入れがたい。
だから、(ミルクのような飲み物ってあったっけ?)と記憶を遡りながら、収納の中に手を突っ込んだ。
サンドイッチとか、肉串、野菜スープ等のストックが入ってるのは覚えているんだが、なんせ赤ん坊なので歯が無いのだ。だから、食べたいと思っても食べられない。
勇者時代に市場で買ったヤツだが、収納の中は時間経過しないので腐る事はない。何時でも作りたてが食べられるので、色んな食べ物が入ってる。
水や果実水も入ってるはずだから、(ミルクもあんじゃね?)と期待したのだ。
「うぁあん。入ってなぁい!」
仕方ないから野菜スープの汁と、舌で擦り潰せるほどトロトロになった野菜を食べる事にした。
1口含んだ。眉間に皺が寄った。無理やり飲み込んだ。
「 こりゃアカン。ただ塩水で茹でりゃれた野菜だよ。旨味が全くナッチング」
食べる事を諦めた。腹は減ってないから大丈夫だと自分に言い聞かせ、引き続き情報収集するためナビゲーターを呼び出す事にした。
(おお~い。ユエちゃん!続きをお願いします!)
『ハヤテ様、ナビゲーターのユエちゃんです。先程の続きを説明させて頂きます。
ダンジョンは、あと2つございます。この2つは戦闘職向けの迷宮となっています』
--------------------------------------------------
『試練の塔』
ドロップアイテムはポーション。階数は300。
初級→2~50階。ドロップするポーションは良品。
中級→55~195階。ポーションは最良品。
上級→200~300階。ポーションは最高級品。
初級セーフティエリア 11、21、31、51~54階。
中級セーフティエリア 66、76、86、96、116、136、166、196~199階。
上級セーフティエリア 211、231、261、299階。
中ボスはランダムに出現。
300階にいるラスボスはエンシェントドラゴンキング。
ポーションの種類はHP、MP、回復、解毒、聖水、プロテイン、状態異常解除。
--------------------------------------------------
『《試練の塔》は、冒険者や騎士たちが己の限界を超え、レベルアップを目指して果敢に挑む壮大なるダンジョン。
別名『脳筋を育てる迷宮』と呼ばれ、力こそが全ての真理を体現する場所となっています。
中級階層は、セーフティエリアが豊富に設置されています。階層が多いので、挑戦者たちがひしめき合っているからです。
そのため、商機を嗅ぎつけた強者の商人たちが、セーフティエリアで商売を繰り広げています。
彼らは利益を求めて商業の戦士となり、攻略挑戦者達を相手に商売で戦っているのです。
このダンジョンは、挑戦する者に確実にレベルアップのチャンスを与えるので、世界中の勇敢な挑戦者たちがその魅力に引き寄せられ、集結しています。
《試練の塔》は、6つの大陸にそれぞれ一棟ずつ聳え立っています。
そこは、体力、魔力、防御力、攻撃力、スキル、基礎といった各能力を高めるためのダンジョンに巧妙に分かれており、挑戦者たちは能力アップを目的とし各国を巡り歩いています。
挑戦者たちは各国に赴き、行く先々で金貨をばら撒きます。その結果、経済は活気づき、国々は安定しているのです。彼らの冒険は国の繁栄を支える礎となっています』
「300階はしゅごいね。何年掛かけりぇば攻略出来りゅのかな」
『その問いには答えられません。申し訳ございません』
「んん?いや、答えなくて良いにょ。分かりゃなくて当たり前でちょ」
『はい。では最後のダンジョンを紹介させて頂きます』
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《魔王の城》
ドロップアイテムは回復ポーション。レアドロップで神器が出る。難易度は上級で、A~SS。
A級→デビル。
S級→ナイトメア、サキュバス、インキュバス、ヴァンパイア、ケロベロス。
SS級→ラスボスはデーモンロード。
このダンジョンは、亜人大陸の《羅刹族》が住む国にしかありません。
一応ダンジョンなので難易度設定されてますが、魔界族を模したモンスターなのでAランクでも通常より2倍ほど強いです。
強すぎるし、ドロップアイテムもポーションだし、レアドロップは滅多に出ないので、一番人気がありません。
人型のモンスターなので知能があり、ダンジョンから抜け出して市井で一般人として生活している者もいます。
--------------------------------------------------
『以上がこの広大なる世界に散りばめられたダンジョンの全貌でございます。
そして、ハヤテ様が求めておられた情報への答えは、まさにこれにて完結いたしますが、他にお尋ねになりたいことはございませんでしょうか?』
そう聞かれて、一番疑問に思ってる事を質問してみた。それは、ダンジョン外の魔物についてだ。
前世で生きてた世界では、魔物は間近にあり、森から出てきては人を襲っていたし、魔素溜まりが大きくなると数千~数万の群れが溢れ、スタンピードを起こして街や村を襲っていたのだ。
その恐怖を知っているから、“”穏やかで平和な世界“”と言われても、鵜呑みに出来ない。
『各国を繋ぐ街道は比較的安全であり、街や村を襲う魔物はおりません。
魔物たちは、ダンジョン内でしか生息出来ないので、広大な森が広がる地には、魔物の姿は見えないのです』
「え!?しょうなんだ…。じゃあ、森は木と草が生えちぇるだけ?」
『いえ。森には野生動物たちが自由に跳ね回ってます。ですが温厚な草食動物ばかりなので、人間に対して、動物達は決して牙を剥きません。
牙を剥くのは人です。盗賊や野党と呼ばれる人間の群れが同じ人間に鈍色の牙を向けるのです。
彼らは洞窟等に拠点を構え、暗闇の中で蠢き悪事を働きます。人を襲う事に何の躊躇もありません。
しかし故意に人や野生動物の命を奪い、盗みや強姦、誘拐といった凶悪な行為に手を染めれば、《犯罪者》という烙印を押され、身分証は剥奪されます。
そして街の片隅で生きることすら許されなくなり、ダンジョンへの挑戦券も失います。
もしも兵士に捕らえられ、心の奥底から罪を悔い改めることができれば、《犯罪者》の烙印は消え去り、牢から解放されます。
そして再び新たな人生を歩むことが許される者もいらっしゃいます。極小数ですが。
しかし、反省の色も見せず、逃げ回る者は、永遠に《犯罪者》の名を背負い続ける事になります。
そんな悪党たちが、闇に潜む盗賊や野党になり果て人々に襲いかかるのです』
(烙印の消えた犯罪者は、軽犯罪者なんだろうな)
悪事をためらわずに行う盗賊や野盗は、たとえ反省してもその気持ちは一時的で、再犯する確率は80%に達するだろう。
やはり、完全に安全な世界を作るのは難しいのだろう。人間は欲深い生き物だから。
もう一つ、聞きたい事があったので質問してみた。
それは、“”ダンジョン挑戦券“”というものだ。
AIユエちゃんが言うには、冒険者として登録をして、初心者講習を経て、先輩冒険者の導きのもと、数々の依頼を5回もこなすことが求められるとの事。
その後、ギルドの職員と同行者の賛同を得ることで挑戦券が手に入るという。
そこでようやく冒険者としての道が切り開かれる。
しかし、挑戦できるダンジョンは、自らのランクに見合った場所に限られている。
もしもその枠を超えようとすれば、入り口の膜に弾かれ、強制的に退けられてしまうらしい。
(無駄死にしに行こうとする無謀な挑戦者を出さないための処置かな?)
それと、ダンジョン内で負傷し、瀕死の状態になってしまったら、強制的に弾き出されるとのこと。
外に出れば、怪我は回復するらしい。
もしも即死してしまった場合はダンジョンに吸収され、輪廻の輪に組み込まれると。
いや、つくづく思う。(ハイテク過ぎん?)と。
「色々と教えてくりぇてありがちょう。ユエちゃん。今日はここまでにちて、そりょそりょ寝ましゅ」
『畏まりました。またご用命際はユエちゃんをお呼び下さいませ。良い夢を』
結構時間経ってたようで、ステータスの時間表示を見たら20時になっていた。
果実水を飲んで、全身を浄化したらベッドにダイブ。
「おやしゅみなしゃい。良い夢を」
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