転生王子の異世界生活〜8回目の人生は幸福であれ〜

玲央

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0章 プロローグ

0章1話 プロローグ ※挿絵ハヤテ(過去)

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(....はぁ、やっと役目が終わったぜ)

霞みゆく視界と思考の中、男は意識が無くなりつつあるにも関わらず、その状況を只々安堵し、終わりゆくのを待っていた。

男の容姿は、黒髪黒目、顔の造形は、所謂“”The日本人“”。
歳の頃は20代前半なのだが、ブラックな社会で揉まれている現代人のように、草臥れたオッサンのような風貌をしている。

命の灯火が消えかけている一応青年は、真っ暗闇の中、焼け爛れた大地に身を預け、大の字で転がっている。

右手には折れた剣を握り締め、男の左側には、“”漆黒の龍“”が横たわっている。

男は、瞳の光を失った“”漆黒の龍“”を眺めながら、

(....デス・ブラック・ドラゴン....“”世を破滅へと誘う黒死龍“”か....本当の“”破滅の死龍“”は理不尽な人間共なんじゃなかろうか....)

と、心の中で呟きながら、怒涛に過ぎた日々を走馬灯のように思い出しながら、短い生涯を終えた。



その男の亡骸に走り寄ってくる影が3つあった。

大きな盾を持つ男と、虹色に輝く玉が嵌った杖を掲げる男。
そして、真っ白いローブに真っ白い神官服、胸元には大きな金の十字架を提げた女。

その3つの影、は傷一つなく、凄惨な場に相応しくないほど身綺麗な姿形で、倒れてる男の元に駆け寄った。


盾男「チッ!クソ重いんだよこの盾!ふぅ....で、死んだのか?」

杖男「ふっ....そんな図体して重いとは。やはり唯の肉達磨ですか、情けない。いっそ黒勇者と一緒にあの世へ逝けば良かったのでは?」

盾「....んだとぉ!?まともに魔法も使えない、足手まといの陰険ガリガリ野郎のくせによ!!テメーが逝けよ!!」

杖「っ!!....私は数多ある侯爵家の中でも、トップクラスの魔法力を持つのです!足手まといは肉達磨の貴方です、ディーク殿!」


双方が、倒れた男こと“”黒勇者“”と、“”デス・ブラック・ドラゴン“”の傍で言い争いをしている中、優雅に佇み、頬笑みを浮かべて成り行きを見守っているのは、真っ白い衣装に身を包んだ華奢な女。

女は、その儚げな印象そのままの弱々しい細い声音で、ヒートアップしている男達に「争いはお止めになって?」と声を掛けた。

その声に「「はっ...」」となって、争いを辞めた2人の男は「すまない、聖女リセラ姫」「失礼致しました、聖女リセラ姫様」と頭を垂れ、跪き、それぞれが手の甲に口付けを落とした。

その様子に満足した“”自称“”聖女のリセラ姫は、ウンウンと頷き微笑みを浮かべ、「ご褒美は夜に小屋の中でね」と囁いた。
彼女は容姿に自信を持っており、自分の身体に溺れている男共に優越感を抱いている。

本来の彼女は王女ではあるが容姿は平凡。自堕落な生活をしていた為に脂肪でブヨブヨの体型をしており、王である美丈夫な父にも、母である美人な王妃にも、他の兄弟姉妹にも全く似ておらず、城の中では不義の子と蔑まれている。

そんな彼女が何故“”聖女“”と呼ばれているのか?そんなに自分に自信があるのか?

それは、黒勇者がリセラ姫の嘆きに同情し、変化の術と、聖魔法をエンチャントした首飾りを贈ったから。

贈った当初は謙虚で素直な娘だった。自分に奇跡を齎してくれた黒勇者に感謝し心酔していた。
が、勇者と共に邪龍討伐へ赴く事になり、盾役と魔法使いの男2人がメンバーに加わってから段々と尊大になっていった。

リセラ姫の偽りの姿に惚れた勇者メンバーの男2人がチヤホヤしだし、すぐに身体を重ねた3人は、所構わず性行為をするようになり、負傷した男性を治療と称して股を広げ、“”聖女“”という名の“”性女“”となった彼女は、自らの身体で信仰心と金を集めた。

そんな風に巡る街や村でチヤホヤされ、貢がれ、焦がれられ続けた為、自分に絶対の自信がついたのだ。

彼女に忠誠を誓っている盾と杖の男共は、後に与えられる甘美な褒美に唾を飲み込み、股間を膨らませながら「「有り難き幸せ!!」」と歓喜に震えた。

そんな男達を一瞥した“”性女“”いや、聖女リセラ姫は、動かなくなった黒勇者の元へと歩みを進めた。


(あぁ....勇者ハヤテ様....。傷だらけになっても、その黒曜石の瞳から光が失われても、美麗な御顔は変わらないのね....忌々しい....。
勇者様....貴方がわたくしの物にならないのなら、貴方の力が欲しいわ....
でもそれは無理でしょうから、そのアイテムが沢山入るバングルをいただく事にしたの。わたくしが有効活用してあげるわね。ふふふ)

女は、偽りの美貌顔を醜悪に歪ませ、下卑た笑みを浮かべながら、亡骸になった勇者の右手首を折れた剣で切り落とした。
そして、手首に嵌っていたバングルを手に取り、精巧な作りのそれを暫しウットリと眺め、


「さようなら、異世界の勇者ハヤテ・ミナヅキ」


と言葉と共に、亡骸に火魔法を放った。

小さい火種は『ゴォォ』と勢い良く勇者の身体を燃やしていった。
燃えたのは肉体だけ。鈍色の光に包まれた魂だけになった彼は、ゆっくりと天へと登っていった。

その光景を見もせず優雅に歩く女の視線は、勇者から奪ったバングルに注がれていた。

盾使いの男と魔法使いの男は、一部始終を目撃しており、「「さすが我が姫」」と感嘆な溜息を零した。が、それも一瞬で飲み込み、次の瞬間には驚愕の表情で目を見開いていた。

それもそのはず。勇者の傍で事切れていた筈の漆黒の龍“”デス・ブラック・ドラゴン“”の黄金の瞳に光が戻ったのだ。

「「ひっ!!」」という短い悲鳴を上げた男2人を、黄金の眼でギロッと目視したドラゴンは、

『愚かな人間共よ....』との呟きと共にバサッと翼をはためかせ月の明かりを背に、夜空へと舞い上がった。


ドラゴン『醜い....実に醜い....世界を安寧へと導く為に力を奮った女神の愛し子に対してその仕打ち....万死に値する』


盾と杖の勇者軍の仲間だった男2人は、圧倒的強者の存在と、脳に響くような声音に身体をガタガタと震わせ、夜空に浮かぶ漆黒を見つめたまま「「あぁ....」」と絶望感を露にした。

そんな情けない姿を晒している男2人に「チッ」と舌打ちをし、軽蔑の眼差しを向けた“”聖女“”だったが、突然響いた威圧感のある声に驚き、顔を真っ青に染めあげ、ゆっくりと声のする方に顔を向けた。

その刹那、漆黒の龍“”デス・ブラック・ドラゴン“”が大きく口を開き、周囲に漂う魔素を吸い込み、ドラゴンブレスより強力な最上位神級闇魔法“”デスブラックフレア“”を大地に放った。

大地に降り注いだ漆黒の炎は、その星に生きる全ての生命を飲み込み、最後は天に昇っていった。

星の消滅を確認した“”漆黒の龍“”は、『ギャオオ!』と雄叫びをあげ、天高く飛び立った。


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