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1章 幼少期
1章2話 王子は要らない子
しおりを挟む眼前に迫り来る凶器に恐れ戦いたが、「ご飯の時間です」の一言で恐怖心が分散した。
(いやぁ焦った。凶器だと思った物体は哺乳瓶だったよ。ま、瓶じゃなく革袋なんだけどね)
ブニブニする哺乳革袋を両手で持ち、吸口からミルクを吸い上げた瞬間、野性の味がした。
「おぇぇぇ…ま、まじゅいぃぃ」
生温い野性味のミルクはクソ不味かった。飲み込めず盛大に吐き出したら、世話係?だと思われる人が顔を顰め、哺乳革袋を取り上げた。
「チッ」と舌打ちをし、「仕事増やさないでほしいわ!」と文句を言ったあと、乱暴に持ち上げられゴツゴツした床に降ろされた。
薄い肌着1枚と裸足の俺は、寒さと床の冷たさにブルブル身体が震えてる。
世話係?な人が濡れたシーツを剥がし、床の上で立ち竦んでいる俺を一瞥した後、「邪魔なのよあんた。王族として認められてない要らない子なんだから、さっさと死ねば?」と暴言を吐き、腹を正面から蹴殴った。
普通の赤ん坊なら衝撃に耐えられず、吹っ飛んで大怪我したか、最悪死んでいただろう。
だが俺は無傷だった。ビックリして尻餅をついたが、ただそれだけ。蹴られた腹も痛くなければ、尻も痛くない。
勇者時代の名残で咄嗟に防御したのか、はたまた今世の防御力の高さが効いたのか。全くもって怪我もなくピンピンしている。
(良かったぁ)痛いのはイヤなので、頑丈なのは良い事だ。うん。
(しっかしこのオバサン。いくら俺の事が目障りで嫌いだろうが、赤ん坊に蹴り入れるか?普通に有り得ない)
あまりの出来事に腹が立ち、オバサンを凝視して睨みつけてたら、目の前にステータスのモニターが表示された。
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名前:アグリー(18) ※ウォーズ元男爵令嬢
種族:人族 職業:下級使用人 上位属性:無し
レベル:13
体力:256
魔力:80
攻撃力:65
防御力:38
幸運値:25
スキル:生活魔法(火種、流水、乾燥) 嘘泣き 窃盗 魅了(封印中)
固有スキル:無し
称号:没落男爵家3女 犯罪者予備軍 行き遅れ
備考:悲劇のヒロインを演じ侯爵令嬢を陥れようとしたが、ざまぁされて実家が没落。
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いきなり現れたステータスに驚いたが、内容を見てさらに驚いた。年齢もそうだがスキルと称号がヤバい。
(備考が面白い。ざまぁされて没落って凄いな。てか、犯罪者予備軍ってマジか。ギルティだな)
理不尽な暴力は許せないし、ヤバい女臭がプンプンするので、(お前はギルティ!!)
こちらに背を向けベッドメイクをしているババアに「タタタッ」と走り寄り、足首を思いっきり蹴飛ばした。
(先程の暴力は許せん!倍仕返しだ!!)と気合いを入れ、今出せる最大攻撃力で蹴飛ばした。
クリーンヒットした足首から「ゴギッ」と派手な音が鳴り、ババアがひっくり返った。
「ぎゃぁああ!」と凄まじい悲鳴をあげてのたうち回っている。
「ありゃ?おりぇた?あちゃ~。やり過ぎちゃった」
自分の攻撃力の数値が高かったので、赤ん坊キックでも威力があったらしい。
(……うん。俺は悪くない。煩いし廊下にポイしようっと。悪霊退散だ)
赤ん坊に暴力振るう世話係なんて要らないし、犯罪者予備軍に世話されたくない。
仕返しも出来たから満足した俺は、床を転げ回ってるババアを一瞥し、どう運ぼうか思案した。
ジタバタして「ぎゃあぎゃあ」騒いでる使用人の襟首を掴み、ズルズルと床を引き摺り部屋の外へポイッとした。
(赤ん坊なのに軽々運べちゃった。オレ最強じゃん)
ギギギィと鳴り響く重い扉を閉める際、驚愕した顔で俺を見詰めるオバサンに、「もうこにゃくていいよ。ばいばい行き遅れしゃん」と手を振った。
扉が閉まる寸前、何やら喚いたいたが無視無視。
完全に閉まった扉を眺め「ふむ」と少し考えてから、異空間収納から封印の護符を出し、ドアノブに貼り付けた。
効果があるかわからないけど、これ以上暴力を振るわれたくないし、世話人は必要ないから、他人が扉を開けられないようにした。
「こりぇで、あんしんあんぜん。あんなまじゅいミルク飲むくりゃいにゃら、収納にありゅポーション飲むもん」
「ふふん」と小さい鼻を鳴らし、寒い部屋に耐えられないので「部屋よ暖かくな~れ~」と唱えたら、ストーブで暖められた冬の北海道の部屋並にポカポカしてきた。
その現象に「魔法ってしゅごい....」と改めて感嘆し、もっと快適な部屋を作ろう!と、壊れかけたベッドや棚を収納にポイッとして、床一面に魔物の毛皮を敷いた。
勇者時代、いつか使うかもしれないと取っておいた品々が、今世で早速役に立った。
ふかふかな毛皮の上に座って、天照大神様と最高神様からの贈り物を確認してみる事にした。
部屋のインテリアになりそうな物が入ってないかなぁ?と、少し期待して亜空間に手を突っ込んだ。
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《天照大神からの贈り物》
水無月 颯の私物。ベッド ソファー×3 デスクセット シェルフ×3 ローテーブル サイドテーブル ライトスタンド(魔道具) カーテン×4枚(耐熱加工)
教科書 ノート(無限) 参考書 各種専門書 料理本 小説 筆記具(無限) 手紙多数(女神からのラブレター)
各種シャツ スラックス ジーンズ 下着 アウター シューズ バック 帽子 アクセサリー
※全てサイズ調整が付与してあるので、成長に関係なく着れる。
調味料各種(無限) 米(無限) 果物各種30個ずつ 粉物
乾物 食パン(無限) バターロール(無限) レーズンロール(無限) 茶葉 食器 カトラリー 茶器セット グラス
※(無限)は、数量が減らない。残量気にせず使ったり食べたり出来る。
~~天照大神からメッセージ~~
私からの贈り物は、女神シャルディーナの度重なる貴方への理不尽な行いに対してのお詫びだと思って下さい。
パソコンやスマホ、テレビ等の電化製品は異世界で使用出来ないので同封しておりません。
私の加護(小)で使えるようにしておきました(情報検索)ですが、調べ物をしたい時、念じてみて下さい。それで色々詳しく調べられます。
地球で、私の愛い子としてお守り出来ず申し訳ありません。
異世界で幸福を得られる事を祈っております。寿命後、天界にて会えるのを楽しみにしてますね。
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贈り物の数々に驚きすぎて思考がストップしてしまった。お詫び品にしてはラインナップが豪華すぎる。
だけど、天照大神様の心遣いは有難いので、胸に手を当て頭を垂れ、感謝の意を示した。
それと、優しさ溢れる心温まるメッセージに感動したので、これから先、唯一神として信仰しようと心に決めた。
「しゃて早速」と、まずは着替えをし、次に部屋を整えるべく、懐かしい家具の品々を配置した。
8畳程しかない室内には全て収まりきらなくて、泣く泣く収納に戻した。
窓に鉄格子が嵌ってて薄暗い室内だけど、ランプに照らされた見慣れた家具達を見てウルっときた。
「ははっ....」 思わず乾いた笑みを零した。
(このベッドの文字、涼太が陸上で優勝した時に巫山戯て書いてたサインだ。こっちは乃木ちゃんがテーブルにダイブした時に出来た傷....)
「なちゅかちぃなぁ....」
ソファーに座り、暫し思い出に浸っていたが、部屋に近付いてくる人の気配がした。
封印の護符が効かなくて、部屋の状態を見られたらマズイ!と慌てて元の状態に戻し、ベビーベッドに飛び乗り横になった。
息を殺し、薄目で扉を凝視していたら、ガチャガチャと鍵を回す音と、ドンドンドンと激しくノックをする音が響き渡った。
「....あかにゃい?ぷぷぷっ。護符がきいてぇりゅ証拠にぇ」
これで安心!と胸を撫で下ろし、部屋の外にいる人達に構わず、いそいそと快適空間へとチェンジさせた。
ソファーに座り、ランプの灯りじゃ郷愁の念に駆られそうなので、魔法で明かりを灯した。
茶器セットと茶葉を出し、ティーポットに手を翳し「95℃のお湯よでりょ~」と唱え、成功したのを確認してから茶葉を入れた。
充分蒸らしてからカップに注ぎ、スティックシュガーとレモンポーションを加えティースプーンでかき混ぜ、すうっと香りを嗅いでから口に含んだ。
「んん~ん!おいちぃ」
赤子にカフェインは良くないので、ノンカフェインの紅茶だが、とても美味しく淹れられたと思う。
本当はコーヒーのほうが好きなのだが、生憎と収納には入って無かったので、断念した。
優雅に紅茶を飲む1歳児はとってもシュールだ。
「さて」と、読書でもしようかと思ったんだけど、部屋の外が煩い。さっきより人の気配が増えてる。
『要らない子』なのだったら放っといてほしい。腹を痛めて産んでくれた今世の母親は存在してるのかもしれないが、俺の母は日本にいる花蓮ママだけだ。
だから、今世の母親は要らない。
向こうも『要らない子』認定してるなら、俺だって『要らない母』認定してやるんだ。
何となく1人で生きていけそうだから、これからも無関心、放置でよろしくね。
父であろう国王と、居るであろう兄弟姉妹。その誰とも会った記憶が無いので、本当に王子として認められていないんだろう。
それならそれで良い。王位に興味ないし、放逐してくれたら良いんだ。
「ゼウス神様に発展さしぇてほちいって頼まりぇたけどぉ。おりぇとしては、だりぇも住んでない森の中とかでスローライフをおくりたいにゃあ」
そうするには、3歳までにどうにか教会へ行き、真名を授かり一旦王族の一員になって、すぐに廃嫡して貰えば有難いんだよな。
いや、それはそれで面倒臭いな。真名を授かったら家族に見付かる前に逃亡するか?
「う~ん、う~ん」とソファーに寝転がり最善策を考えていたら、いつの間にか寝落ちてしまった。
寝起き早々、波乱な幕開けになってしまったが、魔法やステータスのお陰で一日を乗り切れた。
転生8回目の人生。明日はどんな一日になるのかな。
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